2018.09.19

住宅建設・リフォーム市場をeコマースに! 若手社長"命がけ"の挑戦とは│サンワカンパニー社長インタビュー(前編)

目指せ1兆円企業!
住宅建設・リフォーム市場を
eコマースに!
若手社長"命がけ"の挑戦とは


"業界の構造改革"をすすめ、快進撃を続ける企業がある。システムキッチン・洗面・バス、タイル、石材、ウッドデッキなど、約6000点の住宅設備・建材をネットで販売するサンワカンパニーだ。同社はなぜ、業界でタブー視されてきたこれら商材のネット販売を始めたのか。急成長の理由とは?"業界の風雲児"山根太郎社長を取材した。

"安くて便利"は絶対的な正義!
消費者たちは必ずついてくる

夏目:"建材のネット販売"、誰もがやりそうでやりませんでしたよね?

山根:きっかけは、私の父にあたる先代社長が、余ったものをネットで売ってみただけだったんです(笑)。建材の卸売業界では、ビルダーさん(大工、工務店など)から発注を受けると、破損する可能性も考えて10%ほど多めに仕入れるのが常識でした。しかし現実には商品が余るので、試しにタイルや床材をネットで売ってみたんです。すると、まさか売れないだろうと思っていたにも関わらず、初月から売り上げがあった。たった5万円でしたが(笑)、これが転機になりました。

夏目:業界ではタブー視されていたとか。

山根:以前、建材はメーカーが製造したものを当時の我々のような卸業者が仕入れ、ビルダーさんにお譲りし、それが消費者の元に届けられていました。しかし我々は、これまでのお客様であるビルダーさんを飛び超えて一般消費者向けの商売をすることになったんです。風あたりは強かったですよ。既存のお客様から出入り禁止にされ、時には嫌がらせも......。

夏目:例えばどんな?

山根:夜中の2時、3時に「オマエのところから買ったタイル割れとったぞ!」「現場に確認に来い!」と呼び出されたりするんです。

夏目:ただし、一般ユーザーからは強い支持を得た、と。

山根:ええ。ネット販売は情報の取得、比較に必要な時間的・金銭的コストをほぼゼロにします。また、中間マージンもなくすことが可能です。このメリットが支持されました。
いままで住宅建材は、ビルダーさんがメーカーの展示会に行って商品を選び、施主はビルダーが揃えたラインナップから選ぶ、という順番で販売されていたんです。だから、値段は一律でなく不透明。しかもビルダーさんは、どれかひとつの建材に集中購買をかけて建材の単価を落としたい。だから勢い、あたりさわりない商品を揃えることが多く、施主はそのなかから選ぶしかなかったんです。これが「日本のインテリアは貧弱」と言われる原因にもなっていました。しかしネット販売により初めて「施主が自分の好きな建材を選び、透明な価格で買う」、本来あるべき姿が実現されたんですね。

夏目:ネットはビジネスを民主化しますよね。"大人の都合でそうなっていた"を容赦なく排除していく気がします。

山根:しかも中間マージンがないため、当社製品の販売価格は一般的な商品の半額ほどです。長い目で見れば、こうした価格優位性や利便性は市場から必ず支持されます。我々の業界でも次第に、施主さんがサンワカンパニーのサイトで建材を買って、ビルダーさんに"これを使って工事してください"と頼む「施主支給」が増えてきました。これ、今までとは逆の新しい商流です。するとビルダーさんのなかには、施主さんに向け「サンワカンパニーの建材にも対応します」とアピールするところが現れ始めたんですね。しかも商品の種類も豊富だから、我々のサイトはビルダーさんにとっても便利なんです。すると、取引を停止されたビルダーさんが再びお客様になってくださるようなこともおきました。その結果、当社の売り上げは以前の10倍以上になっています。


掟破りの"イタリア語プレゼン"の結果
世界の一流企業の仲間入り!


夏目:貴社は次々、オリジナル商品も開発していますね。

山根:日本のマーケットは成熟しているので、高度成長期のように「つくれば売れる」時代ではありません。しかもネットやSNSの台頭で消費者の趣味・嗜好は多様化しています。このニーズとマッチするソリューションを提供しない企業は淘汰されてしまう、だから商品点数を増やす必要があったんです。現在、取扱商品は約6000点で、売り上げの80%近くをオリジナルブランドが占めています。

夏目:やはり、既存のメーカーさんは無難な商品が多かったんですか?

