2022.07.21

プレイヤー間のデータ連携はどこまで進む? 「テレビ」を進化させるデータの活用──「Advertising Week Asia 2022」レポート②

放送局由来のコンテンツや、そこで提供される広告枠の価値を高めるために、メディアのデータ活用や連携はどう進めていけばよいのでしょうか。放送局、インターネット業界、広告業界を代表する3人が、「テレビ広告の未来」について語り合った「Advertising Week Asia 2022」セッションをレポートします。

(写真左から)谷口優さん/株式会社宣伝会議 出版・編集 取締役 月刊『宣伝会議』編集長、
安藤元博さん/博報堂DYホールディングス 常務執行役員、
冨士川祐輔さん/株式会社フジテレビジョン 編成制作局 編成ビジネスセンター 局次長職DX担当、
綾瀬龍一さん/株式会社AbemaTV シニアプロダクトマネージャー


垣根がなくなっている「テレビ」と「デジタル」

谷口 優(以下、谷口) いま、インターネット回線に接続されたコネクテッドTVの割合は5割を超えると言われています。「テレビを見ている」と言ってもテレビというデバイスでインターネットコンテンツを見ているかもしれず、必ずしもテレビ局のコンテンツを見ているわけではない視聴者が増えています。

一方で、今年4月11日からは「TVer」での民放5局での一部時間帯でのネット同時配信もスタートし、逆にテレビ局がネットの世界に攻め入ろうとしています。

コンテンツ視聴において放送と通信が融合していくような状況からは、放送局やインターネット事業者、広告会社がデータを介してつながっていくような新しい未来の可能性も見えてきます。従来のテレビを「攻める」立場であるAbemaTVの綾瀬さんは、デバイスとしてのテレビをどんなふうにご覧になっていますか?

「テレビ局にとっては、ほかからコンテンツプレイヤーが攻めてくる時代」と話す谷口さん

綾瀬龍一(以下、綾瀬) 「ABEMA」はここ最近、スポーツやエンタメコンテンツという、テレビだからこそ楽しみやすいコンテンツを増やしてきました。ABEMAのサービスを通じて、テレビデバイスからの視聴も非常に増えています。

だからこそ、これまでテレビ局が築いてきた「広告主が安心して広告を配信できる場所」という絶対的な部分は踏襲していかなければならないと感じています。そのうえで、デジタルメディアが得意とする「効率よくユーザーにリーチする」「リーチしたあと実際の広告効果はどうだったか」を、弊社のファーストパーティデータなどをフルに活用して、広告主に対して明確に提供していきたいと思っています。

谷口 冨士川さんはテレビ局で、視聴者が企画に参加できる体験型CM「CxM(シーバイエム)」など、新しい取り組みをされています。これはデジタル分野への積極的な「攻め」の現れですか?

冨士川 祐輔(以下、冨士川) CxMは、デジタルを打ち負かすための仕組みではなく、「テレビとデジタルをつなぐ」という思いでつくりました。

テレビの場合、これまでの枠セールスでは、視聴率が重視されてきました。しかし、もっと具体的にどう機能したのか。たとえば、どれくらいブランドリフトしたのかなど、ネットが得意としてきたことをクライアントに提示できる仕組み化が重要だと思っています。CxMはその第一歩というイメージです。

私は、テレビとデジタルは、いわゆる「競合」ではないと思っています。もちろんクライアントさんのマーケティングにおける広告メディア選択においては「競合」かもしれませんが、これからはテレビの広告枠セールスだけではなく、コンテンツに対して出稿してもらうような形が重要になっていくと考えています。

特に、コンテンツのフローにおいて、たとえば最初はABEMAに流してファンを醸成し、その後テレビで流し、さらにコミュニティに......という仕組みのような、コンテンツがメディアを巡る中での広告という新しいスキームも作れるのではないかと考えています。

「デジタルとともに新しいコミュニケーションを創りたい」と話す冨士川さん

テレビの知見をデジタルに活かし、新しい価値を創出

安藤 元博(以下、安藤) よく「デジタルは効果がわかるけれど、テレビは相対的によくわからない。だからテレビもデジタルと一緒にやっていこう」ということがいわれますが、それはそこまで単純な話でもなく、そこには疑いも入れたほうがいいと思います。テレビ広告には、いかに効果を示していくかについての、独自の探求の歴史もあるからです。

ただもちろん、テレビとデジタルの広告効果を統合的に考えることには、大きな意義があると思っています。テレビがやってきたことと、デジタルでしかできなかったことをどういうふうに活かして新しい世界を作るのかを考えた時に、こんな図を考えてみました。

安藤さんが用意した「テレビとデジタルの相関図」

今日「テレビとデジタルはひとつの地平で仕事をしている」ということを話すために書いた、この図はあくまで私の仮説です。横軸は、ライブとアーカイブというテーマを、縦軸には「パブリック対プライベート」というテーマを置きました。

