2023.03.20

さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(2)|マンガキャラクター活用の極意【第二部】

2月20日に、松本零士先生の訃報を知りました。当時小学1年生だった自分が大人の世界を初めて垣間見たマンガ作品は、週刊少年マガジンに連載していた「男おいどん」でした。続いて連載された、四畳半ものの続編と思わせて一気にSFへと話を広げていった「ワダチ」は衝撃的でした。その後もリアルタイムで名作の数々を読んだ世代の一人として、謹んでご冥福をお祈りします。

2月19日には、自分もイベント運営に関わった「ぐんまちゃんお誕生日会2023」が、群馬県前橋市の群馬会館で開催されました。アニメ「ぐんまちゃん」声優さんたちとご当地キャラたちが共演する、キャラクター界の敷居を超えた素敵なイベントでした。ニュースリリースはこちらです。1年間はアーカイブ配信で当日の様子も見られますので、ご興味をお持ちのかたはぜひご覧ください。

さて、前回から筆者が共同研究などで大変お世話になった大阪公立大学の荒木長照先生と、荒木先生のもとで学んだ辻本法子先生、田口順等先生との共著「コンテンツの、コンテンツによる、コンテンツのためのマーケティング」(大阪公立大学出版会:、2023年2月発刊)で記した、マンガ原作系キャラクターファンのマーケティング活用効果に関する研究結果を紹介しています。

前回は以下のような内容でした。

  • 【男性】純粋想起による好意度はマンガ系キャラが上位を占める
  • 【女性】ティーン・ヤングでマンガ原作系キャラ、特にサブキャラが多く想起される
  • 想起キャラタイプでクラスター分類すると、最も多いのは「マンガファン層」
  • 「マンガファン層」は男性が多く、可処分所得も多い

今回は、想起キャラタイプによる各クラスター、特にマンガファン層とそれ以外の層で、キャラクターの日常接点と提供体験がどう異なるのか、前回に続いて「キャラクター定量調査2021」結果を用いて比較します。

筆者の共著作「コンテンツの、コンテンツによる、コンテンツのためのマーケティング

キャラクターとの日常接点は、「玩具・グッズ」と「アニメ・映画・マンガ」

図表1は、キャラクターに関する「日常接点」の設問※1計36項目の因子分析結果※2です。

※1:「あなたがふだん、お好きなキャラクターや気になるキャラクターと接することが多いのはどれですか?」に対して、「かなり当てはまる」「まあ当てはまる」「あまり当てはまらない」「まったく当てはまらない」の4段階評価で回答。
※2:多変量データに潜む共通因子を探り出すためによく使われる統計手法。今回分析では主因子法で抽出し、プロマックス回転を行った。IBM SPSS Statistics 28を用いて集計。

図表1. キャラクターに関する「日常接点」:因子分析結果


抽出された6つの因子のうち、出現率で特に多いのは「玩具・雑貨・グッズ・ショー」「TVアニメ・映画・マンガ・動画・ゲーム」、少ないのは「2.5次元舞台・ライブ配信・コラボカフェ」でした。

コロナ禍以降に急増しているNetflixなどのサブスク制動画配信サービスやYouTubeなどの動画投稿サイトがTVアニメや映画、マンガと同じ因子に、そして同じ配信サービスでもSHOWROOMなどのライブ配信が2.5次元舞台やコラボカフェなどニッチながら熱量の高いコアファンが集まる接点と同じ因子に集約されていることは、視聴層の違いを窺わせて興味深いです。

また、「SNS・LINE・公式サイト」がキャラクターに関する独立した日常接点の1つであることも、今回分析で実証されました。全般に各日常接点とも男子中学生から34歳と女子園児・小学生で高く、SNSなどデジタル接点は女子中学生から34歳で高いことが確認されています。

キャラクターの提供体験は癒し・安らぎが最も多く、カタルシス・非日常感が続く

図表2は、キャラクターに関する「提供体験」の設問※3計21項目の因子分析結果です。

※3:「あなたは、『キャラクター』を通して『どんな気持ちになりたい』と思っていますか? あなたがお好きなキャラクターや気になるキャラクターを思い浮かべながらお知らせください。」に対して、「かなり当てはまる」「まあ当てはまる」「あまり当てはまらない」「まったく当てはまらない」の4段階評価で回答。

