2021.11.09

#2 アウトソーシングする前に、デジタルマーケティング領域の棲み分けを知ろう|マーケティングを成功させる チームビルディングの強化書

本連載では、成果を持続的に生み出すマーケティング・チームを組むことを目的に、企業のインハウスマーケターが企業または個人事業主に一部業務をアウトソーシングするときの注意点やケーススタディを紹介します。今回は、デジタルマーケティングにおいてアウトソーシングできる分野を解説し、そのうえでインハウスマーケターが守るべき役割について考えていきます。

デジタルマーケティングでアウトソーシングできること

デジタルマーケティングでアウトソーシングできる分野は、主に「戦略構築」、「クリエイティブ」、「運用」、「分析」の4つ。そして各分野には、下の図にあるような職名のプロフェッショナルが存在します。

各分野は個別に動くものではなく、地続きにつながっています。コンサルタントが構築した戦略に基づいてクリエイティブや運用プランなどが具体化され、広告運用によりデータが蓄積され、それを分析したデータをもとに戦略がアップデートされます。各分野でやるべき業務と担当するプロは異なりますが、それぞれが密接に関連しているのです。
分野間の情報共有や意思決定がスムーズであればあるほど、マーケティングの成果は如実に出てきます。アウトソーシング先がうまく連携しながら成果を上げられるような環境を作ることが、インハウスマーケターの仕事と言えるでしょう。

アウトソーシング先を間違えやすい領域例

次に、アウトソーシングをする際に相手を間違えないために、デジタルマーケティング領域の棲み分けについて解説します。デジタルマーケティングを主軸とする事業社にヒアリングを行い、アウトソーシングの際に誤解が生まれやすい事例などから見えたことを紹介しましょう。

コンサルタントは運用のプロではない

戦略全体を見直すときや、これからデジタルマーケティングに本格的に取り組もうとするとき、まずコンサルタントに相談することが多いでしょう。ただコンサルタントは、あくまで戦略構築に特化したプロフェッショナルです。コンサルタントが運用面までフォローする企業もありますが、そうでない企業もあるということはよく誤解されやすいそうです。
コンサルタントが主に担当する領域は、下記の3点です。

  1. 課題の調査、分析
  2. デジタルマーケティング戦略の立案
  3. 運用のサポート

つまり、本格的な運用に関しては、自社または別の運用分野のプロにお願いする必要があるということです。運用全般の舵取りをするプロは、プロジェクトマネージャーやマーケティングディレクターなどです。もちろん、コンサルティングに特化した企業が、これらの運用のプロも抱えているケースもあります。
コンサルタントに任せればすべて解決する、と考えてしまわず、戦略の先にある施策の舵を誰が切るのか明確にするようにしましょう。

クリエイティブの専門分野は複雑かつ多岐にわたる

次に、デジタルマーケティング領域のクリエイティブについてです。静止画(イラスト、写真、グラフィック等)、動画、音声、テキストと、デジタルマーケティングにはさまざまな表現手法によるクリエイティブが混在しています。また、同じ表現手法であったとしても、それらを掲載・投稿するメディアやSNS、プラットフォームなどによって効果的なクリエイティブの傾向が変わります。したがって、クリエイティブをアウトソーシングする際は、アウトソーシング先の企業がどの領域を強みとしているのか、事前に確認する必要があります。

例えば、動画制作を強みとする企業にYouTube広告の制作を依頼したとします。その成果物が満足いくものだったからといって、自社のコーポレートサイトに利用する写真の撮影も依頼するというのは、必ずしも適切とは限らないということです。
あらゆる分野を横断し、総合的なクリエイティブ制作を扱う企業も存在しますが、それでも強みとする事業軸は必ずあります。すべてまとめて一社に依頼する場合は、過去の実績を見ながら、自社のニーズに合った企業かどうか検討しましょう。

運用・分析に関わるデータ取得は自社の役割

広告運用とそこから得られるデータの分析は、リソースを多く割くべき業務であると同時に、インハウスで対応するのが難しい部分でもあります。データ分析に強い人材が社内にいない場合は、データの扱いに悩んでしまうこともあるでしょう。
まず念頭に置きたいのは、自社データを取得できるのは社員のみということです。仮にデータを扱う業務をアウトソーシングするとしても、取得の許可については社内の合意が必要です。ですから、分析をアウトソーシングしても、分析に必要なデータを自社で取得する準備がなければ、満足いく成果を出すことはできません。
どのようにデータを取得していくかという段階から相談できるマーケティング企業もありますから、自社データの現状について把握しておくと良いでしょう。

アウトソーシングするときは「お任せ力」を養おう

次は、他社にアウトソーシングする際の注意点について解説します。まず、企業視点で見たインハウスマーケターの課題として、「人材育成の長期化」「業務の属人化」「最新トレンドのキャッチアップの難しさ」が挙げられます。逆に言えば、これらを解決する手段としてアウトソーシング先を活用することが、インハウスマーケターの強みとなるわけです。

