2019.11.18

令和は「子作りも女性がリード」で、男性のホンネは? ~誰もが「ヒキタさん」になれるのか?(後編)

こんにちは。マーケティングライターで世代・トレンド評論家の、牛窪(うしくぼ)恵です。

毎日放送「ミント!」のタレントクローク前にて

キャリア志向の女子大生が取った驚きの行動

前回、10月に公開された映画『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』のテーマである「不妊」と、令和の時代の子作りは「もはや本能とは言えない?」について、お話ししました。

併せて、前回はビックリするような男性陣の声をご紹介しましたが......、女性も負けてはいません。先日、ある女子大生たちと話した際に聞いた声は、次のようなものでした。

「牛窪さん、私この先就職したら、バリバリ仕事したい派なんです」。
彼女は、まだ大学2年生。最近、この年齢で「バリバリ仕事したい」と言い切る女性は、かなり珍しいケースです。
というのも、昨今は若い女性たちに「結婚・出産しても、共働きが当たり前」とのプレッシャーがかかり、「ならば、仕事はそこそこに抑えて、結婚や子育てにパワーを注力したい」と考える女性も多いから。

でも彼女は、お母さんが大企業の管理職で、「私も同じように、仕事で世の中の役に立ちたい」と切望していました。そこで、次のような驚きの声を発したのです。

「きっと、働き始めたら忙しくて、結婚とか出産とか考えなくなっちゃうんですよね。......でも子どもは欲しい。だから先週、クリニックに行って、卵子を冷凍保存してきたんですよ」

思わず、息が止まりそうになりました。まだ20歳そこそこの女子大生が、いまから卵子を冷凍保存しているなんて!

子作りのタイミングに悩むワーキングウーマン


念のため、補足しますね。日本における「卵子凍結」は、抗がん剤治療などで卵巣機能の低下が予想される若い女性が、「それでも将来、子どもを持てる可能性は維持したい」と希望するとき、等のための技術。

健康な女性の卵子凍結の是非については、専門家の間でも意見が分かれます。2015年、日本産科婦人科学会の専門委員会が「推奨しない」との見解を示したのに対し、日本生殖医学会は「推奨するものではないが、妊娠・分娩をするかしないか、その時期をいつにするかはあくまでも当事者の選択に委ねられる事項」というガイドラインを提示しました。

つまり、日本では「違法ではないにせよ、合法と言えるのか?」の部分が曖昧なまま、少しずつですが、卵子凍結に乗り出す女性が増えているのが現状です。

私もこれまで、CAさんやバリキャリの女性から、何度聞かされたか分かりません。「地上勤務になった段階で、子どもが欲しい」「この先、部長になったら、自分で業務時間がコントロールできる。そのとき子作りしたい」。
でも、いまは「仕事を優先したいから、"とりあえず"若いうちに、卵子を冷凍保存しておきたい」......。

多少語弊はありますが、卵子凍結は働く女性にとって、「将来への保険」でもあるのです。

さらに最近、ワーキングウーマンの間では「子作りのタイミングが難しい」との問題も発生しています。
理由の一つは、企業内での「産休・育休待ち」。いまや女性の育休取得率は、8割を超えました。正社員やフルタイムで働く女性にとっては、産休・育休が取れなければ、働き続けることはかなり難しい。

ところが社内には、産休・育休を「取得中」の先輩たちが、何人もいる。会社としては、優秀な女性社員が何人も同時に休んでしまうと困る、との事情もあるので、「なんとなく、産休・育休を言い出しづらい空気」が流れます。

そこで彼女たちの一部は、「上司に相談している」というのです。「そろそろ、子作りしてもいいですか?」「せめて夫が海外転勤する前に、妊娠だけはしておきたいんですが」と。

男性側の弱体化と本能の関係

こうした実情を聞くと、ロマンチストな男性はよく、こう言います。
「子作りを、あまりに"事務的に"考える女性を見ると、ちょっと残念な気持ちになる」......。すなわち男女の性交渉は、あくまでも「夢とロマン」があってこそ。それなのに、事務的に「いつ子作りする」とか、「それを上司に相談する」だなんて、夢がなさすぎる、ロマンのかけらもない、との見方です。

