2022.11.11

拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)|マンガキャラクター活用の極意【第二部】

はやくも11月になりました。10月22日と23日、3年ぶりの滋賀県彦根市「ご当地キャラ博in彦根」は、初の彦根城内での開催でした。これも初めての試みとなる、お堀めぐりの屋形船にご当地キャラたちが楽しそうに乗ってパフォーマンスする様子は、時代を超えた日本独自の風情がありました。参加した計106キャラの運営団体の皆さんと関係各位、そして参加した約7万人の皆さんに心から感謝します。
そして11月1日から、東京港区の愛宕山にあるNHK放送博物館では「展覧会 タローマン」が始まりました。「展覧会 岡本太郎」のPR企画が、万博当時に放送された特撮ヒーローというフィクション性を付与することで、ここまで魅力的なコンテンツになったこと自体が驚きです。さらに今回は、大阪での展示から「太陽仮面サンタワー」という新たなヒーローが説明もなく追加されて、何かやらかすのでは?というディープなファンの期待を裏切らずに話題性を高める、SNS時代ならではのやりかたに感心しました。

前回は、2021年11月に実施した「キャラクター定量調査2021」の結果を用いて、大学生以外も含めたZ世代と、その下のα世代、Z世代より上の世代を比較しての、マンガ・アニメ・キャラクター関連の消費実態に関する定量調査結果を用いた下記の分析事例を紹介しました。

  • Z世代のキャラクターとの接点は、発信側との心的距離が近い傾向
  • 男子はゲームや配信、女子はSNSやLINEスタンプなど
  • 男子は非日常体験や気分転換を求め、女子はお気に入りのキャラによる癒しや楽しさを求める
  • 男子は企業の情報探索や評判アップが見込め、女子は商品・広告の話題共有・拡散が見込める

今回は、最近注目されているVtuberについて、その概要と、独自定量調査結果を踏まえた分析事例を紹介します。

視聴者との直接コミュニケーションが可能な存在として発展するVtuber

Vtuberとは、イラストやCGによる2D・3Dのバーチャルな姿で配信をするYouTuberのことです。起源については諸説ありますが、2011年頃から出現したと言われており、2016年末ごろに『キズナアイ』が自身を指す言葉として「バーチャルYouTuber」と最初に言い始めたことで、その存在自体と、略称であるVtuberが一気に世間に広まりました。なお、『バーチャルYouTuber/Vtuber』は「ネット流行語大賞2018」の金賞を受賞し、『キズナアイ』は「日本キャラクター大賞2019」の選定委員特別賞を受賞しています。

Vtuber発展の背景としては、(1)VR・Unity・Live2Dなどの技術の発展、(2)スマホ/インターネット回線の普及、(3)配信プラットフォーム/アバター作成ツールの開発・普及、などの要因があります。
Vtuberは、『モーションキャプチャー技術』を利用して、生身の人間の動きをアバターに投影し、リアルタイムでキャラクターの動きを変化できるため、視聴者との直接的なコミュニケーションが可能である点が、従来のキャラクターとは決定的に異なります。また、アバターの見た目を自由に変えられるため、性別・年齢、見た目と関係なく、本来の自分とは全く違うキャラクターとして活動できる点も魅力です。2018年頃からは、バ美肉(=バーチャル美少女受肉)おじさんとの名称で、美少女の外見だが実はおじさんが演じているVtuberの存在が話題になりました。顔出し系YouTuberと違い、身バレのリスクが低い点も、発信側にとっての魅力です。

拡がるVtuberの活動領域と、多様化する市場構造・収益構造

Vtuberの活動領域は、従来の動画配信に加えて、音楽やイラストをTwitterやPixiv等にアップするなど多岐にわたるクリエイター活動へと拡がりをみせています。その勢いに呼応して、個人が趣味でゲーム実況や専門知識を披露するだけでなく、Vtuberに特化した事務所やプロジェクトが出現し<例:にじさんじ、ホロライブ(hololive)>、企業や自治体が自前のVtuberを作って宣伝活動を始める<例:サントリー公式Vtuber『燦鳥ノム』、茨城県『茨ひより』>、大手企業とVtuber事務所のコラボが盛んになる<例:集英社×にじさんじ・ライバーオススメ漫画をイッキ読みキャンペーン>など、一大ブームの様相を呈しています。Vtuberポータルサイト「Vtuber post」も誕生して、Vtuberに関するニュースや新人ランキングなどの情報が随時提供されています。

図表1は、Tim Queenによる2022年7月29日時点のYoutubeチャンネル総数です。YouTubeの月間アクティブユーザーは26億人で、地球人口79億人の約3人に1人を占めます(うち日本のYouTube視聴者は1億200万人)。全世界で1億1,390万のYouTubeチャンネルが存在しますが、登録者100万人以上の人気チャンネルはチャンネル全体の僅か0.3%に過ぎず、登録者100人に満たないチャンネルが75%と圧倒的に多いことがわかります。

図表1. YouTubeチャンネル登録者数別:YouTubeチャンネル数

YouTuber全体の市場構造同様に、現在のVtuberは、にじさんじ、ホロライブなどの人気事務所に所属する一部メジャー勢(例:壱百萬天原サロメ〈にじさんじ所属〉チャンネル登録者数 168万人、宝鐘マリン〈ホロライブ所属〉チャンネル登録者数 218万人など)と、登録数が少ない有象無象のマイナー個人勢に分かれており、両者のチャンネル登録者数には大きな開きがあります。この、一部のメジャー勢と多数のマイナー勢に分かれる市場構造は、ご当地キャラやプロレスラーと同様です。

