2022.01.21

全広連 秋のシンポジウム in 岡山──「メディア/広告業のDXを考える」トークセッションレポート

2021年11月15日、公益社団法人 全日本広告連盟主催による、メディア・広告業のDXを考えるシンポジウムが開催されました。
第1部では、講談社 長崎亘宏による「講談社メディアビジネスレビュー ―デジタル基点における"雑誌"と"出版社"の再定義とは―」、株式会社博報堂DYメディアパートナーズのデータサイエンティスト・篠田裕之氏による「データにできない想いはあるのか。―データサイエンスを活用したメディアプランニング/コンテンツ開発―」が講演されました。本記事では、講演後に行われたトークセッションの一部をご紹介します。

◆トークセッション参加者
篠田裕之/株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディアビジネス基盤開発局 データテクノロジー&システム開発部 データサイエンティスト

長崎亘宏/講談社 ライツ・メディアビジネス局 局次長 兼 メディア開発部 部長 兼 IT戦略企画室 室次長

モデレーター 中井良博/公益社団法人全日本広告連盟執行理事、公益社団法人東京広告協会常務理事・事務局長

ビジネス改革に必要なこと~トップの決断、転べるリーダー、待てるかどうか~

中井 まず長崎さんにお聞きします。講演では、講談社さんの取り組みについてお話しをいただきました。
講談社全体のビジネス改革(BX:Business Transformation)を「出版の再発明」というキーワードのもと2015年からスタートし、事業の多層化、メディアアライアンスによって改革を推進されました。その背景についてお聞かせください。

事業の多層化、メディアアライアンスによって改革を推進した、講談社の「IP起点によるビジネス拡張イメージ」

長崎 創業100年以上が経ち、収益も含め、さまざまなひずみが見えていた時期に、やはり社長自らが「改革を決断した」ということが大きいですね。

推進するうえでは、スモールチームを率いるリーダーが自ら先に行って転べるような組織を作れるかどうか、失敗の積み上げを許す環境があるかどうかが大事です。3年間は売り上げがスケールできなかったわけで、その間、「待てるかどうか」も大切な要素だと感じています。

講談社の「広告収入の構造変化」。2018年以降、ビジネスが好転した

中井 講演では「脱!旧雑誌広告営業」というキーワードも出ていました。デジタルでやっていけるという手応えがない段階では、反対意見もあったと思います。どのように実現されてきたのでしょうか。

「脱!旧雑誌広告営業」の実現のために、講談社が重視した3項目

長崎 弊社ではデジタル広告に対し、2つの解釈をするチームが並行して走っています。データを使いながらプラットフォームとデジタル広告のマネタイズを考えるチームと、従来の企画を考えながら広告会社と一緒に動くチームです。いまは売り上げが半々ぐらいで、いい刺激を与え合っていて、この体制を作れていることがポイントだと思います。

精神的な話になってしまいますが、10年後の人たちに仕事を与えられるかどうかと考えたとき、私自身は「自分が先に行って転ぼう」と思いました。そのスイッチが入ったときに全部をやり直すべきだと感じました。「脱!旧雑誌広告営業」には、そんな思いが込められています。


ローカルはデジタルと相性がよく、ローカルだからこそ継続できる

中井 次に篠田さんにお聞きします。先ほどの講演では実証例を挙げ、「デジタルはローカルこそ相性がいい」、また「ローカルだからこそ継続的に取り組みができる」ということについて強調されていました。大事なポイントだと思いますので少し補足していただけますか。

ローカル×デジタル3つのPOINT(博報堂DYメディアパートナーズ)


篠田 デジタルやデータには、垣根がありません。たとえばAIカレーを作った高知の事例で活用したレシピサイトは、地域に関係なく誰でも使うことができるため全国の閲覧データがあり、GPS位置情報データも特定地域に限らず全国で取得できるものです。

地方では、東京以上にメディアの存在感が大きい。継続的な仕組みを作る場合、新聞社やテレビ局と組むことで、地元の方々からご協力いただきやすくなり、産学連携をする際の重要な要素になることもあります。

ただこのような取り組みは、短期的にすごく儲かりましたというまでには至っておらず、長崎さんのお話にあった「待てるか」というキーワードはすごく刺さりました。

デジタルを使ってコンテンツを作り、その価値をデータで立証して提案することができれば、より収益性の高い仕組みをメディアのみなさまと作ることも期待できそうです。

読者の価値を可視化できるかが成功のカギ

中井 長崎さんは、コンテンツ型広告の進化というテーマで、広告配信プラットフォーム「OTAKAD」やビジネス情報ポータル『C-station』、また講談社ならではのコンテンツの進化を標榜されています。

一方篠田さんは、データは効果の最大化だけでなく、コンテンツ開発にも活用できるとお話になっていたところが非常に交差していると感じました。今後、コンテンツを作っていくにあたって、データをベースにしてどのようなことができるのでしょうか。

篠田 それに関して僕から長崎さんにお聞きしたいのですが、2015年に改革を始めて収益化するまでの3年間、"待つため"にどのような中間KPIを置いたのでしょうか。またそのタイムスパンは当初から予期していたものなのでしょうか。

長崎 最初は絶対にうまくいきません。大切なのは「待てるかどうか」。このポイントでお伝えしなきゃいけないのは、まずは読者に受け入れられるものを作っているか、良質な読者の獲得がファーストです。

