2020.06.24

公共デザインからアフターコロナの世界を考える──グローバル・バーチャルイベント「Advertising Week JAPAC」レポート①

先日、開催されたグローバル・バーチャルイベント「Advertising Week JAPAC」。当日はさまざまなセッションが開催され、参加者に多くの気づき、刺激を届けました。今回はそのなかから、セッション「ばらばらの人たちの『間』にあるもの」をレポートします。

公共デザイン研究所 エグゼクティブプロデューサーの笠松良彦さん

本セッションでは、アフターコロナにこそ求められる「公共デザイン」という視点から、「分断されない社会を創る」ための知見が共有されました。

登壇者は、建築家の青木淳さん、同 千葉学さん、救急医の行岡哲男さん、先端教育の中邑賢龍さんという、さまざまな領域の第一線の専門家の方たちです。 「人はそれぞれが違う存在で、価値観も考え方もばらばら。そのままだとぶつかりあってしまう」と笠松さん。その、ばらばらの人たちの「間」で、争いが起きないようにしているのが「公共」だと言います。

では、その「公共」とはどんなものなのでしょうか。

当たり前だと思っているものは、どれも私たちの手で変えることができる

最初に登壇された建築家の青木淳さん(青木淳建築計画事務所)は、「公共のものと言っているのは我々の周り身近な、ほとんどすべてのもの」と解説します。そして、「公共のことを考える」ことが建築のいちばん重要な面だと語ります。

青木 建築とは、何をするところかといいますと、「自分たちの周りは自分たちが変えることができる」。その感覚を持つということです。

自分が住んでいるところは自分で変えられるはずだし、あるいは自分が歩いている道も、自分たちの意志で変えることができる。身近なところから出発して、我々が当たり前と思っている環境というものは、どれも我々が変えることができるわけです。そのことを感じ、実践することだと思います。

また、青木さんは、「人と人が(リアルに)出会う」ということが、すごく重要だと指摘します。

青木 リモートというのは、どこでもない場所。実際に会うというのは、その場所が"ある"ということです。どの場所で会うかによっても変わってくるし、それがどういう場所であるかによっても、そこで起きることは変わってきます。もし"変わってくる"と私たちが思わないとすれば、どんな空間でもいいことになってしってしまい、建築は意味を失ってしまいます。

青木さんは、自分と違う人もいる空間には「ルール」が必要といいます。そのルールが、「公共デザイン」だと考えています。ルールは、建築家でなくとも、自分たちでいつでも変えることができる。そして、デザインには「ほら、こんな風に変えられるよ」ということを率先して提示できる能力がある、とデザインの力を伝えました。

社会には、人と人をつなぐものが必要

次に、救急医療の現場から、新型コロナウイルスが与えた影響と、これからの人と人との関係性について、救急医の行岡哲男さん(東京医科大学名誉教授)が解説しました。

行岡 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)は、社会的病気と定義すべき。社会を基礎からつぶしてしまうパワーを秘めています。

「ウイルスの毒性では(COVID-19より)もっとひどいものがいくらでもある」という行岡さん。しかし、有効な薬やワクチンがまだなく、人と人が接触しない、関わらないようにして、病気を社会から隔絶する対処しかできないCOVID-19は、「社会を基礎からつぶしてしまう、インパクトのある病気」だと言います。

新型コロナウイルスの感染拡大は、経済だけでなく、教育、文化・芸術にも大きなダメージを与えました。だからこそ「社会には、人と人をつなぐものが必要」だと、行岡さんは強調します。

行岡 ハンナ・アーレントという政治学者が「in between(介在的関係性)」という概念を言っています。介在関係性をつぶしてしまうということは、社会が成り立たなくなってしまうということであり、経済が成り立たなくなってしまう、ということです。

COVID-19に対抗するには、人と人とのつながりを断つこと。しかし、新たな公共デザインを組み込むことで「in between(介在的関係性)」を確保するということを考えないと、この病気への根本的対応はできない。この種の病気は、今後もまた出てくるかもしれません。その時にどういうつながりを確保していくのがいいのか、それを考えないといけません。

笠松さんは、「だからこそ、人と人の間をなんとかする、公共の新しいデザインが求められている」と賛同しました。次に登場したのは、東京大学先端科学技術研究センター教授の中邑賢龍さん。今の子どもたちが抱える課題とその解決策について、見解をシェアしました。

