2020.02.06
【メディアカンファレンス/学び】読者の力 再発見! データ連携広告プラットフォーム「OTAKAD」とは?
2019年11月12日(火)に開催された「講談社メディアカンファレンス 2019」。このカンファレンスには、講談社が目指すコンテンツメディアの価値再発見に繋がる「学び」のプログラムが設けられています。今回はそのプログラムのひとつ、「読者の力再発見! データ連携広告プラットフォーム「OTAKAD」とは?」と題したセッション内容を詳細報告します。OTAKAD(オタカド)とはどんな仕組みで、どんなことができるのか、掲載事例と実際の数字を踏まえたレポートです。
トークセッション参加者
松村吏司(株式会社講談社 第一事業局 コミュニケーション事業第一部 副部長)
山崎瑛記(株式会社講談社 第一事業局 コミュニケーション事業第一部)
満席の会場で行われたトークセッション
これまでのターゲティング方法&広告配信に疑問
松村吏司(以下、松村) 2億4700万──いきなりですが、この数字が何を表しているのか、おわかりでしょうか。
これは、講談社のオンラインメディアが、2019年9月1日から9月30日の間に記録したPVの数字です。ユニークブラウザー数は5865万です。おそらく過去最高の数字ではないかと。
この図は、一部ではありますが、講談社が運営するウェブメディアを、カテゴリー別に男性メディア、女性メディアと分けたものです。年齢や趣味、関心などに合わせてメディアを展開していくというのは、雑誌社として当たり前の発想です。しかし分析をしていくと、実は、女性メディアと一口で言っても、いろんな方々が訪れていることが分かりました。
私が非常に疑問に感じていたことが、まさにこれなんです。読者って、本当にこんな分け方でよいのだろうか。女性メディアや女性誌であっても、男性が手に取ることもおそらくあるだろうと。サッカーの総合サイトである「ゲキサカ」のコンテンツを、すべて男性が見ていると考えるのは、あまりにも雑な分け方なんじゃないかと。
たとえば「FRIDAY DIGITAL」は、男性メディアと考える方が非常に多いと思います。実際に紙の雑誌では、購入者のほとんどが50代、60代の男性です。これがウェブメディアになると、30代の割合がぐんと上がります。そして男女別では、56%が女性です。雑誌とはまったく異なるユーザーが「FRIDAY DIGITAL」に来ているということが分かります。
こういったデータを見ずに、広告をそのまま配信していいのだろうか。というのも、私たちが広告を展開していく中で、「FRIDAY DIGITAL」は男性メディアですよねと言いながらも、実は女性向けの広告を出すとものすごくクリック率が高かったり、視認率が高かったりします。そういったことから、もっと細かいデータを使って読者に届けたほうが、広告の精度が上がるのではないか。そういったことを考え始めました。
Googleの検索やニュースアプリなど、ニュースにはさまざまな取得方法がありますが、記事を見る際に、何のメディアかというのはあまり意識されていないと思うんですね。「FRIDAY DIGITAL」には、エンターテインメントもあれば、スポーツもあるし、たまにビジネスの記事も配信されています。デジタルになると記事ごとに読む人が変わってくるんです。これまでの「FRIDAY DIGITALだから男性の50~60代に向けた商品を訴求すればいい」という広告の出し方は、間違っているのではないかと。
そのようなことを背景に、講談社のウェブメディアが持っている、膨大なコンテンツデータを元にした、OTAKAD(オタカド)というデータ連携広告プラットフォームを、提供させていただくことになりました。
松村吏司(コミュニケーション事業第一部 副部長)
OTAKADならではの3つの特徴
松村 OTAKADの名称は、オタクという言葉にかけたものです。オタクを辞書で引くと、あることに過度に熱中していることや、熱中している人を指しています。この対象をカテゴリーごとに分けてみました。ITやマンガ、マネー、コスメ、料理、ファッション......。こういったさまざまなジャンルにオタクというものを分けて考えることによって、読者をサイトのイメージではなく、ユーザーごとの興味、関心に合わせてカテゴリー化をしていくということを行っています。
マネーのカテゴリーで考えてみましょう。年金の問題が気になると、次に将来に備えるために何をすればいいだろう、投資するなら何がいいだろう、と情報を集めていくと思うんですね。そういった方が次に起こすアクションというのは、金融商品への投資であったり、証券会社に行ったり。このような行動を、記事の閲覧履歴から分析をして、配信ロジックに活用する手法を、OTAKADで実現しております。
OTAKADはどういう商品なのか、今日は三つ覚えていただければいいかなと思っています。
一つめは、広告がまったく関連性のないサイトに配信されることがない、ということです。以前、漫画村のサイトが非常に大きな話題になりましたよね。メーカーさんと関係のないところにクリエイティブが出ていくと、そのサイトをサポートしていると思われても仕方がない。こういった心配がまずないということです。
