2019.12.18

いずれの企画も未来志向! 講談社メディアカンファレンス2019「メディアアワード」総評レポート(前編)

11月12日に開催された「講談社メディアカンファレンス2019」の「学び」プログラムにおいて、審査員による「メディアアワード」8企画の総評が行われました。審査員を務めた、月刊『宣伝会議』編集長の谷口優さん、コミュニケーションディレクターの佐藤尚之さん、PRストラテジストの本田哲也さんの3名によるアワード総評を、2回にわけてレポートします。

(左)審査員の本田哲也さん、(中)佐藤尚之さん、(右)谷口優さん

「メディアアワード」は、2018年5月から2019年7月までに実施された広告主と講談社による全ての広告企画が対象。従来の講談社広告賞は雑誌別の広告作品が対象でしたが、今回より広告主と講談社が共同で作り上げた未来志向の広告企画を対象としています。

審査基準は、クリエイティブ性、企画性、パフォーマンスの3つ。第1次選考は講談社社内メンバーで構成されたメディアアワード審査員会が、優れた24企画をファイナリストとして選定。その後、3名の社外審査員による第2次選考で、8企画が「メディアアワード」として選定されました。なお、従来の広告賞のような大賞やメディア別部門賞など、賞のグレードやカテゴリーは廃止しています。

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1)アジア圏でのプロモーションが雑誌監修のクオリティのもと一気通貫で実施可能に!

【広告主】
資生堂ジャパン株式会社
【媒体名】
ViVi
【企画意図】
アジアのナンバーワン雑誌ブランド・ViViをフルに活用した、日本と台湾での同時タイアップ企画。両国で若干異なる読者層を意識して、あえて翻訳転載ではなく、両国それぞれの人気のモデルを起用してページを作成しました。さらに、台湾・香港からの訪日旅行客に向け、フリーマガジンや観光情報ウェブメディア上でのタイアップ記事も掲載。台湾の人気KOLによるSNS拡散施策も合わせて実施することで、台湾におけるリーチ最大化を図りました。

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谷口 資生堂ジャパンのこの企画は、『ViVi』ブランドを活用して、日本と台湾で同時に実施されたタイアップです。
『ViVi』は台湾をはじめ、アジアでも刊行されていますが、その企画力やネットワークを活用したものですね。単に日本語のタイアップ広告を翻訳して転載するのではなく、国ごとに異なる読者対象に合わせたコンテンツの作り込みが評価されました。また誌面に掲載した後に、インバウンドマーケティングへの活用ということで、タイアップコンテンツをフリーマガジンや観光情報サイトにも掲載して、リーチの拡大を台湾国内で目指したのも高評価のポイントです。

佐藤 『ViVi』は、台湾などアジア圏でナンバーワン雑誌ブランドなんですよね。この企画は一見普通っぽい感じですが、ゼロからコミュニケーションを始めるのではなく、もうすでにファンがいる、もしくはすでに"共感"や信頼関係ができているメディア・コンテンツの力を最大限に使うという意味において、アジアに向けてのこのような横展開はありそうでなかったかな、と。
それを、コンテンツメーカーとしての編集者が、ちゃんと手綱を引くという形で、その共感を基にしたコンテンツのクオリティを確保しています。これはネットの世界では意外と難しい。ネットは世界中から見えるわけですが、その分、ある雑誌の共感からコンテンツを作り上げるのを避ける傾向にあります。そのあたりにコンテンツメディアとしてのこれからの可能性を感じました。

コミュニケーションディレクターの佐藤尚之さん

谷口 フリーマガジンや観光情報サイト用にコンテンツを作るという手段もあったと思いますが、雑誌が基盤のコンテンツを使っていくとなると、ちょっと違いますよね。

佐藤 そうですね。雑誌のカラーや世界観を好きな人たちがすでに数多くいるので、そこからコミュニケーションを始めるというのは、今後世界的に人口減が予想される中では、とてもいいやり方だと僕は思います。

