ファンマーケティングのコミュニティマネージャーとして活躍する株式会社Asobica・CCOの小父内信也(おぶない・しんや)氏の連載です。
ニューノーマルの世の中でますます重要性を高める「ファンマーケティング」。その実践のために欠かせない考え方と手法について、じっくりと解説していきます。
今回は、ファンマーケティングを盛り上げるための施策についてお伝えします。
ファンマーケティングは、単純に仕組みを構築すれば成功するというものではありません。仕組みの上に効果的な「仕掛け」が加わることで、初めて熱を帯びることができるのです。
本記事では、ファンマーケティングで実施する施策を効果的かつ戦略的という意味を込めて「仕掛け」と表現していきますが、多くのファンマーケティング担当者がつまづくポイントが、この仕掛けづくりなのです。
ファンマーケティングの炎をキャンプファイヤーへ
私のもとには、ファンマーケティングに関する多くの相談が舞い込んできます。「企画のネタが尽きた」「成果に結びつく効果的な施策を講じることができない」「ユーザーをうまく巻き込めない」といった相談の割合が高いです。今回はその答えのヒントとなる考えかたと具体的な施策案を持ち帰っていただければ嬉しいです。
さて、本題に入る前にファンマーケティングが盛り上がっている状態、つまりファンの熱量があがっている状態とはどういうことなのかを説明しましょう。
まず皆さん、手に「たいまつ」を持っている状態を想像してみてください。たいまつは、サービスを提供するベンダー、またはファンマーケティング担当者の熱い志です。
このたいまつを手に、ユーザーと世の中のためにファンマーケティングを展開していくのですが、時間をかけて最終的には燃え盛る「キャンプファイヤー」にしていきます。1つのたいまつが、周囲の熱い想いをもったユーザーを巻き込み、ファンマーケティング全体の熱量があがっていくイメージです。
特にファンマーケティングの立ち上げ期は、最初に掲げる炎の熱量が非常に大切です。その熱に惹かれて、次第にたくさんの仲間が集まってくるようになるのです。
次に大切になるのが「土台」です。学校行事などでキャンプファイヤーを体験したことがある方はご存知かと思いますが、キャンプファイヤーでは大きく太い木を交差させた骨組みを用意します。この土台が、前回詳しく述べた「ファンコミュニティのデザイン」に相当すると考えてください。火をつけただけでは瞬間的に燃えたとしても、すぐに消えてしまいます。
そして、燃え盛るキャンプファイヤーにするには、しっかりとした土台に加え、新たな「薪」をくべ続けなくてはなりません。この薪こそが、今回のテーマであるファンマーケティングにおける「仕掛け」ということになります。
3つの段階からなる「ファンマーケティングフェイズ」
仕掛けの効果を最大化するための大切な考えが、「ファンマーケティングフェイズ」です。これは、ファンマーケティングの進化過程をタイミングと規模の観点から、大きく3段階に分けたものです。
ファンマーケティングフェイズのおおよその目安
- 立ち上げ期:1〜3ヵ月
- 育成/拡大期:4〜12ヵ月
- 成熟期:2年目以降
やみくもにたくさんの企画やイベントをやっても最大の効果は生まれません。限られたリソースのなか、意思のある施策を上記のフェイズに合わせて展開していく必要があります。
逆に失敗しやすいのが、このフェイズを考慮しないで「何だか楽しそうだから」と思いつきの施策を実行してしまうケースです。一か八かやってみたところ、意外な功を奏することもないわけではありません。しかし、段階を無視した思いつきの施策は明確な評価軸もないため成果が見えず、「あれ、この企画なんのためにやったんだっけ?」と残念な形で終わってしまうケースがほとんどです。
具体的な仕掛け(施策)をファンマーケティングフェイズに落とし込んでいくことは、ファンマーケティング担当者の大事な仕事の1つになります。どのタイミングでどういった仕掛けを実施するのかを計画的に整理するのです。詳しくは、この記事の最終章でご説明したいと思います。
仕掛けの3つの軸
それではファンマーケティングの施策をどのように設計していくべきなのか、「仕掛けの軸」についてお伝えしていきます。
仕掛けの軸は、次の3つを念頭に組み立てることをおすすめします。
- 目的の明確化(評価まで含めること!)
