2017.11.16

農業も、建設業も、結局は「工場」だった!?│トプコン社長インタビュー(前編)

農業も、建設業も、
結局は「工場」だった!?
「自動化」で世界を変える
超優良企業の
"未来創造型"サバイバル術とは!

株価は直近5年で6倍強、収益の80%近くを海外事業であげる超優良企業のトップに取材した。光学機器メーカー「トプコン」の平野聡社長だ。実は、キャタピラーやコマツ等の建機メーカーが世界で普及させている「GPSを利用した自動化システム」は同社が開発の先駆者。1990年代にこの未来を予測し、実現した敏腕社長に業界未来図を聞いた。
農業未経験者が
米を育て、収穫しはじめた!

夏目:トプコンの技術で世界が変わる、とまで言われているのを聞いて取材に来ました。

平野:当社は人類の課題を解決します。例えば「食」。世界的に人口は右肩上がりで増加しています。一方、右肩下がりに減っているのが1人あたりの作地面積。当然、将来的には食糧不足が予測されます。
しかし我々は「農作業の生産性や農作物の質は当社の技術で劇的に向上させられる」と考えています。

夏目:壮大ですね。具体的には?

平野:農作業の自動化です。既存の農機に高精度のGPSやセンサーをつけ、稲を植え、種を撒き、水や肥料をやって刈り取るまで、ほぼ自動でできるようにしたいと思っています。当社では「スマート農業システム」と呼んでいます。

夏目:田植えって、実は難しい作業だと聞いたことがあります。人間がトラクターを運転すると、まっすぐ進んだつもりが少しヨレてしまう。稲と稲が近過ぎるとちゃんと育たず、離れ過ぎると地面を有効に使えない、とか......。

平野:機械なのでどれだけでもまっすぐ進みますよ(笑)。しかも、人間の眼と違って可視光は必要ないから、夜中でも作業ができます。しかも今後は、熟練が必要だった作業も自動化していきます。例えば作物の茎や葉にレーザー光をあて、返ってきた光の波長を分析することにより「ここに肥料を撒いたほうがいい」「肥料の中でもこの成分を多く含むものが必要」と判断し、自動で肥料をやるシステムが既にあるんです。

夏目:ひえ~!

平野:ただ、我々はエンジニアリングの企業なので「この状態の農作物には、この肥料を与えよう」と数値化、定量化する部分はできません。ここは現場の農業者の方や、大学の研究者の方々と連携をとり、技術を確立していく必要があります。しかし、近い将来には、広い土地を農業未経験者数人で管理すれば作物が収穫できる時代が来るでしょう。

夏目:開発はどこまで進んでいるんですか?

平野:じゃあ、あれ持ってきてくれますか?(と声をかけると女性が米袋を持ってきて......)当社は千葉県に技術開発やデモンストレーションに使う水田を持っています。実はそこで、彼女がトラクターを動かし、この米をつくったんです。当社の社員で、もちろん農業の経験はありませんが、ちゃんと収穫できましたよ。

夏目:美人がつくった世界初のスマート農業米をもらえるだなんて、これはこれは。

平野:あ、よろしければお持ち下さい。機械が作ったというと工業製品のようなイメージがありますが、とてもおいしいですよ。


農業も建設業も
本質は「工場」と同じ

平野:次に建設分野です。当社は高精度のGPSを活用して、ブルドーザーやショベルをロボット化して施工できるようになりました。あらかじめ、どう施工するのか三次元のデータをつくって、ブルドーザーに搭載してあるコンピューターに記憶させるのです。すると、ブルドーザーとそのブレード......土をならす部分が動いて設定した通りに整地してくれます。

夏目:ごめんなさい、私、ブルドーザーで整地したことがないので、そのすごさがイマイチわからないのですが(笑)。

平野:整地はまず、当社が85年前から作っている測量機を使って地面の現状を把握し、どうならすか設計するところから始めます。工事を始めると、30メートルごとに杭を打って「ここはこれくらいの高さにする」とペンで杭に印を付けます。これを元に、ブルドーザーを動かす人が地面を目視して平らにするんです。

夏目:「ザ・アナログ」ですね。いや、ここは「ジ・アナログ」か。

平野:例えば飛行場の滑走路には、微妙に傾斜をつける必要があってブルドーザーを動かす人には熟練の技が必要だと言います。しかし当社のシステムを使えば正確に図面を再現できます。もちろん整地だけでなく、穴を掘る、埋め立てる、といった作業も可能です。

