2024.11.22

FC今治高校の生徒たちの成長が未来の希望に。岡田武史さんが今治で実現しようとしている「共助のコミュニティ」とは?|FRaU関編集長のSDGs Talk vol.4

あの岡田武史さんが学校を作る、と大きな話題になったFC今治高校 里山校。「予測できない未来を生き抜くために」「共助のコミュニティをつくる」「各界の著名人が講師に」などなど、教育の固定観念を覆すアイディアや独特なカリキュラムが発表されていました。ついに2024年の4月に一期生を迎えた今、学びの現場では何が起きているのでしょうか?

「FRaU関編集長のSDGs Talk」vol.4の今回は、FC今治高校 里山校で授業を受け持つ関が、学園長の岡田武史さん、校長の辻正太さんにインタビュー。お話を伺うと、生徒たちの確かな成長や、今治という地で生まれつつあるコミュニティの形、そして、岡田さんが何よりも大事にする株式会社今治. 夢スポーツの企業理念が浮かび上がってきました。

「次世代のため、ものの豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」

その言葉が指し示す未来の姿を探ります。

(*この記事は、姉妹サイト 講談社SDGsに掲載されたものです)

学校が変われば、子どもたちは変わる

関 ちょうど昨日開催された、生徒さんたちの「学びの祭典」(2024年9月29日開催)にお邪魔したんです。僕は4月にも授業をさせていただいたのですが、4月とは全く生徒さんたちの顔つきが変わっていたことに大変驚きました。

「四国お遍路チャレンジウォーク」(※)を経て、皆さん、大きな自信がついたというか、個性もすごく表出されていましたよね。一般的な高校だと、なかなかあんな風にはいかないと思います。

(※)野外学習の一環。四国お遍路1400㎞を3年間かけて、たすきをつなぐように、お遍路を歩いて四国一周する授業。2024年に1期生は3班に分かれて、それぞれの班が5泊6日で、57番札所の栄福寺から88番札所の大窪寺までバトンをつないだ。

9月29日、「四国お遍路チャレンジウォーク」に挑戦した生徒たちによる報告会が、イオンモール今治新都市内で行われた。

岡田 僕も、「ここまで変わるのか」と思うくらいみんな成長していました。こんなにしっかりした考えを持って発表できるのかと。

8月にはオープンスクールをしたのですが、生徒たちから「企画と運営を任せてくれ」と言われて、もうびっくりですよ。「俺、学園長なのになんかやることないのか?」と聞いたら「何もないです、とにかく来てください」と。生徒たちとしては失敗だらけで大変だったそうなのですが、出来栄えは見事なものでした。「じゃあ、最後ちょっと時間が余ったので岡ちゃん何か喋ってください」なんて言われて(笑)。

改めて確信したのは、みんな、しっかりと「育つ力」を持っているということです。それを大人が「こうした方がいい」「いやこうだ」とリードしてしまうから主体性がなくなってしまう。

9月29日の報告会で生徒たちとハイタッチをする岡田武史さん。

辻 開校して半年経って思うのは、学校というもののスタンスが変われば、子どもたちの様子は本当に変わる、ということです。僕は長らく教師として学校で働いてきた人間なので、特にそう実感します。与えすぎない、関わりすぎない、子どもたちが自分で育つ力を信じる、という僕たちの理念が、うまく回り出したのかな、というところです。

関 その「信じる」のさじ加減は、教育者としては難しいのではないでしょうか。つい口を出してしまいそうです。

岡田 僕らは、「命に関わること」「法律に触れること」「人の成長を邪魔すること」の3つはダメだ、と言うようにしています。授業に出ない自由はあるけれど、人の授業を邪魔する自由はないということです。それ以外のグレーなところはコーチ(FC今治高校における先生の呼称)の判断。当然、僕らは言いたいことがいっぱいありますが、我慢して言わないようにする場面はかなり多いと思います。

個性があふれる生徒たちに対峙するコーチたちの思い

関 そのルールはわかりやすいですね! そのように一貫したものが根底にあれば、時間が経つにつれてだんだんと生徒に浸透して、ここまではOKだ、ここからはダメだ、と分かるようになるのではないでしょうか。

岡田 しかし、びっくりしますよ。「グラウンドにビーチバレーのコートを掘っていいか」と言われたことがありましたね。いや待て、勝手に掘るなと(笑)。面白いですよ。飽きない。

(左から)FC今治高校 里山校 校長の辻正太さん、学園長の岡田さん。

辻 子どもたちが岡田さんのことを「岡ちゃん」と呼ぶのも、僕は実はヒヤヒヤしています。「岡ちゃん、チケット取ってよ」とか平気で言うので......