- 「Wow」を取り込む
- ファンを巻き込む
この3つは三位一体で、どれかが欠けてしまうことでファンマーケティング自体の方向性がブレたり、ファンを混乱させたりしてしまうことが起きます。
それでは、1つずつ解説していきましょう。
目的の明確化
「目的の明確化」が大事であることは誰でも理解できると思いますが、ここでいう「目的」とは単に仕掛け自体の目的だけではなく、「ファンマーケティング全体のポリシーに沿っているかどうか」がポイントとなります。
どんな仕事にも共通して言えることですが、常に全体の目的に立ち返って「なんのためにやるのか?」「なにを成果としてアウトプットするのか?」という基本的な視点を持つことが、仕掛けを考える上でも必要です。
さらに、成果をしっかりと振り返って「評価」できる状態をつくることが重要です。実施して終わりではなく、定量的・定性的に、望むべき結果と達成状況ができるだけ具体的に見えるよう設計します。
たとえば、ファンマーケティングの立ち上げ期に、初めてファン同志のユーザー会(ファンミーティング)を実施したとします。その際の評価軸として以下のような項目が考えられます。
定量的な評価軸の例
- 申し込み者数
- 参加者数(率)
- アンケート回答数(率)
- 満足度(平均)
- コミュニティリーダー候補者数
- シェア/コメント数
定性的な評価軸の例
- 全体の雰囲気
- アンケートの内容
- ファシリテーターの進めかた
- 事前の準備
- 事後のフォロー
あくまで一例ですが、より具体的な評価軸を置いて、客観的に仕掛けを評価します。次回に向けて、どのような改善策が講じられるか、アンケートの結果からファンが何を求めているのかを読み取る。そういったひとつひとつの愚直な向き合いが、ファンマーケティングの成功には不可欠です。
「Wow」を取り込む
ファンマーケティングには新規性と変化が求められます。いつも同じ流れでは、マンネリ化してしまったり、ファンの離脱を招いたりする可能性が高まります。
ファンの方々に「あっ!」と言ってもらえる企画やイベントを提供することで、さらに満足度が上がり、サービスやプロダクトへのロイヤリティが高まっていきます。
どれだけ喜ばせられるか、驚かせられるかといった視点で企画を練ると、その時間自体が大変楽しく有意義なものになります。ここはファンマーケティング担当者の腕の見せ所でもあります。担当者が楽しくワクワクしていないと、ファンにも響くことはありません。常にファンと共に楽しむ姿勢は、忘れてはいけません。
ファンを巻き込む
最後にファンマーケティングでとても大切な姿勢が、「ファンを巻き込む」ことです。連載を通じて私が繰り返し述べていることですが、ファンマーケティングは与えられるものではなく、ユーザーと共に創るものです。
共に創る(=ファンを巻き込む)には、企画自体が、ファンが能動的に動き主体性を持って望めるようなものになっているかが大切です。そのために私が実践していることをご紹介しましょう。
ビジネスシーンで頻繁に使用される「PDCA」という仕事の進めかたがありますが、私はファンマーケティングにおいては、「PiDCA」を意識しています。「P(プラン)」の際に、ユーザーに「Interview(聞き取り)」を取り入れるようにしているのです。
この聞き取りによって、ファンやユーザーが求めている企画やイベントを素直に教えてもらうのです。これはファンとの1on1のような形でもいいですし、アンケート形式で選択できるようなものにしても良いと思います。
答えはファンの中にある。私はいつもそう考えています。そして、率直に聞くことで、ファンは自分の意見が求められていると感じ、主体的に動いてくれるきっかけにもつながっていくのです。
仕掛けの軸をまとめましょう。目的を明確にして、企画自体が評価できるものになっていること。ファンを「あっ!」と言わせるワクワクがあること。ファン自身が主体性を持って動けるものになっていること。このような観点で仕掛けを考えていけば、自然とファンを巻き込んだ、ワクワクするファンマーケティングに近づいていきます。
ファンマーケティングフェイズとそれぞれの仕掛け
先ほど「ファンマーケティングの仕掛けをフェイズに落とし込んでいく」とお伝えしましたが、これはとても大事なポイントです。中長期的に計画することで、目的にしっかりと沿ったイベントや施策が実施できるようになります。人員や予算のリソース配分もイメージしやすくなり、限られた時間と工数を効果的に配分することにもつながります。
下の表はそれをまとめたものですが、ひとつずつ詳しく説明しましょう。
立ち上げ期(1〜3ヵ月)
立ち上げ初期は、まさに一番HOTな状態。これから始まることにベンダーもファンもワクワクしていますが、この時の落とし穴が「迷子」です。
あれこれやりたいことだらけで方向性がブレてしまったり、ファンマーケティングポリシーにそぐわないメンバーが参加してしまったり、初期ならではの課題が出てきます。
立ち上げ期の仕掛けは、コアメンバーに対して、しっかりとファンマーケティングの目的を啓発することが重要です。ゆくゆくはファンマーケティング自体の規模が大きくなりますから、特に最初のメンバーには目的やサービス自体の理解をしっかりと認識してもらうことが必要です。
この時期の具体的な仕掛けとしては、次のような施策を推奨しています。
