2021.11.01

#1 ファンマーケティングでOTTを活用すべき理由|マーケティングを加速させる動画とOTT

新型コロナウイルスの影響で在宅時間が増え、インターネットで提供されるコンテンツ配信サービスを総称する「OTT(Over The Top)」を利用する人が急増しました。OTTへの注目度が高まったことは、マーケターにおいても看過できない状況と言えるでしょう。最近では、OTTを広告配信先として考えるだけでなく、マーケティングの一環で活用する動きも見られるようになりました。

この連載では、事例を紹介しながら、OTTとその手段である動画をマーケティングに活用する方法を探ります。第1回はOTTが普及した背景に触れつつ、ファンマーケティングにおいてOTTを活用すべき理由や注意点についてご紹介します。

急成長のOTT、コロナ禍やデバイスの普及が後押しに

OTT(Over The Top)とは、インターネットを介してデバイスに提供される動画や音声、SNSなどのコンテンツ配信サービスです。動画では、NetflixやAmazonプライム、Hulu、TVerやParaviなどがOTTの代表的なサービスです。
近年、OTT市場は大きく成長しています。動画に限ってお伝えすると、PCやスマホ、タブレットでの視聴だけでなく、特にコネクテッドTV※での視聴が急増しています。

※AppleTVやAmazonのFire TV(ファイヤーTV)、GoogleのChromecast(クロームキャスト)、ゲーム機、Blu-rayプレーヤーなどでインターネット回線に接続されたテレビ端末を指します。

動画尺別視聴デバイスフェア(日本)

動画尺別視聴デバイスシェア(日本)

コネクテッドTVでの視聴が急増した理由はいくつかありますが、まず考えられるのが動画コンテンツが長尺になってきたことです。従来、インターネットで視聴できる動画は比較的短いものが多かったのですが、動画配信サービスが次々と生まれたことで、映画やドラマ、テレビ番組など長尺のコンテンツを視聴できるようになりました。
またもうひとつ、在宅時間が増えたことでわざわざ小さなスマホやタブレットなどで視聴するよりも、リビングでくつろぎながらテレビで動画視聴した方がいいと考える人が多くなったことも影響しているでしょう。

コロナ禍でエンタメやスポーツなどのライブ配信がポピュラーになったこと、それに伴ってコネクテッドTVが普及したことがOTTの急成長を後押しし、マーケティングにおいてもいっそう重要視されるようになったのです。

ファンマーケティングにOTTを活用する基準は「コアなファンの有無」

ファンマーケティングでOTTを活用する場合、すでに一定のファンを抱えていることが大前提となります。そのうえでまず考えなければいけないのが、「どのようなファンにコンテンツを届けたいのか」という点です。

一概にファンといっても、ブランドやサービス、商品に対して、ライトなファン層もいれば、エンゲージメントが高い熱狂的なファンも存在しています。
そんな中でOTTサービスを立ち上げようとするのであれば、よりコアで熱狂的なファンに向けてコンテンツを届けることを意識した方が良いでしょう。それでは、その好例をご紹介します。

「アメフトライブ by rtv」の事例

大学アメリカンフットボールのコンテンツを配信する「アメフトライブ by rtv」は、代表の須澤壮太さんが立命館大学に在籍していた当時「母校のアメフトチームの試合をインターネットで配信したい」という思いからスタートしたサービスです。大学アメフトは日本では比較的ニッチなスポーツジャンルですが、あえてそのニッチなファンに対しコアな内容で配信を続けています。

須澤さんは、以前は「より多くの人に大学アメフトに興味を持ってもらいたい」と、テレビと同じような万人受けしやすい内容で配信したこともあったそうです。しかしその結果、コアファンが見たいコンテンツとの乖離が出てしまい、エンゲージメントが下がってしまいました。
逆に、大学OB・OGなどのコアファンが好む「応援団による応援合戦」や「日頃の練習風景」など、ここでしか観られないスペシャルなコンテンツを配信した方が、ファンのエンゲージメントが高かったのです。

株式会社rtv 代表取締役社長 須澤さんのインタビュー動画はこちらからご覧いただけます

コアファンだけに向けてコンテンツ配信するとなると、「母数が少ないためマネタイズしづらい」と考える方も多いかもしれません。しかし須澤さんは、「特定のファンが見たいコンテンツ、またはその期待を超えるコンテンツを、ファンが日頃利用しているデバイスや視聴環境に合わせたかたちで配信する」方がビジネスとして成り立つことを突き止めました。熱狂的なファンが一定数存在していて、サブスクでお金を払ってでも観る価値があると思えるコンテンツが配信されていれば、マネタイズも十分可能だということを証明した事例です。