二つめは、先ほどからオタクというワードを使っていますが、AIによって、独自で分析した関心度の高いキーワードに基づいて、熱量の高いオタク性を持ったペルソナを作成し、配信できるというところ。
三つめは、IASという計測ツールを使って、きちんと表示されているかどうか、ブランドイメージの低下やリスクを最低限に抑えるというようなことができる広告配信になっているところです。
それでは、一番興味を惹かれるワードかと思いますので、二つめのオタクという部分を掘り下げてご説明します。われわれが運営しているメディアの中に、トレジャーデータというデータ分析ツール(DMP)を導入しております。そこに蓄積されたデータをもとに、ペルソナ像を作り上げていきます。このペルソナ像を活かして広告が配信されます。
では、具体的なオーディエンスデータ、いわゆる読者のデータというものが、どういうふうに作られていくか、「ViVi」で配信されたGUの靴の記事を事例としてご紹介させていただきます。
まず記事ごとに、靴、GU、アクセサリなどのワードが多く含まれているといったデータをためていきます。そこにスコアリングをかけ、その記事にアクセスをしたユーザーが、靴の記事ばかり読めば、靴というスコアがどんどん足されて、靴というものに興味を持っているであろうというところを人に戻してセグメントに使っています。
セグメントの例をあげますと、犬や猫の記事ばかりアクセスしている人は、犬や猫を飼っている可能性があるということからカテゴライズした「モフモフ中毒」や、女性ですと「ミーハートレンドガール」や「婚活ファイターズ」といったものなどがあります。なかなかエッジの効いた名前なので、この名称だけが一人歩きするのは怖いなとは思っているのですが(笑)。コスメ好きといっても「VOCE」ばかりにアクセスしているわけでもなくて、「現代ビジネス」や「FRIDAY DIGITAL」にも訪れていたりもする。このようなアクセスした記事の傾向から、セグメントを作っております。
ちょっと話は変わるのですが、IASレポートによると、運用型バナー広告は、約50%の方、スマートフォンに限ると70%の方は見ていないというデータがあります。表示されたら課金という形の広告なのに実際は見られていない、といった現状があるんですね。もう一つ、アダルト、アルコール、ヘイトスピーチ、違法ダウンロードといった記事に対しても、実は広告が出ている可能性があります。これに気がつかないクライアントさんもいらっしゃると思います。特に講談社メディアの場合、不祥事や事件・事故といった取り上げるべき記事がどうしても存在します。ただ、広告主の視点では、その隣に広告が表示されるのはブランドの毀損となってしまうことがあります。
しかし、われわれは、そういった広告の配信をできるだけ排除しようということで、IASを弊社側のサイトに導入して、弊社側ですべてコントロールできるようになっており、そういった記事には出ないようになっています。
OTAKADは、表示回数でいくらという課金方法ではなく、実際に見られた数を計測して、その部分に課金をするという形になっています。われわれとしては真っ向勝負の商品を作ったと思っておりまして、100万回表示してほしいというオーダーに対して、実際は80万回しか見せられなかったよね、ということであれば、80万回ぶんだけ広告の料金をいただくというような課金形態です。
最後にアドフラウド、これはあまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、実際はブラウザーといっても、サーバーからアクセスをしてそのコンテンツを読みに来たり、クローリング等のロボットがアクセスしたりすると、実は人間ではないのに表示されてしまった、みたいなことが出てきています。こういったものも、完全にブロックすることができるようになっています。
では、ここからは、OTAKADって実際にどういう効果があるのかというところを社内で検証実験しましたので、山崎からご報告させていただきます。
誘導率やコンバージョン率はアップ、不正インプレッションはダウン
山崎瑛記(コミュニケーション事業第一部)
山崎瑛記 OTAKADの掲載事例について、実際の数字をお見せしながらご紹介します。訴求商材は「イノベーターズワン・ツー」という、弊社の書籍です。講談社BOOK倶楽部という弊社のサイト内に、この書籍の紹介記事を掲載し、その紹介記事に対して、OTAKADを使ってバナー広告で集客をするという形を取りました。配信期間は2019年10月21日から31日です。
配信対象ペルソナは、当初は40代、50代の、それこそWindows 95あたりからずっとパソコンに親しまれている、いわゆるパソコンオタクっていう層をペルソナとして考えていました。検証テストなので、人工知能などの最新技術に興味関心が高い若い層にもターゲティングして配信をしてみたら、ということもあり、実際には「意識高い系ヤング」というセグメントで配信しております。プラスして、情報通信技術系の業種も掛け合わせて配信しました。
