2022.02.16

IP(知的財産)とは? ビジネスに有効活用するには? IPの種類と内容、使い方などを基本から解説します!

IP(知的財産)は、財産的価値のある「情報」という意味。現代社会では、産業構造がモノ作りから情報サービスや情報管理へと大きくシフトしています。GAFAの隆盛やAI技術の発達など、情報をめぐる環境が日々変化している中、ビジネスにおけるIPの重要性も増しています。この記事ではIPとは何か、そしてそれを活用することのメリットや注意点など、IPを理解してビジネス戦略に活かすための基本的な知識を説明します

まずは知的財産と知的財産権の種類を知る

IP(Intellectual Property)とは

IPはIntellectual Property(インテレクチュアル プロパティ)の頭文字からとった略称で、日本語では「知的財産」と訳されることが多い概念です。

知的財産は、人間の知的な活動によって創造された財産的価値のある情報を指しており、知的財産に関する権利の総称を「知的財産権」といいます。「知的財産権」は「知的所有権」と言い換えられたり、モノを有体物と呼ぶのに対し情報は無体物と呼ぶことから、「無体財産権」という言葉が使われたりすることもあります。

IPは、身の回りにあふれています。たとえば映画や音楽、マンガやアニメのキャラクター、ロゴマークやアイデアなどがIPにあたります。これらは「情報」であるため消費されてなくなることがなく、複製や模倣が容易です。新しく創造されたIPが、市場に出たとたん無断、無償でコピーされることが許されてしまえば、時間やお金を投資して先に作ったメリットがなくなり、ひいては新たに価値ある情報を生み出そうというインセンティブもなくなってしまいます。したがって、知的な活動によって創造された価値ある情報は保護されることが必要です。

知的財産権は、IPの権利者を保護し経済的な利益を守る権利であり、別の角度から見ると、IPの譲渡や許諾(ライセンス)によって、知的財産権を持たない人たちにもIPを利用する機会を与えることができる権利ともいえます。

知的財産基本法では、知的財産権を「特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利」としています。
それでは、これらの権利についてひとつずつ簡潔に説明します。

著作権

著作権は、文芸、学術、美術、音楽などの著作物を保護する権利です。

著作権は、知的財産基本法で列挙された他の5つの権利と大きく異なる点があります。それは、創作したその瞬間から権利が生まれ、国に登録しなくても著作者に権利が発生するという点です。また、著作権は、誰かが先に創作したものと後から別の人が独自に創作したもの、両方の権利が保護されるため、多様な個性がそのまま認められる権利ともいえるでしょう。ちなみに、英語では著作権のことをcopyrightといい、皆さんがよく見かける『©』はcopyrightの頭文字を取ったものです。

著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年です。

特許権

特許権は、新しい「発明」を保護する権利です。

特許法では、「発明」を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」としています。世の中にたくさんある各種制度やゲームのルールなどの人為的な取り決め、記憶術や暗記術などの精神的な活動に基づく創作は、自然法則の利用にあたりません。また、万有引力の法則やピタゴラスの定理なども発見された自然法則そのものであり、それ自体は発明にはなりません。単に自然の中にあるものでなく、これまでにはなかったもの(新規性)、かつ、これまでの技術では簡単には思いつけないようなもの(進歩性)を創造したかどうかが判断基準になるからです。

さらに発明と認められる創作には、当該技術を繰り返しても同一結果が得られること(反復可能性)が必要です。秘伝と呼ばれるような、個人的な能力に起因し、客観的に第三者に伝えることができないものは該当しません。

保護期間は、出願された日から20年です(医薬品、農薬など一部発明についてはさらに5年延長可能)

実用新案権

実用新案権は、物品の形状などに関する「考案」を保護する権利です。

「自然法則を利用した技術的思想の創作であって、物品の形状、構造又は組合せに係るもの」を保護の対象として定めています。実用新案権でも特許権と同じく新規性と進歩性が必要となりますが、特許権が既存の技術からの大きな進歩が重視されるのに対し、実用新案権はその進歩性のハードルが低いという特徴があります。

