2022.12.08

拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(後編)|マンガキャラクター活用の極意【第二部】

W杯での日本代表の快進撃に一喜一憂しているうちに、師走になりました。PK戦で決着とは残念でしたが、大健闘だったのではないでしょうか。
さて、筆者は12月2日にNHKホールで開催された渡辺宙明先生の追悼コンサートを観て、アニソン界のレジェンド、堀江美都子さん、串田アキラさん、ささきいさおさん(登場順)の変わらずお元気な姿と張りのある歌声に圧倒され、まだまだ自分もこれからだと痛感した次第です。司会を務めた中川翔子さんも、レジェンドたちに臆することのない熱唱が見事でした。宙明先生が96歳でお亡くなりになって半年が経ちましたが、名曲は永遠に残っていきます。当日ドクターストップで急遽不参加となったアニキこと水木一郎さんの病状が心配です。何度か仕事関連でもお会いしたファンとして、復活を心から願っています。

前回は、最近注目されているVtuberについて、その概要、独自定量調査結果をふまえた分析事例を紹介しました。

  • 視聴者との直接コミュニケーションが可能な存在として発展するVtuber
  • 拡がるVtuberの活動領域と、多様化する市場構造・収益構造
  • 学術系Vtuberが切り開く学術界の裾野と教育における可能性
  • 学んだ専門知識を活かして情報発信したい学術系Vtuber
  • 学術系Vtuber・非Vtuberとも、ながら視聴や隙間時間の視聴が多い

今回は、最近注目されているVtuberについて、学術系Vtuberに限定しての独自定量調査結果をふまえた分析事例を紹介します。

学術系Vtuberは性別不詳が1/4を占める

図表1は、学術系Vtuberとファンで構成されるコミュニティサイト「VRアカデミア」関連の発信者が多くを占めるVtuberと、視聴者である非Vtuberの性別を比較した結果です。Vtuber、非Vtuberともに女性は約1割で、Vtuberでは性別を明かさない人が1/4を占めているのが特徴的です。

図表1. 性別(VRアカデミア関連Vtuber vs非Vtuber)

学術系VtuberはVRアカデミアを積極的に推奨

図表2は、Vtuberと非Vtuberの、VRアカデミアに対するNPS(Net Promotor Score)結果です。NPS は、Reichheld(2003年)が提唱した「商品やブランドの推奨意向(友人・知人にどの程度勧めたいと思うか?)」を評価する方法で、現在様々な業界で取り入れられています。推奨意向を0から10までの11段階評価で回答してもらい、上位2つ(10、9)を選んだ人を『推奨者』、その下の2つ(8、7)を選んだ人を『中立者』、それ以外(6~0)を選んだ人を『批判者』として、『推奨者』-『批判者』で算出します。

図表2. NPS(VRアカデミア関連Vtuber vs非Vtuber)

その結果、『推奨者』はVtuberが37.9%、非Vtuberが33.3%、『批判者』はVtuberが13.8%、非Vtuberが29.2%。NPS(推奨者-批判者)は、Vtuberが24.1%、非Vtuberが4.2%となりました。Vtuberは『推奨者』が多く『批判者』が少ないことから、VRアカデミアを積極的に周囲に推奨していることがわかります。

インフルエンサーとしてのVtuberの発信力をタレントと比較

商品・サービスに信頼性を与えるため、広告などでのエンドーサー(推奨者)としてインフルエンサーを起用した場合、消費者行動にどのような影響を及ぼすかを調べる研究は、以前から多数存在しています。YouTuberが一般的になったこの10年ほどは、さらに研究結果が多く発表されるようになりました。そこで、セレブリティ(著名人)と比較したところ、インフルエンサーの方が視聴者の共感と信頼を得ていることが確認された、という米国での研究結果(Janssenet al., 2020)をもとに、Vtuberとタレントとキャラクターについて、エンドーサーとしての『識別性』と『信頼性』について調査してみました。

『識別性』は、『知覚的類似性』(「私のように行動する」「私に似ている」)と、『希望的識別性』(「私自身がそうなりたいタイプである」「私が見習いたい人である」)で構成されます。『信頼性』は、『知覚的信頼性』(「頼れる存在である」「専門家である」)、『専門性』(「経験がある」「知識がある」)で構成されます。

