2022.06.29
ブランドからのメッセージ「タグライン」の重要性と作り方|顧客との約束からはじまる利益の最大化[第5回]
コミュニケーション領域すべての統合プロデュースを行う株式会社イグナイトの代表取締役で、Advertising Week Asiaのエグゼクティブプロデューサーとしても活躍する、笠松良彦氏の連載。 第5回は、「タグラインの重要性と作り方」について、じっくりと解説していきます。
語り:笠松良彦 構成:C-station
タグラインは、ブランドから顧客に語りかける言葉
連載4回目では、顧客インサイトの捉え方について解説しました。顧客インサイトが見えたら、次に取り組むのは「タグライン」を作ることです。
タグラインとは、商品やサービスのベネフィットまたは思いを端的に表現した短い文章を指します。タグラインはマーケティング全般に影響を与えるものであり、「(ユーザーとの)コミュニケーションコンセプト」と言い換えることもできます。
私はタグラインを「ブランドから顧客に語りかける言葉」であり、「顧客の深層心理に寄り添う言葉」であると考えています。
もしタグラインで表現されている、ベネフィットや思いが、企業本位のものであれば、顧客の共感を得ることはできませんよね。当然、そのタグラインでユーザーとコミュニケーションすることも不可能でしょう。
つまり大前提として、タグラインは顧客本位で考えることが大切なのです。顧客の心の奥底にある不安や不満、要望を理解したうえで、ブランドが語りかけるメッセージ=タグラインであることが重要だと言えます。
そしてこのタグラインが、本当に顧客の心を動かし共感できる言葉になっていれば、「企画は必ずよいものになる」。それほど重要なものなのです。
タグラインは、クリエイティブへの最高のオリエン
何よりタグラインは、クリエイティブへの最高のオリエンになります。
タグラインをよりキャッチーに表現したものが「キャッチーコピー」と言えます。精度の高いタグラインは、キャッチーコピーにもなりえますが、表現を考えるのは、プロの職人であるクリエイターに任せるべきでしょう。
よいタグラインがあると、クリエイターが発想を広げるべき範囲が限定されるので、より深くて心が動くクリエイティブ表現が生まれる可能性が高くなります。しかし逆に、タグラインの完成度が低いと、クリエイターが考えなければいけない範囲が無意味に広がってしまい、結果として中途半端で抽象的な表現になるリスクが高まります。
では、タグラインの完成度を高くするためには、どうすべきなのでしょうか。その答えは、顧客インサイトにあります。
もしありきたりな顧客インサイトをしているのなら、タグラインも平凡なものになってしまい、結果としてキャッチコピーも凡庸で抽象的になってしまうでしょう。あるいは「クリエイティブメッセージの言っていることは理解できるけれど、まったく共感できない」となる危険性もあります。
顧客インサイトの捉え方についての詳細は、ぜひ前回の記事をご覧いただけたらと思います。
タグラインを作るときに、もうひとつ気をつけなければいけないことがあります。それは、タグラインをブランドのパーパスと一気通貫させることです。連載の第1回でもお伝えした通り、「すべての企業・ブランドにおいて企業理念と一致した全方位でのマーケティング活動が強く求められる」ようになっています。
つまりパーパスを起点に、インサイトも、タグラインも、すべてつながっているべきなのです。もしタグラインがブランドのパーパスと乖離があるのであれば、もう一度、パーパス、そして顧客インサイトについて考察することが重要です。
顧客の心を動かすようなメッセージ開発=タグラインは、そのまま「顧客体験」のデザイン・設計にもつながっていきます。これは、マーケティングプランナーやビジネスプロデューサーにとって、非常に重要な仕事だと私は考えています。
クリエイターを刺激するタグライン作りが重要な理由
顧客の深層心理を言語化するための「プラニングプロセス」
では、「よいタグライン」を作るには、どうしたらいいのでしょうか。実際に私が活用しているプランニングのプロセスに沿って、解説します。
私はまず、課題を抽出したのちに、ひとりを知る「N1インサイト」でターゲットを定めて、顧客インサイトを検討し、顧客の不安・不満・要望などの深層心理を言語化します。
著者が実際に使用しているプランニングプロセス
言語化したインサイトに対して、ブランドのパーパスから導き出されたタグラインを考えます。
重要なのは、このタグラインが顧客インサイトに寄り添っているかどうか。そして、その言葉に顧客が共感できるかどうかです。さらに、それを裏付ける具体的な根拠も必要です。根拠がなければブランドにその言葉をいう資格はありません。
タグラインの策定プロセス:「ダイハツ・ミラ イース」の事例
連載第3回で顧客インサイトを解き明かす方法としてご紹介した「ダイハツ・ミラ イース」の事例で、タグラインの策定プロセスを解説します。
この事例では、タグラインを考える作業からコピーライターに入ってもらったため、考案したタグライン「第3のエコカー」がそのままキャッチコピーになりました。ですが、もし仮にタグラインをつけるなら、「(ガソリン車なのにリッター30㎞も走る)軽自動車はエコカーの第3の選択肢だと思いませんか?」となります。
タグライン=(ユーザーとの)コミュニケーションコンセプトになっていて、プロモーションプランにも大きな影響を与えていることがおわかりいただけるのではないでしょうか。
「ダイハツ・ミラ イース」のタグライン策定のプランニングプロセス
同様に、連載の第4回でご紹介した中央酪農会議の「牛乳に相談だ」の事例のタグライン=コミュニケーションコンセプトは、「牛乳を人気のある学級委員にしよう」でした。これも顧客に寄り添った、よいタグラインの一例と言えると思います。
プロセスを可視化することで、思考を共有できる
私がプランニングプロセスを重要視している理由は、思考のプロセスも可視化できるからです。
可視化することで、クリエイティブだけでなく、主要スタッフやブランドの社内他部署とも思考を共有することができ、作業をしているチーム全員が共通の認識とゴールを描くことにつながります。
どのようなプランニングプロセスでもかまいませんが、ロジックを可視化できることは、マーケティングプランナーとして重要なスキルだと私は考えています。
次回は、ブランドからのメッセージにおける「クリエイティブの重要性」について解説します。