岡田 入学式の生徒たちのスピーチがあまりにも素晴らしかったから、感動しちゃって、「もうみんな岡ちゃんって呼んでいいよ」って言っちゃったんだよね。そしたら本当にそうすると思わなかった(笑)

辻 教室も、なんだか雑然としていて汚いんですよ。でもコーチはグッと我慢して、言わないし、勝手に片付けない。自分たちで居心地が悪くなって、自発的に片付け始めて欲しいんです。授業中に、突然僕の目の前でお弁当を広げて食べ始めた子もいました。悪い子じゃないんですよ。

そんな感じで、入学当初はまだ「自分の行動が誰にどういう影響を与えているか」ということまで考えが至らない子が多かったのですが、だんだん変わってきています。

関の「"編集力"養成講座」の授業を受ける生徒たち。

辻 今回のお遍路はやはり大きなきっかけになったと思います。お遍路では3つのチームに分かれたのですが、チーム内には意見が合わない相手も当然いるわけです。喧嘩とは言わないまでも、変な空気感になりながら、それでも6日間を歩き切る。すると、やっぱり変わります。

一言喋るのにいつも2分、3分かかるような男の子がいるんですが、昨日の発表でも、ボソボソしていて何を言っているのか全く聞こえないところを、周りのみんなが「大丈夫」「もう一回、もう一回」と声をかけて支える場面がありました。

自分とは全く違う人たちをどう巻き込み、あるいはどうサポートし、みんなが最大限の強みを出すのか、ということを、お遍路を通して考えるようになったのだと思います。

未来が予測できない時代を生き抜くための「キャプテンシップ」

関 主体性を発露するだけでなく、周囲との協調や、コミュニケーションの方法も学んでいるということなんですね。

関 龍彦(講談社 『FRaU』編集長 兼 プロデューサー)

岡田 たとえ気に入らない相手であっても、共通の目的を達成したいという思いがあれば、子どもたちは自分で解決していくんですよ。

辻 自分勝手にいろんなことをやっていても、ある瞬間に「これは一人じゃできない」と、壁にぶつかります。そして、これは誰かにお願いしたり、相談したりしなきゃいけない、と気づき始めるんです。そのプロセスで「自分勝手」を脱却していくのかなと感じています。

岡田 ルールっていうのは大概、マジョリティができるだけ問題なく過ごしていくために、マジョリティの一方的な思い込みで勝手に決められてものです。茶髪禁止、なんかもそう。別に合理的な理由があるわけではありません。ルールは子どもたちが自分たちで考えていけばいい。

当然、僕らはどう対応するべきなのか、都度すごく悩みます。でも、正解がわからないんだから、コーチたちも一緒になって「エラー&ラーン」をすると決めてるんです。一緒に失敗すればええやん、と割り切っている。しかし、本当に毎日悩んでいます(笑)

関 FC今治高校の教育は、今後、日本中に広がっていくのではないですか。お二人は、どんなイメージをお持ちですか?

岡田 同じようなことを考えている学校さんは、結構いらっしゃるんですよ。

辻 そうですね、横浜創英さんとか、佐賀県の東明館さんとか。今は、SNSでブラック校則が問題提起されるなど、子どもたちを押さえつける今までのルールはおかしい、という動きが強まってきています。「右向け右、前ならえ」の画一的な教育ではダメだ、と思う人たちが確実に増えてきていると感じます。

岡田 とにかく、社会が求めるものが変わっていますから。今、砂漠地帯のドバイで洪水が起きたり、海水温の上昇でベーリング海の数十億匹のズワイガニが餓死したりと、信じられないことばかりが起きています。政府も学者も、先のことは誰もわからないし、ロールモデルがない時代です。

この時代を生き抜き、社会を変えていくためには、心身ともにタフでなければなりません。それから適応力がないと。同質性の高いコミュニティは脆弱ですから、一人一人が主体性を持った多様なコミュニティが必要になります。多くの人を巻き込む推進力を持った人材が求められている。僕らはそれを「キャプテンシップ」を持つ人材と呼んでいます。

関 なるほど、リーダシップには「俺について来い」的なイメージがありますが、人の話が聞けたり、人を元気にできたり、加えて自分もどんどん動く、というのはまさにキャプテンの姿ですよね。

岡田 そうです、違いを認め合って落とし所を探れる人ですね。

学生たちが語る「今治愛」の根底にあるものとは

関 僕が昨日の報告会で驚いたのは、生徒さんたちの「今治愛」だったんです。「長野県出身です」という方がいて、そうするとこの人はまだ今治に来てまだ半年しか経ってないのか、と思ったのですが、今治をすごく愛していて、シャッター商店街をなんとかしたいと真剣に考えている様子が伝わってきましした。

