2019年12月19日(木)、東京・新橋で開催された「CCI Media Dockカンファレンス」にて、株式会社DataCurrentの古田誠さんとともに、弊社IT戦略企画室・谷口茂稔が登壇。弊社におけるデータ戦略と展望についてトークセッションを展開しました。コンテンツ・メーカーとしての講談社が抱えるビジネス課題と対策について、データの活用およびDataCurrentさま、CCIさまとの協調により拓く未来をレポートします。

トークセッション参加者(敬称略)
モデレーター:藤本浩次(株式会社サイバー・コミュニケーションズ メディア・ディビジョン メディアビジネスパートナー)
古田 誠(株式会社DataCurrent マネージングディレクター)
谷口茂稔(株式会社講談社 IT戦略企画室 デジタルソリューション部)

写真左から藤本浩次さん(株式会社サイバー・コミュニケーションズ)、
谷口茂稔(弊社IT戦略企画室)、古田 誠さん(株式会社DataCurrent)

老舗出版社とITコンサルの協業でデータに新たな価値を

藤本浩次氏(以下「藤本」) 講談社さまのデータ戦略および戦法につきまして、お話をうかがいます。"データ"というキーワードを軸に、どのような取り組みを採っていらっしゃるのかを中心にご紹介できればと考えております。プレゼンターは株式会社講談社 IT戦略企画室 デジタルソリューション部の谷口さまと、株式会社DataCurrent マネージングディレクターの古田さま。モデレーターは私、CCIの藤本が務めます。ではお二方の自己紹介からお願いします。

谷口茂稔(以下「谷口」) 皆さんこんにちは。講談社の谷口と申します。弊社は2年ほど前にIT戦略企画室という部署を発足させまして、私は現在この部署に所属し、女性誌が手掛けるウェブメディアのディレクションや、本日の話題となりますデータ基盤の構築推進を手掛けております。また出版社という業態ではちょっと珍しいかと思うんですが、弊社との事業シナジーを前提としたスタートアップ企業との、資本業務提携推進や協業スキーム構築なども担当しております。

古田誠氏(以下「古田」) 皆さんこんにちは。株式会社DataCurrentの古田と申します。株式会社DataCurrentは、2019年6月に株式会社サイバー・コミュニケーションズ(以下CCI)の100パーセント子会社として設立されました。生活者も企業も安心してデータを活用できる世の中の発展に貢献することを企業理念としまして、広告関連企業や媒体社をはじめとする事業会社さまに対し、コンサルティングという形で向き合う立場となります。

業務内容としては、データコンサルティングを中心にエンジニアリング、ディレクション、ITツールのサブスクリプション導入支援、また情報銀行のサービス推進のような分野も手掛け、主に広告商品展開やダッシュボード開発といった面もサポートさせていただきます。

弊社ビジネススキームの現状

藤本 それでは本題に入ります。講談社さまはデータマネジメントプラットフォーム(以下DMP)を導入され、データを軸としたさまざまな施策を始めているとうかがっております。まずはDMP導入の背景について、そしてDataCurrentおよびCCIとともにどのような取り組みを行なってきたかをお聞かせいただけますか?

谷口 講談社のビジネスについて、まずは数字の部分から説明します。2018年度の当社実績における部門別売上シェアを見ると、雑誌・書籍の販売収入が全体の83.3%、ライツ収入が9.0%、広告販売収入が4.2%となっております。紙とデジタルの比率は大きく変化してきましたが、売上という側面だけで見た場合は、本を作ってデバイス等で販売していくという部分が大きな縦軸となっています。

紙のレーベルがどのくらいあるかというと、『少年マガジン』や『ヤンマガ』などのビッグネームだけでなく、幼児誌からお年寄りに読んでいただくコンテンツまで多彩なレーベルを展開しておりまして、たとえば2017年度の数字では書籍が年間約1,900点、雑誌が1,400点、コミックが1,700点などトータルで5,000点近く。年間総発行部数で約3億冊を世に送り出しています。国内の書籍やコミック総発行部数の約1割を弊社が占めている状況です。現在、出版社は大小合わせて約3,000社との統計もありますので、出版社1社あたりのシェアという面からも弊社の影響力は大きいと考えております。

