<新連載>データをチカラに アドテクノロジーとWEB広告
Web広告の出稿を検討する際に、必ずといってよいほど登場するアドテクノロジーや広告プラットフォームに関するキーワード。その知識やトレンドは、デジタル広告全般に関わるマーケターにとって必須です。
そこで今月より、基本的な知識からWEB広告で効果を生み出すポイント、そして最新の情報まで、アドテクノロジーや広告プラットフォームにスポットを当てた連載コラムをスタートします。
第1回は、Web広告における基本ともいえるアドネットワークやDSPなどの位置づけとしくみを解説し、それらのインフラとユーザーデータを活用したターゲティング手法などについて触れていきます。
アドネットワークとは何か、なぜ生まれたか
インターネットを介した広告全般を指す、「Web広告」。1996年ごろ日本で最初のバナー広告が登場してから2020年までに、その価値はゆるぎないものとなり、今ではあらゆる業界で多くの企業がWeb広告をマーケティングに利用しています。
その発展の中で、さまざまな広告枠を集めたネットワークである「アドネットワーク」が生まれました。その必要性を知るために、まずWeb広告の特性から解説します。
Web広告の最大の特徴は、優れたターゲティング力とインタラクティブ性です。
ターゲティングとは、商品やサービスをどの顧客層に絞り込んで訴求するか標的を定めることです。そしてWebサイトは他媒体と比べ、より相手を絞り込んで広告を出せるメリットがあります。
そしてユーザーはその広告に対し、クリック(あるいはタップ)などのアクションを起こすことができます。一方的に広告を提示するのみにとどまらず、商品購入へと導いたり、ユーザーがどの道筋を通って商品購入に至ったか知ったりできることが、Web広告のインタラクティブ性です。こうした強みを持つWeb広告ですが、その強みを活かした効果的な広告運用のためには、掲載先のメディアを理解し、適切なユーザーに届けるためにどのような掲載プランを採用すればいいかを判断しなければなりません。
Web広告の黎明期は、個々のメディアに広告主が広告掲載を依頼し対価を支払う「純広告」が一般的でした。よって当時の担当者は、メディア一つひとつに対してこのような検討と判断を行っていました。
ただ単一メディアに広告を掲載しているならば施策の骨子はシンプルです。しかし、これが複数メディアにわたり、さらにアフィリエイトやリスティングなど他施策と同時に実行していると、施策は複雑になります。マーケターは各メディアの資料やデータを個別に受け取り、そのうちどれが最適な広告手段なのか、コストパフォーマンスは妥当なのかなどを検討しなければなりません。
そこで生まれたのが、アドネットワークです。アドネットワークとは、さまざまなメディアをネットワークとして束ね、広告データを入札することで、複数メディアにWeb広告を一括配信できるしくみを持ったビジネスサービスです。
既に述べたとおり、アドネットワーク登場以前のWeb広告は、広告掲載先の選定や掲載までの交渉にコストがかかっていました。さらに、効果測定用のレポートもフォーマットが統一されず、正確な分析が難しいというデメリットもありました。
アドネットワークは、こうした広告掲載までのメディア選定や広告入稿業務などを効率化し、工数や人件費の節減を実現します。また、広告掲載後に事業者が媒体ごとのデータを同じ基準でまとめて提供してくれるため、正確な分析が可能になりました。
アドネットワークは2008年ごろに生まれ、Web広告の需要とメディアの急増と共に急速に浸透していきました。アドネットワーク提供企業も複数登場し、マーケターはそれらを比較しつつ、アドネットワークを介して効率的な広告配信を進めました。
DSPはアドネットワークが発展して誕生した
その後マーケターのニーズに応じ、複数アドネットワークを横断し、インプレッションベースで広告枠を取引する広告取引市場「アドエクスチェンジ」が登場します。さらにアドエクスチェンジ自体が増えたことで、複数アドエクスチェンジを一括する広告プラットフォーム、「DSP(Demand-Side Platform)」が誕生しました。
DSP自体はメディアではありません。メディアの選定、ターゲティング、広告の買付け、事後レポートなど広告運用担当者のルーティーンワークの多くを自動化し、広告配信プロセスの効率化と最適化を実現するツールとして広く活用されています。
本文冒頭で、Web広告の特徴はターゲティング力とインタラクティブ性であると述べましたが、この双方を活かすためにマーケターが扱うデータは実に膨大です。
