ますます関心が高まるWeb3やDAO、ブロックチェーンといったキーワード。これらの技術をマーケティングやコミュニティ作りに活用したいと考えても、どのような技術なのか、どのように活用されていくべきなのか、関心を寄せているビジネスパーソンも少なくないだろう。
そこで今回は、Web3やDAOの仕組みを活用し、地域社会の持続可能な発展をめざす共創DAO合同会社の共同創設者・河野友香さんにインタビューを実施。DAOによるコミュニティ作りのヒントや、Web3技術を活用した地域活性化の意義、そして、DAOやWeb3技術を活用した地域活性化の新たなユースケースとして「共創DAO」が主催するイベント「NEO四国88祭」について話を伺った。
河野友香さん
BranPeak合同会社 創業者兼CEO / MusubuSTUDIO Brand Director / 共創DAO合同会社 Co-Founder / AI Marketing BB Director
デジタルマーケティング、Web3、AI領域で多岐にわたる事業を展開する起業家。総合広告代理店、マーク ジェイコブス,DIESEL, Triumphなどを含む外資系企業でのデジタルマーケティング部門統括、フィンテックスタートアップのマーケティング責任者など、多様な業界における豊富な経験と実績を持つ。
新たな共創関係構築をもたらす。DAOとは何か?
DAO(Decentralized Autonomous Organization)とは、日本語で「分散型自律組織」と訳される言葉。従来のトップダウン型組織とは異なり、中央集権的な管理者が存在しない点がDAOの大きな特徴だ。
「DAOは、ビジョンや目標を持ち、それに賛同するメンバーが集まったフラットな組織です。意思決定は話し合いや投票によって行われ、報酬(トークン)も貢献度や成果に基づいて分配されます。この仕組みにより、不公平感もなく、透明性の高い運営が実現します。
『共創DAO』も、共通の課題意識を持ったメンバーが集まり活動している組織です。エンジニアや弁護士など、多様なバックグラウンドを持つメンバーが参加しています。それぞれの強みを活かしながら、共通の目標に向かって共創することで、新たなムーブメントを生み出すことができるはずだと感じています」(河野友香さん、以下同)
河野さんが参画する共創DAO合同会社は、合同会社型DAO(合同会社としての法人格をDAOに付与した組織)の先駆けとして知られるDAOのひとつ。地域創生や地域活性化をキーワードに、人と人、人と地域、地域と地域がより密接につながる未来をめざし、地域コミュニティ活性化アプリの開発や、地域オンラインコミュニティの創出、事業創造などの支援を行っている。
「私たちがめざしているのは、ブロックチェーン技術やDAOの仕組みを活用して、持続可能な地域のエコシステムを構築することです」と、河野さん。重要なのは地域が自走していけるかどうかだと、力強く話す。
「Web3技術を活用した地域創生の事例はこれまでにも多くありますが、一時的な取り組みに終わってしまうことも少なくありません。対して私たちは、地域の人たちが自発的に、自分たちのやりたいことを運営していけるような仕組みづくりに取り組んでいます。
地域で使えるDAOのツールやアプリケーションを開発するだけでなく、行政、企業、住民を巻き込みこんだ、新たな地域の共創関係構築をめざしています」
強い絆のコミュニティが形成され、新たな経済圏も生まれるDAOの可能性
実際に、DAOによる共創関係が、コミュニティ作りや地域活性化にどのような影響を与えるのだろうか。
「一人ひとりがフラットな立場で1つの目標に向かって共創していくと、強い絆で結ばれたコミュニティができあがると思います。トップダウンで広告プロモーションやイベントを企画しても、その場限りのものになってしまうことがありますよね。そうではなく、"一緒に作り上げること"が重要。結束感が高まり、新しいつながりや取り組みが次々と広がっていくと思います。
また、コミュニティ内で新たな経済活動が生まれ、地域活性化へとつながるきかっけにもなると考えています。一例をあげると、私たちが主催するイベント『NEO四国88祭』の準備期間にも、地域の人から『来年一緒にやりたいと言っている印刷会社に印刷をお願いしてもいいか』という声があがっていました。『何かを買うなら仲間のところから買おう』という思いが生まれ、地域のよい循環につながっていくというのは、大きな価値だと思います」
DAOによるフラットな共創を通じて生まれる地域の信頼関係は、次なる共創を呼び込む。こうした循環が、地域の持続可能な発展を支える力になるのだ。
DAOによる意思決定のもと生まれたイベント 「NEO四国88祭」
地域の繋がりを強化し、共創の輪を広げるために。「共創DAO」は、地域創生を目的とした大規模イベント「NEO四国88祭」2024年11月30日(土)~12月31日(火)に開催する。
「NEO四国88祭」は、「共創DAO」と四国各地のリーダーたちが結集し、各地域の魅力を最大限に活かした27の体験型プログラムを提供するイベントだ。Web3、DAO、ブロックチェーン技術を活用した、地域活性化の新たなユースケースとして注目を集めている。
「『NEO四国88祭』は、弘法大使が始めた『四国八十八ヶ所巡り』から着想を得て生まれたイベントです。実際の『四国八十八ヶ所』は四国各地に拠点があるので、それらはすべてが繋がっているわけではありません。同様に、地域のために頑張って活動している人たちもお互いに繋がりがなく、点になってしまっていると気づいたんです。そこで私たちは、四国各地で町おこしをしている人々を繋ぎ、『NEO88』という、四国の地域の人たちで構成される新たなDAOを発足しました」
「Web3技術を活用した地域活性化と言われると、オンラインコミュニティを作ってそこから交流を促したり、地域のアプリケーションを作ったりするイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし、オンラインプラットフォームやアプリを用意して『ここに集まってください!』と呼び掛けても、実際のところ、交流はなかなか生まれないんですよね......。