広告収入はと申しますと、現時点での売上のみを考えれば雑誌書籍の販売収入より小さいのですが、おかげさまで前年比170%という伸長率で推移していまして、なかでもとくにデジタル広告、デジタル広告サイトが非常に大きな伸長を見せています。

出版ビジネススキーム特有の課題点とは

谷口 あくまでも現時点の売上という側面から見れば、講談社は本をたくさん作って流通に乗せ読者にお届けするというスキームが中心です。しかし、このスキームには2つの大きな課題があります。

まず"商品点数が膨大"であること。商品点数はもとよりジャンルもレーベルもじつに多彩で、かつそれぞれがさまざまな形で販売やライセンス管理をしている。コンテンツ領域におけるコングロマリットと言われるほどです。さらに、出版社はマーケティングの面でも独特のアプローチが求められます。多くの企業はさまざまなマーケティングに基づき商品を開発し販売していると思われます。しかし我々の商品開発アプローチは、いまは世に出ていない才能を発掘し、クリエイターと弊社が寄り添って成長していくことでコンテンツを生み出す。そのため従来型の一般的なマーケティング手法が適用しづらいんです。著者さんごと、レーベルごとの売上については把握できても、講談社全体を俯瞰してのコンテンツ相関性、類似性、各種予測などはなかなか把握しきれない。これがひとつめの課題点です。

出版社が読者の詳細なデータを収集することは難しい

ふたつめの課題点は流通です。我々はダイレクトコマースでコンテンツを売っているわけではありませんから、購買者データを把握しづらいんです。あくまでもデータという部分に限定しての課題になるのですが、メーカーとして商品を生み出しているのだから、せめて自分たちの商品ごとの相関性や類似性程度は最低限把握していくべきではないかなと考えています。これらの課題を克服するためには、データ領域と言われる部分の改善が大切で、現在その取り組みを始めたところです。

出版物をアノテーションしグルーピング

谷口 具体的な取り組みは数年前から本格的に始まっています。冒頭、私の自己紹介で弊社とスタートアップ企業との資本提携というお話をしましたが、日本語に特化した自然言語処理、とくに形態素解析の領域において強みを持っている「白ヤギコーポレーション」さんというAIベンチャーに出資させていただきました。
 
白ヤギコーポレーションさんには、PoC(実証実験)のひとつとして、弊社の書誌データに対する自動アノテーションとスコアリングを行い、コンテンツ同士の類似性を把握していく実験をお願いしました。弊社が持つさまざまなジャンルの書誌データ、最終的にはたぶん1万6000冊ほどになったのですが、それを精製したデータをひたすら全書籍、全ページ、全文字AIで解析していきました。一方でキーワードを羅列し両者のマッチングとスコアリングをひたすらぐるぐる回していく。キーワードをポンと指定すると、それに関連のある本のタイトルがずらっと並び、一個一個にキーワードと本の親和性の数字が全部振られているイメージです。

多彩な出版物から特徴的な単語とスコアを抽出

この技術と概念の検証は、社内で一定の評価が得られました。このようにして、コンテンツをいつでもグルーピングできる環境が作られたことで、現在はそのデータを既存の販売、宣伝、広告領域に、どう活かしていけるのかの模索をプロジェクト単位で進めています。広告の領域においては、弊社広告部門の中でデータを活用した広告の展開をすでに始めていたのですが、そうしたチームとマージしながらCCIさん、DataCurrentさんと相談しております。

読者の「オタク性」を広告に活かす「OTAKAD」

古田 DataCurrentでは、講談社さまと白ヤギコーポレーションさまがグルーピングしたデータを広告商品に活かしていく第一歩として、まず代理店広告の製作を始めています。たとえばコスメの記事の中でもこの記事は特にベースメイクとの関連スコアが高い、といった詳細を抽出し、DMPにデータをどんどん蓄積しているところです。蓄積されたデータを"人"をベースとして再度グルーピングすることで、ユーザーの趣味趣向に最適なグルーピングデータが生まれます。この手法をもとにリリースされた商品が「OTAKAD」です。