谷口 本田さんはいかがですか。

本田 そうですね。『ViVi』は4、5年前にお仕事をご一緒したときがあって、そのときにアジアで人気があるということを伺いました。コンテンツメディアとしての雑誌って、いろんなメディアの中でもファンコミュニティを持っている強みがあるというか、読者に近いんですよね。
特に『ViVi』は、台湾と他のエリアで微妙に異なる読者の価値観に対応している。そういうふうに、しっかりとファンコミュニティを獲得している雑誌と組んだ展開って、これまでになかったな、と思います。もちろん、できる雑誌とできない雑誌があると思いますが、メーカー単独ではもっと難しい部分もありますよね。今、広告代理店もグローバルネットワークは持っていますが、そこまでのファンコミュニティというものを築くのが、エージェンシーの立場ではなかなか難しいんですよ。なので、こういう展開は『ViVi』独自かなと思いました。

谷口 ありがとうございます。企業のブランド担当者の方に話を聞くと、外部パートナーに対して国内だけでなく、アジアの主要な国の施策も一緒にマーケティングプランを提案してほしいと依頼するケースが出てきていると言います。そういうときにこうした「雑誌のネットワーク」というものを、もっと活用できるのではないかと感じました。

2)SDGsをアジェンダに協賛パートナーとともに作る新しい雑誌のカタチ

【パートナー】
株式会社エイチ・アイ・エス
国際連合広報センター
株式会社コーセー
コープデリ生活協同組合連合会
株式会社コロンビアスポーツウェアジャパン
シチズン時計株式会社
ソーシャルアクションカンパニー株式会社
大日本印刷株式会社
株式会社 電通
日本生活協同組合連合会
株式会社博展
ベアエッセンシャル株式会社
北海道下川町
株式会社メンバーズ
株式会社モリタ
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社
株式会社 料理通信社
ロクシタンジャポン株式会社
株式会社ワコール
(五十音順)
【媒体名】
FRaU/FRaUウェブサイト
【企画意図】
日本のみならず、おそらく世界の女性誌で初めてのまるごと一冊SDGs特集を刊行した雑誌『FRaU』。クライアントではなく「パートナー」として年間・または2030年までご一緒できるよう呼びかけ、出稿だけではなく、雑誌の買い取り、情報提供、イベントなど多岐にわたる取り組みを行いました。20近い企業や団体が協力して、企業・団体・読者が一体となる共創の場を通して地球環境・社会問題を解決するソーシャルインパクトを創造することを目指しました。

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谷口 『FRaU』と約20のパートナーとの共創により実現した企画です。
FRaU』のまるごと1冊SDGs特集を発端に、企業、団体、読者が一体となって、共創の場を通して地球環境・社会問題を解決するソーシャルインパクトを創造することを目的としています。「広告主」ではなく「パートナー」と呼んで、雑誌を買い取ったり、企画に情報提供したり、一緒にイベントを行ったりするなど、さまざまなパートナーシップの形を約20の企業や団体と実施していますね。
佐藤さんは、ご自身でもこの『FRaU』をお買いになられたとか。

佐藤 はい、買いました。僕はこれ、素晴らしい企画だと思っています。いわゆるソーシャルグッドというか、SDGs的なものは、ネットで出ていてもテレビに流れていても、そんなにみんな積極的に見るものじゃない。意識が高い人でも、「じゃあ、記事を見にいこうか」というのに、ひと覚悟いる部分があるんです。それに、ネットだと、それぞれのコンテンツがダーッとあって、リンクがあって、そこにクライアントも紐づいている、というのは十分あり得るんですけど、そういうサイトって、1個ぐらいの項目を見ておしまい、みたいなところがあるじゃないですか。でも、雑誌として手元にあると、パラパラめくって見たり、その関連でもう少し違うページも見てみたり、ということが自然に起こるので、そうした部分に「パッケージの強さ」を感じました。

