2020.04.14

海外でも大人気! 日本のマンガが持つビジネスポテンシャルに迫る──台湾、韓国【アジア編前編】

世界が熱い視線を送る、日本の「マンガ」。海外でもその人気は高く、昨年は『銃夢』がハリウッド映画化されるなど、その注目度は増すばかりです。では、日本のマンガにはどのようなビジネスポテンシャルがあるのでしょうか。アジア圏における日本のマンガ市場について、国際ライツ事業部 山田新と宮房春佳が解説します。【アジア編前編:台湾、韓国】

ライツ・メディアビジネス局 国際ライツ事業部・山田 新

インターネットが世界とつないだ「日本のマンガ」

──日本のマンガは、海外でも高い人気があるそうですね。

山田 はい、日本のマンガは海外でも広く読まれています。
講談社のマンガでも『FAIRY TAIL』や『進撃の巨人』は世界各国でも日本国内と同じように高い人気を誇っていますし、『セーラームーン』『カードキャプターさくら』『AKIRA』『攻殻機動隊』はレジェンド的な作品として長く読み続けられています。

近年、海外でもマンガの人気にアニメ化の影響が大きく出るようになってきました。例えば『進撃の巨人』や去年でいえば『五等分の花嫁』はアニメの影響で大きく売り上げを伸ばしています。

(左)進撃の巨人(1) 著:諫山 創
(右)五等分の花嫁(1) 著:春場 ねぎ

──原作がアニメ化されて人気が加速したのですか?

宮房 『進撃の巨人』は以前から高い人気がありましたが、アニメ化により、さらにファン層が広がりました。『五等分の花嫁』は、2019年の1月にアニメ放映が始まったのですが、日本での売れ行きが伸びると同時に、海外でも人気となりました。

『進撃の巨人』をはじめ、講談社のマンガは海外でも人気が高い

山田 今、世界各国で日本のマンガが読まれているのは、インターネットにより、情報伝達が豊かになった影響も大きいです。これまでは、紙に印刷された雑誌や単行本でしかマンガが読めなかったのが、電子でマンガが読めるようになり、一気にマンガ人口が広がりました。

宮房 アニメも、昔はテレビの放送枠のなかに入るものしか放映されなかったのですが、インターネット配信が増えたことで、興味を持った人が自分で検索して見られるようになり、より多くの人に見られるようになりました。

──アジア圏だと、どんな国で日本のマンガが読まれているのですか。

山田 アジアでは、台湾と韓国、中国やタイ、ベトナム、インドネシアで多く読まれています。国の文化や、マンガが読まれてきた歴史的背景が異なるため、人気作品もその国ごとに少しずつ違いがあります。

アジア圏で講談社のマンガが公式に出版されたのは、台湾と韓国が最初です。1980年代に現地出版社と契約を結び、正式なマンガが出版されるようになりました。2000年代からは「週刊少年マガジン」の作品を中心に、マンガ雑誌の出版やマンガの単行本発売など、日本と同じサイクルで台湾のマンガマーケットが盛り上がりを見せています。

歴史がありビジネス展開しやすい台湾

──台湾で人気の高い作品を教えてください。

山田 2000年代は、『金田一少年の事件簿』『GTO』『はじめの一歩』といった作品の人気が高かったのですが、これらの作品は、今でも根強い人気を誇っています。また、台湾では『カードキャプターさくら』も人気の作品です。連載当時から高い人気があったのですが、最近「クリアカード編」という新しいシリーズが始まり、当時読者だった方を中心に、人気がさらに高まっています。

『金田一37歳の事件簿』という作品が売れているのも、かつて『金田一少年の事件簿』を読んでいた読者層のリターンが大きいと思います。こうした、30〜40代の大人のマンガ好きが一定数いるのが台湾の特長です。

金田一37歳の事件簿(1) 
原作:天樹 征丸 漫画・漫画原作:さとう ふみや

宮房 台湾で刊行された『カードキャプターさくら』の単行本最新刊は、オリジナルの付箋がついた限定版でした。『カードキャプターさくら』は、昔から作品を読んでくださっているコアなファンが多いこともあり、この高付加価値の初版限定版は、通常版よりも高い売上を達成しました。

台湾で大ヒットした『カードキャプターさくら』おまけつきの初版限定版

山田 マンガビジネスの経験がない国の場合、マンガをどこまで使っていいのか、どう使っていいのかといった基礎知識がないので、イラストを勝手に改変してしまうなど、こちらの常識では考えられないような行動をとろうとすることもあります。そういった相手だと、ビジネスパートナーとして、非常にやりにくいところがある。それに対し、90年代からずっと日本のマンガビジネスを展開している台湾では、マンガIPの基本的なルールや取引の基本をよく理解されているので、パートナーとして共同事業がやりやすいというメリットがあります。

宮房 台湾では、作家に対してのリスペクトがあるので、日本の作家がサイン会をするなどのファンイベントがニュースに取り上げられ、そのニュースを見た人がマンガに興味をもってくださるという現象も見られています。原作マンガをフィギュアなどに商品化する場合も、基本的なマンガIPのルール認識があるので、ビジネスがうまくいきます。そういった意味で、台湾は現地メーカーとの連携が取りやすいという特徴があります。

