2020.12.18
SNS、アプリ発の女子マンガトレンド2020 〜Palcy、with onlineのマーケティング活用事例〜 ──「講談社メディアカンファレンス 2.0」ビジネスプログラムレポート④
"出版広告の再発明に繫がるプログラム"が多数配信された「講談社メディアカンファレンス 2.0」。今回はその中から、ビジネスプログラム「SNS、アプリ発の女子マンガトレンド2020 〜Palcy、with onlineのマーケティング活用事例〜」のレポートをお届けします。
SNS、アプリマンガならではの読者層や新しいヒットの形とは? 株式会社講談社 第三事業局『Palcy』編集長 助宗 佑美と、同 第二事業局『with online』編集長 岡本 朋子の2人が解説します。
マンガアプリ『Palcy』、女性誌No.1サイト『with online』とは?
『Palcy』編集長 助宗 佑美(以下、助宗) 2年前にスタートした『Palcy』は、300万ダウンロードを突破したマンガアプリです。『なかよし』から『BE・LOVE』までの5誌のマンガを中心に読むことができ、少女マンガ好きのユーザーに広く利用されています。
ユーザーのほとんどは女性で、恋愛マンガが多いことから10〜30代中盤のユーザーが中心です。また、ダイエットや妊活、お金などのオリジナルエッセイマンガも連載しており、なかでもハウツーメイクマンガエッセイの『メイクはただの魔法じゃないの』が人気です。
『with online』編集長 岡本 朋子(以下、岡本) 3年前にリニューアルした『with online』は2020年5月に1億PVを達成し、本誌とオンラインで女性誌No.1のサイトになりました。独身や既婚、子供の有無などを限定せず、すべての女性が楽しめて役に立つコンテンツを作っています。ユーザーは20代〜30代の女性が中心です。
他誌にはない強みとしては、オリジナルコンテンツが豊富なこと。なかでも連載マンガが大人気で、今年ドラマ化された婚活マンガ『ピーナッツバターサンドウィッチ』や、累計5億PVを誇るモンスターコンテンツ『rikkaの恋愛メモランダム』などがあります。
私は以前、マンガの編集部にいたんです。その強みを活かすべく、『with online』のコンテンツにマンガを取り入れることにしました。これが功を奏し、最近ではインスタグラムなどのSNS上でも話題になるなど、非常に好評を得ていることをうれしく思っています。
加えて、全国に4000人在籍している読者組織「with Lab メンバーズ」が活発に活動しており、サイト上では彼女たちの書いた記事を読むこともできます。さらに『with online』はYouTubeも評判で、チャンネル登録者数は6万人と、OL誌の中ではナンバーワンを誇ります。
『with online』マンガのタイアップ事例
岡本 『with online』のタイアップ事例の一部をご紹介します。まずは『ピーナッツバターサンドウィッチ』で日本生命様と一緒に作ったコンテンツです。"難しいことを簡単に説明できる"というマンガの特徴を利用して、説明が難しい金融商品をストーリー立てて圧倒的にわかりやすくしました。
岡本 美容系のクライアント様との事例では、『ピーナッツバターサンドウィッチ』の作者のミツコさんが大変なコスメマニアで、しかもSNSと連動してできるという方で、彼女と一緒にコスメ企画を実施し、売り上げが倍増した企画がありました。
岡本 また、読者と一緒につくる企画では「& chouette」さんと読者がコラボしてバッグをデザインし、それをマンガのストーリーで訴求するという企画も行いました。
助宗 『with online』の読者はどういう方たちですか?
岡本 短時間でたくさんの情報を得たいという方が多いです。
助宗 『Palcy』も同じで、通常のマンガは1話が30〜40ページですが、通勤時間の間にぱっと読みたい方が多いので、30ページを3分割して10ページずつ読めるような形で掲載しています。
マンガ読者というとオタク、腐女子などのイメージがあるかもしれませんが、『Palcy』ではマンガを楽しんでいるけれど、別のところではファッションやメイクのリサーチをしているなど、普通の女の子が多い印象です。『Palcy』の中にも『with online』のコンテンツを置いていますが、いちばん読まれています。短時間でぱっと情報を吸収して、ポジティブに人生を歩みたいという欲求を感じます。
リアルな情報を反映することで生まれる「共感」
岡本 『Palcy』では、マンガをつくるときに読者調査をしますか?