これまで私たちメディアが商売の中心に置いていたのは、このスライドでいうと電波媒体だろうが出版媒体だろうが、圧倒的にスライドの上の赤の部分「自社の価値」だけを信じていたんですね。でも、デジタルマーケティングのビジネスでは、その価値は読者にあります。3年間は読者を見つけてくるので、「とにかく待って欲しい」と繰り返していました。

「ビジネス資産の見分け」。
講談社では大きく、「自社の価値」と「読者コミュニティの価値」に分類した

篠田 いまのお話は、僕が話した3つ目のポイントである、「ローカルこそ継続的な仕組みができる」という点にシンクロします。

ローカルメディアは、コンテンツ制作のみならず、生活者と地元企業あるいは産学連携の架け橋となるオーディエンスリレーションということに価値を見出すことで、継続的な地元での取り組みができるのではと感じています。

まさにそれが長崎さんのスライドの下の青い部分「読者コミュニティの価値」だなと感じ、すごくヒントになりました。

長崎 たとえばビジネスの規模は違うけれど、『ニューヨークタイムズ』はデジタルの成功事例とされています。デジタル版へ軸足を移して、ニューヨークという地域を越えてグローバルで読者を開拓したからです。

デジタルに踏み込んで行くと、エリア(距離)を容易に超えることができます。ファンや読者を圏外から、日本の外から獲得できれば、違う世界が見えてくるんじゃないかと思います。

私自身、10年前はSNSにアンチな部分があったのですが、会社の仕事のデジタル化は個人のデジタル化だと考えを改め、始めてみました。現在Facebookで1800人近くつながっている方がいて、いろいろな関わり方ができています。もちろんリアルも大事なのですが、自分自身のソーシャル化もいまにいつながっているのではとないかと感じています。

クリエイティブとデータサイエンスをどう融合させるか

中井 GAFA(Googl、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon)およびプラットフォームが、「結局はいいとこ取りするんじゃないか」という懸念から、一歩進めないと考える立場についてはどうお考えですか。

篠田 むしろパートナーとしてやっていけばいいんじゃないかと思います。業務の効率化ができることはプラットフォームをうまく活用し、データやAIで効率化する。しかし最後のエッセンシャル(重要)な部分は人手でやることに何か意味があるようにも思います。

効率化を重視するあまり、発信するコンテンツに魅力がなくなると元も子もありません。いかに自分たちのクリエイティビティを拡張するかという視点でプラットフォーム、データ、AI活用を推進し使いこなしてこそ、その先に人がやるべき領域や本当の自社ならではの強みが分かる気がします。そんな風に考えて、AIでカレーを作ったりしています。

長崎 篠田さんが話されたことにすごくヒントがあるなと思いました。AIを使うにしても、単純に広告を当てていくのではなくて、「コンテンツ体験」のためにAIを使うということです。AIが作ったカレーと有名店のレシピはどっちが勝つんだみたいなのって、面白いしわくわくしますよね。

AIやデータを、いかにコンテンツと紐づけるか。もっというと、クリエイティブとデータサイエンスをどう組み合わせるかにヒントがあるような気がします。

中井 クリエイティブとデータサイエンスの出会いの中に、GAFAやプラットフォーマーたちとの協業も含めて、ブレークスルーはあるはずだという考えですね。

長崎 あとはエリア密着ですよね。いかに読者にサービスを提供して直接つながるか、という努力をメディアもやるべきではないかと思います。

篠田 データを活用するときは、「納得感」と「意外性」が大切です。たとえば高知県民のレシピ閲覧データの特徴からカレーを作るという場合、高知で好まれそうな食材といえば「かつお」というのは、たしかに納得感は出ますが、意外性はないですよね。

一方で、あまりに馴染みがない食材を抽出しても、意外性はありますが、納得感がなくデータやデータ分析の信憑性に関わります。レコメンドエンジンなどユーザから見えないロジックで精度が高いアルゴリズムを目指す場合と異なり、コンテンツ製作においては、納得感と意外性の両立がデータを活用するときの要になると思います。

中井 最後に、講談社のシステムやコンテンツ、また博報堂DYメディアパートナーズのデータサイエンスを活用して協業することについて、メッセージをお願いします。

篠田 自社でデータを持っているいないに関わらず、ビジョンさえあれば、弊社と最適なパートナーをお連れして、協業することができます。アイデアから一緒に考えさせていただくこともできますし、もちろんコンテンツを作る先に、ビジネスとして成功させるための販路を見つけることも一緒にやらせていただきます。ぜひ外部のパートナーを活用してほしいです。

長崎 まず、2021年11月18日に、オンラインでビジネスイベント「講談社メディアカンファレンス 2021」が開催され、2022年1月末までアーカイブ配信中です。私たちが発信していることがご覧いただけるので、ぜひ見ていただきたいです。

先ほどから「エリア」という言葉を繰り返していますが、昨年の10月、『FRaU』がSDGsをテーマに、丸ごと一冊、徳島県をフューチャーした特集号を発売しました。

何が言いたいかというと、皆さまとさまざまな形で必ずお仕事ができるということです。今日の話が一方通行で終わらず、Facebookでつながったり、C-stationにお問い合わせいただけたりすると、非常にうれしいです。


「講談社メディアカンファレンス 2021」特設サイト──1月31日(月)までアーカイブ配信中
/kmc/2021/ 

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