- 2オン2ランチ・・・ベンダー2名(コミュニティマネージャー+マーケティング担当者等)+ファン2名でのランチ会
- コアメンバーによる決起会・・・少人数でのファンミーティング
- 自己紹介・・・回答しやすいようにテンプレートを用意すると良いです。またそのサービスの好きなところなどを設問に加えておくと話が展開しやすくなります
- 限定のデモ会/試食会などの実施・・・招待制で商品やサービスのリリース前に優先的に試してもらう場を設定する
拡大期(4〜12ヵ月)
立ち上げ期でしっかりとファンマーケティングの骨格が出来上がり、ファンも能動的に参加してくれるようなカルチャーになれば、慣性の法則のごとくファンマーケティングの規模は拡大に向かっていきます。
ただし、この頃になると最初の熱量から熱が冷めてくるメンバーもちらほらと出てきます。全員が同じ状態とはいかなくなってスタート時の勢いがやや緩まり、目標の達成度合やKPIの数値が散らつくようになります。ここで発生する課題は「焦り」です。
これまでの記事で何度もお伝えしているように、ファンマーケティングは長い時間をかけて、ファンと向き合うものです。しかし、頭では理解できていても、なかなか結果がでない状態に焦燥感が出てきてしまうのです。
それを克服するため、この時期には「動き」が重要になります。常に進化しているということをファンに理解してもらうのです。このタイミングでは、次のような動きのある仕掛けが効果的です。
- 限定プログラム・・・1期生など期間限定コミュニティを作成し、3ヵ月で卒業するプログラムなどを用意する
- アンバサダー制度の導入・・・コアファンやヘビーユーザーを明確に「アンバサダー」として区別する
- ポイント制度の導入・・・イベント参加やコメント数などに応じてポイントを付与。ポイントが商品やサービスに変換できる仕組みを構築する
- アイデア募集やキャンペーンの展開・・・新商品の企画や新機能のアイデアを募集したり、ネーミングを公募したりしてユーザーを巻き込む
成熟期(2年目以降)
1年を越えると、ファンマーケティングの動きも鈍化しやすくなります。ファンマーケティングの企画やコミュニティに主体的に参加してくれる方だけではなく、フォロワーと言われる受動的なユーザーも参加するようになります。コミュニティに動きを出そうと、常々新しいことを考えるといっても、アップデートし続けることは、そう簡単ではありません。この時期に多く見られる課題は、「マンネリ」です。
その解決法のひとつが「グルーピング」です。参加するファンが増えれば増えるほど、初期の目的を維持することが難しくなります。そのため、一定の規模以上になったファンコミュニティは、計画的にグルーピングしていくのです。
私は、おおよその目安として100〜200人ごとになるように共通の興味関心やエリアで分けていくよう推奨しています。
このタイミングでグルーピングすることで、また新たにファンマーケティングを立ち上げるといったイメージで、仕切り直しが可能となります。グルーピングの手法には、以下のようなものがあります。
- 同期会の実施・・・同時期に加入したメンバーを同期としてグルーピングする
- 部活動の採用・・・同じ趣味や興味関心を共通項として部活として形成する
- エリア展開・・・地域や県単位で区分けする
- クロスコミュニティ・・・他社とコラボレーションして、コミュニティ同士での交流会を実施する
- 招待キャンペーン展開・・・ファンがファンを呼ぶ状態を作り出すために、ファンが招待しやすいようにSNSでクーポンを作成したり、インセンティブを設定したりします
いかがでしたでしょうか。今回触れた仕掛けは一例に過ぎず、このほかにも大小さまざま書ききれないほど多くの仕掛けが存在します。ファンマーケティングに強い会社には、その企業ならではの企画があります。ファンが求めているのはそういったユニークな仕掛けです。
忘れてはならない大切なことは、どうしたらファンに喜んでもらえるかを突き詰めて、考え抜くことです。そうやって生まれた施策は、間違いなくファンの心に響くものです。
ファンマーケティングのおすすめ本:3冊目
佐藤 尚之 著
著者の佐藤尚之さんは、日本のファンマーケティングの礎を築いた方で、この本はマーケティング担当者にとっては必読書と言える存在です。
人口減や高齢化、情報過多などで、新たな顧客の獲得が難しくなっている現代において、ファンを大事にする姿勢こそが重要であると唱えています。非常にわかりやすくて実績に裏付けされた事例も豊富に掲載されている、文句なくおすすめの一冊です。
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筆者プロフィール
株式会社Asobica CCO 小父内信也(おぶない しんや)
20歳から工事現場で働きながら、日夜、音楽活動に没頭。25歳、結婚を機会に大手電子機器メーカーへ入社。社員5000人のうち0.5%しか選出されない社長賞を2度受賞。在職中に中小企業診断士を取得し、2010年、創業初期の名刺管理システムを提供するSansan株式会社に参画。データ化部門責任者を経て、名刺アプリEightのコミュニティマネージャーへ。
現在は、カスタマーサクセス/コミュニティに特化したツールを提供する株式会社Asobicaで、CS責任者として数十のファンコミュニティの立ち上げ、および支援に携わる。