2020.05.29

「マンガは知識の泉。恋愛もマンガから学んだ」ニッポン放送アナウンサー 吉田尚記──マンガから学んだことvol.1

音楽、マンガ、アニメ、声優などのカルチャーを扱うラジオ番組『ミューコミプラス』でパーソナリティを務める、ニッポン放送アナウンサー 吉田尚記さん。"大のマンガ好き"として知られる吉田さんに、「マンガから学んだこと」について、聞きました。

ニッポン放送アナウンサー 吉田尚記さん
2012年、第49回「ギャラクシー賞」DJパーソナリティ賞を受賞した"日本一忙しいラジオアナウンサー"。
マンガ大賞」の発起人・実行委員でもある

少年時代から、マンガが大好きだった

──コロナの影響で暗いニュースが増えるなか、吉田さんはパーソナリティとして今、どんなことを意識して番組に臨んでいますか?

吉田 フラットでいることですね。現在もまだ、コロナの影響で世界中に苦しんでいる人がいます。また、ほとんどの方に関係あることでもあるので、伝えるべきことは伝えます。ですが、"コロナだから""今、世界は大変だから"という視点で語ることはしていません。

想像してほしいんですが、東日本大地震のときも、テレビは津波の映像を流していましたが、ラジオは津波の音なんて一切流していません。ラジオを普段から聞いてくれている人は、ラジオが非常時に不必要な不安を煽るようなことをしないことを知ってくれているんだと思います。

吉田さんがパーソナリティを務めるラジオ番組『ミューコミプラス』(ニッポン放送)は、
毎週月曜から木曜24:00〜24:53に放送中

──吉田さんといえば、「あふれるマンガ愛」で知られます。マンガを好きになったきっかけを教えてください。

吉田 少年時代からずっと、マンガが大好きでした。親いわく、幼少時代から、マンガを読んでいるときだけは静かだったそうです(笑)。

初めて買ったマンガは『ゲームセンターあらし』。小学生のときには、『ドラゴンボール』を読んでいたら乗り物に弱かったのに、まったく酔わなかった、という思い出があります。中学時代は、週刊少年マガジン、週刊少年ジャンプ、週刊少年サンデーを、毎週必ず、全部読んでいました。マガジンだと『はじめの一歩』の連載が始まったのは鮮明憶えていますね。『スーパードクターK』『ミスター味っ子』も好きでした。

はじめの一歩(1)/著:森川 ジョージ スーパードクターK(1)/著:真船 一雄 ミスター味っ子(1)/著:寺沢 大介

高校時代は、「モーニング」で連載されていた『沈黙の艦隊』を毎週ドキドキしながら読んでいました。同作は、日本初の原子力潜水艦が、政府や自衛隊の指揮下を離脱して、独立国「やまと」を宣言。世界を敵にまわして戦いを繰り広げるのですが、そこには核戦争の恐怖や国際政治などの問題提起も含まれている。そこにジャーナリズムを感じ、毎週「モーニング」の発売を心待ちにしていました。

沈黙の艦隊(1)著:かわぐちかいじ

ただ、マンガが大好きで、気になったらマニアックな作品も読みたいのに、自宅の近所の本屋さんには、ほしいマンガがないこともありました。そんなとき、友人が僕を神保町に連れて行ってくれたんです。そしたらそこには全部あった。今ならAmazonで買えますが、当時はネット通販なんてありませんから、「ほしいものが目の前にすべてある」ことに大感動したのをよく覚えています。以来、神保町には現在も、むちゃくちゃ通っています(笑)。

──年間約500冊のマンガを読むという吉田さんにとって、「マンガ」とはどんな存在ですか?

吉田 知識の泉です。

たとえば『宇宙兄弟』だと、最新の宇宙開発にまつわる情報はもちろん、宇宙開発に携わる人たちや宇宙飛行士が何を大切にしているかがわかるし、『島耕作』シリーズを読めば、サラリーマンの本音は派閥に囚われないことと、女性にモテたい、ってことだとわかるし、『ブルーピリオド』を読めば、藝大受験という未知の世界の詳細、また感覚だけに委ねられていると思っていた絵画という世界が、歴史的な技術の積み重ねに裏打ちされていることがわかる。僕にとってマンガは、自分の世界を広げてくれる、ジャーナリズムです。

宇宙兄弟(1)/著:小山 宙哉 課長 島耕作(1)/著:弘兼 憲史 ブルーピリオド(1)/著:山口 つばさ

もしもマンガがなかったら、結婚できていなかった

──そんな吉田さんが「マンガから学んだ」ことは何ですか?

吉田 いちばんは女性についてですかね。もしもマンガがなかったら、僕は結婚できてなかったと思います(笑)。

僕は男子校に通っていて兄弟も男子ばかりだし、女性と関わる機会がまったくなく、女性のことが一切わからない少年でした。そんなとき、マンガ情報誌を通して、西村しのぶさんの『サード・ガール』というマンガに出会うんです。舞台は神戸。むちゃくちゃイケてる女性たちの恋愛模様が描かれているんですが、キャラクターたちの言動が僕にはまったく理解できなかった。そこには、女性の願望が詰まっているはずなんです。なのに、1ミリもわからない。そこで、自分の考えと女性の考えは全く違うらしいぞ、と初めて気がつくんです。それでも読み進めていく中で、ちょっとずつ、「ひょっとしてこういうことを考えているのか?!」と理解しながら読み進んで行くにつれて、少しずつ女性の気持ちというのを知ることができたように思います。

おかげさまで、今は西村しのぶさんの作品が大好きで、市販されているものは多分全部持っています。マンガがなかったら、僕は一生、女心のわからない男のままだった。今でもわかってるかどうか自信はありませんが、マンガのおかげで、僕は家庭を築くことができました。

──最後に。今、おすすめのマンガ作品を教えてください。

吉田 最近、すごく推しているのが『僕はまだ野球を知らない』です。

夢だった高校野球部の監督に就任した物理教師が、チームを勝利に導く物語なのですが、野球の統計学「サイバーメトリクス」を戦略に活用して進むところが面白い。さらに予定調和にならない会話運びも魅力です。仲間が「野球を辞める」と言ったら普通、「辞めるな!」じゃないですか。でも、同作では違います。「道具くれ」って言うんですよ(笑)。斬新ですよね。

僕はまだ野球を知らない(1)/著:西餅

僕はラジオもマンガも、表現の最終形態だと思っているんです。ラジオは音だけ、マンガは紙1枚の上で表現するものがすべて。そのシンプルな世界でも、まだ"新しさ"は常に発見されています。読んだことのないものが次々出てくるんですから、これからも、自分がマンガを読まなくなることはない、と確信しています。

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筆者プロフィール
C-station編集部

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