2020.04.27

中国、タイでも愛される! 日本のマンガが持つビジネスポテンシャルに迫る──中国、タイ【アジア編後編】

世界が熱い視線を送る、日本の「マンガ」。海外でもその人気は高く、注目度は増すばかりです。では、日本のマンガにはどのようなビジネスポテンシャルがあるのでしょうか。アジア前編では、台湾と韓国をご紹介。今回の後編では、中国とタイにおける日本のマンガ市場について、国際ライツ事業部 山田新と宮房春佳が解説します。【アジア編後編:中国、タイ】

前編はこちら:【アジア編前編:台湾、韓国】

中国で広がる「正規版」購読とゲーム人気

──中国ではいま、日本のマンガ人気が非常に高まってきているそうですね。

山田 はい。中国では今、日本のマンガの人気が今までにないレベルで高まっています。中国では永らく、各種規制によりマンガの出版が行われてきていませんでした。正規版マンガが刊行されていないという影響もあって海賊版が多かったのも事実です。しかし、こうした状況は、2015年くらいから電子コミックの配信が始まったことで、大きく変わりました。

理由は2つあります。
1つめは、日本マンガの正規版が多く配信されるようになったことで、「海賊版ではなく正規版を読む」という権利意識が芽生え始めたことです。

中国のマンガサイトには、コメントの書き込み欄があるのですが、「今月から私が好きだったこの作品が正規版で配信されるようになったので、これからは海賊版を読まずに正規版を読みます」みたいなコメントもあちこちで見られます。作家に対するリスペクトも含めて、「お金を払って読む」という認識が高まったと感じています。

2つめは、簡単にすぐアクセスできる正規版の登場によって、探さないと読めない海賊版を読む人が減ったということです。
通常、海賊版はインターネットの階層を2段階、3段階掘らないと見つけられませんが、正規版は誰もが手軽にアクセスできます。これまでは海賊版をわざわざ探しに行って読むような、いわゆる"マンガオタク"の人しかいなかったマンガの読者層が、手軽にアクセスできる正規版の登場によって、一般の方にまで広がりました。電子版売上は、これから先も、どんどん上がっていくと思っています。

宮房 こうしたマンガ層の広がりにより、マンガに関わる事業者の方も増えています。
特に中国では、日本のマンガを原作としたアニメのモバイルゲーム化事業が盛んになっています。最近だと、2019年5月末にリリースされた『FAIRY TAIL』のモバイルゲームが大人気となりました。

中国で大ヒットを記録した、『FAIRY TAIL』を題材とした
モバイルゲーム『妖精的尾巴:魔导少年』

ただ、こういった海外の会社さんにライセンスして一から制作するモバイルゲームは、お話をいただいてからゲームが世に出るまで、2〜3年ほどかかるため、相当前から仕込んでおく必要があります。ちなみに『FAIRY TAIL』と『七つの大罪』は、既存ゲームとのコラボでも中国で常に高い人気をキープしています。

(左)七つの大罪(1) 著:鈴木 央
(右)FAIRY TAIL(1) 著:真島 ヒロ

山田 最近の中国では、モバイルゲームで遊ぶ女性の割合が増加傾向にあります。そのため、『カードキャプターさくら』などの女性人気の高い作品のコラボ需要も高まっています。

カードキャプターさくら(1) 著:CLAMP

宮房 近年、中国人の消費スタイルが、完全にウェブを中心に切り替わってきた関係で、こうしたゲームや通販限定商品といったデジタル系にシフトしていますが、テレビCMでも実績があります。2013年頃に実施したケンタッキーと『チーズスイートホーム』のタイアップも、当時は大きな話題となりました。テレビCMと、セット商品のおまけをつけたのですが、これも原作ではなくアニメから派生したコラボです。

──アニメ化に限らず、コラボした商品からも循環が広がっているのですね。

山田 そうですね。最近も『チーズスイートホーム』とコンビニエンスストアのコラボを行ったのですが、作品を見たことがない多くの方々が「こねこのチー」というキャラクターに興味を持ち、原作の売上にもつながったという効果があったと聞いています。

ケンタッキーとコラボした『チーズスイートホーム』のステッカー

インターネットによる情報伝達の拡大によって、日本のマンガは、より多くの方に知っていただけるようになってきました。これまで書店に行かなければ読めなかったマンガが読めるようになったことで、読者の広がりにもつながっています。

