2023.01.13

2023年トレンド予測・キャラクター活用は5つの流れで進む|マンガキャラクター活用の極意【第二部】

2023年を迎えました。あけましておめでとうございます。
今年は卯年、まだまだ落ち着かない世の中ではありますが、イソップ寓話のように途中で油断することなく走り抜けたいものです。

前回は、最近注目されているVtuberについて、以下のような内容をご紹介しました。

  • 視聴者との直接コミュニケーションが可能な存在として発展するVtuber
  • 拡がるVtuberの活動領域と、多様化する市場構造・収益構造
  • 学術系Vtuberが切り開く学術界の裾野と教育における可能性
  • 学んだ専門知識を活かして情報発信したい学術系Vtuber
  • 学術系Vtuber・非Vtuberとも、ながら視聴や隙間時間の視聴が多い

今回は年頭企画として、筆者が2023年のキャラクター界隈における展望あるいは期待として認識している「5つのトレンド」について解説します。

テレビからWEB配信への流れはさらに進む

コロナ禍を契機に、自宅でも気軽にテレビアニメや映画をサブスク制で楽しめるAmazonプライム・ビデオ、Netflix、HuluなどOTT(Over The Top)と呼ばれるアニメ配信市場は飛躍的に伸びています。日本動画協会の独自調査による市場規模は2020年→2021年では930億円から1,543億円(前年比65.6%増)と、2019年→2020年の26.3%増からさらに拡大しています。

2021年は深夜アニメなど214の新規アニメタイトルが作られましたが(日本動画協会調べ)、2022年にはさらに多くの作品が放送・配信されました。筆者も、地上波で放送されない作品が多い民放2局の福井で、さほど問題なく新作アニメが多数見られるという環境を享受しています。

キャラクター関連の発信がテレビからWEBに移っていく流れのなかで、今後のカギになっていくのが、Z世代のライフスタイルとして話題になった「動画の倍速視聴現象」でも見られる、「限られたユーザーの可処分時間をどう有効活用するのか」であると考えています。YoutuberやVtuberも交え、タイパ(タイムパフォーマンス)を巡ってどのように競うか、あるいはさまざまなメディアと共存するかがテーマにひとつになるでしょう。

アニメ映画の成否は二極化傾向が続く

2022年の興行収入トップ10は、1位「ONE PIECE FILM RED」187.8億円(12/25時点)、2位「劇場版 呪術廻戦 0」138億円、4位「すずめの戸締まり」100億円(12/25時点)、5位「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」97.8億円、9位「ミニオンズ フィーバー」44.4億円とアニメが半数を占めました。他にも7位「キングダム2 遥かなる大地へ」51.6億円、9位「シン・ウルトラマン」44.4億円と、マンガ原作や特撮作品がランクインしています(興行通信社調べ)。

「ONE PIECE FILM RED」と「すずめの戸締まり」は現在も公開中でまだ記録を伸ばす勢いですし、事前情報を出さずに様々な意味で話題となった「THE FIRST SLAM DUNK」も、2022年12月3日の公開から5週連続の首位、32日間で興行収入67億円を突破するなど、2023年もアニメ邦画が上位を席巻する勢いは止まりません。

ここ数年での日本の映画興行収入は、アニメ>実写、邦画>洋画のままで、世界各国で大ヒット中の「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」が日本では伸び悩むなど、この傾向は続きそうです。

上記のような多くのスクリーンで上映される大作が目立った陰では、予想を下回る興収しか残せなかった国内外の映画も数多く存在します。特にコロナ禍以降は、SNSで感動を共有したくなる一部の超ヒット作とそれ以外の格差が激しくなるなど、二極化が進んでいます。

そのような中で大作とはいえないものの、「映画 五等分の花嫁」のように、コアファンの支持を確実に捉えて5月20日からの80日間で興行収入22億円を記録するような作品も出てきています。後述する"ファンファースト"施策による口コミ効果などがあり、好成績が長期持続化したと考えています。

今後も「SPY×FAMILY」「すみっコぐらし」「スーパーマリオブラザーズ」など人気IPの映画化が予定されています。これらに加え、深夜アニメの劇場版など口コミによるスマッシュヒットが期待できる佳作も目白押しで、楽しみです。

動画サイトやSNSの活用による「ファンファースト施策」が進化

テレビ放送や配信の開始、映画公開、また各種イベント・キャンペーン実施のPR手段として、WEBのオウンドメディア、特にSNSや動画サイトが情報発信のメイン手段になって久しいです。

中でも特に多く用いられるのが、Twitter公式アカウントのフォロー、リツイート、ハッシュタグ付き発信を促すキャンペーンです。これらの施策による反応は、インプレッション数やチャンネル登録者数、再生回数としてすぐに可視化されるため、どんな書き込みや動画が望まれる内容なのかを確認・対応して、コアファンとの関係構築やマネタイズ誘導に活かすことができます。

