2020.06.26

インフルエンサーマーケティングの新たなキーワード──グローバル・バーチャルイベント「Advertising Week JAPAC」レポート②

個人と個人がつながってメディアとしての役割を担う時代に、インフルエンサーの役割はどう変わってきたのでしょうか。また、新型コロナウイルスの感染拡大は、メディアにどんな影響を与えたのでしょうか。「Advertising Week JAPAC」で行われた「『メディア化する個人』の時代に、インフルエンサーマーケティングを科学する」のセッションレポートをお届けします。

佐藤若由(以下、佐藤) 本日は、インフルエンサーマーケティングを実際に行っているお二人と一緒に、ポストコロナのインフルエンサーマーケティングについて、テクノロジー×コンテンツの両側面から考えていきたいと思います。

これまで、「インフルエンサーがフォロワーや『いいね!』を買っている」という疑念や、「#ad」というスポンサー投稿がインスタグラム上で倍増した「アドポスト問題」など、インフルエンサーマーケティングを疑問視する声は多々ありました。にもかかわらず、インフルエンサーマーケティング市場は2019年末には80億ドルを超えています。

新型コロナウイルスの感染拡大で、個人のメディア化が加速したことも大きな要因ではないかと思うのですが、お二人はどうご覧になっていますか。

堀野勝也(以下、野) コロナ禍による「おうち時間」が増えたことで、弊社が担当しているアーティストのなかには自宅ライブを先駆けて行い、同時接続2万人、Twitterのトレンド1位を達成した例があります。

佐藤 また、近年はオンラインゲーミングがかなり伸びてきたと感じています。リアルタイムでゲームをプレイできるのはもちろん、ゲームをプレイしながら会話やチャットが楽しめる、インタラクティブなゲームが増えてきました。

最近だと、人気バトルロイヤルゲーム『Fortnite(フォートナイト)』のワンタイムイベントとして行われた、人気ラッパーであるトラヴィス・スコットのイベントでは、同時接続1230万人を集めた例があります。

佐藤 これは野外フェスよりすごい集客で、実際にプレイしている実況中継も1000万再生されたと聞きました。ゲームが個人のつながりを支えるプラットフォームとして、新しいソーシャルスペースになってきているのを感じます。

野村肇(以下、野村) たしかに、ゲーム市場は非常に伸びていますよね。COVID-19の影響で、音楽や料理などの分野でも、プロではない個人が、自分でギターを弾いてSNSでシェアしたり、ホームクッキングの投稿をしたりという、個人のメディア化が大きく推進されたと思います。

佐藤 個人がメディア化してくると、これまでの「インフルエンサー」という言い方ではなく、「Trusted Curators(信頼できるキュレーター)」のような新しい定義が必要になってくるのではないかと思うのですが、お二人はどう思われますか。

野村 そうですね、「オピニオンリーダー」「コミュニケーションリーダー」という言い方の方がより適切かもしれません。

佐藤さんがおっしゃる「Trusted Curators」という定義から考えると、「innovator」とか「Forecaster」のような「未来を予測する人」という表現もできるんじゃないかと思います。

堀野 弊社では、最近「KOL (Key Opinion Leader)」という言葉をよく使っています。「これを聞くならあの人」というように、どの分野に誰が詳しいかというところを、KOLという言葉を使って表現することが多くなりました。

佐藤 インフルエンサーも「美容」「ファッション」「生活スタイル」など、得意や興味に合わせて、また、その時々のブームやタイミングに合わせて柔軟に協業していくことが重要になってくるということですね。

この図を見ていただけますか?

オーディエンスがフォローしているのは個々のインフルエンサーです。ブランドの話ありきではなく、インフルエンサー個人が、日常のタイムラインで出しているような、パイ作りとか、筋トレとか、日常の話の間にブランドの話が入ってきているのが右の流れです。

この右側のように、個人自体がメディア化しているというのがオーディエンスから見た近年の流れなのではないかと。

野村 そうですね。消費者からすると、まず共感できるインフルエンサーがいて、そのインフルエンサーが共感するブランドがある。

佐藤 そういう意味だと、ひと昔前の「メガインフルエンサー」を使ったマーケティングだけ、というよりも、今後は、「ちょっとイケてる友達の友達」くらいの距離感の人たちとのブランディングも重要になってくるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

堀野 信頼度は身近な人の方が高いですが、一方でピラミッドの下に落ちてくるにつれて、影響力が少なくなるというデメリットはあります。これはどちらかをやればいいということではなく、ミックスで活用していくのがいいと思います。