保護期間は出願された日から10年です。

意匠権

意匠とは平たく言えばデザインを指しますが、意匠法で保護される意匠は「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合、建築物の形状等又は画像であって視覚を通じて美感を起こさせるもの」となっています。特許権、実用新案権が「自然法則を利用した技術的思想の創作」を保護するのに対し、意匠権は美感の面から創作を保護するものとなっています。

保護期間は意匠登録出願日から最長で25年です。

商標権

商品やサービスに付ける名称・シンボルマークといった営業標識(商標)を保護する権利です。商標権法では、商標を「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」としています。

意匠権が商品や製品のデザインを保護しているのに対し、商標権が保護しているのは自社商品(サービス)と他社のそれを区別するためのマークです。マークは継続して使用されることで消費者に認知され、他社商品(サービス)との差別化の役割を担うようになります。このことから、商標権はマークそのものというよりは、営業上の信用を保護しているともいえるでしょう。

保護期間は登録された日から10年ですが、何度でも更新が可能です。他の知的財産権とは異なり、半永久的な権利となっています。

著作権が「文化」に関する権利で権利発生に何らの手続きも不要である一方、特許権、実用新案権、意匠権、商標権は「産業」に関する権利で産業財産権とも呼ばれ、登録によって権利が発生する登録主義を採用しています。産業財産権は新しい技術やデザイン、マークなどに独占権を与えるもので、他人が無断で使うことはできません。

その他の知的財産権

そのほか知的財産権と呼ばれるものには、他にも半導体集積回路の回路配置の利用を保護する「回路配置利用権」(保護期間は登録から10年)、植物の新品種を保護する「育成者権」(保護期間は登録から25年)なども含まれます。また営業秘密(顧客情報やノウハウ)の侵害や周知なマークの不正使用を規制する「不正競争防止法」といった法律もあります。

IPの概念が形成された歴史的経緯

ここまで、おもな知的財産権を説明してきましたが、発明や著作物などのIPを保護する制度はいつから始まったのでしょうか。まずは特許権の歴史から見てみましょう。

特許権制度の歴史

特許権の歴史は大変古く、古代ギリシャでは新たな料理を創作した料理人に製造の独占権が与えられていたようです。中世ヨーロッパでは発明家に資金援助をしたり、特権を付与したりすることがすでに行われていました。

制度として初めて作られたのは、1474年です。ヴェネツィア共和国で「発明条例」が発布され、期間制限付きで独占権を与えるという、ほぼ今の制度に近いものが誕生しています。当時の主要な産業であったガラス工芸品の技術を保護するためのもので、経済発展に貢献したと言われています。
その後、1624年、イギリスで「専売条例」が成立し、発明者に独占権を与える原則が生まれました。これが現在のイギリスの特許法の基となり、その後各国へ広がることになります。

いっぽう日本では、鎖国をしていた江戸時代は「新規御法度」によって技術の進歩自体が否定されていました。明治になり福沢諭吉によって西洋の特許の考え方が広まり、1885年に「専売特許条例」が施行されたのが我が国最初の特許制度となりました。「専売特許条例」はその後1899年に廃止され、代わって「特許法」が制定されました。さらに様々な改正を経て、1959年に現行「特許法」が制定されました。

1980年代以降は、アメリカが推進したプロパテント(特許重視)政策が世界へと広がっていきました。2002年、日本は知的財産立国を宣言し、世界特許への取り組みや大学等における知的財産創造の強化、模倣品・海賊品等の対策の強化などを盛り込んだ「知的財産戦略大網」を発表しました。以降、さまざまな政策を推し進めています。

著作権制度の歴史

次に、著作権の歴史を見ていきましょう。

著作権という概念が生まれたのは、15世紀に発明された活版印刷技術が広まった頃です。大量の印刷が可能になったのと同時に、無断に複製された書物が出回るようになり、書物の価値や書物の制作者を保護する制度が必要になりました。