最終的に私たちが行き着いたのは、『自治会やコミュニティはすでに存在している』ということ。オンラインで一からコミュニティを作ろうとするのではなく、リアルにある既存のものを繋げた後に、オンラインでつなげるという発想を持ちました。地域との絆を深めるためには不可欠なステップだと考えています」
印刷工場をリノベーションしたコワーキングスペース(徳島県美馬市)を貸し切って行われたワークショップ。この場で出たアイデアを種に、キャッチコピーやプログラムなどが生まれた
本イベントの27の体験型プログラムも、地域の人々と直接意見を交わし合い、DAOによる意思決定のもと誕生したものだという。
「地域の町おこしの中心人物がコアメンバーに加わってくださったことは、大きなポイントです。自治体やコンサルが主導するよりも、地域で必死に町おこしをしている人が『助けてほしい』と言ったほうが、地域の人たちも『いつもお世話になっているから』と応じてくれるんですよね。やはり、地域が主導する形で、自分たちがやりたいことを決めていくコミュニティでなければ、持続可能な形にはならないと考えています」
Cardanoの助成金制度で「迅速なイベント開催」、「自治体の負担ナシ」を可能に
今回の取り組みにおける「共創DAO」のユニークな点は、自治体や地域の事業主に金銭的負担かけることなくソリューションを提供するというビジネスモデルだ。
一般的な地方創生DAOは、NFTやトークンなどのデジタル資産を用いて資金を稼ぐことが多い。一方「共同DAO」は、このプロジェクトをいち早く実現させるためにと、グローバルパブリックレイヤーワンブロックチェーンであるCardano(カルダノ)財団が運営する助成金制度に応募。FCバルセロナのファンコミュニティなど、名だたる競合を抑えて、7月に採択された。結果、7月の採択から11月末開催というスピード感を実現することができたという。
11月20日~11月22日に開催された、ブロックチェーンEXPOのCardanoブースに出展した河野さん(中央)と、共創DAOのメンバー
「助成金は、Cardanoのブロックチェーン上で取引される仮想通貨『ADA (エイダ)』。採択当時レートで約1.4億円にのぼりました。Cardanoブロックチェーンを活用したアプリケーションを開発するという制約はありますが、その助成金を今回のイベント運営費、アプリケーション開発費などに充てることで、地域のリーダーたちに金銭的負担がかからない形での取り組みが可能となりました。
地域には魅力的な資源がたくさんあるのですが、自治体や企業がWeb3やDAOの仕組みを取り入れた地域活性化に取り組もうとしても、資金確保が難しいんですよね。その第一歩を踏み出すためのソリューションを提供するのが私たちです。地域のリーダーたちが繋がり、エコシステムを作れるようにするためのプラットフォームやアプリなどを開発・提供することで、地域のみなさんが自発的にやりたいことができるような設計にしています」
2025年には、地域トークンシステムの実証実験も
「NEO四国88祭」は、2025年初夏に開催予定の本イベントに向けたプロトタイプという位置付けだ。そのため、具体的なアプリケーション開発やトークンシステムなどはまだ本実装されていない。プレイベントでありながらもここまで大規模なイベントを開催する理由も、そこにあるという。
「ソリューションを展開する前に、まずはコミュニティを活性化させたいというのが一つの大きな理由ですね。将来的には88を超えるコミュニティを巻き込んでいきたいと考えているので、その素地を温める場にしたいと思っています。
また、イベントを通して、私たちが作ろうとしているアプリやトークンシステムが、地域の人にとって本当に必要なものであることを検証したい、という思いもあります。アプリケーションや仕組みを作っても、使い続けてもらえるものでなければ意味がありません。今回のイベントを通してヒアリングを続け、よりよいかたちを探っていければと考えています」
香川県琴平町の町おこしの中心人物として琴平バス代表の楠木泰二朗さん(左前)、共創DAOのコアメンバーでもあり、徳島県吉野川市で町おこしをしている原田真さん(右奥)など、地域の人々と交流を深める河野さん
「実装はこれからですが、ビジョンはあるんです」と、河野さん。現在想定しているアプリやトークンシステムは、どのような機能や仕組みなのだろうか。
「現在開発を進めているのは、地域で助けを求める人と助けたい人をつなげるマッチングアプリです。例えば、今回のイベントのようなものであれば、プログラム作りや準備などに手伝った人にトークンが付与され、別のプログラムに参加できたり、特典やサービスを得られたりする仕組みを提供しようと考えています。地域への貢献度が可視化されるので、地域でがんばっている人ががんばった分だけ得をする。そうしたシステムを作ることができれば、より自発的な地域活性化につながっていくと思います」
すでに今回のイベントを通して四国の各所から、「来年もやるなら参加したい」という声が集まっているだけでなく、四国での活動を目にした複数の自治体から「自分の自治体でもやってみたい」という問い合わせが入ってきているという。
11月30日に幕を開ける「NEO四国88祭」、そして2025年のイベント本番が、地域にどのようなポジティブな影響をもたらすのだろうか。C-stationでは、引き続き共創DAOの取り組みを追いかけ、Web3時代における新しいコミュニティ作りのヒントを探っていく予定だ。
取材・文/室井美優(Playce) 編集・コーディネート/川崎耕司(C-station)
川崎耕司 C-stationチーフエディター
C-stationチーフエディターおよびC-stationグループの、広告会社・広告主向け情報サイト「AD STATION」を担当。