現在のマンガ関連コンテンツの充実や、さまざまな商業シーンでの露出の多さを考えると、マンガを活用したマーケティング活動はひとつのジャンルとして確立しているといって差し支えないでしょう。
そこで、マンガ・マーケティングの効果やメリットや費用、活用事例などについて、主に出版社としての視点からあらためて解説していきます。ぜひ今後のご参考としてください。
マンガ・マーケティングとは
マンガ・マーケティングの上位概念として「キャラクターマーケティング」があります。
キャラクターマーケティングは、ストーリーやセリフなどのマンガ技法に必ずしもよらない「キャラクター」によって行うマーケティング活動を指します。
グッズやイベント中心に展開されるキャラクターや、自治体や企業のマスコットキャラクターは、ストーリーやセリフなどを持たない「非マンガ」キャラクターが中心です。「キャラクターマーケティング」は、これらの非マンガ・キャラクターと、マンガ・キャラクターのいずれを使用した場合にもあてはまります。
その中で、マンガ・マーケティングは「(ストーリーや世界観、セリフを持つ)マンガやマンガをもとにしたアニメを活用した、企業や団体のマーケティング活動全般」と規定することができます。
簡単で、特段解説など不要に感じるかもしれませんが、後の項目で解説するように、実際にはいろいろな形態の活動があります。それらをすべてひっくるめたものがマンガ・マーケティングだと考えることができます。
マンガ・マーケティングの種類
マンガ・キャラクターを利用したマンガ・マーケティングは、以下の3つの活動に大別することができます。
既存のマンガ作品やアニメ作品のキャラクターを広告宣伝や広報に利用する
マーケターの皆さんにとって最も関心があるのが、この方法でしょう。人気作品や自社のサービスのターゲットに合致したマンガ・キャラクターを広告宣伝や広報に起用すれば、目に見える効果が感じられるのがマンガ・マーケティングの強さです。この場合の契約は「広告宣伝における版権契約」となります。
講談社のマンガにおいても人気作の「進撃の巨人」「島耕作シリーズ」「はたらく細胞」「東京タラレバ娘」などをはじめ、多くの作品がマーケティングに活用されています。
オリジナルで描き起こしたマンガ・キャラクターを広告宣伝や広報に利用する
こちらは、マンガはマンガでも既存のキャラクターではなく、オリジナルのマンガ・キャラクターを制作して利用する方法です。その目的は、「マンガという表現手段によってターゲットに受け容れられやすくする」「セリフやストーリーによってスムーズに理解してもらう」ことにあります。
つまり、マーケティングにおける「クリエイティブ」部分に特化した方法であるといえます。この方法では多くの場合、キャラクターに重きを置くことはなく、表現したい内容に合致したタッチの作家とストーリーを吟味して進めることになります。
しかしオリジナルキャラクターを使う場合でも、「人気作家にオリジナルキャラクターを描いてもらい起用する」という選択肢もあります。数の多いケースではありませんが、この場合オリジナルキャラクターであってもその作者のもつ個性や世界観が演出されます。そのため、単なるオリジナルキャラクターを超えてユーザーへの共感性、さらに希少性をもち、特にその作者のファン層に対して強い訴求をすることができます。
既存のマンガ作品やアニメ作品を商品に利用する
3つ目は、既存のマンガ作品をグッズに使用する方法です。いわゆるマンガ・キャラクターを「商品化」という形で活用するケースです。限定商品のパッケージに使用したり、文具やアパレル商品に採用したりなど、さまざまな商品化があり、契約も「商品化契約」となります。
また商品ではなく、ベタ付けなどのノベルティにマンガを使用することがあります。こちらは、広告キャンペーン使用の一環となり、広告宣伝における版権契約が前提となります。ただしノベルティ部分についてはグッズであることから、商品化に準じたキャラクター使用料の算出方法が用いられます。これについては後ほど解説します。
マンガ・マーケティングのメリット
次に、マンガ・マーケティングのメリットについて解説します。
マンガ・マーケティングをデータで見る
まず、調査データからご紹介しましょう。この調査は2020年9月に日本国内在住の男女3~74歳2,000名を対象として、楽天インサイトへの委託で実施したキャラクターに関する定量調査です。
「『キャラクター』が、パッケージ・おまけなどで商品に付いたり、広告で使われることで、その商品や広告についてどのようにお感じになりますか?」との質問項目選択で「かなり当てはまる」+「まあ当てはまる」と回答した人の割合です。質問項目は《注目・好意・記憶》のように3つに集約しています。
男女3-74歳全体の5割内外が「かなり当てはまる」+「まあ当てはまる」と回答したのは、「目にとまりやすくなる」「キャラクターを見かけた時に、その企業や商品の広告が思い浮かびやすくなる」「意識しなくても、つい視野に入ってくる」などの《注目・好意・記憶》です。
他にも、「家族や友人との共通の話題になる」など《話題共有・拡散》、「その企業の商品をほしくなる・サービスを利用したくなる」「その企業や商品にセンスのよさを感じる」「どんな企業や商品・サービスなのか知りたくなる」「その企業の活動を、応援したくなる」など《探索・信頼・評判・購入喚起》というように、さまざまな効果が見込めることがわかります。