最初に著作権が明文化されたのは、1710年にイギリスで制定された著作権法です。アン女王法と呼ばれ、最大で28年間著作権を独占できる権利を創作者に与えました。

日本では、1869年に施行された「出版条例」が著作権保護の始まりです。文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約加盟にあわせて1889年に旧著作権法が制定され、その後改正を経て、1970年に現行の著作権法が制定されています。

その後も、国際条約の改正や、海賊版のダウンロードに関する規制、インターネットの普及に応じて多くの改正が行われています。たとえば、著作権の保護期間は、2018年改正により旧来の著作者の死後50年から70年に延長されています。

電子マンガにおける著作権の保護

ここで、現在インターネット上の海賊版が大きな問題となっている電子マンガに目を向けてみます。電子マンガのIPは、ご紹介してきた中の著作権にあたりますが、その保護について解説します。

電子マンガ海賊版対策のための著作権法改正

時代に合わせて改正を繰り返している著作権法ですが、2021年には電子マンガの海賊版対策のための改正が施行されています。以前の著作権法では、違法ダウンロード規制の対象となるのは音楽や映像のみでしたが、上記改正によりすべての著作物まで広がり、電子マンガも対象になりました。これによって、違法にアップロードされたものと知りながら侵害コンテンツをダウンロードすると罪に問われることになりました(一部例外あり)。

ABJマークの導入

正規の電子書店・電子書籍配信サービスの目印として策定されたのが、ABJマークです。ABJはAuthorized Books of Japanの頭文字をとったもので、「公認された日本の本」という意味です。つまりABJマークは、著作権者からコンテンツ使用の許諾を正式に得ているサービスであることを示すものです。このマークが付いた正規版が読まれることによってクリエイターに対価が支払われ、新たなおもしろい作品が生まれることにつながります。電子マンガを読むときは、ABJマークを目印に利用することが大切です。

「講談社コミックプラス」のABJマーク表示

IP活用のメリット

C-stationではマンガを中心に、講談社のIPのビジネス活用について、さまざまな情報を提供しています。このように、自社の保有するIPを第三者に許諾等して使用料を得るビジネスモデルをIPビジネスといい、IPの権利者をライセンサー、IP使用権を付与されたメーカーや小売業者をライセンシーといいます。IPを活用することで、権利者と使用者それぞれにどのようなメリットがあるのか、あらためて考えてみましょう。

ライセンサー(知的財産の権利者)のメリット

まず、知的財産権によって第三者からの権利の侵害を防ぐことができます。侵害された場合、損害賠償請求や差止請求をすることが可能です。

また知的財産権の登録は技術力やデザイン、アイデアを社会的にアピールすることにもつながり、独占権によってその分野での他社の参入を阻止できるため、市場シェアを向上させることができます。

自社の事業を成長させるだけでなく、他社にライセンスを与えることで、新たな市場の開拓や新しいカテゴリーへの参入、認知度の向上などができ、対価によって収益を広げることも可能です。知的財産権を他社に売却して、利益を獲得することもできます。

ライセンシー(メーカーや小売業者など)のメリット

ライセンサーとライセンス契約を結び対価を支払うことによって、キャラクター、ブランド、特許などに代表されるIPを商品やサービスに使用することができます。

すでに認知度の高い人気キャラクターやブランドの使用は、商品やサービス、企業の認知度を高めてくれます。使用キャラクターやブランドのファンを取り込むことによる利益増も見込めます。また競合他社との差別化もでき、独自性の高い製品やサービスであると印象づけることも可能です。

人気キャラクターとのコラボによって、それまで一般消費者にあまりなじみのなかった自社の商品やサービスに、共感や親しみを付与するメリットもあるでしょう。特許権の許諾を受ける場合には相応の対価が必要となることが通例ですが、自社リスクで技術を開発せずとも安全に技術を利用できる、というメリットがあります。

IPのビジネスへの適用事例

それでは、ここからIPを活用したビジネス事例をご紹介します。C-stationでは、これまでもプロモーション例として多くのIP活用事例をご紹介してきましたが、ここではIPからの視点で実際にあったビジネスを見てみましょう。