「パブリック対プライベート」は、広告業界でよく使われている「マス対1to1」という言葉を分かりやすく置き換えてみました。

まず、テレビから見てみます。テレビは左上のライブでパブリックなところに位置しています。ここから右下の、どうアーカイブやデジタル上でプライベートに配信できるのかを模索しています。

それに対し、デジタルは、右下のプライベートでアーカイブな部分が原点です。しかし最近、ABEMAなどに代表されるように、デジタルメディアは左上のパブリックな部分に向かおうとしています。

この2つを同じ平面で見た時に、左上にあるテレビの世界にはどんな価値があったんだろうというのを、いまいちど考えてみたいと思います。

ひとつはアドフラウドとかブランドセーフティというネット広告に対していかに信頼性を確保するのかというテーマがあります。テレビは長年の歴史でこうした課題を乗り超えて市場からの「信頼」を勝ち得ているといえます。もうひとつは、ブランディングという点で、テレビの力が絶大だったことですが、そこにはプランニングや測定のナレッジが付随しています。これらのテレビの知見をデジタルに活かしていくことで、対立ではなく新しい価値を生み出すことができるのではないかと思っています。

競争ではなく、共創する「テレビとデジタル」

綾瀬 この図はすごくわかりやすいですね。たとえばABEMAでは、プライベートでストックされていくようなコンテンツ視聴もありますが、いまはスポーツやエンターテイメントを、パブリックな場で、かつライブ感のある状態で見ていただくような視聴スタイルが増えています。

視聴者からしたら、テレビもデジタルも「同じデバイス」という部分では垣根がなくなってきているので、メディア側であるABEMAやテレビ局も融合していかなくてはいけないのだなと、あらためて思いました。

ただしそれを実現していくには、ABEMAやテレビ局といったメディアを横断したひとつの指標というか、マーケティングを正しく評価できるようなしくみも必要ですよね。だからこそ、冨士川さんがおっしゃるように、各メディアが競合ではなく、お互いに一緒にマーケットを作っていくというビジョンを持つことが大事だと思います。

「テレビとデジタルは"競争"ではなく"共創"が必要」と語る綾瀬さん

安藤 そうなんです、共通の指標はデータ連携すればいいという話ではないんですよね。どういう枠組みでその指標をつくっていくのかというのを、同じ平面上のプレイヤー同士として、テレビとデジタルが共通してやっていかなくてはいけないと思います。

冨士川 テレビの場合、これまでのテレビ広告ビジネスがよくできすぎていたので、どうしても右下がりに見えてしまうところがあります。ただ、実際には「地上波をどれくらい見ているか」という数字が下がっているだけで、現状はテレビでABEMAもNetflixもアマゾンプライムビデオも見ている人が多く、テレビの前にいる時間はそれほど下がっていません。

その現状を受け止めた上で、安藤さんのおっしゃる通り、信用やライブ感というテレビの強みを見える化し、広告フローの中での価値の顕在化やデジタルと連動することを前提とした新しいビジネススキームをクライアントに提供していくことが重要だと思います。

安藤 大画面で見るにしてもスマホやPCで見るにしても、そこで提供される価値を「パブリック対プライベート」という面で捉えることで、これまで放送局がやってきた価値を捉え直すことができるのではないかということです。

たとえば、ABEMA(インターネット放送局)もフジテレビ(テレビ局)も全部「テレビ」と捉えたら、「ログデータをうまく連携させればそれでいい」ではなく、どのようにコンテンツを作るべきで、そのために必要な指標やデータはどういうものなのかを考えていくことが、今日のお題でもある「Future of TV(テレビ広告の未来)」なのではないかと思います。

今後重要なのは、"全体最適化"を目指すコラボレーション

谷口 視聴者からみたら、「テレビかデジタルか」ということではなく、コンテンツが重要だということですよね。
これまで広告枠は、テレビとデジタルではそれぞれ異なる指標で見てきました。でもコンテンツベースで考えると、「テレビ」か「デジタル」かという括りに限定されずに考えられるのでしょうか。

安藤 そうですね。「テレビはデジタルみたいなことができないといけない」という単純な話ではないと思います。テレビ広告はもっと運用型にならなくてはいけないという面もあるのはもちろんですが、それだけではないんだよ、ということを考えていかないと、新しい価値は生まれてこないと思います。

「テレビとデジタル、双方で新しい価値をつくっていかなくてはいけない」と話す安藤さん

谷口 綾瀬さんと冨士川さんは、いま「理想的なテレビの未来」をどのように見ておられますか?

