ここのところ、各方面のニュースで頻出するトレンドワード「NFT」。かつての仮想通貨の流行時と同様、実態がわからないままマーケティング領域でどう活用が可能なのか悩んでいる方もいるかもしれません。
本記事では、NFTの定義や背景について解説し、さらにはどのような観点で将来性が期待されているのか、どんな課題が存在するのかまで紐解いていきます。
NFTとは ── 技術革新を背景としたデジタルデータ
NFT(Non-Fungible Token)とはブロックチェーン技術を用いたデジタルデータの一種で、日本語では非代替性トークンと呼ばれています。非代替性とは、価値が代替できないことを意味していますが、耳なじみのない言葉で混乱する方も多いかもしれません。
説明してもいまひとつ実態が見えないNFTを理解するために、まずはその背景にあるブロックチェーン技術について紹介します。
NFTの背景 ── ブロックチェーン技術の普及
NFTは、ブロックチェーンを利用して発行します。ブロックチェーンとは、取引履歴を暗号技術によって鎖のように繋ぐ技術の総称です。合意された取引記録の集合体を「ブロック」と定義し、そのブロックを連ねることで正確かつ不正のない取引を実現する仕組みです。
ブロックチェーンは、これまであらゆる取引に必要だった中央管理システムに依存することなく、透明性の高い取引を維持することができます。また、たとえ一部のシステムにトラブルが発生しても取引に及ぼす影響が少ないという点において、安定性が高いことも強みの一つです。
ブロックチェーンと仮想通貨の流行
ブロックチェーン技術から誕生し、日本でも一躍注目を浴びたのが仮想通貨です。仮想通貨とは、インターネット上で貨幣と同様の役割を果たす暗号資産の一種で、代替性トークンとも呼ばれます。仮想通貨は円やドルなどに価値を置き換えられるので、代替性があるということになります。仮想通貨とNFTは、代替制の有無で区別される兄弟のような存在というわけです。
仮想通貨を用いる現実的なメリットは、貨幣価値変動が激しい国や地域であればあるほど大きくなり、活用されてきました。また、インターネット上の取引が盛んな一部クラスタの間でも一般化しました。金融関連の中央管理システムが確立された日本ではそれほど普及することはなかったものの、その存在感は少なからず浸透したと言えるでしょう。
インターネット上で安全に取引したいという願いを叶える手段
インターネット上での取引やデジタルコンテンツの価値に対し、懐疑的になる感情は間違ったものではありません。実際、人々の暮らしや取引の利便性はインターネットの浸透によって格段に上がったものの、同時に情報漏えいや詐欺といったリスクも増えました。
一方で、デジタルの課題であるこのようなリスクは、アナログへの信頼性に置き換えられるものではありません。インターネット上の取引は、行動履歴などのデータ分析やセキュリティの仕組みなどの面で改革が進めば、アナログよりはるかに安全です。ブロックチェーンや仮想通貨、NFTといった一連の技術や様式は、このはるかに安全な取引を実現するための装置なのです。
Web3.0の潮流を支えるブロックチェーン技術
ブロックチェーン技術によってもたらされる新たな信頼の形は、中央管理型システムや大手プラットフォームを介さず個々が取引できる土壌を生み出し、ひいてはさまざまなサービスを育みます。こうした時代の潮流は、一部では"Web3.0"と呼ばれていますが、Web3.0を理解するためには、Web1.0と2.0の流れを振り返らなければなりません。
コミュニケーションの手段としてWebが誕生した当初、Webサービスやツールの多くは一方向的なコミュニケーションしかできませんでした。スマートフォンなどのデバイスやSNSサービス、ECサイト等のソリューション群が普及する以前の、限られたインターネットを定義する言葉がWeb1.0です。
そこから不特定多数を対象とする双方向コミュニケーションへと可能性が広がったのが、Web2.0時代です。ブログサービスやSNSプラットフォーマーが乱立し、あらゆるユーザーが情報発信の手段を手に入れました。反面、情報の真偽やセキュリティ面に関わる問題が多発し、人々は安心してコミュニケーションや取引を行えるプラットフォームを求めるようになりました。ここで急成長を遂げたのがGAFA(※)という略称で浸透した4社の大手IT企業です。