人気によって金額の多寡はありますが、コア視聴者の投げ銭によるVtuber支援「スパチャ(スーパーチャット)」によって収入を得ている層がいて、メジャー勢は広告やイベントへの出演も多数です。たとえば、2022年10月16日からの日清食品完全メシ・テレビCMでは前述の「壱百萬天原サロメ」が起用され、10月25日からのローソンコラボキャンペーンでは、ホロライブ所属の「白上フブキ」、「百鬼あやめ」、「大神ミオ」、「天音かなた」、「常闇トワ」の5名によるAR動画付きクリアファイルなどの限定グッズや限定くじが展開されています。

学術系Vtuberが切り開く学術界の裾野と教育における可能性

このように注目を集めているVtuber界隈ですが、経済産業省が推進する「学びのSTEAM化(※)」構想具現化に向けて開発されたデジタルコンテンツライブラリー「STEAMライブラリー」のひとつとして、学術系Vtuberユニット"まなぶい"と株式会社うちゅうが共同で行う教材制作事業が採択されるなど、教育方面での活用も進んでいます。

※STEAMは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(人文社会・芸術・デザイン)、Mathematics(数学)の頭文字を組み合わせた言葉。

今回筆者が注目したのは、学術系Vtuberとファンで構成されるコミュニティサイト「VRアカデミア」です。「みんなで教える、みんなで学ぶ」のキャッチコピーを掲げて、学術の裾野を広げるため、大学教員や大学院卒社会人などの専門家が、Vtuberとして日々配信を続けています。2022年5月30日に4周年を迎え、根強いファンも存在します。

2022年10月にVRアカデミアは、Twitterなどを通してGoogleフォームへの記入を呼びかける形で、VRアカデミア関係者(配信者および視聴者)を対象とした定量調査を実施しました。以降は調査結果の一部で、有効回答者全体(n=53)をVtuber(n=29)と非Vtuber(n=24)に分けて、両者のプロフィールや行動を比較しています。サンプル数は極めて少ないですが、Vtuber、しかも希少な学術系Vtuber自身による貴重な回答ということで、今回ご紹介します。

学んだ専門知識を活かして情報発信したい学術系Vtuber

図表2は、VRアカデミア関連のVtuberと非Vtuberの職業・最終学歴です。Vtuberは院卒の社会人が多いですが、必ずしも教育関係者やIT技術関係者ばかりではありません。また、非Vtuberは、社会人の他に大学生が多く、最終学歴(学生は現時点の最終学歴)は大卒と高卒が多くなっています。

図表2.職業・最終学歴(VRアカデミア関連Vtuber vs非Vtuber)


図表3は、VRアカデミア関連のVtuberと非VtuberのVRアカデミア認知経路と、活動フォロー理由です。VRアカデミア認知経路は、Vtuberと非Vtuberともに「フォローした人がVRアカデミアに参加していた」が最も多く、非Vtuberは、「知りたいことを検索したところVRアカデミアのコンテンツを見つけた」人が次いで多くなっています。VRアカデミア活動フォロー理由は、Vtuberが「VRアカデミアのコンテンツ製作者だから(きょういん等)」が、非Vtuberは「動画、配信を視聴するため」が、それぞれ圧倒的に多くなっています。
これらの結果から、学術系に限って言えば、Vtuberは、かつて学んだ専門知識を活かして情報発信したい人たち、非Vtuberは、配信視聴で専門知識を学びたい人たちであることがわかります。

図表3. VRアカデミア認知経路・活動フォロー理由(VRアカデミア関連Vtuber vs非Vtuber)

学術系Vtuber・非Vtuberとも、ながら視聴や隙間時間の視聴が多い

図表4は、VRアカデミア関連のVtuberと非Vtuberの興味がある学術分野とコンテンツ視聴機器、視聴シーンです。興味がある学術分野は、Vtuberと非Vtuberともに「数学」「プログラミング」が特に多くなっています。非Vtuberは「情報工学」も多く、他に「言語学」「哲学」「芸術学」など文系分野も多いのが特徴的です。コンテンツ視聴機器は、Vtuberは特にPCが多いのに対し、非Vtuberはスマホも多くなっています。
視聴シーンは、Vtuberと非Vtuberともに「別の作業をしながら視聴している」が最も多く、「隙間時間」「仕事、学業が終わった後」「土日、祝日」が続いており、両者の違いはほぼ見られません。ただし、「視聴時に別の作業は行っていない」は非Vtuberのほうが高く、視聴に専念する度合いが高いようです。

図表4.興味がある学術分野、コンテンツ視聴機器、視聴シーン(VRアカデミア関連Vtuber vs非Vtuber)

今回は以上です。学術系Vtuberというニッチな世界でも、送り手と受け手の共創によって距離の近いコミュニティが成立している点が印象的でした。以前は、若者にとって身近で親しみの持てる存在としての「ながら視聴」手段は、深夜ラジオや深夜テレビが一般的でしたが、今やその役割はYouTuberやVtuberによる配信に移行しているのでは、との思いを新たにしました。
次回も、YouTuberやVtuberに関する最新分析事例紹介を続けます。情報発信源として、人気タレントや人気キャラクターと比べての受け取られかたなども用意していますので、どうぞお楽しみに。

<第2部 バックナンバー>
第5回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(後編)
第4回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(中編)
第3回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(前編)
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も

<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。

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