キャラクターを使うことで、注目や安心感が高まるだけでなく、その商品、さらには企業・団体への興味や好感度も高まっていることが見て取れるでしょう。
マンガが持つ3つの要素で、大きな効果が期待できる
このように、マンガ・マーケティングによるメリットはさまざまな視点からみることができますが、ここではマンガが持つ3つの力から、その効果をまとめてみます。
マンガが持つ「訴求力」効果
人気マンガであれば発行部数は数千万部単位。アニメ化があればさらに裾野が広がります。このような作品をマーケティングに活用すれば、商品やサービスへの注目は一気に高まります。逆にファン層がそれほど広くないマンガでも、コアな人気があり商品のターゲットに合致すれば、その訴求力は絶大となります。
マンガが持つ「伝達力」効果
「ビジュアル+セリフ」で構成されるマンガは、ユーザーの受容性が高く、メッセージが効率よく伝わって記憶されます。そしてそのマンガの「世界観」と相まって、情動を刺激します。これによって、情報が強く、そして拡散を伴いながら伝わっていきます。
マンガが持つ「共感力」効果
マンガ・キャラクターを通じたメッセージや体験は、意識に投影されやすくなります。キャラクターからのメッセージやキャラクターの体験は、「自分へのメッセージ」「自分自身の体験」となり、深い理解とともに自分ごととして共感に変わっていきます。
マンガ・マーケティングのもうひとつのメリット
マンガ・マーケティングにはもうひとつ、隠れたメリットがあります。
それは、「実際の人物をキャラクターとして起用したときと比較してリスクが少ない」ということです。実際の人物であれば、スキャンダルに見舞われたり年齢を重ねることでイメージが変化したりするリスクがあります。また、人気が上昇すれば契約料などのコストもそれに応じて上がっていきます、マンガ・キャラクターであれば、これらのリスクの心配がありません(契約に必要なコストについては後の項で解説します)。
マンガ・マーケティングのデメリット
マンガ・マーケティングにおいても、もちろん気をつけなければならない点があります。
前項で、大きなメリットとして注目・好意・理解・記憶などをお話しましたが、逆にマンガ・マーケティングによってこれらがすぐに得られてしまうことに注意しなければなりません。もし実際の商品やサービスそのものが魅力的でなければ、契約期間が終わったあとにはユーザーは離れていってしまうかもしれません。
マンガ・キャラクターによって推されたことによるコミュニケーション効果だけに満足していると、大事な点を見落としてしまう可能性があります。契約期間のなかで商品やサービスの魅力を十分に伝え、そのうえでリピートしてもらうしくみや、新たなユーザーを開拓するしくみを構築することが大切です。
中にはマンガ・キャラクターの契約期間を長く取り、じっくりとコミュニケーションを行うケースもあります。また、一定の間隔でマンガ・キャラクターを起用した施策を続けるようなマンガ・マーケティングの活用形態も見られます。
マンガ・マーケティングの費用や進め方、版権契約について
それでは、マンガ・マーケティングの実際の運用を知るために、進め方や費用、その元となる版権契約について解説していきましょう。
マンガ・マーケティングの進め方
最初に触れたように、マンガ・マーケティングには既存のマンガ・キャラクターを利用する場合とオリジナルのマンガ・キャラクターを作る場合がありますが、多くは既に認知のある既存のマンガ・キャラクターを利用します。それでは、こちらについて解説していきましょう。
活用にあたり、まずは「このマンガを使ってこんな展開を行いたい」という企画を立てます。そして、その企画に対する作者の承諾を得る手続きを行います。この手続きは、例えば講談社のような版権管理を行う企業が進めるのが通常です。
企画に承認が得られたら、使用するビジュアルを決めていきますが、企画によって「既存の画を使用する」ケースと「オリジナルの画を作者に描き起こしてもらう」ケースがあります。
ちなみに「既存の画を使用する」ケースでも、指定されたたモノクロの画を、作者に依頼して着色してもらうことがあります。セリフに関しても、もとのセリフを企画側によって商品やサービスに応じたものに置き換えていくことがあります。もちろんここでも内容に対する作者の承認や調整が必要になってきます。
「オリジナルの画を作者に描き起こしてもらいたい」場合は、まず企画内容やスケジュールに対する作者の承諾が必要となり、それらが得られた場合にGOサインとなります。なおこの場合は、版権契約料以外に作画料が必要となります。
マンガ・マーケティングの具体的な進め方については、「C-statationマンガ検索」内の「マンガ・キャラクター使用の流れ」でフローによる案内がありますのでご覧ください。
マンガ・マーケティングの版権契約とは
版権契約とは「そのマンガの世界観および画を使ってよい」という包括的な契約です。どのマンガなのかとか、画の質感や画の枚数などに左右されません。メジャーな作品でも一部のコアなファン向けの作品でも、基本的には変わりません。
版権には、「原作版権」と「アニメ版権」の2種類があります。「原作版権」は原作である漫画家の画を使う場合の版権で、「アニメ版権」はアニメーターの画を使う場合の版権です。
