2024.11.26
【ミライトーク01】急伸中!グローバルにおける「日本マンガ&アニメ」市場の可能性── 講談社メディアカンファレンス 2024
(左から)エンタメ社会学者 中山淳雄さん、講談社 グローバル統括室室長 高見洋平
2024年10月30日に、東京會舘にて開催された「講談社メディアカンファレンス 2024」。本稿では、プログラムの一つとして行われた、メディアと広告の可能性を探るトークイベント「ミライトーク」のレポートをお届けします。ミライトーク01では、エンタメ社会学者の中山淳雄さんと、講談社グローバル統括室室長の高見洋平が登壇。日本のマンガとアニメがグローバル展開においてどのような可能性を秘めているかを展望しました。
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2018年が分岐点。国内外ともに拡大するマンガ市場
中山 グローバル市場における日本のマンガとアニメはどれほどの影響力を持っているのか、現在の市場規模をお話しします。
はじめに、「マンガ市場」です。棒グラフは、2010年から23年までの13年間の国内の市場規模をグラフで示しました。内訳は、下から紙コミック誌、紙コミックス、電子コミックです。3つを合わせると、2018年から2021年にかけて、とんでもない勢いで伸びており、約4500億円から約7000億円へと拡大しました。
中山 折れ線グラフは、それぞれ「世界の日本マンガ市場(オレンジ)」、「フランスの日本マンガ市場」、「韓国のWebtoon市場(緑)」を示しています。
「世界の日本マンガ市場(オレンジ)」は、出版業界が海外展開しているマンガ以外のものも含んでおり、2010年に10億ドル超だったところから、30億ドルにまで増加しました。「韓国Webtoon市場(緑)」は最近少し頭打ち気味で、1.8兆ウォン(約2000億円)程度で止まっています。
ちなみにアメリカの日本マンガ市場は元々1~2億ドルでしたが、2019年から21年頃にかけて倍々で増加し、約8億ドルになりました。この3、4年の間にアメリカとフランスのマンガ市場がとんでもない勢いだったことを、高見さんは実感されていたのではないかと思います。
高見 そうですね。私は講談社USAの役員も務めていますが、毎月のレポートが2倍、3倍と伸びていくので、「何が起きているんだ、これは!」という感じでした。おそらく、コロナ禍で皆さんが家に閉じ込められている中で、ものすごくマンガを読んでいる。本当に驚いたこの3年でした。
中山 久々にマンガ市場に好景気が訪れた感じですね。
高見 おっしゃる通りです。日本とアメリカでは本の開き方が逆なのですが、今はアメリカ人も日本のマンガと同じ右開きで読んでいます。これはすごいことです。フランスは以前からかなり大きなマーケットでしたが、北米を中心にドイツやイギリスなど、 これまでなかなかエンタメが浸透しない国、特に日本のエンタメはなかなかうまくいかないと言われていた国でも市場規模が2倍、3倍と伸びていったので、非常に大きなパワーのある動きだったと実感しています。
中山 淳雄さん(エンタメ社会学者、Re entertainment代表取締役):リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティング、バンダイナムコスタジオを経て、2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在し、日本のゲームやアニメなどの海外展開を担当。2021年にエンタメの経済圏創出と再現性を追求するRe entertainmentを設立。著書は『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』(日経BP)など。
中山 生活習慣を変えましたよね。1990年代、2000年代からマンガを海外展開されている方の本を読むと、本の開き方を考えたり、登場人物の名前を「マイク」にしたり、どこまで変えればいいか試行錯誤を繰り返し、それでも浸透しない、と苦悩する様子が伺えます。それが、突然霧が晴れたというか。講談社さんも2000年代後半にアメリカに進出したり、北米書籍出版部門としてVertical社を買収したり、15年間やってきたことが、この5年に凝縮されている感じですね。
さきほど示した表では、各年に売れた作品も紹介していますが、2010年の『進撃の巨人』から始まり、2017年の『東京リベンジャーズ』、2018年の『ブルーロック』あたりが大きく伸びていく発端でした。マンガ市場は2018年ごろから大きな分岐点があり、国内も海外も勢いよく伸びているのがお分かりいただけたかと思います。
日本アニメの海外市場は、10年間で5倍増の1.5兆円規模に
中山 次に「日本のアニメ市場規模」を見てみましょう。アニメ市場は、マンガ市場と桁が一つ違い、1兆円から1.5兆円規模になっています。棒グラフは国内の市場規模を示していて、2013~14年に国内市場は一旦頭打ちになりました。それが2022年ぐらいからまた少し伸びてきています。
折れ線グラフは海外収益です。Crunchyroll(クランチロール)がマンガ配信を始め、Netflixが普及してきた2013年が2000億超円。それが2022年には約1.5兆円と、5倍、6倍になりインパクトが大きかった。
中山 ラインナップを見ると『進撃の巨人』の2013年が、海外売り上げが上がっていくタイミングと言っていいんですかね?
