2023.03.10
「現場の担当者が語る、メディア×広告×データの未来予想図」 ── 講談社メディアカンファレンス 2022 ミライトーク04レポート
Cookieレス時代における広告は今後どうあるべきなのか。メディア、広告、データの3つの観点から日々業務に向き合っている担当者だからこその感覚を言語化しながら、メディアとしての展望と広告会社としての展望をお届けします。
※本稿は、ビジネスオンデマンド動画「講談社メディアカンファレンス 2022 ミライトーク04」のレポートです。本動画のアーカイブは、今後、C-stationのプレミアムメルマガ「My C-station」ユーザー限定で公開予定です。
(左)株式会社宣伝会議 出版・編集 取締役 月刊『宣伝会議』編集長 谷口 優さん
(中央)株式会社博報堂DYメディアパートナーズ AaaSビジネス戦略局戦略3部/ミライの事業室ビジネスプロデューサー 髙野山 拓史さん
(右)講談社 第一事業局コミュニケーション事業第一部 デジタルマーケティンググループOTAKADプロジェクトリーダー 山崎 瑛記
広告ビジネスのDXの新たな価値創出を目指す「OTAKAD」と「AaaS」
株式会社宣伝会議 出版・編集 取締役 月刊『宣伝会議』編集長 谷口 優(以下、谷口)
本日の司会を務めます月刊『宣伝会議』編集長の谷口優と申します。
現在、広告ビジネスに限らず、あらゆる産業において「DX」が大きなテーマとなっています。それぞれ異なる立場で、お二方は広告ビジネスのDXにおける新たな価値をクライアントに提供しようと、日々チャレンジされています。まず自己紹介と、会社でどのような取り組みをされているか、お聞かせください。
講談社 第一事業局コミュニケーション事業第一部 デジタルマーケティンググループOTAKADプロジェクトリーダー 山崎瑛記(以下、山崎)
山崎瑛記と申します。
2019年10月にデータ活用型のデジタルマーケティングサービス「OTAKAD」をリリースして開発の責任者になり、現在ではプロジェクトマネージャーも兼任しています。
OTAKADとは、最適なデジタル広告の配信を実現するトレーディングデスクサービスで、大きく3つの軸でサービスを展開しています。
「OTAKAD」のサービスを説明する山崎(右)
1つ目は広告配信サービスです。
講談社のWEBメディアの記事がどのように見られているか、ビジネス、スポーツ、ファッション、美容など読者の趣味や嗜好を分析して指数化しています。そのデータを、広告配信を効率化する「DSP(Demand-Side Platform)」とも連携しながら運用しています。
2つ目は分析です。
講談社メディアへのタイアップ記事や、クライアントサイトのユーザー分析により、顧客の見える化を図ります。データは主に、ファーストパーティデータ(自社収集の顧客情報)のため、分断が起こりにくいデータでお出ししています。
最後がクリエイティブ制作サービスです。
講談社のメディアのブランドやアセットなどを、独自の開発フォーマットバナーやリッチメディアを活用して配信するサービスです。
以上の3つがOTAKADのサービス展開上の軸になっています。
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ AaaSビジネス戦略局戦略3部/ミライの事業室ビジネスプロデューサー 髙野山 拓史(以下、髙野山)
これまで私たちは、いわゆる媒体の"枠"を販売してビジネスをしていましたが、「AaaS(Advertising as a Service)」は、枠ではなくて効果にコミットしたサービスを提供するビジネスです。
具体的には、分断されているデータを集約・統合し、メディアを横断した指標の統一や、広告主のKPI(指標)、KGI(目標)を実現することでPDCAを回していくことをきたいと思っています。
「システム基盤」「アルゴリズム」「人・ダッシュボード」の3要素によって、業界最速でAaaS構想の実現を目指しています。
博報堂DYグループのAaaS構想を語る髙野山さん(左)
広告会社と媒体社、それぞれの立場で感じる「デジタル広告の課題」
谷口 続きまして、お二方それぞれに現状のデジタル広告の課題感をうかがいます。
髙野山 私の実感では、たとえブランド広告でも直接的な獲得効果がなければ、という声が、各クライアントの間から上がってきているというのがあります。
特にマーケティングファネルでいうと、アッパー(認知)はテレビ中心、ローワー(アクション/購入)はデジタル広告みたいになっていましたが、ミドルファネル(関心・検討)の部分で当社のデータの分断が起きがちなのかなと思っています。
Cookieレスの問題もあるなかで、その分断を物理的にすぐに埋めるのは難しいことも多いのですが、このミドルファネルの部分をどう改善していくかというところに大きな課題感を持っています。
谷口 山崎さんの課題感はいかがでしょうか。
山崎 デジタル広告というよりも、媒体社の課題としてお話をさせていただくと、これからはクライアントにもっと寄り添うことが課題になります。
従来の雑誌広告では、効果ではなくて「面」を売る、販売するということで、広告を商品としていました。しかし、デジタル広告が入ってきたときに「データマネジメント」という概念が出てきました。それを最初に手がけたのはGoogleだったと思うのですが、そうしたデータマネジメントをすべて第三者に委託してしまったところがあったのではないでしょうか。
