<連載>データをチカラに アドテクノロジーとWEB広告
WEB広告運用のPDCAを回す際、あらゆるデータをどう解釈するかが問われます。具体的な顧客を描き出すペルソナは、あらゆるマーケティング手法で有効な手法ですが、ことWEB広告運用においても重要な役割を果たします。
今回はペルソナをテーマに、将来的な広告配信と顧客像の捉え方がどのように変化していくかを考察します。昨今事例が増えつつあるAIによるペルソナの自動生成の可能性を紹介しつつ、よりデータドリブンにペルソナと向き合っていく方法を考えてみましょう。
ペルソナとデータ、AIがWEB広告にもたらす変化とは
ペルソナを具体かつ的確に描くこと。これはあらゆるマーケターが一度は向き合ったことのある課題でしょう。ペルソナに紐づいたマーケティングの成功事例は数知れず、そこから学び取れることはもちろん多いのですが、安易に項目を埋めて作りあげたプロフィールが必ずしもマーケティングの質を高めるとは限りません。
成果につながるペルソナ生成には、あらゆる顧客データが必要不可欠です。さらに、そのデータ分析にAIやDMPといった新たな要素を取り入れることで、ペルソナ生成の質やスピードは向上します。WEB広告運用に効果的なペルソナの描き方や、今後取り入れるべきAIを用いたペルソナ生成サービスなどを紹介し、ペルソナ活用の将来性について考えてみましょう。
ペルソナとは?意味と使い方のおさらい
ペルソナとは、商品やサービスを購入する顧客のイメージを具体化したものです。マーケティングにおいては、このペルソナを基準に施策を考えることが多いため、効果的な施策の要(かなめ)ともいえるでしょう。
ペルソナとターゲットの違い
ペルソナと混同されやすいのが、ターゲットです。ターゲットもペルソナと同様、商品やサービスを購入する可能性のある対象を指しますが、その解像度が異なります。
ターゲットの場合は、例えば「30代女性、IT企業勤務」のように、大きな枠で対象を捉えます。一方、ペルソナは「趣味は観葉植物、食生活はほとんど外食、独身、実家は東北......」といった一個人をイメージできるくらい詳細なプロフィールまで記します。
なぜペルソナのような解像度の高い人物像を作る必要があるのかというと、ターゲット設定だけでは多様化した消費者のニーズに応えることができないからです。先ほど述べたIT企業勤務の30代女性を挙げても、一人ひとりの価値観や趣味趣向は大きく異なります。個々人が不足しているものを解消していくことで価値を提供するため、昨今はペルソナを基準にしたマーケティングが主流となっています。
顧客分析とペルソナ作り
ペルソナを基準に施策の方針を定めていくために、ペルソナは施策を動かす前に作らなければなりません。一方で、ペルソナが顧客ニーズを捉えきれていなかった場合は、データをもとにペルソナをアップデートしていく必要があります。つまり、ペルソナは流動的であり、見直されていくものであるということです。
ペルソナの概念を理解していても、活用方法がわからないという声をよく聞きます。せっかく時間をかけて詳細なペルソナを準備しても、そのペルソナと施策が連動しなければ作った意味がありません。「施策の結果を検証したうえでペルソナに戻る」「顧客データのアップデートをもとにペルソナを更新する」という繰り返しがペルソナの解像度を高めるのです。
ペルソナ生成とAI
昨今はマーケティングにおけるAI活用の事例が発展していますが、ペルソナ生成もまた、AIが活躍できる領域の一つです。
自社データ×行動履歴で描き出すペルソナ
自社で顧客データを入力させるログイン機能などを備えていれば、統計学的なデータ(年齢、性別、年収、居住地など)を蓄積することはそう難しいことではありません。これをもとにターゲットを定めることも容易です。しかしこれらは、ペルソナと言うには枠が大きすぎます。
そこで、自社顧客データと個々のユーザーの行動履歴を掛け合わせ、それらのデータから傾向の把握や行動の予測をするために、AIを活用するのです。
例えば、東京在住IT企業勤務の30代男性という一人のユーザーがいたとします。このユーザーは、休日のみPCからネットショッピングをする傾向があり、平日はモバイルでニュース記事を閲覧する習慣があることが行動履歴からわかったとしましょう。特に、経済関連や芸能関連のニュースを閲覧する確率が高いようです。
このような行動履歴からユーザー特性を分析することで、モバイルでどのような広告体験を提供することが休日のショッピングに直結するかを推測でき、施策を打つなどの対応が実現します。
AIがもたらすペルソナの詳細化と自動更新
AI導入以前のペルソナ生成には、先ほど述べた統計学的なデータに加え、一般的には既存ユーザーへのインタビューや座談会などの場を設ける手法が取り入れられてきました。これは個々人のパーソナリティに迫る手法としてはすぐれている一方、ペルソナのアップデートに対応することは難しい手法です。
また、見込み客に訴求したい狙いを鑑みると、インタビューに応じるほどロイヤルカスタマー化した顧客の返答からペルソナを描くと、本来訴求したいペルソナからずれてしまう危険性もあります。このような観点から、AIによるペルソナ生成には、二つの利点が挙げられます。
その一つは「データをもとにペルソナが更新され、成長していく」ということ。もう一つは「データをもとにすることで、マーケターが推測し得ないユーザーの個性を発見できるかもしれない」ことです。