今回調査では、まず好きなVtuber、タレント、キャラクターを3つまで純粋想起してもらい、1)最も好きなVtuber、2)最も好きなタレント、3)最も好きなキャラクターに対して、上記の『知覚的類似性』『希望的識別性』『知覚的信頼性』『専門性』についてそれぞれ質問する形で測定しました。

図表3は、好きなVtuber、タレント、キャラクターをそれぞれ3つまで純粋想起してもらった結果です。

図表3. 好きなVtuber、タレント、キャラクター(純粋想起)

好きなVtuberは、VRアカデミアの学術系Vtuberがトップで、他にも複数の学術系Vtuberが挙げられています。好きなタレントやキャラクターについては、回答者数自体が少なく回答結果も分散しており、目立った傾向がみられません。

Vtuber、タレント、キャラクターは見習いたい存在としてともに高く評価

図表4は、好きなVtuber、タレント、キャラクターについて、『識別性』に関する評価を比較した結果です。

図表4. 好きなVtuber、タレント、キャラクターの比較:①識別性

「私のように行動する」「私に似ている」で構成される『知覚的類似性』は、Vtuber、タレント、キャラクターともに低く、いずれも自分とは違う存在として認識されているようです。先行研究では、インフルエンサーは『知覚的類似性』でタレントを上回る高評価を獲得していたので、意外な結果です。

そして、「私自身がそうなりたいタイプである」「私が見習いたい人である」で構成される『希望的識別性』は、タレント>キャラクター>Vtuberという結果になりました。これは、VRアカデミア関連の回答者にとって、少数とはいえタレントやキャラクターが憧れの存在である一方、すでにVtuberとして活動している人が回答者に多く含まれるためでは、と推察されます。ただし、このスコア差は有意なほどではなく、あくまでも参考的なものです。なお、「私が見習いたい人である」は、Vtuber、タレント、キャラクターはともに高くなっており、憧れの存在である点は共通します。

学術系Vtuberは知識を備えた存在として、キャラクターは頼れる存在として高く評価

図表5は、好きなVtuber、タレント、キャラクターについて、『信頼性』に関する評価を比較した結果です。

図表5. 好きなVtuber、タレント、キャラクターの比較:②信頼性

「頼れる存在である」「専門家である」で構成される『知覚的信頼性』は、「頼れる存在である」がキャラクター>Vtuber>タレント、「専門家である」がVtuber=タレント>キャラクターで、項目により傾向が異なるようです。ここでは、虚構の存在であるはずのキャラクターが「頼れる存在である」として評価されている点が目を引きます。生身でないからこそ、自分を裏切ったり見捨てたりしない理想の存在として想いを託せる、推せる、ということでしょうか。このあたりは、さらなる研究が必要です。

そして、「経験がある」「知識がある」で構成される『専門性』は、「経験」がタレント≒Vtuber>キャラクター、「知識」がVtuber>タレント>キャラクターで、いずれもキャラクターが低い結果になりました。特に「知識がある」は、Vtuberとタレントが、キャラクターよりも有意に高いスコアとなっており、知識に裏打ちされた専門性が説得力を持つような製品については、正体を明かしていないVtuberでも、タレントを上回る説得力を持つことが確認されました。

今回は以上です。
Vtuberの中でも学術系Vtuberに限定した調査結果のため、学術系Vtuberの専門性が視聴者の評価に影響を与えたものと考えられます。学術系Vtuberは学歴が比較的高い者が多く、一般視聴者からは自分とは違う存在だと認識されている傾向が見受けられました。まずはサンプル数を増やし、質問も精査した上で、再度調査を行うべきですし、一般的なVtuberの実態及び受容構造についても調査・分析を行う必要がある、と感じました。
次回は、2022年に話題になったキャラクターやコンテンツについて、振り返ってみようと考えています。どうぞお楽しみに。

<第2部 バックナンバー>
第6回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第5回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(後編)
第4回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(中編)
第3回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(前編)
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も

<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。

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