2020.03.18

<番外編>新型コロナウイルス・非常時におけるマーケティングを考える|新時代のマーケティング戦略論

新型コロナウイルスの影響のように、経済活動が全国的に停滞してしまう非常時において、マーケターはそれぞれの企業のPR戦略を考える一人者として、消費者視点での迅速なメッセージ発信を求められます。
今回は連載の番外編として、各企業の対応を例にとりながら非常時や災害時に時に選択しうる手段を考察してみます。

非常事態にマーケティングでどう対応するか

今回の新型コロナウイルスの事例をもとに、マーケティングの観点で注目したい非常時の戦略の方向性についてまとめました。
マーケターが注目すべきは、顧客のニーズの変化です。その振れ幅を理解したうえで、自社商品やサービスに合う形の戦略を構築していくと、厳しい条件下を生かした訴求力を生み出すことができるはずです。
大まかな方向性として、下記のような対策方法が考えられます。

・災害によって助けを必要とする層への援助と、それに伴う情報発信
・自社で提供し得るコンテンツへのアクセスを容易にし、新規ユーザー層に訴求
・状況に柔軟に対応し、ユーザー・コミュニケーションを活性化させる

マーケティングで利用できる武器を最大限に生かす意識も必要です。それは最新のデータであったり、社内リソースであったりするでしょう。これまで焦点をあてていたポイントをずらしてみたり、マーケティングの領域を一歩出たところに注目してみたりすることで、最適なアクションが見つかるかもしれません。
それでは、そんな企業対応をイメージできる事例をいくつか紹介します。

事例1:打撃を受けた事業者への支援

(引用元:CAMPFIRE│新型コロナウイルスサポートプログラム特集

新型コロナウイルスによる影響を特に大きく受けているのは、集客が必要となるイベントやスペースを運営する事業者です。クラウドファンディングサービス「READY FOR」と「CAMPFIRE」は、プロジェクトへのキャッシュバック対応や、継続的な営業が難しい飲食店へのクラウドファンディング特集などを、並行して進めています。
クラウドファンディングサービスの性質上、両社の対応は自然なものではありますが、そのスピード感やプレスリリースから伝わる誠意は共感を集め、SNSを中心に話題を集めています。

「READY FOR」の「新型コロナウイルスによる中止イベント支援プログラム」では、2020年3月時点で合計5つのプロジェクトが発表されました。いずれも新型コロナウイルスの影響で中止を余儀なくされたイベントです。損失金を補填することを目的とした本プログラムでは、プロジェクト・オーナーはサービス手数料なしで、目標達成の有無に関わらず資金を受け取ることができます。

そのうちのひとつ、「卒業生たちを華やかに送り出してあげたい」プロジェクトは、富士山アウトドアミュージアムによって立ち上げられたものです。環境保全活動でパートナーシップを結んできた小学生たちが、卒業式を中止せざるを得なかった現状を見た企画で、感謝の気持ちを込めたコサージュづくりのワークショップを以て保護者や小学生に楽しんでもらいたいという内容です。

何らかの災害によって影響を受けた人々への支援は、企業対応としてもっとも判断しやすく、かつ好感とともに顧客や社会に受け入れられやすいものです。その対応をどのように伝えるかがマーケターの考慮するポイントです。
一方的かつ自己完結する支援ではなく対象に寄り添うこと、可能であれば自社サービスのユーザーやパートナーを巻き込む形をとることなど、支援へシナジー効果を生みながら波及効果を高める手段を一考してみましょう。その戦略は、今後も非常時に自社製品やサービスをどのようにアレンジし、変化した市場に何ができるかを考える基盤となるはずです。

事例2:オンラインコンテンツの充実や無料提供

学校法人北九州予備校は2020年1月末日にプレスリリースを打ち、感染拡大時にもVODシステムを利用した在宅受講での対応が可能である姿勢を示しました。これは受験を控えた学生にとって大変有効な情報であり、そのリリースのスピード感を含めて学ぶべきところの多い事例です。

また今回の新型コロナウイルスによってニーズが高まっているもののひとつが、家のなかでの時間を充実させる配信コンテンツです。フジテレビジョンの提供するオンライン動画配信サービス「FOD」は、2020年3月12日に有料サービスの一部である子ども向けの4番組を無料で配信することを発表しました。休校によって時間を持て余した子どもたちと、その子どもたちへの対応に追われる保護者という明確なターゲットに届き、また将来的には有料サービスへの試用期間ともなりうる適切なマーケティング対応といえるでしょう。

