2024.10.22
経営ストラテジーとしてのダイバーシティ ── 先進企業は、DEI課題をどう乗り越えているか 「Advertising Week Asia 2024」レポート③
2024年現在、DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)は、企業規模を問わず、すべての企業が取り組むべき重要課題と認識されています。とはいうものの、現場へ落とし込むべき「女性活躍推進」や「男性育休の取得促進」などがスムーズに進まない、という企業の声も聞こえてくるのが実情。経営の視点で何をどのように戦略化すれば、壁を乗り越えられるのでしょうか。DEI課題解決に明るい著述家・羽生祥子さんと、DEI推進を先駆的に実現している積水ハウス株式会社執行役員の山田実和さんが、それぞれの見解を披歴されました。
(右から)積水ハウス株式会社 執行役員 ダイバーシティ推進部長 山田実和さん
株式会社羽生プロ 代表取締役社長、著述家、メディアプロデューサー 羽生祥子さん
講談社 C-stationチーフエディター 前田亮
前田 本日は、「経営ストラテジーとしてのダイバーシティ ── 先進企業は、DEI課題をどう乗り越えているか」というテーマで、ディスカッションを進めます。
モデレーターは、講談社C-stationチーフエディターの前田です。どうぞよろしくお願いします。羽生さん、山田さん、まずは自己紹介をお願いします。
羽生 羽生と申します。20年近く、日経グループで働く女性向けのメディアの立ち上げや編集に関わり、3年前に自分の会社を立ち上げました。企業のダイバーシティ経営へのコンサルティングや講演、テレビやWEBでコンテンツ制作のプロデュースなどを行っています。よろしくお願いします。
山田 積水ハウスの山田と申します。私は、1990年に一般事務職として積水ハウスに入社しました。その後、分譲マンションの営業をきっかけに総合職へと転換。人事部や法務部で人権やハラスメント対応に関わり、2020年から現在のダイバーシティ推進部長を務めています。またESG経営の推進を担う社会性向上部会の部会長もしておりまして、従業員の幸せを目指して、働きやすい職場作りに取り組んでいます。本日はよろしくお願いします。
労働背景の変遷とダイバーシティ経営の課題
前田 ではディスカッションに入りたいと思います。まずは羽生さん、DEIを考える前段として、「時代とともに日本人の働き方がどう変わってきたのか」から解説していただけますか。
羽生 はい。こちらのスライドをご覧ください。労働背景の変遷です。歴史なので堅い話かもしれませんけど、これを説明すると経営層の方にストンと理解していただけるので、セッションの冒頭に持ってきました。時代とともに法律や働き方がどう変わってきたか、それを背景に女性活躍推進がどのように進んできたかをまとめたものです。
国の法律改正にともない、働き方や世代の呼称も変化している ©羽生プロ
羽生 ポイントを申し上げますと、「女性活躍」とひとくくりに言いますけど、「女性活躍」だけでは解像度が荒すぎるんですね。
国は要所要所で法律改正をしています。1985年に「男女雇用機会均等法」があり、そのあと12年間、18年間かけて「努力義務」だったのが「禁止」になったり「義務化」になったり。干支を1周まわさないと法律が変わらないスピードのゆるさは、他の先進諸国に比べて気になってはいますが。
前田 この法律改正に呼応して、世の中の意識はどう変化していったんでしょうか。
羽生 意外と日本の個々人はしっかり受けとめていて、このような(法律改正の)背景があると、最初は「家族ケア」だったのが「一般職/総合職」「ワーキングマザー急増」「女性リーダー育成」、そして「男性育休」と意識が変化してきました。この部分、「背景に何を背負ってきたか」の理解が、企業としては大事だと思っています。
「ダイバーシティは、時代に合わせてアップデートしていくことが大事」と話す羽生さんは、多くのジェンダー平等プロジェクトに携わるDEIの専門家
前田 時系列で見ると、世の中の意識が法改正とともにアップデートされていることがよくわかりますね。
羽生 はい。「法律が改正されたところでそんなに変わらないでしょ」と思われる方もいるかもしれませんが、実は少しずつ人々の意識は変わっているんですね。
さきほども申し上げましたが、ダイバーシティ経営に取り組む際は、一見遠回りのようでも、この労働背景の理解から始めると、非常にわかりやすいと思います。
世代ごとに背景も人口構成比も異なる「女性正社員」
前田 ありがとうございます。もう1点、羽生さんの著書でも紹介されている「女性正社員ピラミッド」について解説をお願いします。
女性正社員ピラミッドと、2024年における経営課題 ©羽生プロ
羽生 このピラミッドは、職場における正社員女性の人口イメージを、先ほどの時代背景とかさね合わせた図です。
いちばん上の「均等法第一世代」は結婚や出産のタイミングで退職したケースが多く、正社員で働き続けてきた方はほとんどいないんですね。ところが、いちばん下の「ジェンダー平等世代」になると、結婚や出産を理由に正社員を辞める女性は逆に少なくなっています。
このように、ひと口で「女性」といっても、世代により背景も構成比も異なるので、経営課題としてすべての年代の女性をひとくくりにして、「女性まるごとで3割のリーダー比率に」と目標を掲げても、うまくいきません。
たとえば、令和6年のいま「なぜ、女性の比率が3割なの? 逆差別じゃないですか」というのは、現在の状況だけを見ているから。この数十年の経過を見れば「なるほど、是正措置として3割なんだな」と俯瞰できるわけです。