書店で、この表紙が出面として並ぶのもインパクトが強いですし、あとはたとえば、友人に「SDGsというのがあるから読んでみて」とURLをメールで送っても、多分見ないと思うんですけど、雑誌だと渡せますよね。それがいわゆる「紙メディア」のパッケージの強さだと思います。
また、パートナー(クライアント)にしても、紙媒体の雑誌だと、何度でも見返せるので、この保存版的なつくりもクライアントのプレゼンスを上げていると思います。いろんな意味で、僕は素晴らしいと思いました。

谷口 ありがとうございます。本田さんは、SDGsというテーマ設定をどうご覧になりましたか。

本田 私の専門はPRですが、SDGsの話は今、PRとも非常に近い領域です。SDGsの目標達成までに、あと10年しかないということで、ニューヨークの国連本部でもSDGsのPRに、大変な努力をされています。
この『FRaU』を、海外から来日されたSDGsに関わる仕事をしている方にご紹介したら、SDGsをテーマにしたこのリアルな雑誌は、世界レベルで見てもなかなかない取り組みだと、感動していました。非常にクリエイティブだし、これが書店に並ぶというのは、すごい影響力があると思うので、意義深い取り組み・企画だと思います。

PRストラテジストの本田哲也さん

谷口 女性誌でこういう企画はなかなかないですけど、講談社さんって、比較的こういう「骨太」というか、女性誌でも1本筋が通っている感じがするので、『FRaU』というブランドのキャラクターとはすごい合ったテーマなのかな、なんて思います。世界的に見ても珍しいですよね。

本田 そう。すごくユニークな取り組みで、日本人が思う以上に、世界的に評価される企画だという気がします。

谷口 紙の雑誌という、ある意味パッケージ商品でやるからこそ、大きく機能した企画でしたね。

3)新公道最速伝説『MFゴースト』の世界観で究極チューニングされた「86」誕生!

【広告主】
小倉クラッチ株式会社
トヨタ自動車株式会社
株式会社ブリヂストン
ブリッド株式会社
株式会社プロジェクト・ミュー
(五十音順)
【媒体名】
週刊ヤングマガジン
【企画意図】
累計5000万部突破の『頭文字D』の流れをくむ、新公道最速伝説『MFゴースト』(しげの秀一・著 / 週刊ヤングマガジン連載中)の世界観をリアルワールドで再現する、スペシャルプロジェクト。究極チューニングが施されたトヨタ86(86MFGコンセプト2019)を開発し、プロジェクトカー1台を新車でプレゼントするオープン懸賞を合わせて実施することで、協賛社のみならず、作品のプロモーションにも繋げました。
50を超える紙&WEBメディアにて同プロジェクトに関する記事が掲載され、オープン懸賞への応募総数は約26万を達成。協賛社の評価が高く、8月時点で次年度のプロジェクト継続が決定しています。

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谷口 3つ目は、週刊ヤングマガジンで人気のマンガ『MFゴースト』の世界観をリアルワールドで再現するということで、広告主が参画して、特別にカスタマイズした『86』を新車でプレゼントするオープン懸賞の企画です。26万通を超える応募があったそうなんですけれども、本田さん、この企画についてはどのような点を評価されましたか。

本田 この企画はすごく男の子っぽいというか、われわれ世代には特に分かりやすいのかもしれませんが、よくできているなと思いました。世界観というものの扱いでいうと、コンテンツメディアとしての雑誌は、これ得意領域ですよね。実際に1台プレゼントすることで、SNSなどで話題化するというところも分かりやすい。ある種のコミュニケーションのデザインというか、企画のデザインができているなと感じました。いい企画だと思いました。

佐藤 これは、マンガの世界をリアルに作っていくというところが素晴らしいと思います。今、若者の車離れが進んでいるといわれていますが、本当のところはどうなんだというのは別にして、そういう「車離れ」といわれている若者層へのアプローチをするルートが1個見つかったな、という感じが僕はしました。テレビでCMをやってかっこいい車の姿を見せるのもいいと思いますし、ネットで何かしらのアプローチをしたり、バズったりというのもあるかもしれませんが、「車と女の子とかっこいい走り」というのは、若者にちょっと車を近づけるいいアプローチなんじゃないかと思います。