こうしたオンラインコンテンツを生かした無料提供サービスは、さまざまな企業が応用できるものだと考えられます。自社のターゲット層が在宅時間に求めるオンラインコンテンツを仕掛ければ、特殊な状況下で効果的に顧客に届くメッセージになるかもしれません。

事例3:SNS投稿による"エアライブ"演出

(引用元:Twitter│Hyde

ロックバンドL'Arc~en~Cielは、新型コロナウイルスの影響により、2020年2月より開催を予定していた「ARENA TOUR MMXX」の一部公演を中止しました。
ライブ当日、参加を予定していたファンの一部が「#エアMMXX」をつけて同ライブに行く疑似体験をしよう、とTwitterで投稿しました。このハッシュタグがやがてトレンド入りし、メンバー本人まで届きます。ボーカルのhydeはライブ開演時間になるとライブ写真と共にSNS上でステージが想像できる内容を投稿し、他メンバーやスタッフも協力しながら"エアライブ"を実現しました。この様子はTwitter上で大きな話題を呼び、一部メディアでも報道されました。

この事例は熱烈なファンとそれを受け止めたアーティスト自身がいたからこそ成功したものですが、同様の熱量をマーケターが生み出すこともできるかもしれません。
楽しみにしていた体験をやむなく断念する、いつも通りの生活ができないといった潜在的ストレスは全国的に広がっています。そのストレスを解決するための誠意を見せることが、いわゆる"神対応(期待以上の対応をすることで高評価を得ること)"として受け入れられ、ユーザー・コミュニケ―ションを活性化させるきっかけとなり得るのではないでしょうか。

ヒント1:ターゲティングと発信内容の精査

(引用元:Intagram│ 川辺株式会社

新型コロナウイルスの影響下で話題となったいくつかの事例を紹介しましたが、いま起こっていることを、マーケティングの観点から正確に把握し、迅速な対応を進めていくことは容易ではありません。

消費者の消費行動や情報収集の観点は、新型コロナウイルスの動向によって大きく左右されています。その変化を自社のマーケティングで生かすためには、大まかな状況の理解では足りません。
たとえば、「マスク」という商品に対する検索キーワードを見てみると、不足した場合の対策についてのニーズと、在庫状況の把握のニーズが二分されることが顕著にわかります。

マスク不足の現状を伝えるニュースが報じられるなか、Instagramを中心に高い注目を集めたのが、ハンカチやタオル、スカーフの販売を手がける川辺株式会社の「手作り布マスク」の投稿でした。自社商品に関連付けられるハンカチやスカーフを活用しながら、具体的なマスク不足に対する解決策を打ち出しています。本投稿はSNSを中心に広く拡散されました。使い捨てでなく持続的に使える点でも、ターゲット層のニーズにマッチしていたのでしょう。
年齢や性質に応じ、どの属性の人々がどんな情報を求めているか、何を求めているか、マーケターは細かな変化を把握すべきでしょう。

ヒント2:働き方もひとつの焦点に

外出や対外的な接触を控える状況下でリモートワークが求められ、企業それぞれに課せられる業務改革の緊急性は急激に高まりました。2014年ごろよりリモートワークに積極的であったヤフーの取り組み例など、フレキシブルな働き方を選んだ企業の事例は、求められるトピックのひとつです。
社員がリモートでも活躍できる業務設計やツールが、組織のなかですでに根付いていることの意味は、新型コロナウイルスの感染拡大以前と以降では大きく変わりました。

商品やサービスの魅力を伝えることはもちろんマーケターの使命ではありますが、こうした働き方そのものも現在はアピールポイントとして求められる話題のひとつかもしれません。こうした状況下でも安心して働けること、働く社員がいてサービスが維持されることは、あらゆるステークホルダーに対して信頼を生み出す要因となるでしょう。

特殊な状況下におけるマーケティングの肝はスピード

今回紹介した事例は、いずれも1月末から3月初旬の短期間のなかで実施されたものであり、新型コロナウイルスの波紋が広がるさなか、すばやく判断が行われたものばかりです。
商品販売や顧客増加に直結するわけではない施策も多いことから、予算の捻出や効果測定は従来のマーケティングと比べ難しいかもしれません。
しかし、この状況下だからこそ、ブランディングにつながるメッセージ発信や、ファンとのコミュニケーションが効果的に生まれる機会とも捉えられます。

新型コロナウイルスによる影響は、今日もなお、刻一刻と変化し、全国に波及しています。どのニーズによって何ができるのか、マーケターは従来以上のスピード感をもって判断し、企業としてアクションを取るべきでしょう。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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