2022.02.04

日本の「ほんもの」「心地よさ」を世界が必要とする時代──JAXURYが目指すこと|講談社メディアカンファレンス 2021 学びコンテンツレポート②

Authentic Luxury(=本物のラグジュアリー、心地よさ)に「日本発」であることを加えた、ニューノーマル時代の新しい価値観「JAXURY(ジャクシュアリー)」。媒体の枠を超えた特集の展開、アワードの実施など、着実に広がりを見せているJAXURYとは何か、どのような未来を見据えているのか。JAXURY委員会の代表を務める、前野隆司 慶應義塾大学大学院教授と、講談社 第二事業戦略部の吉岡 久美子が語り合いました。

佐藤 栄(以下、佐藤) このプログラムでは、講談社の女性向けワンテーママガジン『FRaU』と、一般社団法人JAXURY委員会が協力して日本のほんものを世界に発信していくプロジェクトである「JAXURY」を取り上げます。まずは本日のスピーカーをご紹介します。

前野隆司(以下、前野) 慶應義塾大学で、幸せの研究、JAXURYの研究、より良い世界をつくっていくための研究をしている前野です。

吉岡 久美子(以下、吉岡) さまざまな媒体の編集企画をしている講談社 第二事業局 第二事業戦略部の吉岡です。今回のテーマであるJAXURYは、『FRaU』という女性誌、また日本経済新聞との協業媒体である『Ai』を通して、「深める、広める」ことを始めています。今後も媒体の枠を超えて、さまざまな場所でJAXURYを発信していきたいと思っています。

"ダサくない"の研究から始まった「JAXURY」

佐藤 前野先生が代表理事を務められているJAXURY委員会は、弊社のメディアアワードも受賞されました。JAXURY委員会は、日本発のラグジュアリーを世界に向けて発信するプロジェクトです。まずは、その成り立ちからお聞きしたいと思います。

弊社の吉岡と前野先生との出会いは、委員会の理事であり、赤坂で70年以上の歴史を持つ老舗テイラーの3代目社長、日本発のオーセンティックラグジュアリーブランド「AUXCA.TRUNK(オーカ トランク)」を立ち上げた、隅谷彰宏さんを通じての出会いだったと聞いています。

吉岡 そうです。たまたま3年前にAUXCA.TRUNKの商品と出会ったのですが、着てみたらすごく心地いいですし、リラックスできるのに背筋が伸びる。その魅力に惹かれて訪ねてみたら、そこの社長が隅谷さんだったんです。

佐藤 前野先生と隅谷さんの出会いは?

前野 入学してきた修士課程の学生として、最初は「ダサくない」の研究をしたいということだったんですね。自分はダサくない洋服を作りたいので、どのように研究すればいいか、ということだったんです。それが最初の出会いで、そこから、ほんものの研究、ラグジュアリーの研究に移っていったということなんです。

吉岡 大学院に入って「Japan's Authentic Luxury」というものの研究を始めたうえに、それを体現するブランドまで作ったと聞いて、びっくりました。

研究を始めたきっかけは、老舗テイラーの3代目として、日々忙しく過ごすなかで、自分を見失いそうになり、「これが自分の生き方なのか? もっと、"ほんもの"の生き方がしたい」と感じたからだそうです。

前野 隅谷さんは当初、「ダサくない」の研究をしていました。そのなかで、洋服づくりは、農家さんから綿花を安く買い叩いたり、縫製する人の賃金を安く抑えたりすることがある。それはおかしい(ダサい)じゃないかと感じるようになりました。

結果、本物の高級な綿花をつくってもらい、それをしっかり縫製してもらうことで、"いいもの"をつくることが大事という発想が生まれた。つまり、最初はカッコよさを追求していた人間が、"ほんものの男"に変わっていったんです。

吉岡 すごいですよね、JAXURYって。つくるものから、つくる人までを変えてしまう。そして、その商品に感動した私のような人間まで変えてしまう。その連鎖が生み出すのは、「幸せな気持ちの波及」と言えると思います。

