2017.08.22

「次」に対応し、「次の次」を準備せよ!│NTTぷらら社長インタビュー(後編)

「次」に対応し、
「次の次」を準備せよ

夏目:今後、映像配信の業界はどうなっていくのでしょうか?

板東:4Kは、ひとつのきっかけがあれば一気に普及していくと考えています。技術は必ず進化し、元に戻ることはありません。例えば、1度ハイビジョンを体験したあとアナログ放送を目にすると、ずいぶん粗い画像だと感じませんか? これと同じように、4K向けコンテンツを4Kテレビで観ると、HD(高精細度ビデオ)との違いを強く実感される方が多く「次にテレビを買い換えるタイミングで4Kに」と考える方が多くなるんです。

夏目:普及していくタイミングは?

板東:4Kテレビの価格が下がり、50インチが10万円を切った商品が多くなると一気に普及するのでは? と考えています。現に今年、アメリカのCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)に行ったついでにウォルマートで4Kテレビの値段を観ると、50インチの日本製4Kテレビが500ドル前後で販売されていました。日本でも「どうせなら4Kを買おう」となるのは時間の問題でしょう。

夏目:しかし現状、コンテンツが足りませんよね。4Kテレビを買っても4Kコンテンツが見られない、という......。

板東:映像業界では「4Kコンテンツの制作に高額な予算がかかる」ことが問題になっています。しかも、制作時にお金がかかる割に、売り上げや利益には結びつきにくい。そこで当社は、日本で初めて商用4Kのビデオオンデマンド配信を始めたタイミングで、様々なテレビ局やコンテンツプロバイダーと組んで4K番組の共同制作を始めました。共同制作をするとそれぞれの負担は軽減できます。現在、コンテンツプロバイダーからの調達を含め、映画、ドラマ、スポーツ、音楽なども合わせると約1,800本の4Kビデオを提供しています(2017年7月現在)。このように、4Kコンテンツを増やしていくには様々、工夫する必要があるでしょうね。あとは、4K映像をライブで配信する取り組みも強化していく必要があると思います。

夏目:今後、技術が進化し続けるとすると、4Kの次は8Kへと進んでいくのでしょうか?

インフラへの投資が終わり
コンテンツ争奪戦が始まる

夏目:なかでも板東さんに伺いたいのは、最近、コンテンツの奪い合いが始まっているのではないか、ということです。例えばひかりTV対応チューナーではDAZNが観られますね。

板東:NTTドコモとPerform Group(英国に拠点を置くDAZNの運営会社)が協力して「DAZN for docomo」を立ち上げ、我々もこれに参画した形です。最初、DAZNの配信はスマホ、タブレット中心に考えられていました。しかしJリーグさんは「サッカーの試合はテレビで観たいユーザーも多い」と考えておられたと聞いています。そこで「ひかりTV」を経由してDAZNのコンテンツをテレビで観てもらおう、となったのです。

夏目:相思相愛だったんですね。

板東:我々は非常に強力なスポーツコンテンツをひかりTV対応チューナーを通して視聴してもらえるようになります。一方、Perform Groupから見れば、我々は既に多くの会員の方を抱えていますから、テレビで視聴できる環境が整い、多くのお客さまの利便性が高まることにつながるわけです。実際に当社のヘルプデスクでも問い合わせの件数が跳ね上がっています。

夏目:これからは、映像配信のインフラを持つ企業と、コンテンツを持つ企業、どこがどう組んでいくかわからない戦国時代が到来しそうですね。

板東:既にそうなっていますよ。例えば当社は2017年4月から、吉本興業さんと共同で、映像配信サービス「大阪チャンネル」を開始しています。10局の在阪民放局等が垣根を越えて協力してくださり、関西独自のコンテンツを提供してもらっています。過去の人気番組のアーカイブや、以前放送されていた人気番組を現代版にリバイバルしたオリジナル番組などを配信しています。吉本興業の大﨑洋社長と一緒に記者会見したとき、大﨑さんは冗談で「本来、放送局さんは仲悪いんですけど......」などとおっしゃってましたが、お互いにメリットがあれば「地域ではライバルでも全国に向けてはタッグを組む」ことがあってもいいわけです。

夏目:わかってきました。もしかしたら今後、携帯電話のキャリアは、放送事業者と役割が重なってくるんじゃないでしょうか。スマホは、カメラ、録音機、パソコンから万歩計まで、様々なデバイスを飲み込んできました。その中にはテレビもあって、自然と通信企業は放送事業者のような役割も担うことになりつつあるんでしょう。

板東:また、事業環境も整ってきました。今までキャリアは基地局の構築などネットワーク、設備等への投資が必要でしたが、現在はそれが完成しつつあります。すると、設備投資に使っていた資金を新たなマーケットの開拓に使えるようになります。そして、コンテンツ競争も激しくなってくると思うのです。そのため、当社もDAZNや「大阪チャンネル」など、一歩先んじて新しいことを始めていきたいと思ったわけです。
消費者の支持を受けることも重要です。コンテンツを囲い込んで他では観られなくしているようでは、ユーザーの利便性を無視した足の引っ張り合いが起きてしまいます。
まず当社としては、もっともっと様々な企業との連携を進め、マーケットを拡大していきたいと考えています。

【プロフィール】

板東浩二(ばんどう・こうじ) '53年徳島県生まれ。'77年に徳島大学工学部電子工学科を卒業し、日本電信電話公社(現NTT)入社。'91年、九州支社ISDN推進室長に就任し、'93年、長距離事業本部通信網システム部担当部長。'96年にマルチメディアビジネス開発部担当部長になり、'98年にNTTぷらら(当時の社名は「ジーアールホームネット」)代表取締役社長に就任

夏目幸明プロフィール
1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。「マーケティング、マネジメント、技術がわかれば企業が見える」と考え、これらを報じる連載を持つ。講談社『週刊現代』に『社長の風景』を連載、大手企業トップのマネジメント術を取材する。
著書は『ニッポン「もの物語」』(講談社)など多数。現在は「夏目人生法則」のペンネームでも活動し、Itmedia、ダイヤモンドオンラインなどで記事を連載する。

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