Cookieレスが問題となり、クライアントもデータの分断を大きな課題だとしているいま、あらためてメディア自身がデータをマネジメントすることの重要性が浮かび上がっています。これからはファーストパーティデータをきちんと取得し、それを広告に活用していく。メディア自身が率先してデータマネジメントを行い、クライアントの目線に立って提案をすることが非常に大事になってきていると思います。
データから「気持ちの変化」まで読み解くという挑戦
谷口 お2人の課題感が、OTAKADとAaaSのそれぞれの取り組みにも表れているようですね。では次に、それぞれ取得して、分析しているデータの価値についてお考えを聞かせください。
山崎 OTAKADで取得しているのは、まず「記事のデータ」です。その記事に対して、ユーザーがどのタイミングでどのように見ているのかという記事閲覧データをメインに扱っています。それにプラスして、記事から記事へのクリックや、特定の記事の読了率など、ユーザーがこの記事をどう思ったのかというアクションデータも取得しています。
先ほど髙野山さんがミドルファネルのデータの分断を課題とされていましたが、ユーザーが商品を買おうと思った気持ちの変化を可視化していくことにもトライしています。
OTAKADはローンチして3年ほど経ちますが、いつ、どこでユーザーの気持ちが変わるのか、なかなか見えづらいところがあって、結局はキャンペーンごと、クライアントごとにカスタマイズして提案していく必要があるかなと感じています。
谷口 それではAaaSで扱うデータについてお願いします。
髙野山 「みんなが一緒になることが実現しやすい場所」というのが、我々広告会社としての強みです。
テレビや雑誌、新聞というマス・メディアの情報も、Facebook、TwitterのSNSも、ECプラットフォームのデータや各クライアントの保有データ、さらに生活者のデータも、すべてフラットに収集可能なのが我々広告会社です。
それぞれデータの分断は起きていますが、各プラットフォーマーとそれをどう統合していくのかということに、いままさに挑戦しているところです。
谷口 デジタル広告は枠から人へ。ターゲティングの精度を高めることで、広告投資の効率化を図ってきたと思います。しかし、プライバシー保護の潮流もあって、デジタル広告においても戦略の見直しが余儀なくされています。
髙野山 個人情報保護は今後もどんどん厳しくなっていきますが、人が集まる場所としてのコンテンツというのは絶対的に存在すると思っています。
AaaS、OTAKADが目指す未来
谷口 ここまでうかがっていますと、お2人ともOTAKADやAaaSという自社の取り組みだけでなく、メディアや広告ビジネスの未来の構想を描きながらお話をされているように感じました。お2人が目指す未来についてのお考えをお聞かせください。
髙野山 今までお話してきたように、広告業界を取り巻く環境は、いままさに"変革の中"にあると思っています。ただそれらの課題はすぐに解決できるものではなく、また状況はどんどん変化しているので、それに柔軟に対応し続けることがすごく大事になってきますし、それをやることの結果がAaaSの構想の実現につながります。
個人的には、効果にコミットするということは、短期的な成果を求めるパフォーマンス広告を展開するのではなく、生活者と継続的な接点を持ち続けることだと思っています。それによってみんなをナーチャリングしていく、好きになってもらうということを、これからのマーケティングの主流とした方がいいのではないでしょうか。
講談社は昔からの強いコンテンツを持っていて、博報堂DYグループとしても連携を強めていかなければならないし、それによって効果にコミットするという構想を実現させていただければと思っております。
谷口 メディア環境もどんどん変わっていく中で、変化に柔軟に対応し続けるということがまず大事だということですね。では山崎さん、お願いします。
山崎 OTAKADとしては、「マーケティングを面白く」ということをプロダクトパーパスとしていますので、この提案がマーケティングファネルのどこにハマるのか、広告会社と一緒に考えていくことが大切だと思っています。さらにクライアントと広告会社と講談社のメディアが、同じデータを見ながらマーケティングを議論していくという、そんな世界を青写真として描いています。
そもそも講談社は、出版社(コンテンツメーカー)として書籍や雑誌やマンガなどを地道に実直に売ってきた会社です。どちらかというとデジタルとは縁遠いところもありますが、一方でエンドユーザーにいちばん近いところでビジネスを続けてきたという強みがあります。
個人的には、この強みは、実はデジタルとすごく親和性が強いと感じていて、どうすればエンドユーザーにいちばんためになるか、いちばんいい広告の出し方ができるかなど、講談社が持っているデータを活用して新しいビジネスを作っていくということにチャレンジしていきたいと思っています。
谷口 OTAKADとAaaS、それぞれが描く未来、大変興味深く思いました。本日はありがとうございました。
【講談社メディアカンファレンス 2022 ミライトーク04】
現場の担当者が語る、メディア×広告×データの未来予想図
登壇者:
・髙野山 拓史/株式会社博報堂DYメディアパートナーズ AaaSビジネス戦略局戦略3部/ミライの事業室ビジネスプロデューサー
・山崎 瑛記/講談社 第一事業局コミュニケーション事業第一部 デジタルマーケティンググループ OTAKADプロジェクトリーダー
・谷口 優(モデレーター)/株式会社宣伝会議 出版・編集 取締役 月刊『宣伝会議』編集長