2022.04.12

「共創コミュニティ」が生み出す、メディアの新たな価値 ── NewsPicks Creations 纓田和隆

ユーザー会員689万人、プレミアム会員18.5万人(2021年12月現在)もの会員を抱えるソーシャル経済メディア『NewsPicks(ニューズピックス)』は、青山商事と共創コミュニティを構築し、新たな企業価値を創出。コミュニティは、創業60年の老舗企業をどう「進化」させたのでしょうか。NewsPicks Creations事業責任者の纓田和隆(おだ かずたか)さんにお聞きしました。

NewsPicks Creations事業責任者 纓田和隆さん

共創コミュニティによる、メディアの新たな価値の創造

──御社は企業と生活者が共に新たな価値創造を目指す共創コミュニティプロジェクトを推進されています。まずは、この共創コミュニティを構築している「NewsPicks Creations」事業について教えてください。

纓田 NewsPicks Creationsは、旧来型ビジネスモデルからの業態進化・変革を目指している企業に向けて、生活者との共創で新たな価値創造を目指す法人向けマーケティング支援事業です。2020年2月にスタートして、現在は老舗大企業の新製品開発や人材育成、組織変革など、少しずつ取り組みが広がっています。

──そもそも、経済メディアである御社がなぜ共創コミュニティに取り組むことになったのでしょうか。コミュニティに着目した理由についても教えてください。

纓田 私が長年手がけてきた法人向けのメディア広告営業に限界を感じるようになってきたからです。特にここ数年は、キャンペーンなどをしてもその瞬間しか効果がなく、本質的な貢献ができていないのではないかと悩んでいました。

また、「リスティング広告」や「アフィリエイト広告」などの刈り取り型広告(ニーズが顕在化しているユーザー向けの広告)が、実はユーザーにとっては最適ではないという現状に気がついたこともあります。あまりにも広告ばかり出てくる記事が多いと、ユーザーから「読みにくい」と見放されてしまい、広告出稿した企業の価値も下がってしまいます。

そこで、企業に対してもっと本質的な支援をするために、メディアの最大の強みである「読者(ユーザー)」を活用できないかと考えたのが、NewsPicks Creationsです。

『NewsPicks』には、ビジネス感度の高い689万人のビジネスパーソン(読者)が集まっています。このユーザーの知性をコミュニティ内で活かし、商品・サービス開発など価値創造をともに行うことができれば、多額の広告費用をかけなくても、世の中に必要とされる商品やサービスを生み出せるのではないかと考えました。こうして、企業とユーザーをつなぐ、新しいチャレンジをスタートさせました。


読者と企業をつなぐことで実現する、フルファネルのサポート

──「新しいチャレンジ」について、具体的に教えてください。

纓田 これまで弊社のメディア『NewsPicks』は、企業の広告部分だけを支援してきました。具体的には、広告枠の提供や記事タイアップなどがそれに該当します。

一方で、弊社には『NewsPicks』において、高い専門性や知識・ノウハウを持ち、建設的なコメントを積極的に発信するユーザー「ピッカー」を抱えており、上手にマッチングすることで新たな価値を創出できると感じていました。

もし弊社が、企業と弊社ユーザーとの共創で新たな価値を創造していくことができれば、メディアがマーケットリサーチから、コンセプトメイク、サービス開発・商品製造、テストマーケティング、PR活動・広報・宣伝まですべてのトータルコミュニケーションを提供することが可能となります。

NewsPicks Creationsが提供している、共創コミュニティを通じた価値創造と世論形成までのトータル支援

これは『NewsPicks』だけでなく、優良な読者を抱える、すべてのメディアに応用できる発想ではないでしょうか。

特に、老舗と呼ばれるような大企業の中には、顧客が高齢化し、購買活動を支える中心世代となっているミレニアルやジェネレーションZと呼ばれる世代層へのアプローチに悩んでおられる企業も数多くあります。

そういった企業に対しては、メディア視点で、フルファネルのサポートを行うことで、既成概念にとらわれない新しい価値創造のお手伝いができるのではないかと考えています。

共創コミュニティ活用事例〜洋服の青山〜

──実際の共創コミュニティの事例について、具体的に教えてください。

纓田 最初に立ち上げたのは、2020年7月に青山商事さんと組成した共創コミュニティ「シン・シゴト服ラボ」です。

「洋服の青山」運営企業として知られる青山商事は、創業58周年の老舗大手企業です。市場調査での知名度は90%を超えるにも関わらず、ビジネスウエアの購入時に想起率が低く、ビジネス時の服装のカジュアル化も相まって売上が右肩下がりになっているという課題がありました。