キャラクターに動きをつけたい場合、またアニメの放送期間中は、原則として「アニメ版権」の契約になります。ただしCMやWEB、デジタルサイネージ等で原作の絵を動画風に動かす制作物も増えていますので、その場合は「原作版権」で使用する例もあります。
マンガ・マーケティングの費用とその構成
これまでの解説からわかるように、マンガの使用料を決めるのも、作品そのものだったり、画が複雑かシンプルか、画の枚数が多いか少ないか、などではありません。それを決めるのはマンガを「何の媒体で使うのか」「どれだけの期間使うのか」「どの地域で使うのか」という点です。
媒体とは「テレビ・雑誌・WEB、店頭までひととおりすべて」「店頭ツールのみ」などの使用範囲です。期間については、だいたい3ヵ月がひと単位となっていますので、それを何回分かということになります。さらに地域については、「全国」「関東地方と中部地方」というように決めます。
基本的には、この3つの要素の組み合わせによって、料金が算出されます。つまり媒体、期間、地域といった要素で「そのキャラクターがどのくらい世の中に露出されるのか?」ということによって決まります。
商品化契約は性質が異なる
マンガ・キャラクターをグッズに使用する「商品化」契約は、広告宣伝とは考え方が違います。この場合キャラクターは商品の一部ですから、その価値も商品の中に含まれていると考えます。したがって、商品化の場合の使用料は「商品の価格」×「規定のロイヤリティ率」で一個あたりのキャラクターの価値(使用料)が決まり、それに「生産数」を掛けることで全体の使用料が決まります。
無償のノベルティなどは広告宣伝利用の一環とされ、ノベルティのみの契約はありません。広告宣伝における版権使用契約として使用料が発生し、それにプラスしてグッズ利用としての使用料(ノベルティロイヤリティ)が発生します。グッズ利用の使用料は「ノベルティの製造原価」×「規定のロイヤリティ率」×「製造数」となります。
なおここでは詳細には触れませんが、そのほかに「ゲーム」「原画展」「イベント」などの契約形態もあります。
マンガ・マーケティングは難しくない
ここまでマンガ・マーケティングの基本について解説してきましたが、「マンガをマーケティング活動に採用する」ことに対して、まだハードルが高いとお感じのマーケターの皆さんも多いのではないでしょうか。
しかし、これまで全国・大規模中心だったマンガ・マーケティングが、徐々に裾野を拡げ、ローカルや予算が少ないと感じているクライアントの皆さま、また店舗のみなどの限定的なコラボをお考えのクライアントの皆さまなどに採用いただくケースが増えてきました。今日、マンガ・マーケティングの施策は他に比べて決して採用が難しいものではなくなっています。
講談社でも細かなニーズへ対応できる体制を構築し、C-stationのお問い合わせフォームから気軽にご相談いただけるようになっています。またC-stationが運営する「マンガ検索」では、マンガ黎明期のレジェンド作品から最新ヒット作まで、講談社のさまざまなジャンルのマンガをチェックできますので、ぜひご利用ください。
マンガ・マーケティングの事例ご紹介
最後に、過去に講談社のマンガで実施した代表的なマンガ・マーケティングの事例をご紹介しましょう。
マンガ・マーケティングの事例1:「長野県✕島耕作」
長野県が人気マンガシリーズ『島耕作』とコラボレーションした事例です。県内への企業誘致策に力を入れていた長野県では、コロナ禍によるテレワークやサテライトオフィスの需要増を見込み、企業誘致をPRする特設サイトをリニューアル。そのサイトへの集客を目的として、島耕作をナビゲーターに起用したランディングページを設置し、長野県の魅力や助成制度などについて紹介しました。
その結果ニュース、新聞各社、ウェブ記事など約170媒体で取り上げられ、大きなPR効果と集客効果をあげました。
マンガ・マーケティングの事例2:「キリンビール✕オリジナルマンガ」
30代女性をターゲット層としてリニューアルしたキリンビールの「ハードシードル(HC)」。
ターゲットに人気の高い稚野鳥子さんのオリジナルによる描き下ろしマンガを柱に、デジタル展開も含めたプロモーションを行いました。
ヴィジュアルとストーリーを含むマンガは、商品の世界観や飲用シーンを効果的に演出。作家独自の視点とセンスが盛り込まれ、お仕着せでないコミュニケーションを実現しました。
マンガ・マーケティングの事例3:「リソル生命の森✕進撃の巨人」
千葉県の総合リゾート施設「リソル生命の森」内のフィールドアトラクション施設が、大人気作『進撃の巨人』とコラボ。フィールドアトラクション内に進撃の巨人のキャラクターを配し、心ゆくまで遊んでいただこうというユニークな試みを行いました。作品の舞台そっくりの環境でキャラクターと触れ合うアトラクションはファンから一般客まで大人気を博し、スタッフが心血を注いで開発したオリジナルグッズ販売も絶好調となりました。
以上、マンガ・マーケティングの基礎知識とその効果、利用方法についてひと通り解説してきましたが、参考になりましたでしょうか。
今後のマーケティング施策のひとつの方向性として、ぜひマンガ・マーケティングをお考えいただければ幸いです。