子どもに必要な「R2D2」の「場」を広げたい

中邑さんは、「子育てがインスタント化してしまった」弊害で、「子どもが生きにくくなっている」と警鐘を鳴らします。

中邑 イノベーションが起きにくくなっている。5教科中心の成績評価、明るく仲良く元気よくという軸、これがおかしいなんて思っている人はいません。「これおかしいじゃないか」と、主張するような子どもが今、育たなくなっているように感じます。

かつての子どもたちは、地域のつながりや3世代同居など、多様な価値観の中で育っていました。そうした、コミュニティや祖父母が負っていたことを取り戻さないといけないと、中邑さんは考えています。

中邑さんは、2014年からユニークな子どもたちが自分らしさを発揮できる「ROCKET(Room Of Children with Kokorozashi and Extra-ordinary Talents)」という空間を通して、学びの多様性を切り拓く「School of Nippon構想」を進めています。そんな中邑さんが、今、子どもたちに必要だと考えているのは、「R2D2」です。これは、「Reality」「Resilience」「Development」「Diversity」の4つを表しています。

中邑 時間空間を超えた学びの場。固定的な学校だけでは、子どもは吸収できないと思っています。もちろん8割の普通の子どもたちは、そこでいいのですが、残り2割のユニークな少年たちが吸収されるような場所をつくらないといけないと考えています。

中邑さんが展開する「ROCKET」は、地域とともに子どもたちを発掘するひとつのアイデアです。地域の特性を活かした一週間の特別プログラムを自治体と企業とで連携し、それを出席扱いとするなどの教育プログラムを行っています。「これはまさに公共デザイン」という中邑さん。今の学校教育システムと両輪で、新しい学びの場所と自由な学びのスタイルを各地域で展開できるよう、プロジェクトを進めています。

人と人の「間」をつなぐ、公共デザイン

最後に登場した、建築家の千葉学さん(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授)は、社会の多様性を推進するために、公共デザインは何ができるかを伝えました。千葉さんは、かつて大怪我をして車椅子生活になったときに「障がい者と健常者の境目がどこにあるのかということを随分考えた」そうです。こうした経験から「多様な視点を持つのはぜひ考えていけるといい」と言います。

たとえば、東日本大震災の時は、人と人がいかにつながるかが重要視されました。しかし、今回の新型コロナウイルス感染拡大では、人と人がいかに離れるかが重視されています。「つながりが大事」と言われた震災時も、一人でいる時間や場所は、やはりなくてはならないということが言われ、逆に今は、「離れろ」と言われているなか、さまざまな方法で人とつながる方法が出てきていると、千葉さんは見ています。

千葉 公共のデザインは、人がつながるとか離れるという、ひとつの価値に振れることではなく、何を介してつながったり、一人になったりすることができるかということを考えていくことです。

生身の人間同士がつながったり、離れたりするのは難しいけれど、何かが間に介すると、逆にうまくいったりスムーズに進んだりする。"何"がその間を取り持つか。それが最終的に、デザインにつながっていきます。

4人の専門家の話を受け、笠松さんは「人はみなばらばらです。そのぶつかりあうところをうまくつくるには、平均を取るのではなく、また特別な人に合わせるのでもなく、ばらばらの人々それぞれが、これからどういう生活をするのだろうということに思いを馳せてつくる必要がある」といい、今後のビジョンについて、こう語りました。

笠松 あらゆる人のためでありながら、よく出来ているものをつくりたい。10年後100年後の社会を見据えて、やがて文化遺産や世界遺産になるような──。私たち公共デザイン研究所は、さまざまな専門家や企業と共に「公共」の視点で社会を見つめ直し、「他人に想いを馳せる」新しいスタンダードをつくっていこうと思います。そのために、志を同じくする仲間を募集しております。


ばらばらの人たちの『間』にあるもの

・開催日時:2020年6月10日(水)12:00〜

・講演者:
司会:笠松 良彦(Executive Producer 株式会社 イグナイト)
青木淳(建築家 青木淳建築計画事務所)
行岡 哲男(救急医 東京医科大学名誉教授)
中邑賢龍(Professor 東京大学先端科学技術研究センター教授)
千葉学(Architect 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授)

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