すでにファンベースやファンコミュニティがある程度確立されていて、コアなファンが存在している製品ブランドやサービス展開で、よりファンとのエンゲージメントを高めていきたいと考えるなら、OTTで配信していくことも検討するとよいでしょう。

どのような環境で動画を配信するのが最適か

一般的に動画コンテンツを配信する場合、まずYouTubeでの配信を検討するケースが多いと思います。これからファンを獲得したい場合や、ある程度大きなファンベースが存在している場合であれば、すそ野が広いYouTubeでの配信を検討するのがよいでしょう。

しかし、エンゲージメントの高いコアなファンに向けたコンテンツを配信するのであれば、オウンドのOTTサービスを立ち上げることを検討されるとよいと思います。オウンドのOTTサービスなら、コンテンツのクオリティやブランドのコントロールができ、出したいコンテンツを自社が出したい形式で配信することができます。たとえば、動画のプレーヤーを自社ブランドとマッチしたものにカスタマイズしたり、コンテンツの世界観を適切に伝えるために最高の配信画質で配信することなどが可能です。

無料のプラットフォームを利用した場合、競合の広告が表示されたり、ブランドが訴求したい世界観と異なる広告が関連動画として表示されたりする可能性もあります。ブランドイメージを毀損することなく、コアなファンとのエンゲージメントを高めることを考えるのであれば、オウンドの方が適しています。

ただ独自のOTTサービスを提供しようとなると、どうしても初期投資やランニングコストがかかってしまいます。マネタイズを考慮し、慎重に収支を計算することが必要です。コストや運用面を十分検討しながら、プラットフォームを選ぶとよいでしょう。

コアファンに向けてコンテンツを配信するには

これまでお話してきた通り、ファンマーケティングにおいてOTTを活用する場合は、すべての人に対して届けようとするコンテンツよりも、コアなファン層に刺さるコンテンツを届けたほうがいいでしょう。そしてそのために、ファンを理解し、どんなコンテンツを求めているのかを知ることが不可欠です。

ファンを理解するためには、自分自身がファンになってみることが一番の方法です。前述の「アメフトライブ by rtv」の場合、代表の須澤さんはとにかくアメフトが大好きだったため、そのままのファン目線でOTTを運営することができました。スポーツに限らず製品でもサービスでも、自分自身がファンであるからこそ、ファンが何を求めているかがわかるのです。

また、コアなファンを自分たちのビジネスに巻き込んで、コンテンツづくりに参加してもらうのもいい方法です。テスラは宣伝広告費をほとんど使っていませんが、そのイノベーティブな企業姿勢が熱狂的なテスラファンを生み、そこからファンをさらに増やしています。同じように、ファンから新たなファンを生み出すようなしくみを作ることができればそれに勝る強さはありません。

いずれにしても、質の高いコンテンツを配信するには一方通行ではなく、ファン目線で寄り添ったコンテンツ作りを意識することが大切です。

もう一点、「ファンが受け取りやすいかたちでコンテンツを提供する」ことも忘れてはならない視点です。ファンがどんな環境でどのデバイスを使って視聴するのかを考え、適切なコンテンツや配信方法を検討すべきでしょう。SNSに多数のファンを抱えているのであれば、当然ながらSNSにもコンテンツを届けなければなりません。

ただ、SNSのプラットフォームに適しているのは比較的短尺なコンテンツです。長尺コンテンツの場合は、ライブのクリッピング動画等の短尺コンテンツをSNSに投稿してそこで興味を喚起し、SNSからオウンドに送客する流れがより適しているでしょう。

筆者プロフィール
ブライトコーブ株式会社 代表取締役社長 川延 浩彰(かわのべ ひろあき) 

合計で15年以上のビジネス経験を有し、そのうち約10年にわたり動画配信プラットフォーム事業に携わる。
ブライトコーブでは、マーケティング兼アカウントマネージャーとして入社し、ブライトコーブ株式会社第一号のアカウントマネージャーとして、日本のブランド並びにメディア企業の動画配信プロジェクトに従事。その後、2016年には、アカウントマネジメント統括としてブライトコーブ株式会社の既存ビジネスの総責任者に着任。2018年よりVice Presidentとして韓国事業並びに日本市場におけるセールスを統括。2019年9月より現職。
下関市立大学経済学部卒業。カナダビクトリア大学 Peter B. Gustavason School 経営学修(Entreneurship専攻)。

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