今回はターゲティングの精度検証も兼ねているので、ターゲティングをかけていないノンターゲティングユーザーも同時並行で、同じ表示回数分だけ配信しています。表示回数とクリック数、ランディングページのPV計測、読了計測、その先の商品購入ページへのクリック計測まですべて取っております。検証項目は大きく三つありまして、バナー配信の分析、ランディングページの行動分析、最後に、ユーザーの分析。興味、関心と掛け合わせた分析を行いました。
今回の配信と、日本市場の指標と比較して、ビューアビリティで約30パーセント、1.28倍、1.86倍アップしております。アドフラウド、不正インプレッション割合は、2.3ポイント、1.8ポイントのダウンです。これは安心して配信できているという意味のダウンです。
ランディングページへの誘導枠クリックで5ポイントアップ、読了状況は4.5ポイントアップ、コンバージョン率は56ポイントアップで、非常によい結果が出ました。クリエイティブ別のクリック率の傾向は、どういう商品なのかがぱっと見て分かりやすいクリエイティブの方が、若干ですが高いクリック率となりました。
ランディングページの滞在時間は4.5ポイントのアップ、読了率は2ポイントのダウンです。クリエイティブがかなり書籍を押し出していたこともあり、ランディングページが書籍の紹介の記事ページだったところにギャップを感じたことが、読了率が低い原因になっているのではと考えています。
ここから、行動、アクションデータ、それと今回の読者がどういったことに興味があるのかというデータをかけ合わせて、さらに分析を進めました。そこからは、単純にIT技術に興味を持っているとか、いわゆるパソコンオタクという方たちだけではなくて、ちょっと投資に興味あるな、マンションの購入に興味あるな、でもなかなか今の市場ってよく分からないな、勉強してみたいな、こういう書籍あるんだ、買ってみようかな、というようなユーザーも一定数いることが分かりました。次のステップとして、今度はビジネスマンのセグメントに当てていきましょうというようなことができるのかなと考えています。
この数値はあくまでテスト案件で、AIも日々、進化しています。最近のアップデートですと、たとえばあるキーワードに対してネガティブなことが起きたときに、ユーザーは集中しますよね。ある種スクープみたいなものがあれば。でも、それって本当に興味、関心なのか、ユーザーが本当に熱中しているのかっていうのは微妙なラインかなと思っています。そういった判定もアップデートをかけている状況ですので、どんどんターゲティングの精度は上がってきています。
あと、今回はバナー配信での実施をしましたが、バナー配信が本当に適切な配信手段なのか、というところも疑問を持っています。動画でも、もっと新しいインタラクティブなクリエイティブでもいいかなと考えまして、新しくクリエイティブの開発を行いました。ここで、また松村にバトンタッチします。
インタラクティブな広告配信やSNSへの接続も可能に
松村 「OTAKAD」を使った広告配信の効果をもっとよくしていくために、クリエイティブの作成もぜひやらせていただきたいと思っております。
一つは、フーモアさんと提携して、マンガでのクリエイティブ訴求ができるようになりました。4コマのマンガや、アニメーションでナレーションがついた形で商品を説明するようなクリエイティブも可能です。
さらに、Teads(ティーズ)さんという広告プラットフォーマーさんと提携をして、インタラクティブな広告の配信方法も可能となりました。たとえば、クリックをするとエキスパンドをするものや、インディード・カルーセルといってクリックすると商品のリストが見られるなどのアクションが行えるようなもの、1コマ目、2コマ目、3コマ目、4コマ目という形で、スクロールすれば変わっていくバナー配信もできます。ユーザーにもっと楽しんでもらえるものを作ろうと思っています。
これらはすべて、誰がクリックをして、誰がアクションをしたのかというレポートを全部出すことができます。これまでのバナー配信は、単純に、クリックやコンバージョン購入ばかり見ていて、結果として、実際どういう人が見ていたのかというところまで検証できなかったのですが、次の顧客はどこにいるのか、ということも出すことができるというのが、このOTAKADというプラットフォームの一つの大きな特徴になります。
また接続先というところでいうと、これまで「with online」だったらその中で誘導すればいいという形になっていたのですが、講談社のメディアだけじゃ足りないよ、ということであれば、講談社以外のサイトで購入ができるようなものと接続をするというようなことも考えています。コスメに興味がある方にコスメの広告記事、タイアップ記事をSNSにも出したい、ということであれば、SNSへのデータ接続もできるようになります。FacebookやInstagramのユーザーさんに対しても、われわれの読者データを接続して、近しいユーザーを獲得していくというようなことも今後、考えております。
このデータは、ディスプレイ広告だけでなく、調査の一部としてなど、いろんな発想でどんどん活用していきたいと思っております。もっとデータを使っていきたい、講談社の読者データをもっと知りたいというようなご要望があれば、お声掛けいただければ、それに向かって開発もいたします。ぜひお気軽にご相談ください。