高見 おっしゃる通りだと思います。2013年に『進撃の巨人』が世に出て、一気に世界で広がりました。その後、配信という新しいサービスの需要も広がり、世界中の人がいつでも、何話目からでも見られる状況になりました。加えて「見始めたら止まらず最後まで見てしまう!」という消費行動も新たに生まれています。アニメは、日本のテレビの枠に収まるように基本30分で一話になっています。一話の長さがちょうどよくて、次から次へと見ることができる。気づいたら12時間見ているようなことが起きたんだろうな、と想像できます。
中山 アメリカのコンテンツより少し短尺で売りにくいと言われていましたが、短尺であることが、いまでは優位性になっているわけですね。僕が2011年にアメリカに行ったとき、当時はアニメもゲームも調子が悪い状況でした。2008年、9年をピークにアニメはパッケージ版も売れないし、これからはカードゲームの時代だと言われていたことを思い出すと大きな変化を感じます。
2013年にカナダで仕事をしていたとき、現地は『進撃の巨人』のコスプレイヤー一色になり、 2014年になると『Re:ゼロから始める異世界生活』が出てきた。コスプレの歴史は、海外における日本アニメが浸透していく歴史だったと感じます。
高見 洋平 (株式会社講談社 グローバル統括室 室長)。1998年講談社入社。漫画編集者として21年間従事し、担当作品に『BECK』『ノラガミ』『ボールルームへようこそ』など。2018年「月刊少年マガジン」編集長就任。21年からはライツ・メディアビジネス局長として、アニメ・実写・ゲーム・MD・広告宣伝・ライブエンタメなどのライセンス部門を統括。24年6月、海外事業を強力に推進するために新設されたグローバル統括室・室長に就任。
日本のコンテンツ市場は世界3位。しかし、行政の振興予算は韓国の半分以下
中山 マンガもアニメ市場もこの10年で激変したわけですが、よく言及されるのはここ3年だと思います。日本はこの15年ほど「クールジャパン」に力を入れてきました。途中で「失敗した」など、いろいろなことを言われたわけですが、2023年に 経団連が、提言「Last chance to change」を公表したあたりから、この一年で行政を含めた動きが大変活発になっています。
日本のコンテンツ市場は約13兆円で世界3位となっています。コンテンツ輸出が4.7兆円で、内訳を見るとゲームが3兆円、アニメが1兆円、出版は3000億円でした。4.7兆円という数字は、半導体・鉄鋼産業の輸出規模に匹敵します。経団連はコンテンツ輸出を今の4倍の20兆円にする目標を打ち出していて、コンテンツ省(庁)の新設も要請しています。
しかし、行政のコンテンツ振興予算は、今、年間400~500億円。韓国の1100億円に対して半分以下です。経団連としては、2000億円の予算を確保するように行政に対して要請を出しています。アメリカや韓国のように産官学合わせた展開をやるべきだという機運が今盛り上がってきています。この10年、海外展開を見られてきた高見さんは、この動きをどう受け止めていますか?
高見 隔世の感があるというのが正直なところです。大前提として、人口が 1億何千万人の日本で、コンテンツ産業が約13兆円規模というのはとんでもないことで、エンタメ大国であることをひしひしと感じます。コンテンツ輸出を20兆円にするということですが、この額はおそらく自動車産業に匹敵します。正直、「おお、マジか」というところではありますが、ポジティブな見方をすると、もともと持っている日本のコンテンツパワーを世界で十二分に活かせば、夢ではないのかなと思っています。
中山 メジャーな産業に並ぶようになったことは誇らしくある一方で、戸惑うことも多いと思いますが、市場が数兆円という単位にならないと出資も入らない。エンタメもようやくそのステージに乗ってきたし、乗らなきゃいけなということを僕も感じています。単位が大きい中で、行政の後押しは期待できるものなのでしょうか?
高見 すでに補助金はいくつか受けています。海外進出に関しては、JLOX(コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業費補助金《映像制作等支援》)などの補助金もあります。海外進出にあたっては、現地の情報集めをする際に、情報共有といったサポートも受けています。今後、支援を拡充していただけるという話も聞いているので期待できると思います。
中山 特に資金援助してほしい領域はありますか?