講談社の人気マンガをアラビア語で出版

講談社が海外企業とコンテンツライセンス契約した事例です。

2021年、講談社はサウジアラビアの企業であるサウジ・リサーチ&メディアグループ(SRMG)と、コミック誌「マンガ・アラビア」におけるライセンス契約を結びました。講談社にとってアラビア語圏での出版・配信は初めての取り組みになります。

SRMGは小学館、集英社、KADOKAWAともパートナーシップを結んでおり、日本のマンガが公式な流通ルートでアラブ地域のマンガファンに届くことになりました。今後マンガを通して、両国の文化交流が盛んになることが期待されます。

>参考記事

パートナー企業とともにSDGsの達成を目指す「もったいないばあさんプロジェクト」

絵本『もったいないばあさん』(真珠まりこ・著/講談社)と環境省の共同事業でスタートしたのが「もったいないばあさんプロジェクト」です。

国際的なNPOの協賛を受け、『もったいないばあさん』シリーズ4作品をアニメ化し、6か国語(日本語、英語、フランス語、スペイン語、中国語、ヒンディー語)の吹き替え版を制作しました。さらにゴミの不法投棄や大気汚染が深刻な問題となっているインドでは、作品の読み聞かせキャラバンによってインドの子どもたちの環境への意識や行動を変えようと試みています。

「もったいないばあさん」というIPを通じてモノを大切にする考え方を伝える本書は、SDGs活動促進に紐付けしやすいことでも注目され、ANAホールディングス株式会社や株式会社セブン-イレブン・ジャパン、TOTO株式会社など7社のパートナー企業とともにPR展開されています。

インドでの「もったいないばあさん」読み聞かせキャラバン

>参考記事

IP活用の注意点

最後に、IPを活用する際に気をつけるべき点について、整理します。

法律的観点で気をつけるべきこと

まず、IPを利用できる範囲や条件などを事前にきちんと確認しておくことが重要です。

対価を支払わず無断で他者のIPを使用してしまうと違法となるケースが大半ですが、契約書で合意した範囲や条件が守られない場合も、契約違反として問題になります。パートナーシップを継続していくためにも、ライセンサー・ライセンシーともに、独占か非独占か、期間や地域、使用範囲は、といった個別具体的な条件をしっかり確認してから利用を進めることが大切です。

契約の際に内容が目的達成のために十分なのか、ライセンス料は適正かなどの視点から充分に検討しておけば、このような問題はほとんど発生しないでしょう。

なお、著作物によっては著作者と著作権者が分かれている場合もあります。その場合、ライセンス契約は著作権者と結ぶことになりますが、著作者が別途有する著作者人格権にも配慮する必要があります。

一般的な観点で気をつけるべきこと

キャラクターを起用した商品やサービスは、キャラクターへの愛着からファンになってくれる可能性が高く、実在する芸能人を起用した企画と比較して、炎上やスキャンダルなどのリスクが少ないというメリットがあります。しかし、流行が一過性である場合などもありますので、臨機応変に対応していくことが必要です。

またキャラクターによる展開がうまく行けばイメージアップや利益につながりますが、ファンが期待するキャラクターのイメージからかけ離れた起用法や商品化をしてしまうと、ライセンサー・ライセンシーともに、イメージダウンにつながってしまうこともあり得ます。

IPは上手に活用すれば事業戦略の心強い味方になります。しかし、よく分からないまま利用を進めてしまうと、気が付かないうちに本来保護されるべき権利を侵害したり、思ったような成果が得られなかったりする恐れもあります。契約も使い方も、きちんと検討したうえで進めましょう。

ここまで、IPの基本知識と活用することのメリット、事例などを紹介してきました。SNSや動画配信サービスなど、さまざまな媒体でコンテンツが配信されるようになったいま、IPビジネスへのニーズはさらに拡大していくことが予想されます。正しく活用してビジネスに役立てましょう。

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