マーケターはアドネットワークやDSPなどを採用することで、アドテクノロジーを活用した広告運用ができるようになりました。最適なターゲットへの広告配信にとどまらず、その広告とユーザーの間に生まれるデータ取得と分析を繰り返すことで、絶え間ないPDCAサイクルを回す広告運用が一般化したのです。
ユーザーデータとターゲティング
次に、アドネットワークやDSPなどの運用の要となる、Web広告におけるターゲティングのしくみや効果測定方法について考えていきます。
ターゲット分析の根幹となるのは、閲覧履歴を中心としたさまざまなユーザーデータです。これらのデータは、ユーザーのブラウザに保存されたCookieデータに基づくことがほとんどです。
そのCookieから得た閲覧履歴データを分析し、適切な広告を配信する「行動ターゲティング広告(BTA、Behavioral Targeting Advertising)」が、Web広告の最初の柱ともいえる広告です。
このBTAの手法の代表的なものが「リターゲティング」です。リターゲティングとは、特定のWebサイトを訪問したユーザーに対し、その商品やサービスの広告を配信するしくみのことを指します。すでにWebサイトに訪問したということは、サービスに関心度の高いユーザーと判断できます。こうしたユーザー層に再度広告を配信するのが、リターゲティングのねらいです。
BTAに次いで浸透した手法が「オーディエンスターゲティング」です。オーディエンスターゲティングとは、Cookieデータからユーザーのパーソナリティを分析し、それをもとに広告を配信する手法のことを指します。
BTAでは閲覧履歴によって広告配信先を定義するため、その行動の根幹にあるユーザーの意思や潜在的ニーズは分析しません。一方オーディエンスターゲティングは、「こういう目的を持つ人はこんな行動をしやすい、だからこの広告が心に届きやすい」といったふうに、人の興味や趣向に焦点をあてた広告を配信するのが特徴です。
この手法を単独のWebサイトで行うと、カテゴライズが細分化されすぎて広告配信対象が少なくなってしまいますので、オーディエンスターゲティングは複数のポータルサイトを参照して行われます。
このオーディエンスターゲティングのためのデータ、いわゆる「オーディエンスデータ」は、ユーザー属性や複数ポータルサイトの行動履歴などから構成されています。オーディエンスデータはデータエクスチェンジャー(データエクスチェンジ事業者)が提供し、その販売は先述したアドネットワークやDSPを介して行われます。
オーディエンスターゲティングの有効性を具体例から考えてみましょう。あるユーザーが、ポータルサイト内で、著名なタレントが紹介するストレッチ用具のページを閲覧したとします。
この場合、タレントのファンだから閲覧したユーザーと、体の不調を改善したくて閲覧したユーザーとでは、ストレッチ用具の購入意欲に大きな差があります。この体の不調を改善したいユーザーは、行動にどのような特性があって、どんなページに惹かれるのか。それをつまびらかにするのが、オーディエンスデータということです。
リターゲティングだと、このページを閲覧したユーザーはすべてストレッチ用具の広告配信の対象となりますが、オーディエンスリターゲティングでは、体の不調を改善したいとカテゴライズされたユーザーが広告配信の対象になるのです。
3PASで効果測定に必要なデータを集約
Web広告における効果測定とは、煎じ詰めれば「何が商品購入などのユーザー行動の理由となったか」を判断することです。広告をクリックして商品を購入したユーザーの数からこれがわかるかと言うと、決してそうではありません。
そこからは購入の引き金となった要因はわかりませんし、これまでユーザーがどんな道筋を通って購入を決断したかも不明だからです。さらに、広告をクリックせず商品を購入したユーザーの意図を分析することもできません。
ユーザーの購入意欲につながる要因は多種多様です。初めて広告をクリックしたときは検討のみで離脱し、再度検索してリスティング広告からWebサイトを訪問することもあるでしょうし、SEO対策記事を閲覧していく過程で購入を決断することもあるでしょう。
また、リスティングやアフィリエイトといった異なるタイプのWeb広告を同時に展開している場合、「何がユーザーの商品購入の理由となったか」説明するためには、すべてのデータを複合的に分析しなければなりません。