夏目:3Dプリンターのように、設計図がそのまま形になるんですね......。

平野:実は農業も建設業も、本質は「工場」と似ていたのだ、と考えています。いま、工場では自動化が進み、製品の位置や温度や重量をセンサーで測定し、状況に応じてロボットが加工していきます。人間が行っていた作業が、次々と機械に置き換えられているのです。しかも、機械のほうが作業が正確で、速く、ランニングコストも人を雇用するより安い場合が多い。農業も建設業にも、工場と同じような進化が訪れようとしているのです。食べ物を安易に「工業製品」と呼ぶのはためらわれますが、田や畑が巨大な工場に、トラクターが自動で動く製造機械になるイメージです。

夏目:幅ったいことを言いますが......ITの分野で日本は出遅れた、と言われています。でも、IoT(Internet of Things=モノのインターネット)の分野では、日本企業に大きなチャンスがあると聞いています。ITは人間による情報発信だから言語の壁が存在した、しかしIoTは、農業機械や建設機械のような様々な「モノ」がGPSやAIと情報をやりとりするから言語の壁が存在しない、というのです。

平野:おっしゃる通りで、センサーやGPSの精度が高くなって、モノが自分の状況を発信しているわけですから、言語は関係ありませんね。それより今後は、センサーやGPSや光学機器から得られる情報をどう組み合わせて新しいモノを作るかが問われるのだと思います。

夏目:iPhoneだって、既存の画像デバイスやGPSやカメラを組み合わせただけでしたからね。こんな進化を日本企業が起こしてくれればいいのにな......って、トプコンさんはそれをやってるんですよね?

平野:ええ。なかでも世界で問題になっていること、将来大問題になることにターゲットを絞って経営資源を投入しています。

夏目:よく「IoTが第四次産業革命をもたらす」なんて聞きますが、具体的には、こういうことだったんですね。

「医」の分野で活躍する眼の検査・診断機器。
緑内障などの眼病予防で世界に大きく貢献している

眼の健康を守る優良企業は
「帝国陸軍の遺産」だった!?

平野:あと、当社は医療の分野、とくに眼病予防で世界に大きく貢献できます。じつは今、世界的に平均寿命が延びた結果、眼の疾患が急増しているのはご存じですか?

夏目:一昔前は眼が悪くなる前に寿命が尽きていたけど、みんなが長生きになって、眼の病気が目立つようになったということですね?

平野:しかも、世界の平均寿命はまだ10年~20年伸びると言われているんです。そこで当社は、長く眼鏡屋さんで使う視力を測定する機器や眼医者さんが使う検査装置をつくってきた経験を活かし、日本人の失明原因の第1位になっている緑内障を早期発見できる検査・診断機器をつくりました。緑内障は眼の奥にある視神経の病変が原因なので、眼圧を計るなど通常の眼の検査では判明しにくいのです。しかしなんと、40歳以上の日本人の約5%が罹患しており、そのほとんどが「自分は緑内障だ」と気付いておらず、放置すると失明に至る恐ろしい眼疾患なのです。そこで当社は、眼球の奥まで撮影できる機械をつくりました。すると医学部の先生の研究により、眼の奥の「篩状板(しじょうばん)」の薄さが緑内障評価の重要な指標になり得る、とわかったのです。緑内障は早期発見し、診療を受ければ進行を食い止められます。すなわち、当社製品が普及すれば、緑内障で失明するリスクを軽減することに貢献出来るのです。

夏目:最初は、あの「C」みたいなのが出てきて「右」と答える機械をつくっていて、それが進化した、という話ですね?

平野:そうです。しかも、今は眼底の奥にある毛細血管まで見えるようになりつつあるんですよ。人間の体を傷つけず、綺麗に毛細血管が見える場所は眼底のほかはありません。もちろん、血管の動きや血管の状態が何を意味するかは、医療やサイエンスの領域です。「血管がこうだから、将来この病気になる可能性が高い」と定量化していくためには、医学関係者や研究者の方と一緒に研究していくことが必要です。しかし、血管が原因で起こる病気は非常に多いため、将来は眼底の検査で心臓病等のリスクが早期発見ができるのではないか、と期待できます。検査結果は数分で出せるので、健康診断のとき、もしくは眼鏡屋さんで視力をはかるついでに、眼や血管の健康状態も計測できたらいいですよね。

夏目:なるほど、でもあまりに分野が多岐にわたっていて、そろそろわけがわからなくなってきました。そもそも、貴社はなんの会社だったんですか?

平野:実は1932年に帝国陸軍が関与し立ち上げた企業です。そこから、コア技術を活かして様々な分野に成長してきたんですね。

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