2022.02.09

プログラマティック広告における透明性の確保:責任はどこにあるのか?──「Advertising Week Asia 2021 LEADERSHIP FORUM」セッションレポート②

業界を超えたオープンイノベーションの場「Advertising Week Asia 2021 LEADERSHIP FORUM」から注目セッションをレポート。広告枠を自動売買する「プログラマティック広告」ではいま、"透明性"が重要なキーワードになっています。その背景には、どのような課題が存在しているのでしょうか。
株式会社NTTドコモ マーケティングメディア部 広告ビジネス担当部長・新谷哲也さんと、講談社 デジタルマーケティンググループ責任者・松村吏司が語り合ったセッションのレポートをお届けします。

透明性がますます重要化している「プログラマティック広告」

Index Exchange Managing Director, Japan 香川 晴代さん(以下、香川) 今日はお2人に、メディアから見たデジタル広告(プログラマティック広告)の「透明性」に焦点を当てて、ディスカッションをしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

昨今、デジタル広告における取引の透明性や安全性、広告品質の重要性がますます高まっています。まずは、その現状について教えてください。

株式会社NTTドコモ マーケティングメディア部 広告ビジネス担当部長・新谷 哲也さん(以下、新谷) 媒体社はまだ、広告主と広告代理店というような大きな枠で捉えている部分がありますので、いかに「メディアに収益獲得の可能性があるか」ということを理解していく必要があると思います。

加えて、アドテクノロジー(広告配信の効率を上げるためのシステム)は便利ですが、適切な価値、適切なマージンが設定されていないという課題もあると考えています。

講談社 第一事業局 コミュニケーション事業第一部 デジタルマーケティンググループ責任者・松村 吏司(以下、松村) 講談社内でも、各ウェブメディアの広告枠がどのように販売され、どういった仕組みでマージンが発生しているのかよくわからないまま、単価だけで、運用型広告の成否を判断している部分がありました。

しかしデジタル広告の「透明性」には、"品質(広告枠があるメディアそのものの価値)"も含まれていると考えています。ですから、メディアのブランド力を維持しながら、広告主が出稿したくなるような広告枠としての価値を生み出すコンテンツを読者に提供していくことも、同時に大切であると思っています。

重視される、デジタル広告の「品質」

新谷 加えて、表示される広告の「品質」も、大きな問題ですよね。

現在、非常に多くの事業者さんが、プログラマティック広告やアドネットワーク(複数の広告媒体にまとめて広告配信する仕組み)を利用しています。結果、審査の手が回らず、適切ではない広告クリエイティブや、本当は禁止している業種の広告が、メディアの広告枠に表示されてしまう、ということが起こっています。その改善のために、現在、審査ツールの導入に向けて検討を進めているところです。

品質が悪い広告は、媒体社がCPM(インプレッション単価)の低い広告在庫(広告枠)供給を行ったときに流れてくる傾向にあります。

一方で、高いCPMを生み出す広告は、媒体社から見ても品質が担保されている広告が多い傾向にあります。つまり、取引の質を高めることが、品質の悪い広告の出現比率を下げることにもつながるわけです。

松村 (広告枠の在庫はPVに比例するため)雑誌メディアでは「PV」が重要な指標になっていて、どれだけ多くのPVを稼げるかという"質より量"を重視する時代が何年も続いています。その結果、PVの集め方が雑になっているメディアも生まれているなという印象を抱いています。

「量(PV)の向上=売上の向上」という仕組みによって、多種多様なウェブメディアが参入したことで、全体としての広告在庫が増加したため、広告の単価は下がっている、という現象が起きているのは、非常によくない状況だと感じています。

つまりメディアとして価値があるならば、広告単価を上げても「出稿したい」という広告主は必ずいるはずです。結果的に、低単価の品質が悪い広告は減り、売上も維持できると考えています。

そこで、広告単価を上げて広告在庫を買っていただく仕組みとして構築したのが講談社の広告プラットフォーム「OTAKAD(オタカド)」です。読者がどういう興味関心をもっているかを独自のテクノロジーで開発し、自社の広告在庫を100%自社で売ることを目指しています。

デジタル広告には"ウェット"と"ドライ"の両輪が必要

香川 当社Index Exchangeは、講談社さんのように、広告主と読者のために、安全な環境を作っているメディアと、デマンド(広告枠に出稿したいという需要)をつなぐ役割をしています。私たちのようなアドテクノロジー事業者や仲介テクノロジーを、お2人はどのように見ておられますか?