「幸福の4つの因子」と「JAXURY」

佐藤 だからJAXURYは、幸福学とも関係してくるわけですね。

前野 はい。幸せを分解すると、4つの因子が大事になるのがわかります。

1つ目は「やってみよう因子」。やりがいをもって夢や希望に燃えて、がんばる因子です。つまり、何かにがんばれる人は幸福だということです。「ダサくない」の研究から「ほんもの」の研究に移っていった隅谷さんは、この因子が強い人です。

2つ目に挙げられるのが「ありがとう因子」。これも隅谷さんを見ればわかります。最初は自分たちの店をカッコよくしたかっただけだったのに、いつしか視界が広がり、綿花農家や縫製する人などへの「感謝」の気持ちが芽生えたことに関係しています。

3つ目は「なんとかなる因子」。これは挑戦することです。隅谷さんもチャレンジしたことで、ものすごく注目されるようになりました。

4つ目が「ありのまま因子」です。"ありのまま"のことを、英語でAuthentic(オーセンティック)と言います。彼はそれに気づいて、そこに使命を感じました。女の子にモテたいと考えていた男が、「日本の良さを世界に発信するのが自分の使命だ」と言い出した。その姿に、人は"幸せになると、いい人になる"、そして"夢が大きくなる"のだと感じました。


JAXURYが重視する「10の視点」

佐藤 JAXURYには主に「10の視点」がありますよね。詳しく教えてください。

吉岡 「10の視点」に挙げられる要素は他にはないものです。1.クラフトマンシップ、2.感性、3.信頼は、ベーシックな要素ですが、8.神話・歴史や9.幸運・僥倖、10.利他といった要素は、普通は考慮されない部分です。

その独自性もあってか、本質的な豊かさを提供する商品やサービスに光を当てたアワード「JAXURY AWARD 2021」で大賞を受賞したブランドの方が、ミラノサローネ(イタリアのミラノで開催される世界的な見本市)に行ったときには、「こういう視点のアワードを取ったのはすごい」、「世界的に見てもこのアワードの価値は高い」と話題になったと聞いています。

前野 10の視点は、うちのラボの学生たちが「日本でほんものを作るにはどうあるべきか」という観点から導き出したものなのですが、幸せの条件とも似ています。

1.クラフトマンシップは、本当にいいものを作るぞという志ですから「やってみよう因子」とつながりますし、4.本来感、5.唯一無二は「ありのまま因子」に、8.神話、9.幸運・僥倖、10.利他は「ありがとう因子」につながっています。

そして、こうした斬新な視点から世界に問おうという精神は「なんとかなる因子」。ですからJAXURYは、幸せの観点から見ると非常に学術的でありながら、パッション・想いも入った視点を持つと言えます。また、さまざまな会社と連携していける「拡張性」もありますし、個人的にはJAXURYという存在を「大切なものができた」と感じています。

広がっていく「感動」と「コラボレーションの輪」

佐藤 産学連携といいますが、今回は「産」もあり、「学」もあり、さらに「メディア」も入っている。すごく新しい取り組みだと思います。さきほど話に出た「JAXURY AWARD 2021」では、さまざまな出会いが生まれていて、実際にビジネスになっていると聞いています。

吉岡 そうです。具体的な社名は言えませんが、誰もが知る世界的なブランドが、本アワードでとあるブランドを知り、「ぜひコラボレーションしたい」という申し出があったそうです。

本アワードで前野先生がおっしゃられた「幸せは、染(う)つる」という言葉を、受賞された皆さんも揃って口にされていました。普段なら交流のない業種の受賞者同士が話していくなかで、「いままで思ってもなかったような取り組みができるんじゃないか」とその場で盛り上がり、具体的に進んでいるコラボレーションも生まれています。

アワードを開催する前は、誰も想像していなかったことが、少しずつ起こり始めているのを感じています。

前野 それぞれの分野で本当にいいものを作っている人たちが集まると、化学反応が起きるんです。みんな仲良くもなります。「日本で団結して世界に打って出るんだ」という部分で一致していますから、お互いに共感しやすいんでしょうね。余談ですが、私もJAXURY AWARD 2021で大賞を受賞した「パレスホテル東京」に泊まりにいきました。