野村 新商品のローンチや認知を獲得していきたい時には、メガインフルエンサーを起用しながら一気に認知を取っていき、商品の実際の機能の説明や使用感を伝えるなど、より深く伝達したい場合は「友達の友達」レベルのナノインフルエンサーを活用するというように、補完関係し合う形がいちばん理想的です。

「誰と一緒に協業するか」というのは、ブランド側も非常に重視しています。弊社の場合はAIや各SNSチャネルのAPIなどを介してリアルタイムにデータを取得し、インフルエンサーの投稿や嗜好を分析すると同時にフォロワーの定量定性分析も行い、キャンペーンやブランドにマッチした方々をアサインしています。

佐藤 信頼性を調べたり、インフルエンサーを起用することでオーディエンスが中身にどれくらい興味があるのかなどを事前にデータで計測できたりする、というのは、すごい強みですね。こうしたデータを使ったアプローチは、近年、非常に重要視されているのではないかと思います。

各ブランドさんに「インフルエンサーマーケティングについてまわる信頼性の問題」についてお聞きしてみました。

インフルエンサーマーケティングについてまわる信頼性の問題

その結果、「インフルエンサーマーケティングは不透明だ」「業界の標準化が進めば予算を増やす」というご意見が目立ちました。キャンペーンで、どのくらいの効果が出たのかが見えにくかったことも課題だったと思います。

こうした課題を解決するために、最近のインフルエンサーマーケティングでは、どのようなことを意識されているのでしょうか。

野村 これまで、インフルエンサーマーケティングのキャンペーンは単発的なものが多く、ワンショットでどれだけリーチ、いいね!されるかがカギでした。でもここ1〜2年は、単純に「いいね!」の数ではなく、リンク先に飛ぶなど、「実際の行動変容につながったかどうか」という部分まで見ていくことを重視しています。

コメントも、「実際にお店行ってきました」と「かわいいね」では、熱量が全然違いますよね。ですから、実際に行動変容を促したようなコメントが出た場合には、「10ポイント」と評価するなど、新しい指標を作っていきながら、中長期的な視点で標準化・平準化を図っていくのがトレンドになりつつあると見ています。

佐藤 数字的なアプローチもしながら、どうメッセージをデリバリーしていくのかというのも、大きなテーマです。今、消費者のニーズが細分化していますよね。ですから、ひとつのキャンペーンに対して1メッセージというやり方ではなく、中心のコアは保ったまま、いろいろな話法を使い分けながら、それぞれのオーディエンスの琴線に触れるようなメッセージをつくっていくことが重要だと感じました。

堀野 弊社でプロデュースしているEvery Little Thingの伊藤一朗さんに何が"フィット"しているのかを検証する取り組みとして、「ただ皿うどんを食べる動画」と、「ギター講座の動画」を上げたことがあります。皿うどんを食べるだけの動画はあまり再生数が伸びなかったんですが、ギター講座は32万回再生されました。この結果からも、今後は「ブランドファーストではなく、メッセージファーストでコンテンツを考える」ことが、より重要になってくると感じました。

これからのメッセージデリバリー

佐藤 ブランドとインフルエンサー、ブランドと自分のパーソナリティのマッチは非常に重要ですよね。自分の信条に合わないメッセージを発信しているブランドとは付き合わないとか、自分が実際に使っていない、実感が伴わないメッセージは発信したくない、というインフルエンサーも増えています。

現代のオーディエンスは、日常的かつ能動的にコンテンツを作り出し、拡散し、受け取ることを繰り返しています。こうしたオーディエンスに刺さるキーワードは、好きなモノを、好きな時に楽しめる「オンデマンド」、高い信頼性「オーセンティック」、そして「パーソナル」の3つだと言えます。これらのキーワードを意識したメッセージと、そのメッセージを適切に発信できるインフルエンサーの存在が、より重要になってくるのではないかと思っています。

堀野 メディアといっても最後は「人」が重要です。盛り上がれば何でもいいというわけではなく、アルファボートとしてはこれからもソーシャルグッドを大前提としたコンテンツを考えていきたいと思います。

野村 まさにブランドではなく「人」が主体となっているが故に、ブランドは誰と協業するか非常に重要なポイントですので、引き続きテクノロジーを活用しながらサポートをしていければと思っております。

佐藤 そうですね。このフィールドには今後も注目していきたいと思います。本日はありがとうございました。


「メディア化する個人」の時代に、インフルエンサーマーケティングを科学する

・開催日時:2020年6月10日(水)16:00〜

・講演者:
野村肇(IDH Media株式会社 代表取締役)
堀野勝也(アルファボート合同会社 ブランドプロデュースユニット マネージャー、チーフエバンジェリスト)
佐藤若由(株式会社電通 電通イノベーションイニシアティブ ストラテジスト)

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