高見 何はともあれ海賊版対策です。マンガや映像のみならず、ゲームでも問題になっています。撲滅できたら「20兆円という金額は余裕で達成します」という話になるので。
中山 ディズニーをはじめとする北米のコンテンツは、海賊版が少ないですね。海賊版を撲滅する力やチーム力は、海外の方が圧倒的に上だとよく思います。海賊版によるマンガの逸失利益は、年間で約5000億円にも上ります。 一時期、漫画村が開設されたときは、年間で5000億円の損失があり、2022年に「タダ読み」が盛り上がっていたときは逸失利益が1兆円台になりました。じつは、国内の1.5倍ぐらいの海賊版が海外で見られている。アニメだともっと多いかもしれません。
高見 海賊版対策は我々がやらなければいけないことですが、一方でそれだけユーザーがいるということを悲しい形で証明しています。コンテンツ輸出額4.7兆円に表れていない金額はものすごく大きい。作品やIPの力、浸透度は、非常に大きなプレゼンスを持っているということだと思います。
海外のZ世代はアニメやマンガに夢中!
中山 アニメは2010年代後半から、マンガはこの3年で急激に売れるようになったわけですが、高見さんは、マンガを読む人とアニメを見る人の違いを感じますか。
高見 これまでは多少違いがあったのかもしれませんが、マンガもアニメも売れているのは、この3~4年で「Z世代に刺さっている」というのがとても大きな理由だと思います。世代やデモグラを調べると、明らかにZ世代に売れています。Z世代はトレンドセッターであると同時に、海外においては最強の購買をしてくれる層でもあるわけです。いろいろな産業や企業の方がアニメやマンガに注目してくださる理由は、Z世代にリーチできるというのが非常に大きいと思います。
中山 Z世代を掴んでいるというのは驚異的ですよね。 ネクストハリウッドじゃないですけど、海外でマンガやアニメが注目されている例として、『エコノミスト』ではアニメ特集をやっていて『ドラゴンボール』の映画について特集を組んでいたり、 世界トップクラスのベンチャーキャピタルと言われるAndreessen Horowitz (アンドリーセン・ホロウィッツ)がアニメレポートを出したりしています。
下表の「米国視聴ユーザーの世代別比率」を見ると、テレビドラマ『Doctor Who』は上の年齢に偏っている一方で、『進撃の巨人』は65%がZ世代。Z世代がアニメに興味を持っていることが読み取れると思います。
中山 アニメは10年、20年後にかなりのインフラになるのではとよく言われています。日本では、マンガやアニメ作品が街中でいろいろジャックされていたりして、よく見かけますよね。そういった状況を海外でも実現していかないといけないし、実際に今トライアルをしていると思うんですよね。
海外企業からも注目を浴びる、日本アニメのIPを使った広告プロモーション
中山 海外のプロモーションでは、企業がIPを活用することが増えているのか。僕から事例を1つ紹介しましょう。日本唯一のアニメ×異業種コラボ表彰イベント「アニものづくりAWARD」の2024年総合グランプリに輝いたのが「WcDonald's Campaign」です。
これは、アニメでよく見る架空のバーガー店「ワクドナルド」を現実で再現したキャンペーンで、世界30カ国で展開されました。McDonald's USAが日本のアニメ会社を起用し、1980~90年代に日本のアニメでよく見られたドタバタストーリーのプロモーション動画を制作していて、作品はYouTubeで見ることができます。
高見 講談社でも海外企業によるIPの広告宣伝起用が増えています。いくつか紹介いたします。
高見 まずは、KFC香港 と『進撃の巨人』がコラボしたキャンペーンです。香港の旗艦店を『進撃の巨人』の世界に完全没入できる空間にし、スタンディーやフィギュアを置いて作品の世界観を体験できるフォトスポットを設けました。キャンペーンの目玉は、巨人たちがKFCのフライドチキンを手に持って進撃するプロモーションビデオです。YouTube 上で公開し、1カ月で150万回再生されるなど、非常に大きな効果がありました。
セットを購入すると特別なバスツアーに応募できる企画も(写真右)
高見 次の事例は、台湾ピザハットと、弊社の少女誌『なかよし』で連載されていた『カードキャプターさくら』のコラボです。限定商品の一つとして、作品に出てくる「夢の鍵」というアイテムをモチーフにしたピザが販売されて、大きな話題になりました。ピザは内側に空洞の部分があります。
中山 本当に空いているんですね。どうやって作ったのでしょう......。ものすごく手間がかかりそうです。
