2020.08.11

「ミイの言葉が教えてくれた、"勇気"の大切さ」ムーミンバレーパーク クリエイティブディレクター 小栗了──マンガから学んだことvol.3

さまざまな分野で活躍する人物から「マンガから学んだこと」を聞く連載。今回は、埼玉県飯能市にあるテーマパーク「ムーミンバレーパーク」のクリエイティブディレクター 小栗了さんに、"ムーミンから学んだこと"を聞きました。

ムーミンバレーパーク クリエイティブディレクター 小栗 了さん
イベント制作会社NAC代表取締役社長。
シルク・ドゥ・ソレイユシアター東京の立ち上げから閉館まで、日本スタッフ代表を務める。
その後、企業イベントを中心に、幅広いジャンルのプロデュースや演出を手がける


運命を感じた「ムーミンの仕事」

──まず「ムーミンバレーパーク」、そして同施設における小栗さんの立ち位置について教えてください。

小栗 埼玉県飯能市にある「ムーミンバレーパーク」は、ムーミンの物語を追体験できる郊外型のアミューズメントパークです。当初は、ムーミンたちが登場するキャラクターショーの脚本・演出のみを担当していたのですが、今年4月からパーク全体のクリエイティブディレクションを担当することになりました。

ムーミンバレーパークでは、13回キャラクターショーが行われており、
小栗さんが脚本と演出を担当している ©Moomin Characters ™

この話が来たとき、僕は「運命だ」と思いました。なぜなら、僕の父と母は、ムーミンを題材にしたバレエ公演で、舞台スタッフとバレリーナとして出会っているからです。 大袈裟かもしれませんが、もし世界にムーミンがいなかったら、自分は生まれてなかったかもしれない。自分のルーツと関われる──こんなにうれしい仕事はないなと思いました。

また、「ムーミンバレーパーク自体が素晴らしい場所」というのも、"うれしい"理由のひとつでした。パーク内には、美しい緑と北欧を思わせる建物が並び、穏やかで優しい時間が流れています。それこそ、みなさんがイメージする"ムーミン谷"の空気感がそこにはあります。

緑あふれるパーク内は、「歩いているだけでも癒される」と小栗さんは語る ©Moomin Characters ™

また現在パーク内では、日本最大級、約2000本の色とりどりの傘が広がる「メッツァ アンブレラスカイ・デザインプロジェクト2020」が開催されているのですが、豊かな自然と傘が織りなす美しさは圧巻です。 本プロジェクトを手がけたアートディレクターの鈴木マサルさんも、「美しさや楽しさを体感出来る傘」「人の気持ちを豊かにする」と形容していますが、まさにその通りだと思います。 心洗われるアートの完成度の高さに加えて、"ムーミン"の世界観がマッチし、さらにその魅力を引き立てていると感じています。

メッツァ アンブレラスカイ・デザインプロジェクト2020PR動画。
緑と傘によって構成される美しい世界は、体感できるアート

──「ムーミン」は小説、絵本、マンガ、アニメとさまざまなアウトプットがあります。ショーの演出を手がけるうえで、いちばん参考にしたものは何でしょうか?

小栗 講談社さんから出ている文庫本、小説ですね。原作者であるトーベ・ヤンソンさんの書いた文章と絵に触れることで、多くの発見がありました。

「ムーミンバレーパーク」で公演しているキャラクターショーは、子ども向けなのですが、ムーミンファンは大人も多いですよね。だから僕は、"大人も楽しめるショー"を目指しました。なぜなら、原作をあらためて読んでみると、子どもはもちろん、大人が読んでも「気づき」が多くある作品だったからです。

ムーミンに登場するのは、個性豊かなキャラクターたち。スナフキンは「禁止」という言葉が嫌いで、"禁止"と書かれた立て札を外してしまう場面もあります。そんな自由な彼らの姿に、僕は一種、憧れのような気持ちを抱いています。

たとえば、ちびのミイは、もしかしたら、意地悪なイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、彼女が口にしているのは、悪口というよりも、多くの場合は"正論"に近いんです。だから心に刺さる。あの、誰に対しても、あれだけはっきりとモノが言える生き方というのは、大人にとってはちょっと羨ましいですよね(笑)。

ときには、「あんたブタみたいに寝てたわね」なんて、限りなく悪口のようなことも言いますが、いつも自分に素直でまっすぐ。空気なんて一切読まずに生きる彼女を、僕は純粋に尊敬しています。

ミイの言葉から、「勇気」の大切さを学んだ

──ミイから学んだことはありますか?

小栗 あります。『ムーミン谷の仲間たち』では、皮肉を言われ続け、心に傷を負い、姿が見えない透明人間になってしまった「ニンニ」というキャラクターが登場します。

ムーミン全集[新版]6 ムーミン谷の仲間たち
著:トーベ・ヤンソン 訳:山室 静

話すことも、笑うことも、泣くこともできないニンニ。普通は同情しちゃいますよね。だけどミイは違います。ズバっと言うんです。「それがあんたの悪いところ。たたかうことを覚えてないうちは、あんたは自分の顔を持てない」って。やがてニンニは、自らの行動によって、元の姿を取り戻します。

結局は自分次第。もし、現状を変えたいと願うなら、それができるのは自分しかいない。ミイの言葉から、そのことを学びました。

──ミイも含め、ムーミンはキャラクターごとに、たくさんの名言がありますよね。

小栗 そうですね。だからミイもムーミンも、ファンがたくさんいます。「ムーミンバレーパーク」では、キャラクターと触れ合える時間もあるのですが、みんなうれしそうにキャラクターたちと交流しています。若い女の子は必ずといっていいほど抱きつきますし、ムーミン人気の高さを目の当たりにする瞬間は数多くあります。

その笑顔を前にしながら、もしも「ムーミンバレーパーク」にムーミンがいなかったら......、と想像したことがあります。きっと、こんなに多くの人に愛される場所にはなれなかったでしょうし、多くのメディアから注目してもらうこともなかったと思います。

すべては、"ムーミン"というキャラクターのおかげです。

ビジネス視点で捉えても、これだけパブリシティ効果が高く、集客力もある「キャラクタービジネス」のポテンシャルというのは、本当にすごいですね。頭ではわかっていたつもりでしたが、今回、そのチカラを肌で感じ、ただただ驚いています。

小栗さんが作詞を手がけた同パークの「ダンス動画」も、
ファンを中心に拡散し、再生数が大きく伸びた

──最後に。マンガはお好きですか?

小栗 はい、大好きです。学生時代は、『はじめの一歩』や『BOYS BE...』を夢中になって読んでいました。たまに読み返すと、読んでいるうちに、"あの頃の自分"になれるような感覚が好きです。

最近だと『ブルーピリオド』や『アルスラーン戦記』にハマっているのですが、おじいちゃんになった頃に読み返して、今の自分を懐かしめたらいいなと思います。できれば、「いい思い出」として。その未来のために、「ムーミンバレーパーク」のためにできることを、これからも精一杯やっていきたいですね。

左から、はじめの一歩(1) 著:森川 ジョージ/BOYS BE...(1)原作:イタバシ マサヒロ 著:玉越 博幸/ブルーピリオド(1) 著:山口 つばさ/アルスラーン戦記(1) 著:荒川 弘 原作:田中 芳樹

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筆者プロフィール
C-station編集部

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