2021.07.13
広告メディアビジネスの次世代型モデル"AaaS"とは 〜イノベーションを支える仕組みと方法について〜──「ADVERTISING WEEK ASIA 2021」レポート⑤
業界を超えたオープンイノベーションの場「Advertising Week Asia 2021」のセッションレポート。
広告業界は長らく「広告枠の取引」によるビジネスを中心に成り立ってきました。しかし広告主にとって本当に重要なのは、「効果」です。そこで、博報堂DYグループでは広告メディアビジネスの次世代戦略に"AaaS(Advertising as a Service)"を掲げ、広告効果を最大化し得意先の事業に貢献していくことを目指しています。
広告メディアビジネスの次世代型モデル"AaaS"。その仕組みと方法を解説したセッションを、内容を抜粋し、お届けします。
広告メディアビジネスの次世代戦略に掲げられた"AaaS(Advertising as a Service)"について説明する、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 株式会社博報堂 株式会社博報堂DYホールディングス 常務執行役員 安藤 元博さん
広告メディアビジネスに革新をもたらす"AaaS"
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 株式会社博報堂 株式会社博報堂DYホールディングス 常務執行役員 安藤 元博さん(以下、安藤) 本セッションでは、広告メディアビジネスの革新をどのように進めていくのか博報堂DYグループからの具体的な提起として、"AaaS(Advertising as a Service※)"という考え方をお話ししたいと思います。
昨今、あらゆる産業でイノベーション、デジタルトランスフォーメーション(DX)が起こっています。車業界が車というモノを売っていた産業からモビリティサービスを提供する業界への転換を提示しているように、広告業界も「転換」をしていくことが必要なのではないでしょうか。
そこで私たちは、"AaaS"というモデルを構築しました。これは、広告メディアビジネスが向かうべき方向、自分たち自身のDXを果たすモデルと考えています。
約6兆円規模といわれる広告業界では、広告枠の売り買いで収益をあげている側面が非常に大きくなっています。枠の売り買いは物理的ではないにせよ、これはいわば「モノ」のようなものだと考えることができます。こうした「モノ」ではなく、広告にまつわる「効果」そのものを売るものにしようというのが、私たちの考える広告業界の「転換」です。
※as a Serviceとは、「製品」の価値ではなく、「サービス」の価値を提供するビジネスモデルのこと。AaaSは、広告の枠(製品)ではなく、広告の効果(サービス)を提供しようとする、博報堂DYグループの掲げる新たな広告モデルのこと
メディア効果を最大化する、「モノ」から「サービス」への移行
安藤 広告主にとっての広告効果というのはすなわち、
・ある特定の人にブランドを知ってほしい
・ブランドを好きになってほしい
・潜在的なユーザーにお店やサイトに来てほしい
・商品を買ってほしい
・すでに買っている人に買い続けてほしい
など、「どんな人にどんな状態になってほしいのか」を指します。
広告メディア(枠)は、その目的を達成するためにバイイングします。しかし実際の指標は、テレビとデジタルでも、媒体間でも異なるため、「目的をストレートに達成するバイイングは簡単ではない」のが現状です。
テレビとデジタルで異なる取引指標が存在する、広告メディア活用の現状
こうした広告主とメディアの分断をなくすために生まれたのが、私たち博報堂DYグループの提案する新たな広告モデル"AaaS"なのです。
「検索やサイト来訪を増やそう」「認知をあげよう」など、目的にダイレクトに応えるために、テレビとデジタルを横断した膨大なメディア取引データを一元的に扱えるデータウェアハウスを作成。メディアデータと博報堂DYグループの知見をかけあわせてアルゴリズムをつくり、ツールとダッシュボードの形で提供できるようにしています。
これまでは分断されていて、かつ目に見えない要素が大きかったものを可視化することで、広告メディア活動における「無駄」を排除し、メディア効果を最大化する。これによって、事業成果に直接的に貢献するだけでなく、広告主の事業成長にも貢献していこうというのが"AaaS"の基本理念です。
"AaaS"のシステム概要
AaaSを実現する、4つのサービス群
安藤 博報堂DYグループは"AaaS"を実現するために、統合メディアデータウェアハウス(DWH)を最初につくりました。これにより、これまで分断されていた「プラニング・バイイング・モニタリング」を一貫して提供可能になりました。また、これまで多くの時間をかけて手作業で行っていた作業が、デジタル化されたことで、大幅な時間短縮を実現しました。