野球・サッカー・バスケットボールなどプロスポーツチームのファン対応などでも最近脚光を浴びている、この"ファンファースト"の考え方は、超ヒット作品だけでなく、周年イベントを控えている中堅どころの旧作マンガやアニメとの相性も良く、費用対効果に優れていることから、今後さらに活用されるものと考えられます。

原画展・作品展、2.5次元舞台などが本格復活し、流行を作る

ここにきて再流行しているコロナ禍は予断を許さず、以前のようにイベントを無邪気に楽しめる日はまだ先でしょう。しかし、行動や入場の制限による影響が大きかった原画展や作品展、2.5次元舞台など、対面でコアファンが集まり交流を楽しめる場は、制限解除で本格的に復活しつつあります。

筆者が昨年行った「展覧会 岡本太郎」では、PR役で誕生した「TAROMAN」が、50年前にテレビ放送されていたという架空設定による虚構性を纏うことで、古さと新しさを兼ね備えたヒーローとして異彩を放っていました。低予算ながら、新旧ファンへの話題性を創出し、新たな層が岡本太郎氏の強烈なメッセージ性を持った作品群のファンとなることに貢献した稀有な事例となりました。

「展覧会 岡本太郎」に登場したキャラクター「TAROMAN」。

また、先日行われた「THE仮面ライダー展」も、52年目を迎えた三世代におよぶライダーたちの貴重なスーツや衣装、小道具を見に来た様々な客層によって大盛況。「仮面ライダーW」の続編マンガが原作で現在公演中の舞台「風都探偵 The STAGE」と合わせて注目されました。3月に「シン・仮面ライダー」の公開も控えており、このようなイベントに後押しされたキャラクターたちの価値は、2023年にさらに高まりそうです。

聖地巡礼が海外インバウンド客誘引のきっかけに

特筆すべき名所・旧跡に乏しい地域であっても、マンガやアニメの舞台となることで一躍注目され、"聖地巡礼"として観光客が訪れるようになった地域は、埼玉県や茨城県をはじめとして全国各地に存在します。先日、訪れてみたい日本のアニメ聖地88の2023年版も発表され、有名な作品から知る人ぞ知る作品まで、多くの地域が聖地として名を連ねています。

また一方では、今年フィリピンで「超電磁マシーン ボルテスV」の実写TVドラマによるリメイクが放送されることが発表され、さらにサウジアラビアの首都リヤドでは全高33.7mの「UFOロボ グレンダイザー」立像が公開されて世界最大の架空キャラクター金属製彫刻としてギネス世界記録認定を受けるなど、70年代に輸出されたロボットアニメの人気が、世界各地で今や日本以上に根強いことを示すニュースが続いています。

これらの状況や現在の円安を鑑みると、コロナ禍でいったんリセットされたインバウンド需要を復活させ世界各国からの来日を促すために、"聖地巡礼"には多くの可能性があるものと考えられます。最も多くを占める中国人観光客については、ゼロコロナ政策が転換された途端に多くの陽性者が確認され、春節を控えて世界各国で緊急水際対策を取らざるを得ないなど、まだまだリスクの大きさが懸念される残念な現状です。しかし、"聖地巡礼"に関する的確で魅力的な情報の発信が国内外の観光客を呼び込む貴重なきっかけとなることは明確です。

その際、聖地として定着するには、魅力的でインタラクティブな情報発信に加え、ファンと地元住民が継続的に交流できる場をいかに用意するかがポイントになるでしょう。
国内の観光客相手でも、地元の受入態勢不備などの理由からうまくいかない地域が多いようですが、言葉や文化が異なる海外観光客相手ではさらにハードルが上がります。

しかし現在公開中の作品では「SLAM DUNK」の舞台である江ノ電界隈に以前から中国や韓国のファンが、また「すずめの戸締り」「天気の子」「君の名は。」など新海誠監督作品でも多くの聖地に海外ファンが多数来ています。それら海外の人々が安心して楽しめる場をどうやって用意できるか、地元住民にどう橋渡しするのか、日本が真の観光立国を目指すのであれば、自治体やコンテンツ産業が協力し、きちんと予算をつけて対応すべきでしょう。

今回は以上です。
先行き不透明な幕開けながら、旧作・新作のマンガやキャラクターがクロスオーバーすることによる化学変化を感じています。異なる世代や国境の壁を超えるパワーと、多くの可能性に期待したいと思います。次回以降もどうぞお楽しみに。

<第2部 バックナンバー>
第7回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第6回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第5回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(後編)
第4回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(中編)
第3回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(前編)
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も

<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。

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