そこで、NewsPicksのピッカーの方々に「ビジネスシーンにおける身の装い方という課題を解決しよう!」と呼びかけたところ、数十名が無償で集結。青山商事の社員のみなさんとともに共創コミュニティを立ち上げました。

このコミュニティでは、働き方が激変する時代の中で「ビジネスウェアとして、誰に、何を提供するべきか」を時代に合わせてビジネスパーソンとともに定義しアップデートし続けることを目指しています。生活者の視点に立った企業活動を通じて、市場理解を深めることを目的とし、共創プロジェクトの中でこれまでになかった新しいビジネス用のジャケットを開発しました。

NewsPicksと青山商事の共創コミュニティ「シン・シゴト服ラボ」で開発した「WAGAMAMA JACKET」

──企業と読者をつなぎ、最初にしたことは何でしょうか?

纓田 コミュニティのミッション策定です。青山商事との場合では、まずは社会課題を探索するとともに、なぜ青山商事がその課題解決をするのか、独自性を言語化するための議論を繰り返ししていくことからはじめました。その中で「ビジネスウェア3.0を定義する」というコミュニティミッションが生まれ、「シン・シゴト服ラボ」というコミュニティの名前が決まり、そこからプロジェクトの始動、と言う流れで進んでいきました。

ちなみに、コミュニティミッションで言及している「ビジネスウエア1.0」は企業や社会が定めた白シャツ&スーツスタイルのこと。「2.0」は政府の働きかけによるクールビズやウォームビズなどカジュアル化したスタイル。そして「3.0」は、生活者とともに探求する新たなビジネスウェアと定義しました。

コミュニティは「社会課題の解決」という共通軸で組成

──「シン・シゴト服ラボ」のコミュニティメンバーはどうやって選定されたのですか?

纓田 メンバーは、ピッカーの方々と青山商事内の社員約170名で構成されています。基本的に報酬ではなく「社会課題を解決したい」という思いのある方が集まっています。

ここは、コミュニティの立ち上げ時にかなりこだわった部分です。手っ取り早く人を集めるなら、著名なピッカーを立てて「著名人と一緒にビジネススーツをアップデートするコミュニティ」という作り方もできたと思いますし、「ギフト券をあげるので、青山商事の服づくりを手伝ってください」という作り方もできたと思います。

ですが、そのやり方では、共感の輪を拡げるという当初の狙いが困難だと思いました。ですから、「世の中の人々の困りゴトを解決する」という視点でコミュニティメンバーを集めました。

── ビジネスウェアを作る」というゴールは、最初から決まっていたのでしょうか?

纓田 いえ、「ビジネスパーソンの困りゴトを解決する」というテーマで議論をスタートさせました。

ですから当初は、「リモートワーク用の照明を作ったらいいのでは?」などという意見も出ていたのですが、さまざまな議論を重ねる中で、ジャケット開発にたどり着きました。

ジャッケットのデザインにも、コミュニティメンバーの声が多いに反映されています。「リモートワークで電気代が高くなった」「オンライン会議で顔が暗く見える」といった意見を吸い上げ、テレワーカーの"ほしい"が詰まった「WAGAMAMA JACKET」が完成しました。

クラウドファンディングサービス「マクアケ(MAKUAKE)」でのテスト販売も実施。
黒と鮮やかなブルーの2色で展開し、ブルーはあっという間に完売した

ブランドパーパスにも影響を与えた「共創コミュニティ」

──この共創コミュニティの効果や反響を教えてください。

纓田 「WAGAMAMA JACKET」というプロダクトがユーザーに広く評価されたということはもちろんあります。しかし、それ以上に大きかったのは、青山商事が「シン・シゴト服ラボ」の活動を通してこの先も企業としてどうあるべきかを考え、最終的に自社のブランドパーパスに向き合えたことだと思っています。

実際に決算発表会でも、青山商事は「ビジネスのパフォーマンスを上げるパーツを提供する会社になる」というブランドパーパスを宣言され、市場に必要とされる商品•サービスの提供に取り組まれています。

共創コミュニティの活動が、企業のリブランディングに発展した青山商事


メディア横断で共創コミュニティを広げたい

──最後に。共創コミュニティのゴールをどのように考えておられますか?

纓田 いまはまだ、私たちも中に入って、企業の伴走支援をしている状態ですが、最終的には企業が共創コミュニティを自走できる状態を目指しています。

かつて生活者の不安や不満は、「情報がない」ということでしたが、いまは「つながれる機会やきっかけがない」ということに不安や不満を抱く方が増えています。その解決のためには、メディア自体の立ち位置も再定義が必要だと思いますし、メディア発のコミュニティの重要性は今後さらに高まっていくと思っています。

私の目標は、メディアの価値を拡張することです。メディアが企業のよきパートナーになれることを、今後も多くの方に伝えていきたいですね。

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