吉岡 同じく大賞を受賞したインテリアブランド「Time&Style」の代表も、誰にも言わずパレスホテルに泊まって、すごく感動されたそうです。「手の掛かることしかしていない!」と、とても刺激を受けられたとのことでした。受賞した商品やサービスのすべてをすぐに体験するのは難しくても、ひとつひとつ体験していけば、そうした感動を受けられるはずです。

佐藤 アワードを受賞した商品やサービスは、それぞれ魅力がありますから、交流することでお互いを高め合い、自然といろんなことが生まれていくのでしょうね。

前野 いい循環になっていますよね。大量消費社会では、安くて画一的なものも大事ですが、本当にいいものを作っていれば文化も高められるし、幸福度も高まります。つながり合っていくことは、非常に大事だと思います。

2019年に立ち上がった「JAXURY委員会」の歩み

佐藤 JAXURY委員会は、2019年にプロジェクトとして立ち上がりました。そこから現在までの2年間、どのように展開されてきたのでしょうか?

吉岡 隅谷さんとの出会いを経て、2019年の暮れに『FRaU』のJapan's Authentic Luxury号(JAXURY特集号)を発刊。そのすぐあとに、慶應の三田キャンパスでシンポジウムを開催しました。そこで前野先生と知り合い、登壇していただいた皆さんとも意気投合しました。

シンポジウムのなかで、ユナイテッドアローズの名誉会長である重松理さんが「アワードをやろう!」とご提案くださり、美容ジャーナリストの齋藤薫さんにもご賛同いただきました。その後に『FRaU』で、もっとJAXURYを広め、深めていきたいということで2021年の3月にアワード号を発刊。さらに2021年の11月14日には、『Ai』でも特集を組み、35万部を発行しています。

JAXURY(旧JAX)を特集した『FRaU』2019年12月号



2021年の11月に発刊された、『Ai』のJAXURY特集号

佐藤 『FRaU』にとどまらず、JAXURYというアジェンダのもとで、多メディア展開が始まっているのですね。今後、JAXURYに何が期待できますでしょうか?

前野 ものすごく夢が大きくなっていますよね。いま、ラグジュアリーブランドというと、やっぱりフランスとかイタリアとかが強いじゃないですか。でも、日本にも伝統工芸、伝統芸能なども含めて、多くのJAXURY(日本発のラグジュアリー)が存在します。我々が発掘したのは、ほんの一部ですよね。

吉岡 はい。工業の世界でも日本はさまざまなイノベーションを起こしていますから、JAXURYなものが多くあります。

前野 これから5年、10年、どんどん発掘していくと、また新たな連携も生まれてくる。そのなかで、世界に対して「日本発のラグジュアリー」を提示できるのではないかと感じています。

2022年3月には『FRaU』で特集号が発刊


佐藤 今後の予定をお聞かせいただけますか?

吉岡 2022年3月24日に、『FRaU』で2回目となる「JAXURY AWARD」を発表する予定です。選出している私たちも「この感動がずっと続いてほしい、いい循環がさらに進んでいくように」という願いを込めて、鋭意準備を進めています。

佐藤 お2人も理事になられているJAXURY委員会は、講談社の組織ではなく、代表理事は前野さんがお務めになられる、一般社団法人です。

業界の垣根を超えたプロジェクトとして、日本らしいラグジュアリー=JAXURYをテーマに、個人・法人を問わず会員の募集もしていますよね。これを視聴してらっしゃる方で、自社のブランドの課題などをJAXURYの観点から解決してみたい、高めていきたいということがあれば大歓迎だそうです。

JAXURYの活動は始まったばかりですが、今後も続いていくと思います。裾野を広げ続け、いつかぜひ、皆さんともご一緒できる日を心待ちにしております。

・・・・・・・・・・・・・
【講談社メディアカンファレンス 2021:学び動画】
日本の「ほんもの」「心地よさ」を世界が必要とする時代── JAXURYが目指すこと

登壇者:
・前野隆司/慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。慶應塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務
・吉岡 久美子/講談社 第二事業局 第二事業戦略部 担当部長
・佐藤 栄(モデレーター)/講談社 第二事業局 コミュニケーション事業第二部 部長

講談社が提供する各種プロモーションサービスのご利用に関するお問い合わせ・ご相談はこちら