宮房 マンガを紙で読むだけだった時代に比べて、デジタルで読む、あるいはより多くの映像化作品に触れる機会があるということで、アジア圏の方々の日本マンガへの触れ方も多様化してきました。そのなかには、デジタルでさっと読むだけのライトユーザーもいれば、もう少し自分の趣味としてコスプレをしたり、現地でのSNSでファンクラブをつくってオフ会を開いたりするなど、日本で行われていることが海外でも行われる状況になってきています。

山田 このマンガ人気をさらに各国に広めていくという目的も含めて、出版だけではない多様なジャンルでのマンガIP展開を拡大して、さらに日本のマンガ人気を高めていきたいと思います。

日本マンガのハブとして機能する、アニメイトバンコク店

──タイでも日本のマンガ人気が高まっていると聞きました。

山田 2015年9月に、講談社は、株式会社KADOKAWA、株式会社集英社、株式会社小学館、株式会社アニメイトとの5社共同で、株式会社ジャパンマンガアライアンス(JMA)を設立し、2016年2月にアニメイトバンコク店を立ち上げました。

タイにはまだ、マンガを揃えて売る店が少ないのが現状です。アニメイトバンコク店設立以前のタイには、日本では当たり前のマンガが1巻から最新刊までそろっていて、何が人気作品なのかがひと目で分かる形で陳列されているような書店が一軒もありませんでした。ですから、自分で探して買うことができる人は日本のマンガを読めますが、「興味はあるけれど探せない」という人には、日本のマンガ・アニメが届けられずにいました。

こうした状況を打破すべく、面白いマンガを出版するだけではなく、「正しく」届けようと、アニメイトバンコク店が設立されたのです。

日本とタイの架け橋として機能する、アニメイトバンコク店

タイでは、アニメイトバンコク店を核にして、毎週イベントを行ったり、年に1回は日本のマンガ家がタイに行ってサイン会を行ったりするなど、さまざまなコラボも展開しています。アニメイトバンコク店は東南アジアのアニメマンガファンの聖地になりつつあります。

JMAが目指しているのは、日本マンガの底上げです。アニメイトバンコク店は、それを実現するためのひとつのインフラだと考えています。アニメイトバンコク店という核となる店舗を持つことで、バンコク市内のそれ以外の場所、たとえばサイアムスクエアにあるバンコクの高級百貨店でマンガの原画展示を行うなど、さまざまなイベントを展開できるようになりました。

次の目標は、タイの電子コミックの底上げです。アニメイトバンコク店の経営で終わらせることなく、デジタル化の促進や広告宣伝を進めることで、タイの日本マンガ人気の底上げを図っていきたいと考えています。

『島耕作』シリーズ、『進撃の巨人』は、タイでも人気が高い

──JMAの設立から4年経って、具体的な効果や進展はありますか。

山田 おかげさまで、アニメイトバンコク店の売れ行きは順調に伸びていますが、課題もあります。台湾、韓国と比べると、タイではまだ現地企業とのパートナーシップがまだ十分には構築できておらず、タイアップ商品化や宣伝広告化を実現できるまでには至っていません。

台湾では、講談社と現地の企業によるタイアップができますが、タイの場合、現地企業と講談社をつないでくれる日本の企業を介さないと、タイアップは実現できない段階です。

JMAでは定期的に日本のメーカーや代理店と会議をもって、東南アジアでどんな展開ができるのかという話し合いも続けています。マンガビジネスが現地でまだ充実していないからこそ、新しいビジネスが広がることも期待できます。JMAが現地での展開をバックアップする体制を組んでいますので、たとえノウハウがなくても、何か日本のマンガIPを使った展開をやりたいと考えている企業はぜひ、ご相談いただければと思います。

私自身、もともとマンガや物語が好きなこともあり、自分が好きなマンガが現地で出版され、それが大きなヒットになると、「国際交流」に貢献できたという達成感とともに、感動を覚えます。

私が個人的にも好きなマンガで、今敏先生の『夢の化石』という作品があります。読み手にも一定のマンガリテラシーが求められる作品だと思うのですが、この『夢の化石』が一昨年に中国で出版されまして、非常に高い評価を受け、昨年には重版までかかりました。このように自分が好きなマンガが異国で受け入れられ、高い評価と販売実績を残すたび、大きな喜びと誇りを感じています。

夢の化石 今敏全短篇 著:今 敏

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