GAFAの台頭は人々の生活を向上させましたが、一方で市場の寡占や、ユーザー情報の過度な取得によるプライバシー侵害といった側面が問題視されるようになりました。巨大プラットフォーマーに頼らず信頼性を担保し得るブロックチェーン技術は、こうしたWeb2.0の裏側にある問題を解決し得るものであり、仮想通貨やNFTの浸透は、新たな時代の幕開けのシンボルでもあるわけです。
(※)Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字を取っている。これにMicrosoftのMを加えたGAFAMも同義。
デジタルデータの識別化を実現するNFT
いよいよNFT解説の本題に入ります。
NFTは仮想通貨と同じくブロックチェーン技術に基づくデジタルデータであり、仮想通貨との大きな違いが代替不可能である点ことはすでに説明しました。
仮想通貨がデジタルコンテンツの売買や取引に用いる価値担保の代替物であるのに対し、NFTはあらゆるコンテンツをブロックチェーン上で扱うことで、デジタルデータの識別化を実現する手段です。わかりやすく言えば仮想通貨はデジタル上の貨幣、NFTはオンラインで扱われ得るコンテンツの資産としての価値を担保するものです。NFTによって証明されたデジタルコンテンツは、ブロックチェーン上で扱われるため、複製や偽造が困難という特徴があります。
では、実際NFTはどのように運用し、活用するのでしょうか。ここからは、デジタルコンテンツの側面からNFTの具体的な利用方法についてお伝えします。
NFTコンテンツの取引の始め方
NFTコンテンツの売買は、主にNFTマーケットプレイス上で行われます。現状はOpenseaやSuperRareなどの海外マーケットプレイスに加え、CoincheckNFTを始めとした国内マーケットプレイスも増えており、それぞれ売買したいコンテンツの特徴によって使い分けできます。
自身がNFTコンテンツを売りたい場合は、そのコンテンツをデジタルウォレットに保存後、マーケットプレイスに登録し、所定の項目と取引方法(固定額での販売、オークション販売など)を決定して作品をマーケットプレイスに展示します。逆にそのコンテンツを購入したい場合は、国内取引所に仮想通貨の口座を開設し、任意のコンテンツに対し仮想通貨を支払います。
NFTコンテンツの種類
NFTコンテンツは基本的に唯一無二であり、アーティストが作った一点物の作品と同様の価値をもちます。この唯一性が注目されがちですが、コレクティブと呼ばれる種類のNFTも存在します。
コレクティブとは、複数人が若干異なる作品をそれぞれ買うことができるタイプのコンテンツで、保有者のみ参加可能なコミュニティとコレクション性を有することが条件とされるNFTの一種です。例えば、色違いのアート作品をもつ10名のコレクターがおり、その10名だけが参加できるクローズドイベントへの参加券が付与される、といった使い方ができます。コレクティブは複数コンテンツが対象となるものの、複製できないことに変わりはありません。
NFTを利用したビジネス事例
次に、NFTを利用した実際のビジネスや取引について事例を紹介します。すでにNFTコンテンツへの注目は各方面で話題になっており、高額売買の事例は世界各国で注目の的です。
デジタルアート作品の市場活発化
デジタルアート作品はNFTと相性が良く、NFTマーケットプレイスの主要コンテンツとして扱われています。オンラインオークションで約75億円という高額で落札されたBeeple氏のデジタルアート作品は、延べ13年半かけて制作してきた約5000点の作品をコラージュしたものです。この作品の落札者であるMetakovan氏は世界最大のNFTファンド「Metapurse」の創設者で、「長きにわたる作品の集大成がもつ時間の価値は代替不可能」と作品を評しました。デジタルハックが前提となる現代デジタルアートの価値については、今後も議論が活発になることでしょう。
高額売買される唯一無二のゲームアイテム