すなわち、インハウスマーケターはアウトソーシング先の知識やノウハウを信頼し、ある程度任せる姿勢が重要ということ。自身よりもアウトソーシング先の専門企業のほうがデジタルマーケティングの最前線を理解しており、マーケティングに特化した人材育成にリソースを割いているということを前提とした役割分担をすると良いでしょう。
一方で、企業としての方針やカルチャーを深く理解しているのは、インハウスマーケターです。アウトソーシング先にそれらを理解してもらおうとするには、多くの時間がかかります。したがって、アウトソーシング先がマーケティングのプロとして出してくる提案や成果物を、社内の方針とすり合わせながら調整していくことが、インハウスマーケターがやらねばならないことです。

この棲み分けを意識せず、具体的な施策に対して口を出しすぎると、アウトソーシング先の担当者はやりづらくなります。発注企業として忖度される対象となってしまうと、適切な施策を実施することはできません。
インハウスで担う役割とアウトソーシングする領域をしっかり分けて、アウトソーシングするならばその部分はプロに任せる、という「お任せ力」を養いましょう。

アウトソーシングで自社マーケターが握るべき3つのポイント

次に、アウトソーシングする際に、インハウスマーケターがとくに握っておくべきポイント3点を紹介します。この3点は前提であって、途中で揺らぐと大きな影響をもたらすことがあります。またアウトソーシング先が尽力しても変えられない、よりインハウスマーケターの存在感が大きいところでもあります。

1. 予算

まず何より大切なのが、予算を守り抜くことです。アウトソーシング先の担当者は、発注時の予算を前提にプロジェクトの内容を詰めますから、予算の前提が崩れることだけは避けましょう。予算が増えるぶんには問題ありませんが、予算が減ると当初予定していた人員やスケジュールなどの調整をしなければならず、提供するサービスの内容を圧迫します。

予算を組む段階では、アウトソーシングすることで得られる成果について見通しを立てておきましょう。さらに、予算の上限からバッファを取った金額をアウトソーシング先に伝えておきます。不測の事態があった際に対応できる予備費を維持しつつ、この投資でどれだけの成果が上げられるか考えることで、適切な予算を組むのです。

2. 期間

あらかじめ定めたスケジュールを守ることも大事です。
たとえば、インハウスマーケターが成果物の良し悪しを判断するまでに時間がかかると、施策実施の期間が延びてしまいます。成果物が明確でなく、PDCAサイクルを回しながら効果測定していくタイプの施策であっても、期間の意識が薄いと、アウトソーシング先の強みを十分に活かせないままスケジュールが崩れていってしまうことが珍しくありません。

また、インハウスマーケターによる社内調整に時間がかかってしまうこともよくあります。承認がなかなか降りない、社内の方針がまとまらないなど、インハウスだからこそ頭を抱える部分は多々あるでしょう。しかし、それが原因で決めていたスケジュールがずれると、アウトソーシング先の信頼は揺らぎます。社内調整をする際は、定められた期間を意識しながらスムーズにフローを進めるよう意識しましょう。

3. 目的

そもそもなぜアウトソーシングが効果的だと判断したのか。また、アウトソーシングしたことで、どんな成果を求めているのか。こうした施策全体の目的を常に掲げておくことは、インハウスマーケターの使命です。
アウトソーシング先の担当者は、こうしたビジョンを前提として戦略を考え、施策を実施します。根底が崩れてしまうと、そこまで時間をかけて準備または実行してきた施策業務が無駄になってしまうかもしれません。

もちろん、時勢の変化や社内方針の変更により、途中でやむなく施策内容を変更することはあるでしょう。しかし、どうしようもないケースを除いては、短期的に方針を変え続けることは望ましいとは言えません。もしも自社がスタートアップ企業で、社内の意思決定が動きやすいフェーズにあるのならば、まだデジタルマーケティングをアウトソーシングするのは得策ではないかもしれません。

領域と自分の役割の棲み分けを意識して、強いチームを作ろう

今回はインハウスマーケターがマーケティング業務をアウトソーシングするときに意識したい業務領域についての認識と、インハウスマーケターの役割について解説しました。
マーケティング関連の業務は、これまで広告代理店などに一任するスタイルが一般的でした。しかしデジタルマーケティングの普及に伴い、コスト削減やブランド力向上を狙ってインハウスマーケティングを始める企業が増え、同時にデジタルマーケティングのノウハウに特化した専門会社へのニーズも高まりました。こうした背景も併せて、インハウスマーケターは、アウトソーシング先の知見やノウハウを一部借りつつ、効果的な施策を模索することが必要と言えるでしょう。

インハウスマーケターが成果に直結するアウトソーシングを実現するためには、『棲み分け』や『切り分け』のボーダーを明確に引くことが何より大切です。今回挙げたケーススタディやポイントを参考に、アウトソーシング先の選定、そして自社の体制やコミュニケーションの内容などを見直してみてください。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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