2021.03.15

コロナ禍で注目されるインターナルマーケティングで、動画を効果的に使うには|動画マーケティング 効果最大化のための知識と手法<第4回>

コロナ禍以降、いっそう重要性が高まった動画を活用したマーケティング。
グローバルで動画配信プラットフォームを提供する「ブライトコーブ」の日本法人代表・川延 浩彰氏が、日本のマーケターが動画をどのように活用し、効果をあげていくべきか、実践的な解説をお届けします。

リモートワークの浸透で高まる、インターナルマーケティングの重要性

マーケティングにおいて、企業が顧客に向けて実施するマーケティングを「エクスターナルマーケティング」と呼ぶのに対し、企業が社内の従業員に向けて実施するマーケティングを「インターナルマーケティング」と呼びます。

インターナルマーケティングの目的は、従業員満足度を高めること。従業員がその会社で働くことに対する意欲を高めることで、会社への帰属意識が高まり、回りまわって企業利益へとつながることを狙っています。コロナ禍以前から重要性が高い施策ではありましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響でリモートワーク中心のワークスタイルとなったことで、大企業を中心により重要な施策として位置づけられるようになりました。
(※インターナルマーケティングは、日本では似た概念の「インターナルコミュニケーション」という呼称が一般的なため、以降は「インターナルコミュニケーション」で統一)

インターナルコミュニケーションが重要となるのは、リモートワークでのワークスタイルだけではありません。世界各地に拠点がある企業はもとより、国内に拠点が分散している企業でも同じです。拠点が一つであれば、オフィスでの対面コミュニケーションだけで十分かもしれませんが、拠点が複数にわたると統一したメッセージを社内に浸透させることの難易度は上がります。そのため、イントラツールや動画プラットフォームをうまく活用することで、経営層が発信するメッセージが各拠点に所属する従業員にも届くよう発信する必要があるのです。

ボストンに本社がある当社も、全世界のオフィスにいる従業員に本社の経営層のメッセージを伝えるために「タウンホールミーティング」という全社集会をライブ配信で行っています。月次で行うこの全社集会では、CEOと外部スピーカーの対談や、さまざまな社内スタッフへのインタビューをコンテンツとして流すことで、戦略や企業理念、社内へのメッセージなどを全社に浸透させる取り組みを続けています。

従業員満足度を上げることが、顧客満足度の向上につながる

「ES(従業員満足度)なくしてCS(顧客満足度)なし」というフレーズを聞いたことがある人も多いでしょう。しかし、インターナルコミュニケーションは、エクスターナルマーケティングと比べると、ないがしろにされがちな印象です。
エクスターナルマーケティングは、CSの向上を目指すもので、商品やサービスを提供している限り絶対に必要です。しかし、そのCSを高めるには従業員の存在が欠かせません。実際の店舗などでお客様とコミュニケーションをとるのは自社の従業員だからです。CS向上に取り組むその手前で、まずES向上のために従業員に対する投資をする。そのことを企業はもっと考えてみてもいいのではないでしょうか。

インターナルコミュニケーションを丁寧に行なうことで、従業員の企業やサービス・製品への想いが醸成されていき、今度はそれをお客様に「どう伝えるか」を各従業員が考えるようになります。顧客に対して「何を伝えるか」ばかりに目を向けるのではなく、「どう伝えるか」を磨いていくべきなのだと思います。

資生堂・オムロン・トヨタなど、インターナルコミュニケーションを行なう企業の実例

インターナルコミュニケーションの事例としてまず挙げられるのが資生堂の取り組みです。
世界各地に拠点があり、従業員の半数が海外にいる資生堂では、従業員の目線を合わせて「One Shiseido」として一体化していくことを目指し、「WITH」というプラットフォームを立ち上げました。
日・英・中の三か国語対応に加え、高頻度で動画コンテンツが配信されており、従業員はページを開けば毎日新しい情報に触れられるという環境になっています。資生堂の世界各地の社内広報担当者が、記事を寄稿できるシステムになっていることも注目すべきポイントです。