いろんな中学や高校でも地域学習はありますが、一時的で、表層的なものになりがちです。しかし、FC今治高校の皆さんは本気で「この地域で育っていくんだ」という気持ちを持っている。先生に言われたからやっている、というふうには見えませんでした。

岡田 あれは僕もびっくりしました。そういえばこの前、桜井漁港のおっちゃんが、「あんたのとこの生徒が10人くらい、自転車で朝イチに手伝いに来てるよ」と教えてくれた。えっ、あそこまで自転車で40分以上かかるのに、と思いました。要するに、3年生になったら寮を出てどこかに住まないといけないから、「ゆくゆくは世話にならなきゃいけない」と、すでにいろんなところに出て行ってるんです。

3年生は寮を出ろ、っていうのは僕の思いつきだったんだけど、結果的に良かったのかな。

辻 良かったと思いますね。FC今治のホームゲーム運営の手伝いをする生徒もいますが、そこで出会った地域の人の家に呼んでもらって、家で郷土料理の作り方を教えてもらい、お礼に草刈りをして帰る、みたいなこともしているそうです。

僕らからも生徒たちに対して、地域でこんなイベントがあるよ、こういうお誘いがきているよ、ということはどんどん発信するようにしています。バイトを始めている子もいますね。バイトは許可制になっていて、お小遣い稼ぎ目的では許可していないのですが、働く意義や学びたいことを本人と会話して確認しています。

関 学校の外に飛び出していく、ということは、FC今治高校の大事な教育のテーマの一つでもありますが、コーチの皆さんとしては、生徒が目が届かない場所にいることに対する怖さはないですか?

辻 全くないです。5泊のお遍路に行かせているくらいですから(笑)

岡田 保護者にも、ちゃんと最初にそのあたりは言ってあるんです。うちでは「想定外」「板挟み」「修羅場」から子どもたちを遠ざけないし、先生がああしなさい、こうしなさい、とは言いませんが、必ず寄り添いますし、誰一人として見捨てませんと。

共助のコミュニティで、世界は変わるかもしれない

関 今、ここで学んでいる子どもたちが3年生になって街に出ていく時が楽しみですね。

辻 FC今治のマーケや広報に入れていただいて、一緒にホームゲームの企画をする、というゼミのカリキュラムがあったのですが、それが少しずつ変わってきていて、アシックス里山スタジアムを中心にFC今治が目指すコミュニティづくりのど真ん中に高校生たちが入っていく、というプロジェクトが進んでいます。アシックスさんはじめ、いろんな企業さんにもご参加いただく予定です。

廊下でオンラインミーティングをする辻校長。

岡田 昨日、生徒たちの発表を聞いて改めて思ったのですが、僕らの最終的な目標はやっぱり、企業理念を実現する社会を作ることなんですよ。「次世代のため、ものの豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」です。

ものの豊かさっていうのは、数字で表せる売上や、GDPなどです。心の豊かさは数字で表せないし、目には見えません。我々には売る「もの」はないけれど、元気を、勇気を、夢を売ることができます。地球の資源は有限ですから、人類が80億を超えたとき、今のままの成長路線だと必ずパンクします。心の豊かさ、文化的な成長で幸せに生きていく、という方向もないといけないんです。そういう「共助のコミュニティ」を里山に作りたくて、高校生が中心になって推進していったらどうか、と思ってるんですよ。

去年は、夢スポーツが管理している田んぼで350キロのお米を収穫したんだけど、今年の7月に高校生たちにも田植えをやってもらいました。衣食住を自分たちで確保して、それを分け合っていく体験をしてほしい。

FC今治高校の生徒たちは、自発的に様々なコミュニティで活動を進めている。

辻 そういったコミュニティづくりを会社化したい、と言い出している子も出てきています。「投資部」という部活を立ち上げて色々学んでいるようです。

岡田 資本主義が格差と分断で行き詰まり、民主主義はポピュリズムでもう機能しなくなっていて、AIのシンギュラリティはもう来ていると僕は思います。

偉い人たちが「新しい資本主義はこれだ」と言ってももう通用しないだろうけど、地べたから「共助のコミュニティ」を作っていけば、新しい秩序を作ることはできるかもしれない。

ここで育った子たちがいろんなところへ飛んでいって、あちこちで、自分たちに合った共助のコミュニティを作ることができたら、この国は変わる可能性があると思っています。岡田のホラだってみんな言うかもしれないけど、世界も変わるかもしれない。それが我々の夢で、そのための一歩を、今踏み出しているつもりです。

撮影/大坪尚人 編集・コーディネート/丸田健介(講談社SDGs)

丸田健介 エディター・コーディネーター

C-stationグループで、BtoB向けSDGs情報サイト「講談社SDGs」担当。

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