図表2. キャラクターに関する「提供体験」:因子分析結果

抽出された5つの因子のうち、出現率で特に多いのは「癒し・安らぎ」、次いで「カタルシス・非日常感」で、少ないのは「参加・注目・同一視(なりきり)」でした。

「癒し・安らぎ」が、ファンシー系キャラの支持が強い34歳以下女性で共通して高く、マンガ・アニメに登場するキャラクターへのなりきりや没入感を示す「参加・注目・同一視」や「カタルシス・非日常感」が、マンガ原作系の支持が強い34歳以下男性で共通して高いのが特徴的です。

各ファン層で「日常接点」と「提供体験」の傾向が異なる

続いて、前回紹介した純粋想起による好きなキャラクタータイプ(マンガ原作系、ファンシー系、絵本・ゲーム等原作系、オリジナル系、企業キャラ、ご当地キャラ)の傾向から算出した4クラスターで、「日常接点」と「提供体験」の各因子スコア平均値(平均0、分散1)を比較しました(図表3、4)。

【前回規定した4クラスター

  • 想起キャラのほとんどがマンガ原作系の「マンガファン層」
  • ほとんどがファンシー系の「ファンシー系ファン層」
  • 絵本・ゲーム等原作系が多く、マンガ原作系、ファンシー系、オリジナル系も比較的多い「キャラ・アニメ・ゲームファン層」
  • どのタイプのキャラの想起数も少なく、ご当地キャラが僅かに多めの「無関心層」

図表3. 想起キャラクタータイプ別:キャラクター「日常接点」因子スコア平均値

図表4. 想起キャラクタータイプ別:キャラクター「提供体験」因子スコア平均値

これまでの分析の結果、以下の傾向が明らかになりました。

マンガファン層 ⇒ アニメ・マンガ・映画などに反応
〔日常接点〕 「TVアニメ・映画・マンガ・動画・ゲーム」が最も多い。「SNS・LINE・公式サイト」「2.5次元舞台・ライブ配信・コラボカフェ」も僅かに多め。
〔提供体験〕 「カタルシス・非日常感」「参加・注目・同一視(なりきり)」「郷愁・幼年回帰」が僅かに多め。

ファンシー系ファン層 ⇒ グッズ系による癒し・安らぎと収集に反応
〔日常接点〕 「玩具・雑貨・グッズ・ショー」が最も多い。「TV(アニメ・映画以外)」「SNS・LINE・公式サイト」も僅かに多め。
〔提供体験〕 「癒し・安らぎ」「収集」が多い。

キャラ・アニメ・ゲームファン層 ⇒ 最も多くの日常接点・提供体験因子に反応
〔日常接点〕 「TVアニメ・映画・マンガ・動画・ゲーム」が多い。「クチコミ」「玩具・雑貨・グッズ・ショー」も多め。
〔提供体験〕 「癒し・安らぎ」「収集」と「カタルシス・非日常感」「参加・注目・同一視(なりきり)」が混在。

無関心層 ⇒ どの因子スコアも低く、無反応
〔日常接点〕 特に「玩具・雑貨・グッズ・ショー」「TVアニメ・映画・マンガ・動画・ゲーム」に反応せず。
〔提供体験〕 特に「癒し・安らぎ」「収集」に反応せず。

これらの結果から、さらに以下のことが見えてきました。

  1. 日常接点では、TVアニメ・映画・マンガ・動画・ゲームなど2次元でストーリーが付随・進行するものに接する機会が多いのがマンガファン層とキャラ・アニメ・ゲームファン層。玩具・雑貨・グッズ・ショーなど3次元でリアルに存在するものに接する機会が多いのがファンシー系ファン層とキャラ・アニメ・ゲームファン層。クチコミに接する機会が多いのがキャラ・アニメ・ゲームファン層である。
  2. 提供体験では、コンテンツ・キャラクターに接することで、参加・注目・同一視とカタルシス・非日常感、つまり作品世界に没頭してなりきり気分が高まるのがマンガファン層とキャラ・アニメ・ゲームファン層。癒し・安らぎと収集欲が刺激されるのがキャラ・アニメ・ゲームファン層とファンシー系ファン層である。

今回は以上です。

ここまで記した通り、同じキャラクターファンといっても、マンガファン層とファンシー系ファン層は異なる傾向を持ち、その中間にキャラ・アニメ・ゲームファン層が位置する様子が窺えます。次回は、各クラスター、特にマンガファン層とそれ以外の層で活用効果がどう異なるのか、そして日常接点、提供体験、活用効果の因果関係を比較します。どうぞお楽しみに。

<第2部 バックナンバー>
第9回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(1)
第8回:2023年トレンド予測・キャラクター活用は5つの流れで進む
第7回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第6回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第5回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(後編)
第4回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(中編)
第3回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(前編)
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も

<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。

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