綾瀬 先ほどからみなさんがおっしゃっているように、もう「テレビかデジタルか」を意識すべきではないと思います。

これまでデジタルメディアの広告ビジネスでは「枠をたくさん作ってインプレッションを増やせばいい」という考え方があったかもしれないですが、「理想的なテレビの未来」を考えたときには、テレビ局が作ってきたようなブランディングにふさわしい広告体験や、ユーザーにとって広告主の商品が受け入れられやすい環境を、プラットフォーマーとしてどう作っていくかが重要になってくると思っています。

たとえば安藤さんの図に照らしてみると、単純に「本編と本編の間にCMを1本入れます」ではなく、「パブリックでライブ」のコンテンツを視聴している時の広告体験ってどういうものなんだろうと考えながら、視聴に合わせた広告体験を視聴者と一緒につくっていき、さらにその先にどんな効果があるのかを可視化していく、ということもやっていきたいと考えています。

谷口 「ライブでプライベートだとすごい没入感があるから、こういう広告があっているのでは」など、いろいろなアイデアが広がりそうですよね。テレビ側の冨士川さんはどうご覧になっていますか?

冨士川 私も、大事なのは「共創」だと思います。テレビメディアとデジタルメディアの共創もそうですが、クライアントや視聴者とも一緒にコンテンツをつくっていくことが重要かなと思います。

これはシナリオを書いてもらうとか出演してもらうという意味ではなく、コミュニティで醸成していくとか、ドラマ自体をブランデットコンテンツ化するような枠組みにするなど、安藤さんが描いた「パブリック、プライベート、ライブ、アーカイブ」の4象限をコンテンツやコミュニケーションでぐるぐる回すことで実現できるのではないかと思います。

たとえば、2月にローンチした「iCADs(アイキャズ/in Contents Ads)」は、動画内に広告情報を付与する「AVOD(広告情報付き無料動画配信)」の新しい形です。このデジタルプレイスメントは、季節に応じて変えることもできますし、視聴者が大人なのか子どもなのかで、たとえば、「子どもが見ていたらジュースの情報だけど、お父さんが見ていたらビールの情報に変える」ということができます。

こういったブランドと融合するコンテンツをクライアントや視聴者と一緒に作っていくことで、コンテンツをベースにした新しいコミュニケーションが生み出せるのではないかと考えながら、いろいろ試しています。

谷口 今後、共創でどんどん新しいマーケティング施策が生まれるとなれば、AbemaTVさんとのコラボみたいなことも考えられるのでしょうか。

冨士川、綾瀬 十分あると思います。

谷口 では実際に、広告主がテレビやABEMAのような媒体をよりよく使っていく場合には、どのような連携ができるとお考えでしょうか

冨士川 繰り返しになりますが、いままでのアナログ対デジタルではなくて、全体最適化という意味でのコラボレーションだと思います。

パイの取り合いではなく、「ブランディングはテレビの方が得意だよね」「ターゲティングやパーソナライズはデジタルのほうが得意だ」というように、うまく循環できる仕組みを作っていくのが、クライアントにも視聴者にも、そして私たちにとっても幸せな共創ビジネスになるのではないかと、期待しています。

谷口 いま視聴者は、「テレビを見る」感覚で、コネクテッドTVでオンラインコンテンツを見ています。視聴者も、広告主も、テレビとデジタルをあまり区別していないのに、メディアのほうが区別しているように感じました。

綾瀬 そうですね。視聴者がテレビでコンテンツを視聴することに心地よさを感じているので、そのデバイス(テレビ)でコンテンツを配信する事業者としては、そこでの広告体験についてもユーザー視点で心地よさや受け入れられやすい体験を追求・共創していくことでマーケットを一緒に作っていくことが重要なのかなと思います。

安藤 今日会場とオンラインで見てくださった方のなかには、まだ「テレビ担当」「デジタル担当」とそれぞれの担当で発注されている広告主、マーケターの方も多いと思います。「そうじゃないよ」と冨士川さんも綾瀬さんもおっしゃっているので、「じゃあ一緒にやってみましょう」という方が1人でも2人でも出てくることを期待したいですし、そういう意向を代理店としてもサポートしたいと思っています。ぜひ一緒に新しい価値を創っていきましょう。

谷口 楽しみですね。みなさま、今日はありがとうございました。


Advertising Week Asia 2022
プレイヤー間のデータ連携はどこまで進む? 「テレビ」を進化させるデータの活用

・開催日時:2022年5月31日(水)15:30〜16:00 GREAT MINDS STAGE
・登壇者:
 安藤 元博/博報堂DYホールディングス 常務執行役員
 冨士川 祐輔/株式会社フジテレビジョン 編成制作局 編成ビジネスセンター 局次長職DX担当
 綾瀬 龍一/株式会社AbemaTV シニアプロダクトマネージャー
 谷口 優(モデレーター)/株式会社宣伝会議 出版・編集 取締役 月刊『宣伝会議』編集長

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