高見 実際に、「どうやって作ったのか?どうやって運ぶのか?どうやって食べるのか?」と、バズっていましたね。グッズ付きのセットなども販売されて、限定セットは発売からわずか1週間で85%以上の在庫が消費されて大ヒット企画になりました。
高見 国内の事例も一つ紹介します。リクルートさんのホットペッパービューティーで、サッカーマンガ『ブルーロック』を使っていただきました。サッカーと美容の組み合わせは意外に感じるかもしれません。実は、この作品は「エゴ」が重要なテーマになっています。コラボでは、「エゴ」を「自分らしさを貫くこと」と捉えて、「自分の "こだわり" のヘアスタイルの実現」を応援する「#エゴい髪型でキメろ」キャンペーンを展開しました。
作品のテーマを深掘りして、サービスのキャンペーンに生かしていただく。ファンにとってはたまらない企画になったと思います。キャンペーンのタイミングが『ブルーロック』のアニメ化スタートと重なったのも、注目された大きな理由です。作品にはイケメンキャラクターが多数出てくるので、女性ファンが爆発的に増えました。ホットベッパービューティーは女性ターゲットが多く、顧客層との親和性があったのだと思います。
中山 『ブルーロック』は、女性に大変人気がありますよね。今、『週刊少年マガジン』を読んでいる「マガジン女子」は多いんじゃないでしょうか。
高見:そうかもしれないですね。他にも、ユーザーが何億人もいる世界を代表するゲーム『フォートナイト』×『進撃の巨人』、New Balance×『攻殻機動隊』など、数多くの事例があります。世界的なブランドが日本のアニメのIPを使うことはこれまであまり考えられませんでしたが、最近は大きな展開が生まれているのです。
原作終了後もIPや作品を残していくことは、出版社共通の課題
中山 プロモーション事例を聞きながら、原作が終わった後、どのくらいIPや作品として残せるのかが気になりました。たとえば『進撃の巨人』は、国内では「終わった、完結した」という感じですが、海外の調査をすると、今も作品がしっかり浸透していて、「もっとプロモーションしてほしい」という意見も多いです。IPや作品を残していくことは、出版社共通の課題だと思います。『進撃の巨人』を今後どのようにIPとして、作品として残していけるのか......。講談社さんとして工夫していることはありますか?
高見 我々日本人は移り気で、ヒット作をどんどん追いかけていく傾向があります。テレビアニメがワンクールで切り替わったり、マンガが終了したりすると、次の作品といったように。それに対して海外は全く違っていて、一度好きになった作品はずっと好きでいてくれるんですよね。
作品のストーリーは終わってもキャラクターは死なないんです。いったん心に入ったものは終わりがなくて、ずっとその人の中で生き続けてくれる。といったことを、海外のユーザーから本当に学びましたし、それは大変ありがたいことだと思っています。
実は国内でも似たようなことが今起きているのではないかと思っています。配信というカルチャーが広がり、過去の作品をいつでも見ることができる。過去の作品がリバイバルされれば、長く愛される作品も出てくると思います。それに呼応して広告宣伝に使っていただいたくなど、さまざまなプロジェクトがこれからも走っていくと思います。『進撃の巨人』に限らず、いろいろな作品で長期的な展開が必然的に起こり得ると思っています。
中山 『進撃の巨人』は、マンガとしてもアニメとしても数字を残して海外展開の道を切り拓きました。作品が完結した後も人々の心に残っている。アーカイブとしてきちんと火を燃やし続けることが、おそらく今の出版社に求められ、期待されていることなのだと思います。本日はありがとうございました。
◆本プログラムを含めた、ミライトーク01・02のアーカイブ動画 および、「講談社メディアカンファレンス2024」贈賞式 完全版アーカイブ動画は、ご登録いただくことで無料でご視聴いただけます。ご登録のお手続きはこちらから。(なお、ご登録者さまには今後、C-stationグループのC-staiton、AD STATION、マンガIPサーチ、講談社SDGsのメルマガをそれぞれ月2回程度をお送りさせていただきます)
【講談社メデイアカンファレンス 2024 ミライトーク01】
急伸中!グローバルにおける「日本マンガ&アニメ」市場の可能性
登壇者:
・中山 淳雄(エンタメ社会学者、Re entertainment代表取締役)
・高見 洋平(株式会社講談社 グローバル統括室 室長)
撮影/村田克己(講談社写真映像部) 取材・文/室井美優、水溜兼一、中牟田洋子(Playce) 編集・コーディネート/丸田健介(講談社SDGs)
丸田健介 エディター・コーディネーター
C-stationグループで、BtoB向けSDGs情報サイト「講談社SDGs」担当。