新谷 講談社さんの独自の広告プラットフォームOTAKADのような、ユーザーの趣味志向で独自在庫を生み出す、新しい企画やアイデアというのは、人が介在する"ウェット"な領域です。一方で、テクノロジーは機械的で"ドライ"。しかしデジタル広告においては、どちらも重要だと感じています。

松村 最近は"ドライ"な部分(テクノロジー)の差がほとんどなくなってきているので、"ウェット"な部分がより重視されるというのは、新谷さんのおっしゃる通りだと思います。

新谷 マージン(広告配信の手数料)の開示も重要ですよね。媒体社から見ると、テクノロジーの質は低いのに、マージンが高い会社は、広告単価も下がって見えるわけですし、自然と淘汰されてしまうのではないでしょうか。

逆に、自社のテクノロジーによってマージンを抑えている事業者は、高い技術力によって、顧客満足度と売上の両方を生み出しているわけですから、媒体社からすれば、よいアドテクノロジーの事業者さんと言えると思います。

香川 私たちはSSP(デジタル広告における媒体の収益最大化を目的としたツール)の料金を開示しているのですが、開示が一般化されている欧米に比べてアジアはまだこれからなのかなという印象があります。

当社では、必要であれば(広告枠を購入するための)広告オークションのすべてのデータを、媒体社や代理店、広告主に開示しています。今後、データ開示が業界内で浸透していくことが、「透明性の強化」につながると考えています。



松村 最近では、広告出稿の費用対効果を高めるために、広告主のためのプラットフォーム「DSP」を使うことも増えていて、どのメディアに出すとどれくらいの広告単価なのか、メディアごとのCPMなどを広告主自らが見ているケースもあります。

広告主だけではなく、媒体社も「自社メディアの広告価値」をしっかりと見定め、品質の高い広告やクリエイティブを出せる環境を整えることで、デジタル広告の健全化と、品質・透明性の改善が進むのではないかと思います。

Cookie規制によって、デジタル広告は新しいステージへ

香川 サードパーティーCookieが規制される「Cookieレス」時代に突入すると、メディアが持っているユーザーとの接点の価値が、さらに増していくと思います。その点はいかがお感じですか?

新谷 いまは動画メディアが伸びている一方で、ユーザーの行動分析などはテキスト(記事の閲覧履歴など)を中心に行われています。

今後、テキストメディアの消費のされ方がどう変わっていくか。そして読者の方々とのエンゲージメントをいかに高めていけるか。それを考えることが、結果的にCookieレス時代への対応につながっていくように感じています。

松村 以前、パリに行ったときに、ある媒体社が「自社だけではCookieレス時代への対応が難しいので、パートナー企業とアライアンスを組んでパッケージで売っていく」という話を聞き、衝撃を受けました。自社だけで無理に対応を完結させるのではなく、もっと広い視野を持ち、広告主やパートナー企業とともに、新しいフォーマットやパッケージを創造していくという選択肢もあるように思います。

香川 Cookie規制によって、デジタル広告は新しいステージに移ります。そのなかで当社のようなアドテクノロジー事業者は、業界、そしてシステムを横断しての知識や理解レベルを向上していくことで、デジタル広告の健全化と透明化に、貢献していけたらと思っています。本日はありがとうございました。


開催日時:2021年12月7日(火)15:00〜
Channel:Online Stage
テーマ:プログラマティック広告における透明性の確保:責任はどこにあるのか?
登壇者:
・株式会社 NTT ドコモ マーケティングメディア部 広告ビジネス担当部長 新谷 哲也
・講談社 第一事業局、コミュニケーション事業第一部 デジタルマーケティンググループ責任者 松村 吏司
・モデレーター:Index Exchange Managing Director, Japan 香川 晴代

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