山根:いえ、きっと尖った商品も開発されていたと思うんです。しかし、業界の構造的に売り上げが伸びず、だから人目に触れず、開発していたことも忘れられてしまったのかな、と。

夏目:商品ラインナップ、細かいですよね。例えばエクステリアでも、門柱、宅配ボックス、ひさし、ポスト、布団干しバー、フェンス......。

山根:そこが強みです。我々がつくっているものも既製品ですが、商品のラインアップを広く持っておけば、例えば「好きなタイルと好きな洗面ボウルと......」と組み合わせが増え、最終的にユーザーさんオリジナルの空間がつくれるようになりますからね。

夏目:しかも、これらが海外のデザイン賞を受賞されていますよね。

山根:実は狙って獲りにいっているんです。私が社長に就任した直後、スタッフに「当社の強みって何ですか?」と聞くと、やはり「インターネットで価格をオープンにしている透明性」と「デザイン性」だと。しかし「デザイン性」は主観的なものだから、どう消費者に説明しよう? と議論をすると、みんな「......」と考え込んでしまったんですね。そこで私が「だったらデザインの良さを可視化しよう!」と言ったんです。

夏目:例えばドイツの「iFデザイン賞」。"世界三大デザイン賞"の一つですよね。

山根:ドイツのハノーバー工業デザイン協会が主催していて、造形、外観の美しさだけでなく、機能性や環境対応など厳しい基準をクリアした製品だけに与えられます。当社は2015年に出展を開始し、現在既に、この賞の企業ランキングは世界34位です。

夏目:たしかイタリアでも?

山根:2016年からミラノのエウロクチーナ(サローネ国際キッチン見本市)に参加しています。ネットビジネスでは、お客様が一番最初に思い浮かべる企業だけが伸びていく――すなわち「ファーストコールカンパニー」にならなければ勝てないんです。ではどうすれば? と思い、世界的な権威を持つミラノサローネへの出展を考えました。実は一度断られています。イタリアの家具メーカーのための見本市だからです。しかし私が現地に飛んで、イタリア語で「当社の売り上げの2割はイタリア製家具です。将来、目標通り1兆円企業になったらイタリア製の家具が2000億円売れる計算になります!」とプレゼンしたら出展を許され(笑)、その後、ベスト展示に贈られる賞「第3回ミラノサローネ・アワード」も受賞しているんですよ。

世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ国際家具見本市」には
2016年4月に初出展(左から2人目が山根社長)

命がけの選択ができた
"身体的理由"とは!?


夏目:しかし疑問もあります。ネットでは長く「何が届くか想像できるモノ、もしくは安いモノしか売れない」と言われていましたが、貴社ではシステムキッチン、バスなど高額な商品も売れていますよね。

山根:ここのブレイクスルーが難しかったんです。当社の売れ筋は、長くタイルやフローリングでした。お客さんにカットサンプルをお送りすればご購入いただけたからです。しかし、システムキッチンのような大きなモノは、やはり実物を見なければ不安ですよね。そこで我々は東京・大阪、仙台、名古屋、福岡など、大都市圏にショールームを出しました。さらには企業に対する信頼感がなければ、高額な商品は売れません。そこで、東京なら外苑前駅の目の前の一等地にショールームを構え、株式市場への上場も実現しています。これに加え、世界各国で様々な賞を受賞し、初めてお客様がネットでキッチンやバスなども購入してくださるようになったんです。

夏目:"ネット販売の壁"を壊したあたりがイノベーティブだったんですね。

山根:いえ、実はそこじゃありません(笑)。当社は、オリジナル商品の多くを富裕層向けでなく、普及価格帯ゾーンで販売しています。実はここがイノベーティブなんですよ。

夏目:しかし、ネット戦略といい、ミラノサローネへの出展といい......あえて悪く言えば、現実離れした判断をされていますよね。

山根:経営判断の際、軋轢が生まれるとわかっていても踏み切れるのは、私が中学3年生の時、命を失う危険をおかして意思決定した経験があるからかもしれません。

夏目:というと?

山根:実は私、子どもの頃、心臓疾患を抱え「運動すると死ぬ可能性がある」と言われていたんです。体育の時間はほぼ見学で過ごしていました。しかし、本当は悔しかったのかもしれません。中学生のとき「死んでもいい」とテニス部に入ったんです。すると......抑圧から解き放たれ、何かが吹っ切れたんでしょう。周囲が嫌がるキツイ練習も、何もかもが僕にとっては楽しいんです。気づけば血管が太くなって疾患は完治し、高校生の時には初めて海外遠征も経験し、その後は世界を転戦してプロテニスプレーヤーとして賞金を稼いでいた時期もあります(笑)。この「死ぬかもしれない」なかで意思決定できたことが、今のビジネスに繋がっているのかな、と。

夏目:結局、どんな壁を乗り越えてきたかで人間の格が決まるとしたなら、山根さんは最も大きな壁を乗り越えられたんですね......。

インタビュー後編はこちら

講談社が提供する各種プロモーションサービスのご利用に関するお問い合わせ・ご相談はこちら