タイアップ例として、2017年の4〜6月に、『進撃の巨人』バージョンのコカコーラを販売しました。これは、アニメから派生した商品化展開です。このタイアップでは、テレビCMや、オリジナルのクリアファイルも作成し、人気を集めました。『進撃の巨人』は台湾でも人気の作品なので、日本のアニメイトに売っているような缶バッジとか抱き枕とかソフトクッションなどのグッズも、ほぼ揃っています。そういうなかで、作品をまったく知らない人にもアピールできる商品でコラボできたというのは、台湾に『進撃の巨人』がかなり浸透しているからだと思います。

台湾で発売された、コカコーラと『進撃の巨人』のコラボ商品

山田 商品とマンガのタイアップは、日本だけでなく海外でも有効です。マンガのキャラクターグッズなどは、好きな人が探しにいかないと手に入りませんが、コーラのようにどこでも気軽に購入できる商品だと、コーラを飲みたいという人にも作品を知ってもらえるという効果も期待できます。ただ、ここまでのタイアップは、かなりマスに広がらないと実現できないので、台湾での『進撃の巨人』人気の強さをあらためて実感できた事例でもありました。

こういったコラボ商品は流通対策としても有効で、お店の営業支援につながります。一般の読者の方に喜ばれるだけでなく、営業支援ツールにもなるマンガIPを、ほかの国でも、もっと広げていきたいと考えています。

電子コミックでマンガ人気が高まる韓国

山田 韓国も台湾とほぼ同じマンガビジネスの歴史をたどっていますが、韓国の場合は、国としてデジタルに力を入れているという背景に起因する特徴があります。韓国では「NAVER(ネイバー)」という最大手のインターネット検索ポータルサイトがオリジナルの電子コミックをつくっていることもあって、電子コミックの人気が非常に高い傾向にあります。

電子コミックは、紙の出版物時代と比べて圧倒的多数の作品配信が可能なため、90年代よりも高い売上を確保することができるようになりました。また、デジタルでは女性読者が多いので、少女コミックの売上が非常に高まりました。ここ最近だと、韓国では『L DK』というマンガが非常によく読まれています。

L DK(1) 著:渡辺 あゆ

台湾や韓国では、マンガのなかでも「名作」といわれるマンガに関してのポジションがあがっているという特徴もあります。

ここ2〜3年は、ハイクオリティの単行本を「保存版」として所有したいという方が増えていますが、この背景として考えられるのは、デジタル時代になって、「高付加価値・高価格路線」と、「デジタル路線」にマンガが二極化したことがあげられます。「一回読んだら終わり」という雑誌的な読み方はデジタルで楽しみ、保存版として所有したい作品は、箱入りの豪華仕様を購入する、という流れです。

宮房 実際に、現地出版社と相談のうえで『カードキャプターさくら』や『寄生獣』といった旧名作で、この豪華装丁版を発行しました。講談社としては、「絶対に当たる」という確信があったのですが、現地出版社は、最初は「マンガをそんな高い値段で買うわけがない」と渋っていました。結局、『カードキャプターさくら』は高い値段にして付録をつけたものが通常版より多い販売部数を出しました。また、『寄生獣』は、2年前の映画化のタイミングで、旧作ファンに向けて特別装丁版を出版したのが当たり、かなり売れました。ただこれは作品を選ぶと思います。

韓国で発売された、『寄生獣』の豪華装丁版(ボックス仕様)

山田 韓国では、『将太の寿司』や『神の雫』などでは、その人気の高さから、「マンガ」という分野を横断してのIP展開が行われています。

『将太の寿司』は90年代からの「週刊少年マガジン」を中心としたマンガの全盛時代に、もっとも人気があったマンガです。『将太の寿司』は料理のマンガというよりも、少年の成長譚として韓国内で高く評価されていて、企業の社員教育教材などにキャラクターが使われたこともありました。それほど韓国国民に広く浸透している作品だといえます。

『神の雫』はワインの飲み方、つきあい方を学ぶ、一種の教養本というカテゴライズです。富裕層を中心に高い支持を集めていて、マンガ賞ではなく文学賞のような形で作家がソウルに招かれ、表彰されたこともあります。

(左)将太の寿司(1) 著:寺沢 大介  
(右)神の雫(1) 漫画・漫画原作:オキモト・シュウ 原作:亜樹 直

宮房 韓国では『七つの大罪』のゲームも非常に売れました。全ゲームランキングの中で1位、課金ランキングでも1位を獲得してしました。このゲームは、韓国以外のほかの国でも売れていて、マンガ原作やアニメを知らないという方も、ゲームをきっかけにファンになってくれるという現象が起きています。

山田 知名度のあるマンガには、このようにさまざまな可能性があります。現地の出版社や広告代理店がまだマンガIPの出版・映像化以外の関わり方を理解されていないために、マンガIPが十分に活用されていない国もありますので、今後も現地の出版社や広告代理店と組んで、各国で展開を広げていきたいと考えています。

──後編に続く。


次回は、マンガとのゲームコラボが熱い「中国」、アニメイトもある「タイ」の現状について、ご紹介します。お楽しみに!

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