人力で生成するペルソナは、多かれ少なかれマーケターの主観を反映します。データからしか発見できない傾向を見つけ出せるということは、既成概念や思い込みの枠外にある顧客ニーズに気付ける可能性があるということです。
時代と共に変わり、多様化していく顧客ニーズを、データから分析し、推測していく。AI分析によって起こるペルソナの成長を受容していくことが、より提供価値の高いマーケティングにつながるでしょう。
データが導き出したペルソナと広告配信
データに基づくペルソナ生成と広告配信については、それに特化したプラットフォームや、機能を備えたDMPがいくつか提供されています。
もし自社にある顧客データや行動履歴の分析から、明確な施策に結びつくペルソナを描くことが難しかった場合は、これらのサービスを利用することで課題解決ができるかもしれません。趣味趣向やライフスタイルなど、自社サイトでは推測し得なかったユーザーの特徴を、わかりやすく捉えなおせるからです。今回は、特徴的なサービスを2つ紹介しましょう。
「OTAKAD」 − ユーザーの好きを見極め最適な広告を配信
「OTAKAD」は講談社が提供する複数メディアを横断して取得したデータをもとに、読者を独自のセグメントで分類し、最も刺さる読者層へ最適化した広告を配信するプラットフォームです。ユーザーの読了率やメディア滞在時間から広告効果をスコアリングすることで、より高いスコアのペルソナを把握することができます。
自社データでは不足していた趣味趣向に関わるデータを補い、商品に興味関心のあるユーザーの把握したい場合は、あらゆるターゲットに向けて情報発信するメディアから生まれたペルソナは有効です。
「Juicer」 − データでサイト訪問者をペルソナ化
ユーザー分析DMP「Juicer」は、自社サイトの訪問者データを可視化し、広告運用をサポートするさまざまな機能を備えています。その中の一つが、ペルソナ自動生成機能です。
自社サイトを訪問したユーザーのデータと、Juicerが取得した500万人分のモニターデータを掛け合わせ、サイト訪問者の人物像をペルソナ化します。Juicerが可視化するペルソナには、企業がユーザーと関係性を構築していく上で知っておきたいユーザーの性格や、インフルエンス力なども指標化されます。自社サイトへの訪問定着や、見込み客の離脱を課題としている場合は、自動生成されたペルソナが役立つでしょう。
これからのマーケティングに必要なペルソナの捉え方
従来のペルソナは、いわばターゲットの延長線上にある架空の人物像でした。顧客データをもとに構築されるとはいえ、最終的な人物像を紡いでいくのはマーケターです。一方、データドリブンなペルソナは、客観的な視点でユーザーを可視化しています。
それは架空の人物というより、実在するユーザーを一部抜粋して描いた人物であり、より施策を立てやすいリアルな対象ということになります。こうした変化を自覚しながらデータと向き合い、ペルソナを作っていくことが、今後のマーケターに求められています。
ペルソナ生成に必要なデータ取得と解釈
データドリブンなペルソナを活用していくためには、自社サイトのデータが必要不可欠です。他社データや広告に紐づいた一部のデータをもとに一時的なユーザー像を可視化することはできますが、自社サイトで得られるデータを活用しなければ持続的な運用は難しいでしょう。
自社サイトで得られるデータはさまざまです。ログイン情報から得られるデモグラフィック的なデータを始め、ユーザートラッキングから得られる移動ログ、デバイスごとの利用率、どんな話題に興味があるかなど、パーソナライズに有効なデータが豊富です。これら自社サイトのデータ(ファーストパーティーデータ)を有効活用していくことは、サードパーティーデータに頼らないマーケティングを確立することにも結びつきます。
ペルソナと向き合い続けるためには、得られたデータに対して常に『なぜ?』と問いかけ、データの向こうにいるユーザーの視点に立った解釈をしていく姿勢が必要です。
例えば、平日朝の時間帯に埼玉から都心内に移動する間、決まってサイト内の動画コンテンツを再生しているユーザーがいた場合、どんなペルソナが描けるでしょうか。また、動画コンテンツから誘導したい商品へのコンバージョンは低く、再生途中で離脱してしまっているとしたら、どういった対策が必要でしょうか。
ただデータを取得するだけでなく、そのデータを解釈し、人物像に落とし込む。さらに、その人物像から描ける施策までを結びつけていく。このプロセスで扱う膨大なデータを整理・学習していくことを、AIや、AIを活用したサービスに頼れば良いのです。
データドリブンなペルソナで的確な施策を導き出す
今回はペルソナをテーマに、いまマーケターが向き合うべきユーザーの描き方やコミュニケーションの取り方について考えていきました。豊富な自社データと広告配信プラットフォームやDMPを提供する他社データを掛け合わせ、よりリアルなペルソナを描き、施策の精度を高めていきましょう。
>#1 アドネットワーク、DSP、DMP、ユーザーデータ...。WEB広告の基本とは
>#2 広告プラットフォームのトレンドと特色を知って結果につなげよう
>#3 WEB広告に関するデータ分析のステップと、今後のデータ活用を考える
筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)
広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。