このようにさまざまなWeb広告やマーケティング施策に関するデータを管理し、効果測定するために登場したのが「3PAS(第三者配信アドサーバー)」です。3PASを利用することで、広告主はSEO記事とリスティング広告、ディスプレイ広告を横断した効果測定を実施し、コンバージョンに至ったユーザーの広告接触パスを分析できるようになりました。
多岐にわたるWeb広告を同等の評価基準で比較することで、マーケターはより価値のある施策を選択できるようになります。複数DSPを運用している場合でも、最終的に3PASのシステムを介して統一的な効果測定が可能です。
DMPを活用したマーケティング施策と課題
ここまでで解説した内容を一度まとめます。Web広告はインターネット上で訴求する情報をもとに、ユーザーの商品購入を促します。商品購入率を高めるためには、どんなユーザーがその広告に興味を抱くのか分析し、購入を見込めるユーザーに広告を配信するシステムが必要です。
そのために次々と誕生したのが、アドネットワーク、アドエクスチェンジ、データエクスチェンジ、そしてDSPです。さらに、それらから得られたデータを分析し、正確な効果測定を行うための3PASが普及しました。
これらが参照しているのは、基本的にはユーザーのCookieデータです。Web閲覧履歴をもとに、そのユーザーが広告に興味を持ち、商品を購入する可能性を検討します。ユーザーのカテゴライズから行動パターンを推測し、より購入意欲の高いユーザーを絞り込んでいくのがオーディエンスデータです。
アドネットワークの登場から端を発した第三者配信の流れは、増え続けるプラットフォーマーのデータ統合と、より詳細なユーザー分析という二軸によって進歩してきました。しかし、こうしたWeb広告領域の発展は、あくまでマーケティング施策の一角であるということを忘れてはなりません。
例えばソーシャルメディアを利用した情報発信は、どのような効果をもたらしているのか。あるいはWeb以外、テレビや雑誌を介して掲載した広告はどうか。自社サイトで会員登録したユーザーはどのような傾向があるのか? リピートして購入される商品の傾向は? 外部ECサイトの売上は......? こうした自社・外部双方のデータを一元管理して初めて、商品価値がどのように届いているかを分析することができるでしょう。
そんなマーケティング施策全体のデータマネジメントを担うのが、「DMP(Data Management Platform)」です。DMPは2012年ごろ登場したシステムで、先に述べたような第三者配信データと自社データを横断し、貯蓄されたデータから広告配信などのマーケティング活動をマネジメントします。
DMPはオープンDMPとプライベートDMPに分類されます。オープンDMPとは、自社サイト訪問ユーザーのデータと外部オーディエンスデータを管理する、クラウド型のプラットフォームサービスです。一方、プライベートDMPは、それに加えて自社の顧客データや取引ログなどすべてを集約し、独自のプラットフォームを構築することを指します。
マーケティングの精度を高める鍵を握るDMPですが、DMP導入には莫大なコストと自社内の理解が求められます。特にプライベートDMPを構築するためには、部署を横断したデータ管理や連携が必要不可欠です。DMPを活用していくための基盤づくりには、マーケターの範疇を越えた課題も生じてくるでしょう。つまり、DMPは企業が関わりうるすべてのデータをクラウド管理し、マーケティング施策に結び付けていくソリューションなのです。
Web広告の効果を最大限に活かすために
今回はWeb広告の基本ともいえるアドネットワークやDSPなどをはじめとして、アドテクノロジーについて考えていくための基礎知識をまとめました。今後も本連載ではWeb広告やアドテクノロジーに関するさまざまなテーマを扱っていきますが、その根底にある課題意識は、企業全体のデータ管理とマーケティングのPDCAを可視化することの重要性です。
Web広告独自の概念やシステムが存在することで混乱しやすいところではありますが、企業が持つさまざまなユーザーデータを分析し、アクションに落としこむための手がかりとなることが今回の連載の目標です。
次回は少し範囲を広げ、デジタル広告全体のトレンドと代表的なプラットフォーマー、そしてユーザーの傾向を紹介します。デジタル領域における広告掲載の可能性がどこまで広がっているのか検討し、それをもとに自社プランを考える機会となれば幸いです。
筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)
広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。