本田 熱量だと思うんですよね。今ジェンダーの問題などもあって、広告主の皆さんも悩まれるかもしれませんが、こういう世界観や視点は、「チューニングカーの祭典」といわれている東京オートサロンのようだな、と。一つの価値観でつながっている人たちが、リアルな場でも、SNSでもコミュニティ化して、すごく熱を持っているという。ニッチかもしれませんが、ある程度のボリュームがある領域って、まだまだいろいろできると思いますし、この企画は、そういう一つのポテンシャルを見せているような気がします。

谷口 コンテンツメディアである雑誌だからこその求心力があるからこそ、実現した企画でしたね。ありがとうございます。

4)スタディーツアー in ポートランド

【広告主】
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.
【媒体名】
クーリエ・ジャポン
【企画意図】
定期刊行雑誌から有料会員制のウェブメディアに移行してからも、同じ志向性を持つ読者が互いに交流できるイベントなどを定期的に実施しているクーリエ・ジャポン。スモールビジネスのサポートに力を入れている広告主のアメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.とともに、グローバルな視点からビジネスのヒントを得る機会として、読者を対象に、全米有数の起業の街であるポートランドへのスタディーツアーを実施しました。同ツアーには日本各地から集まった読者が参加。ツアー終了後も参加者同士での交流が続くなど、横のつながりが生まれるきっかけとなりました。また、参加した起業家が社内研修でこのツアーの内容をシェアするなど、ツアー参加者以外への広がりも生まれました。

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谷口 『スタディーツアーinポートランド』は、『クーリエ・ジャポン』の読者を対象に、全米で有数な起業の街である、ポートランドへのスタディーツアーを企画するというものです。ご招待ではなく、読者向けの有料企画で、40万円を超えるツアーに熱量の高い読者が多く参加したと聞いています。アメリカン・エキスプレスはスモールビジネスのサポートに力を入れるという方針があるそうで、起業家の卵ともいえる『クーリエ・ジャポン』読者の方たちを対象に、学びの機会を作ったということです。

読者との絆の深さや、読者コミュニティがあることが雑誌の魅力だといわれますが、まさにこの「読者の熱量が可視化」された企画だと思いました。あと『クーリエ・ジャポン』の読者と、アメリカン・エキスプレスが支援する、新しい時代のスモールビジネスの担い手の方たちって、すごく親和性が高いと思ったので、メディアブランドと企業のブランドがうまくコラボレーションしたのではないかと思います。
私は普段、出版社で編集の仕事をしているので、有料の会員制メディアになった『クーリエ・ジャポン』のいわゆるサブスクリプションビジネスの先に「40万を超えるツアー」が新しいマネタイズの方法としてあるというのは、ビジネスモデルの観点からしても、非常に参考になりました。

月刊『宣伝会議』編集長の谷口優さん

谷口 『クーリエ・ジャポン』が創刊されたとき、新しい視座の雑誌だなと思ったのですが、一方で「今の日本に、こんなに意識の高い人がどれだけいるの?」と感じたことが記憶に残っていて......。でもこのようにメディアが継続していくことで、もしかしたら創刊当時にはまだ顕在化していなかったかもしれない、"『クーリエ・ジャポン』的な読者"が、確実に日本に生まれているのではないか、と思って。「新しい読者」や「新しいライフスタイル」「新しい市場」を作るのは、やっぱり雑誌の力だなと思いました。40万を超えるツアーに行く人がいるということは、メディアの世界観を体現する読者が確実にいるということですよね。これって、すごいな、というのが、私がこの企画をいいなと思った理由です。

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後編では、残りの4企画について、審査員3氏の総評をお届けします。

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