助宗 はい。閲読データを取っているので人気作がすぐにわかりますし、「人気の男の子のキャラクター」などのデータも分析して、次のエピソードに活かしています。
岡本 『with online』では、with Labメンバーズの方たちと頻繁にやりとりしていて、彼女たちが今、興味を持っていることを、ほぼ毎週のように聞いています。
助宗 『ピーナッツバターサンドウィッチ』を読んだときに、キャラクターがそれぞれの性格を担っていて、色々なタイプの子を一気に楽しめる、よくできた作品だなと思いました。
岡本 それも、マンガの中に情報を入れたいと思い作ったからなんです。「今、いちばん成果が出る婚活はなんだろう?」「周りの友達はどんな婚活をしてるんだろう?」など、アンケート調査の結果をストーリーに反映することで、通常のマンガよりも、読者に親近感を持ってもらえることができたのだと思います。
助宗 『ピーナッツバターサンドウィッチ』のPRマンガは、岡本さんが作られたのですか?
岡本 はい。クライアント様から伺った商品の訴求ポイントをもとに、うちの読者が見るならどう訴求するのが響くか、という視点で考えました。
具体的には、『ピーナッツバターサンドウィッチ』の4人のキャラクターのうち、誰が商品を紹介すると効果的かを考え、ストーリーに自然に商品が入ることを大切にしました。美容オタクの秘書の子がコスメを薦めて、他の3人のキャラクターが「じゃあ私も試してみる!」という女子会のようなシチュエーションにすることで、マンガの世界観をそのままストーリーに落とし込みました。
助宗 マンガの世界観の延長線のストーリーがあると、読者も自然とその話題に入っていけますね。
岡本 PR色が緩和されますし、「共感」しやすくなるという効果もあると感じています。
PRマンガを講談社の編集部と作るメリット
助宗 マンガの連載を担当していると、絶えず作家さんと連絡を取りますし、講談社としても作品を守っていくという意味で、作家さんがどのような振る舞いをしているのか、SNSでどんな発言をしているのかなどを編集者が見ていますので、そういった点も企業様の安心材料になると思います。
作家さんに直接お問い合わせして成り立っているPRマンガもあると思いますが、講談社が作家さんのマネージメントをしていることも"講談社の強み"だと感じています。
岡本 作家と編集者は、信頼関係のもとに成り立っていますからね。『ピーナッツバターサンドウィッチ』のようなPRマンガのつくりかたは、『Palcy』でも可能ですよね?
助宗 はい。エッセイマンガもたくさんありますし、ダイエット、婚活、メイクなど、現在連載しているジャンルごとに、作品の世界観を生かしたPRマンガをつくることができると思います。
岡本 『Palcy』でつくったマンガを、『with online』に載せたりすればリーチも広がりますね。
助宗 読者さんは同じようなタイプの方だと思うので、どちらに載せても楽しんでもらえそうです。
SNSとマンガ家、そこに編集部が介在する意味
助宗 『with online」では、マンガ家さんをどうやって探していますか?