スピードが速まるということは、単に効率的になるということだけではなくて、仕事の仕方そのものの質も変わります。それは、デジタル化が可能にする常時接続時代、言い換えれば「運用」に耐えられるということであり、付加価値の高いサービスとなっています。
"AaaS"のサービス群は、「マーケティングレイヤー」、「テレビ×デジタルレイヤー(「テレデジ」レイヤー)」、「テレビレイヤー」、「デジタルレイヤー」の4つに分かれます。
新しい広告メディアビジネスを実現する"AaaS"の4つのサービス群
"AaaS"は、これら4つのレイヤーを組み合わせながら、事業成果の最大化に貢献していくことを目指します。
データを適正に活用することで、これまでよりも少ない予算で、これまでと同等の効果を生み出すことが実現できる。費用対効果が向上すれば、あまった予算を事業の成長のために投下することもできる。つまり、単に効率を上げるということに留まらず、継続的な企業・事業成長のスパイラルに貢献することができる。それが"AaaS"のメリットと言えます。
AaaSを支えるデータ基盤
AaaSを支えるデータ基盤について説明する、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディアビジネス基盤開発局長 藤本 良信さん
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディアビジネス基盤開発局長 藤本 良信さん これまでメディアビジネスデータとしては、多様なデータが多数存在していました。
テレビでは、購入広告枠のデータやそれを評価するための「視聴率関連のデータ」、さらに調査データではないログベースの「視聴率ログデータ」などが活用されてきました。また、デジタルでは、媒体社ごとの「出稿実績データ」などがレポーティングに活用されてきました。
加えて、テレビとデジタルを横断プラニングしようとするときは、テレビとデジタルを横断して調査されたデータなどが利用されてきました。ただ、活用の幅やスピードアップしていくためには、大きな課題が存在していました。
テレビのデータにおいては、データごとに集計や分析をするシステム環境が異なり、横断して集計や分析しようとすると、個別に抽出してエクセルなどにより手作業で個々人が紐付けてから集計分析する必要がありました。またテレビデータは、ここ最近非常に種類が増えてきていますが、それに伴ってサイロ化したデータ環境になってしまっていて、横断した分析や集計がしにくいという課題もありました。
このように、データが存在していたとしても、データがデータベース上で紐付いていないために作業量が膨大だったり、手作業ではデータの紐付けが不可能な環境だったりと、事実上困難なことが多いといった状態でした。
そこで、AaaSを支えるデータ基盤を構築しました。
AaaSを支えるデータ基盤の核は、分断されたデータが紐付いた状態になっている統合メディア「DWH(統合メディアデータウェアハウス)」と、この統合メディアDWHの活用環境を提供する「システム基盤」です。
分断していたデータを統合することによって、同一の環境下で複数のデータを横断した集計と分析が可能になり、データ活用の幅が広がりました。
データ基盤によって、プラニング、バイイング、モニタリングといったメディアビジネスのプロセスが同一環境下で接続可能に
データ基盤を構築したことで、ただつながるだけでなく、バイイングに直結する「プラニング」や、業界最速での「モニタリング」、統一指標で明確に管理しながらの「リプラニング」が可能になりました。これらのプロセスが同一環境下で提供されることにより、効果の追求の実施力が高まり、それを支えるスピード運用を実現しています。
AaaSを支えるデータ基盤は、多様な利用環境での活用が可能
AaaSを支えるデータ基盤は、データの拡充やさらなるスピードアップ、新しいアルゴリズムの搭載など、今後もさらに進化していく予定です。
開催日時:2021年5月27日(木)12:30〜13:00
Channel: Innovation Factory
テーマ:広告メディアビジネスの次世代型モデル"AaaS"とは〜イノベーションを支える仕組みと方法について〜
登壇者:
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 株式会社博報堂株式会社博報堂DYホールディングス 常務執行役員/安藤 元博
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディアビジネス基盤開発局長/藤本 良信
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディアビジネス基盤開発局 BIソリューション開発部長/小山 裕香