いうまでもなく日本はマンガ/アニメ大国である。タイアップ専門エージェンシーのトキオ・ゲッツがコラボレーションとして扱うマンガ/アニメは約300タイトルにも及ぶという。施策として成功に導くためには、それらコンテンツへの深い造詣と最先端トレンドの把握が必須であることは、前回までにも述べたとおり。その驚異的なデータベース形成のノウハウについて、同社代表取締役の原 浩平さんが語る。
トキオ・ゲッツ 代表取締役 原 浩平(はら・こうへい)
大学卒業後、マーケティング企業に入社。アウトソーシング先の映画会社で映画ビジネスの内情を学ぶ。1998年、映画を中心としたタイアップ専門エージェンシーとしてトキオ・ゲッツを設立。
ファン目線を失わないことが、
旬のタイトル発見につながる
――マンガ/アニメとのコラボレーションというプロモーション手法が、トキオ・ゲッツさんによって日本でも認知されるようになりました。にもかかわらず、同業他社のフォロワー参入がないのはなぜでしょう?
原 間違いなく先行者利得でしょう。この20年間で実績が800事例を超えていますので、今から後発で参入するところが出てきても、経験値も信頼度も違うのではないでしょうか。広告代理店さんや版権元さんといったステークホルダーとのお付き合いも、ちょっとしたことを気軽に尋ねられるような関係を築くのは容易なことではありませんしね。
たとえば版権元さんとの信頼関係構築でいえば、あるタイトルの実写化や周年記念といったトピックスがあるとき。広告代理店さんは、すぐに「周年記念だから契約金を減らして......」といった提案をしがちですが、われわれはそういう提案はしません。むしろ、トピックスによるタイトルの広告効果向上を版権元さんが感じていることを理解した上で、版権元さんとの良好なウィンウィンの関係を築くようにしてきました。
――マンガ/アニメだけでも約300タイトルを網羅するというデータベースの形成と、その継続的な更新も、後発の新規参入の高いハードルになりそうですね。かなり大変な作業なのではありませんか。
原 エンタテイメント好きのメンバーで形成されている会社なので。皆、とにかくコアなことが大好き(笑)。それがわれわれの大きな強みではあります。クライアント様から、何かネタを投げていただくと、1日2日の間にがちゃがちゃと回して、こういうのがいいというのが出せる。「じゃあ、グッズ売り場の店頭は実際どうなってるんだ。見てこい」という前に、「昨日行きましたけど、普通にプライベートで」というようなスタッフが多いんです。
――映画についても、やはりコアなファンばかりですか?
原 映画のことを語り出すと、本当に止まらない人間が多くて。社内で独自にアカデミー賞みたいなこともよくやります。「そればっかりやってないで仕事しろ」というぐらい(笑)。エンタテイメント性だけでなく、クライアント様がこれでどうなるのか、版権元さんがこれでどうなるのか、という事業性の部分もちゃんと追いなさいよというのが、われわれのポリシーなんですが、エンタテイメント性に強いのは、やはり大きな強みです。"好きこそものの上手なれ"ですかね。
――"エンタテイメントが人生のきっかけを作る"というのが、トキオ・ゲッツさんのビジネス・コンセプトとのことですが、まさにそれを体現するようなスタッフさんばかりですね。
原 そのコンセプトがクライアント様に伝わったときはうれしいですね。実際に携わっている社員さんのモチベーションが上がったとか。たとえば、今まで、水を売ってきた、食品を売ってきた、といった現場に映画やアニメが入ってきて、普段の仕事が楽しくなったという声もあったそうです。それにより、自分たちの仕事を見直したり、新しい可能性を見出したりするきっかけになれば。このエンタテイメント・ネクスト・オポチュニティにかなったご感想をいただけると、めちゃくちゃありがたいです。
日本国内では寡占状態の成功を遂げているトキオ・ゲッツだが、ご多分に漏れず、コミュニケーション様式が劇的に変化する時代へのキャッチアップも喫緊の課題となっている。今後の展望についてもうかがった。
――現在、スマホの普及によりSNS時代ともいわれています。企業と消費者のタッチポイントも一変するなど、広告業界も大きな変革を続けています。そのあたり、トキオ・ゲッツさんでは、どのようにとらえていますか。
原 とにかく根底にあるのが、流行り廃りの速さです。今までは、ひとつのコンテンツを世の中に出していくのに、かなりの時間がかかり、利権も絡んでいました。でも、今では、個人で出版できるようになり、新しいものがどんどん出てきて、どんどん去っていってしまっている。トレンドのスパンは、今後も短くなっていくでしょうね。去年の実績だったり、現在のフォロワー数みたいなものが、もしかしたら参考にならなくなる可能性はあるかなと。最大瞬間風速が重視されるようになるのではないかと予測しています。それに備えたプロモーションの提案を考えていくのは、今後の課題かなというふうには思っています。
――ご自慢のデータベースを更新するのが、さらに困難な時代になっていくと。コンテンツを取り扱うエージェンシーならではの悩みですね。
原 あと、デジタルデバイスの進化により、先端コンテンツとの融合もコラボレーションを変えていくでしょうね。今でいえばAIやVR。融合といえば、デジタルとリアルの融合にも注目しています。一昨年の『ポケモンGO』しかり、今年の『妖怪ウォッチ』しかり。皆さん、デジタルだけでは飽き足らなかったんだなという感想をもっています。われわれも、『HELLO KITTY RUN』というキティちゃんのマラソン大会をアジア各国で開いています。そういったものが、今後はコンテンツ・ビジネスのひとつとして存在しうるのではないでしょうか。
マンガ/アニメを含むキャラクターはスキャンダルのリスクも低く、広告に起用する象徴としてもわかりやすさと伝わりやすさがあるといわれている。マンガ/アニメが子供向けコンテンツだったのも今は昔。日本の輸出文化として海外での知名度も高い。マーケターであれば、その適正な起用方法を理解しておいて損はないだろう。
原さんインタビュー①「アニメコラボの集客力」はこちら
原さんインタビュー②「タイアップ・エージェンシーの役割」はこちら
原さんインタビュー③「ブランド形成型コラボと販促型コラボ」はこちら
トキオ・ゲッツ 公式HPはこちら