オンラインゲーム「CryptoKitties」は、ブロックチェーン上で構築された猫の育成ゲームです。ランダム生成される猫が唯一無二であるため、ユーザー間で人気度の高いデザインの猫の価値が高騰し、高額売買が相次いだことが話題になりました。この手法はあらゆるゲームで展開可能でしょう。今後NFTを付与された唯一のゲームアイテムは、ゲームコンテンツにおけるマネタイズ手段のスタンダードとされてきたガチャシステムに替わるものとなるかもしれません。
高まるバーチャルアパレルブランドへの期待
NFTはバーチャルアパレルブランドという新たな市場の興隆にも関わっています。メタバースやオープンワールドのゲームでアバターが着用するスキンの販売は、大手アパレルブランドの相次ぐ参入が話題になっています。
RTFKT (アーティファクト)は、バーチャルスニーカー販売に特化した先進的ブランドです。NFTによって希少性が担保されたスニーカーは人気を博し、あるスニーカーは販売開始から7分で600足、3億超の売上を叩き出しました。また、RTFKT が2021年末にナイキから買収されたことも話題になりました。NFTは、世界で一人の自分を投射するアバターへの投資を促す効果もあるということです。
Openseaに展開されたRTFKTのバーチャルスニーカー販売画面
NFTをとりまく課題
市場を拡大し、あらゆる業界で注目されるNFT。しかし、実際に国内企業が参入するうえでは、まだ無視できない課題も残されています。その中で大きなものを取り上げてみましょう。
まず、現行の法律ではNFTや仮想通貨といったデジタルデータは「無体物」に分類され、所有権を主張できる対象ではない、という問題があります。
法律用語の区分で「物」は空間の一部を占める有体物と、電気や熱などの無体物に分けられます。所有権はこのうち有体物について主張できる、とされています。無体物も特許権や著作権といった権利を主張し、法に基づいて扱うことができますが、現状NFTはそのいずれにも該当しません。一方で、NFTの帰属性がNFTによって特定されているデータを所有する本人にあることは間違いないため、NFTでも所有権に準じた主張ができる、ということになります。
少し説明が長くなりましたが、要するにNFTは現行のあらゆる権利を主張できる対象ではない、ということです。もしNFTに関わる何らかのトラブルが発生した場合、そのトラブルこそがNFTをはじめとしたデジタルデータや暗号資産についての制度を決める礎になるでしょう。NFTが「○○権によって保護される」と言いきれない状態のものであることを前提に、企業はリスク要因を洗い出さねばなりません。
次に、電力消費量も問題のひとつです。昨今サステナビリティへの注目が集まるなか、ブロックチェーン技術に対して大量のコンピュータを稼働させねばならないことはしばしば問題視されています。今後NFTコンテンツの取引が増えれば増えるほど、環境問題の悪化につながるのであれば、その打開策が必要です。
そして何より、NFTという概念の合理性に人々の価値観が追いつくかどうかが最大の課題です。たしかにNFTがあればデジタルコンテンツの唯一無二性は証明でき、価値があると理論上は言えます。一方で、その価値を人々が実感できるかどうかは別問題です。NFTが一部のアーリーアダプターに一時的なムーブメントとして消費されて終わるのか、それとも多くの人がデジタルコンテンツを売買する新たな市場の柱となるのかは、こうした人間の根源的な価値基準をアップデートできるかどうかにかかっています。
NFTはデジタルコンテンツ市場を次世代に導く光となるか
NFTは新たな経済圏をもたらす可能性を十分に秘めています。また現在のトレンドであるメタバースとの関連性も強く、今後も高い期待が持てる存在です。一方で、それを一般化するためには制度や人々の意識改革といった課題も残されており、現状でWeb3.0を体感するには程遠いかもしれません。
まずはNFTコンテンツの取引を実践し、NFTを体験として理解することから始めてみてはいかがでしょうか。各業界の事例や動向を確認しつつ自分でも体験してみることで、初めてWeb3.0時代におけるNFTの意義や最適なマーケティングが見い出せそうに感じられます。
筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)
広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。