「OTAKAD」におけるデータ活用の構造

この商品は名前のとおり、出版メディアを訪れる読者の、何かに熱中するオタク性を広告に生かすものです。全文解析により収集したデータの中から読者の関心が高いカテゴリを20セグメントにグルーピングし、たとえば「意識高い系」のセグメントにいる読者はフィンテックやビジネスといった記事をよく読んでいるので、それに合わせた広告訴求の設定が可能になりました。雑誌や書籍はもともとある程度セグメントされたメディアだったのですが、興味のある領域は読者ひとりひとり異なります。その細部の嗜好をグルーピングしたところに最適な広告配信ができる。これは大きな強みです。

細分化された「オタク」に最適の広告配信をする「OTAKAD」

もうひとつの取り組みはダッシュボードの開発です。サイトのアクセスログ、記事解析データ、外部のデータを使った属性情報、Googleアナリティクスの情報から得られるPV、UPS、読了データなどをすべてDMPに格納し、最終的にはダッシュボードの形でアウトプットできます。たとえばあるタイアップ記事につき、どういう人がどのぐらい見ていたか、関連するトピックは何かなどの情報が、ダッシュボード上で確認できるのです。さらに、このダッシュボードを標準化することで、多彩なメディアを横断するデータ活用を目指しています。谷口さん、先ほど御社の雑誌や書籍の販売にAIを活かしていくとおっしゃっていましたが、その方法をご説明いただけますか。

谷口 たとえば電子書籍の販売流通でご説明すると、新刊発売情報に詳細な商品説明やタグ付けを行っておらず、データだけを納品して書店さんが分類しています。書店さんによって分類は本当にまちまちで、女性成人向けコンテンツを扱う電子書店さんなどでは趣味趣向がものすごく細分化されていると聞きます。書店さんとこの仕組みによるタグの連携などを行いトランザクションが向上したら、それを横展開できる可能性はあるかもしれませんね。

個人データ管理をCookieから出版社主導のIDへ

藤本 続いてデータプライバシーについてうかがいます。蓄積したデータをどう管理していくかについて、どのようにお考えですか?

古田 広告商品は人をCookieベースでターゲティングしています。個人情報保護法の改正に向けた動きが始まっていますし、グローバルなトレンドを見ても、ユーザーの黙示的なCookie同意ではなく、利用方法や目的を明確にしたうえで明示的に同意を取っていく必要があるでしょう。

Cookieに対する利用制限については、ブラウザ側が負う制限も増えてきました。Appleに関してはITPに代表されるように、1st Party Cookieですら保持期間が短くなっています。こうした状況のなか、データ管理者としてプライバシーへの配慮はもちろん、第三者のデータに依存しない対応策が必要になってくるのかなと思っています。

個人データ収集のハードルは高まっている

谷口 我々としてはID化が急務と考え、いくつかの方策導入を進めています。まずIDの立体化。版元が持つコンテンツ閲覧データをIDレベルで連携させることで、よりユニークなデータにしていくべき、ということ。

次にIDの正確性。今後CookieではなくIDを確定としてコミュニケーションを取るのであれば、より正確な情報を取れるようなサービスを併設する必要があるのかなと思っています。

3つめは企業・団体の与信とメリットの付与。個人情報保護法の改正も含め、政治のレールに乗って進んでいくと思いますので、粛々と対応していかなくてはならない。個人情報はその人個人のものであるというところを大前提として、データに対する適切なアクセシビリティの提供をはじめとした物理的な対応を実装する。そしてそれとともに、"明治から続く超老舗出版社が推進する安全なIDなのだ"というイメージ的な与信もひっくるめてブランディング化していく必要があるでしょう。

また、実際に個人情報をお預かりするにあたっては、ユーザーに対するメリットの提供を引き続き考える必要があるのかなと。個人情報銀行の領域の話になってしまうかもしれないですけど、しっかり対応していかなくてはなりません。

藤本 データを有効に活用するためには、高度な専門知識や経験が必要になってくるかと思います。CCIとしても、常に最新情報をキャッチアップしていくとともに、それらに対する知見を皆さまに提案、提供したいと考えておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

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