岡本 主にインスタグラムですね。『with』は情報感度の高い女の子たちが読者とあって、インスタで情報を得ているケースが高いんです。
助宗 今までは、マンガ家さんが告知をする際はツイッターを利用するケースが多い印象でしたが、最近、若い作家さんは積極的にインスタを活用していますよね。
岡本 インスタで強さを発揮している作家さんは、インスタでのコミュニケーションに長けていて、こうするとフォロワーさんが喜ぶ、傷つくなどの機微をしっかり学んでいます。それをプロ目線で見て「これはコンプライアンス的にNGかも」とアドバイスすることもありますが、ファンコミュニティとの接し方はある程度おまかせしています。
ただ、マンガづくりに関してはまかせていません。プロの私たちから見て「ここでこのセリフは唐突すぎる」とか、流れ的におかしいなど色々と指摘します。SNSから探すけれども、それを育成し、プロの作家さんにするのが私たちの役目だと思います。
助宗 マンガ編集部でも同じような活動をしています。マンガ家さんを育成していくことで作品づくりに強さが出て、キャラクターをコントロールする力が強くなります。SNSは発掘する場所として良いですが、そこから安定したクリエーションを作るには、出版社と組んでいただけると良いと思います。
岡本 それはタイアップにも言えますよね。タイアップをつくるのは責任がありますから、編集者がクオリティチェックするのは大切です。
助宗 少女マンガの場合、高校卒業後にデビューする方もいるので、社会人経験が少ないことで得られなかった知識というのがあります。コンプライアンスについて教えたりだとか、マンガの売り上げとは直接関係ないことですが、そういうこともかなりやっているのが出版社の編集作業です。
PRマンガの今後の可能性
助宗 マンガタイアップの良さはたくさんありますよね。
岡本 あります。コロナ禍で特に感じたのは、雑誌の場合は撮影ができないこともありますが、マンガのタイアップは編集者とマンガ家の2人で、しかも電話だけで作れるんです。早ければ発注から1ヵ月で納品できるのも強みだと思います。
助宗 マンガ編集の作業は、どんなにビッグヒットでも意外と1対1で行われています。先生と編集者だけで進めているので、編集者が要点をつかめていれば多くの人が関わらなくて済みますし、逆に要点をまとめたものができますよね。
岡本 納期もその気になれば詰められます。
助宗 いまはメールであっという間に完成品が届きますしね。
岡本 マンガでもタイアップができるのは知ってはいるけれど、経験がないから躊躇されるクライアントさんもいらっしゃるかもしれませんが、実は撮影のあるタイアップよりも制作ハードルは低いので、お気軽に発注していただけるとうれしいですね。
助宗 マンガ家の先生とのコミュニケーションは難しそうと感じる方もいると思いますが、編集者と作家は毎日顔をつきあわせていますので、その関係性を信頼していただければ、ご心配されるほど「先生がこんなことを言っていて大変だ」ということにはなりません。今日のお話で『with online』と『Palcy』で一緒に何かできたらなと思いました。
岡本 読者層も近いですし、コラボレーションできたらいいですね。『with online』もオリジナルマンガはありますが、作家の数では『Palcy』の方が多いですし、それこそが強みでもあると思います。
助宗 『Palcy』は、講談社の少女マンガ誌で連載している「すべてのマンガ家さんと繋がっている」と言っても過言ではないメディアです。従来のビックヒットコンテンツと企業様がコラボする、という考え方もありますし、先ほどお話したエッセイマンガ家さんなどの場合には、企業様のタイアップ事例に紐づいた作品をつくっていくようなPRマンガも展開可能だと思います。
岡本 マンガは、難しそうなことをわかりやすく伝えるのに、とてもいいツールですしね。
助宗 いまのマンガ家さんは商品をきれいに、きちんと描くことができるので、もちろん写真で見せる美しさもあると思いますが、絵でかわいく描いてもらうことで、その商品の魅力がよりくっきりと、際立って見えることもあるはずです。
岡本 マンガの場合「これを使ってみたらすごくハッピーになった」などのストーリーが見えますし、エモーショナルに伝えることもできます。もし写真が必要になった場合も、WEBサイトなら組み合わせることもできますし、『Palcy』でつくったマンガを動画にしたり、『with online』の記事とのミックスもできるのではないかと思います。
助宗 若い世代は動画に慣れているので、マンガ部署としてもただ静止画のマンガを作るのではなく、絵を動かしてく必要もあると感じています。従来のマンガタイアップとは異なり、タイアップ事例から先に動画を作ってもいいかもしれませんね。
岡本 一緒にやるならwithモデルと組み合わせても面白いかもしれませんし、可能性はたくさんありますね。『with online』でも『Palcy』でも、2つ一緒にでも、講談社としてはメディアを超えた取り組みを実施していきたいので、ぜひお気軽にお問い合わせいただけると幸いです。