またオムロンでは「事業を通じて社会的課題を解決し、よりよい社会をつくる」という企業理念の浸透や、戦略の浸透のために動画を活用した社内コミュニケーションを推進しています。
この企業理念実践を推し進めるため、2012年度から「TOGA (The Omron Global Awards)」というグローバルの取り組みを続けています。
これは企業理念に基づくテーマを宣言し、チームで協力しながら取り組む活動です。各事業部の予選と地区予選を実施し、その中から代表として13のチームが本社のある京都でのグローバル大会に集まります。グローバル大会は日英中の同時通訳でライブ配信され、世界のオムロンの支社へ配信されます。
TOGAを通じて、地域・職種を超えて社会的課題の解決、社会への価値創造について話し合う機会が作られ、毎年多くのテーマが世界中で宣言・実行されています。従業員自身が動画を通じて自分の活動や存在を社内にアピールできるため、仕事への意欲も高まるでしょう。

最近では、トヨタの「トヨタイムズ」に代表される"インサイドアウト型"と言われるアプローチも増えています。これは、社長と従業員とのコミュニケーションの様子なども含めたインターナルコミュニケーションのコンテンツを、エクスターナルマーケティングにも応用し、社内外に発信する手法です。

このように、ひとことでインターナルコミュニケーションといっても、企業によってさまざまなアプローチ方法があることがわかります。

動画コンテンツは、「想い」と「動き」を伝えるのに効果的

インターナルコミュニケーションを実施するなかで、動画が活用されるケースが増えています。動画はテキストでメッセージを伝えるよりもエモーショナルな情報発信が行なえるため、より踏み込んだ深いアプローチが可能となります。
ただ、すべてを動画で発信するべき、というわけではありません。大事なのは「何を伝えるか」であって、フォーマットは二の次です。「何を伝えたいのか」が決まったあとに、テキストがいいのか、写真がいいのか、動画がいいのか、と考えていくとよいでしょう。
動画に向いているのは、まず「想いを伝えたい」場合。テキストだけではこぼれ落ちてしまう感情の部分を補完しながら伝えることができます。もう一つは、「動きを伝えたい」場合。新しい技術を採用した製品の動作をテキストで細かく表現するのは難しいものです。または、美容や化粧に関する講座なども、テキストより動画の方が分かりやすく伝えられると思います。このように、伝えたい内容に合わせたフォーマット選びも、インターナルコミュニケーションには大切な考え方です。

一方通行のコミュニケーションでは、情報しか伝えることができない

インターナルコミュニケーションを実施する上で注意したいのは、「一方的に情報を伝える場にならないようにすること」です。社長がひな壇に立ち、何万人もの従業員に向かって伝えたいことをただ伝える、というような動画もよく目にします。
この方法でも情報は伝わるかもしれませんが、受け手である従業員たちがそれをどのように受け取るかは分かりません。従業員満足度を上げるためには、彼らが共感を持ってもらえるような形で情報発信をすることが必要です。
冒頭でお話した当社のタウンホールミーティングでも、事前に従業員から質問を受け付けたり、終わった後にフィードバックを受け付けたりと、参加者を積極的に巻き込むことを意識しています。従業員が実際に聞きたい内容を集めて答えることで、一方通行ではないインタラクティブなコミュニケーションが可能になり、従業員の帰属意識の向上にもつながります。
インターナルコミュニケーションを通して従業員に何を伝えたいかは、企業ごとに異なります。しかし、どんな場合でも重要なのは、会社の戦略・ミッションに対して自社が何を行っているのかを適切な方法で丁寧に伝えていくこと。そして、従業員をどのような形で巻き込んでいくか考えることです。従業員に「これは自分にはあまり関係ないことだ」と思わせてしまうと、従業員から本当の理解を得ることができません。従業員が共感を持ってもらうためのアプローチ方法を探してみてください。

筆者プロフィール
ブライトコーブ株式会社 代表取締役社長 川延 浩彰(かわのべ ひろあき) 

合計で15年以上のビジネス経験を有し、そのうち約10年にわたり動画配信プラットフォーム事業に携わる。
ブライトコーブでは、マーケティング兼アカウントマネージャーとして入社し、ブライトコーブ株式会社第一号のアカウントマネージャーとして、日本のブランド並びにメディア企業の動画配信プロジェクトに従事。その後、2016年には、アカウントマネジメント統括としてブライトコーブ株式会社の既存ビジネスの総責任者に着任。2018年よりVice Presidentとして韓国事業並びに日本市場におけるセールスを統括。2019年9月より現職。
下関市立大学経済学部卒業。カナダビクトリア大学 Peter B. Gustavason School 経営学修(Entreneurship専攻)。

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