でも前回お伝えしたとおり、いまや本能だけでは、なかなか子作りに成功できない時代。昨今は、「不妊理由の半数近くは、男性側に原因がある」とも言われ始めました。
理由の一つは、「ストレスや睡眠不足、さらにケータイやパソコンの電磁波によって、男性の精子の質や運動量が低下した」との学説が、次々と発表されたからです。

たとえば、イギリスのエクセター大学の研究。彼らが、従来の既存研究10件のメタ分析(総サンプル数1492個)を行なったところ、男性はケータイが発する「電磁波」にさらされると、精液サンプルの精子の質が、着実に低下することが明らかになりました。
また、複数の学者は「精子弱体化の傾向は、(ケータイやパソコンが普及する)先進国特有の現象だ」とも唱えています。

反面、そもそも男性の遺伝子に「子作り」の本能が刷り込まれていることは、古くから数多くの研究が証明してきました。
「精子戦争」と呼ばれる競争本能がそれで、ロビン・ベイカーら複数の学者たちは、男性の精子が2~3億個のライバル(精子)に勝って「最後の1つ」に選ばれようと、いかに過酷な戦争を戦っているかについて、著書や研究論文で論じています。

実際にも、日常のふとした行動に、男性特有の競争原理が表れると言われます。それを証明した研究の一つが、2012年、アメリカの科学誌「プロスワン」に掲載された研究。
調査段階では、18~42歳の男性81人を2つのグループに分割。そのうち1つのグループには、「採用面接を受けてください」という役割を与え、あえてストレスの値を引き上げたそうです。

その後、2つのグループに様々な体型の女性の写真を見せて「魅力を感じるかどうか」を9段階で評価してもらったところ......、ストレスを与えた方のグループが「最も魅力的」だと選んだ女性は、ストレスなしのグループが選んだ女性に比べ、大幅に体重が重いことも判明したそうです。

つまり、精神的ストレスを感じている男性は、「太った女性」に魅力を感じる傾向がある......。一方、同じくアメリカの別の研究(ニューヨーク大学とスタンフォード大学)では、「男性はお腹が空いているとき、太めの女性を好む」ことも分かっています。

なぜ男性は、ストレス状態や空腹のとき、「太めの女性」を好むのか? 生物学的には、これこそが「男性の、精子戦争のベース」だとされています。

すなわち、男性には「子作りしたい」「優秀な遺伝子を、世に残したい」との本能がある。でも自分が弱っているときは、「元気な女性」の遺伝子にフォローしてもらえないと、他より優秀な遺伝子が残せない可能性が高くなる。だからこそ、ストレスフルや空腹のとき、「太めの女性」を好む、との見方です。

妊活マーケットがにぎわう理由

令和の時代、疲れ切った男性は、本能で子作りするパワーまで失いつつある。他方の女性は、男性並みに働くようになったことで、「いつでもどうぞ」との体制で、子作りウェルカムとばかりに待っているわけにもいかない。
そう、男性が草食化し、女性が肉食化した時代だからこそ、計画的な子作りや「妊活」市場が活況を帯びている、とも言えるでしょう。

2016年の段階で、日本の「妊活」に関する市場規模は、ゆうに1000億円を超えるとされています。これは、体外受精等1回あたりにかかる費用が40万円前後と言われるからで、それだけでも年間で「36.8万回×40万円=1472億円」と計算できます。

1000億円市場といえば、先日まで行われたラグビーワールドカップや、ハロウィンの市場規模(消費効果)が、ちょうど1000億円程度と言われるので、かなり大きな市場だと分かりますよね。

確かに、理想は「自然と」「本能で」子どもを授かること。でも様々な事情で、それが難しくなってきたのが、令和の時代。
「どうしても子どもが欲しい」と切望するカップルに対しては、この先の市場の広がりを鑑みても、政府や企業がいま以上に支援する姿勢が大切だと思うのですが......、皆さんはどうお考えになりますか?

令和は「子作りも女性がリード」で、男性のホンネは? ~誰もが「ヒキタさん」になれるのか?(前編)

筆者プロフィール
牛窪 恵(うしくぼ めぐみ)

世代・トレンド評論家。マーケティングライター。修士(経営管理学/MBA)。大手出版社勤務等を経て、2001年4月、マーケティング会社・インフィニティを設立、同代表取締役。著書やテレビ出演多数。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は新語・流行語大賞に最終ノミネート。新刊は「なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?」(光文社新書/共著)

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