この背景をふまえて、いまダイバーシティ経営で大事なのは「女性リーダー育成」と、そのミラー関係にある「男性育休取得の促進」だと思っています。
前田 ポイントがよくわかりました。羽生さん、ありがとうございます。
「幸せ」というキーワードを軸に経営を実践している積水ハウス
前田 いまの羽生さんの解説をうけて、ここからはすでにDEI経営を進めている積水ハウスさんの具体例を深掘りします。
積水ハウスさんは、設立が1960年。本社は大阪で、現在の従業員数が連結でおよそ2万9000名。たいへん大きな規模感の会社です。
山田さん、最初に御社がどのような会社なのか、企業理念やビジョンなど会社の特徴からお話いただけますか。
山田 はい、積水ハウスの企業理念は「人間愛」です。相手の幸せを願い、その喜びを我が喜びとする、という内容で「幸せ」がベースになっています。
グローバルビジョンについては2020年に、今後住まいから新しい価値を提供していこうと、"「わが家」を世界一 幸せな場所にする"を掲げました。いずれにも入っている「幸せ」というキーワードを軸に経営を実践している会社になります。
前田 今回のセッションにあたり、事前に御社から入手した資料で「先進的だな」と注目したポイントが3点ありました。
グローバルビジョンからマテリアリティへの落とし込み
前田 1点めは、コーポレートストーリーに、「ダイバーシティ」「インクルージョン」がきちんと落とし込まれていること。2点めが「女性管理職人数」「男性育休取得率」など、時代の要請によるKPI指標が経営テーマとなっていること。3点めが「キャリア自律支援」「DEIの推進」「多様な働き方」など、人的資本経営をブレイクダウンして実践されていることです。
ここで質問ですが、御社のような大企業で、このように経営戦略のかたちにする、反映させるのは、実はたいへんな社内作業だったんじゃないでしょうか。
山田 弊社の過去を振り返りますと、1960年の創業以来、30年ごとに住まいからさまざまな価値を提供してきました。
最初の30年は、戦後の住宅難の時代で「命」と「財産」を守る「安全安心な住まい」の提供でした。その頃は人財や技術者の育成が欠かせませんでした。
次の30年は1990年から。私が入社した頃ですね。世の中は「環境」への意識が高まりまして、「快適性」や「環境配慮」という先進的技術の開発に力を入れました。この時期から多様な人財が活躍するダイバーシティに注目して、人財育成を進めています。
積水ハウスの「過去」「現在」「未来」
前田 その次が、先ほどお話された2020年からの「第3フェーズ」ですか。
山田 はい、創業から60年経った2020年、これからは無形資産の時代ということで、住まいから幸せを提供していこう、と。幸せという表現は抽象的ですが、「健康」「つながり」「学び」という価値に因数分解して、たとえば、「住めば住むほど健康になる」「家族とつながる」などの高い付加価値を提供していこうと考えました。高付加価値な家の提供ですね。
そのためには、社員が自律して、それぞれ自分が考えて行動していくことが重要ということでこの「自律」がキーワードになっています。
前田 スライド資料ではその横に、今回のセッションテーマ「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉が登場していますね。
女性の営業職採用がなかった時代に事務職で入社し、キャリアを積み重ねてきた山田さん
山田 この先の人口減少や多様な価値観の変化に対応しながら、新しい価値を創造するためには、それこそ多様な人財によるインクルーシブな組織文化が欠かせないと考えています。
「安全」「安心」「快適性」「環境配慮」といった、これまで提供してきた価値をふまえて、この先、「幸せ」という新しい価値を提供するためには? と、ESG推進委員会、経営会議や取締役会など社内外でも議論を重ねて、3つのマテリアリティを特定しました。そのひとつが、社員と職場の「幸せ」のベースとなる「ダイバーシティ&インクルージョン」ということで、DEIが経営戦略に盛り込まれている、という次第です。
羽生 世の中がウェルビーイングと言い出す前から、かなり早い段階で「幸せ」という言葉が経営キーワードになっているあたり、先見性がありますね。
山田 時代は、SDGsの次はウェルビーイングと言われていますけれども、そんな時代になっていくのかな、と感じています。
前田 貴重な戦略策定の経緯、わかりやすくお話いただき、ありがとうございます。
とはいえですね、いまやダイバーシティ先進企業の積水ハウスさんですが、以前はそれなりに推進の壁があったのではないかと思っているんですね。軌道に乗る以前に存在していた課題を教えていただけますか。
山田 はい。長い間、建設業界は男性社会で、1990年に私が入社したときも事務職で女性の営業職の採用はありませんでした。けれども、持続可能な企業を続けていくためには人財もサステナブルではなくてはいけない、ということで、2005年にトップが「女性の活躍なくして当社の成長なし」と宣言したんです。女性営業はそれまで数十人だったところを100人単位で積極的に採用し始めました。
積水ハウスの女性活躍推進の流れ。2005年がターニングポイント
山田 ただ、せっかく女性を採用しても、社内環境が整っていなかったために女性営業職では6割前後が離職していた時代があったんですね。それでも、トップが旗振りをして貫き通して、いろいろな施策を打ちながら多様性を目指し続けた結果、定着率が向上し、男女の離職率の差もなくなり、現在に至っております。
「DEI推進」のポイントは、ステップ バイ ステップ
前田 「女性の活躍なくして当社の成長なし」。このフレーズ、まさに時代を予見しているじゃないですか。
羽生 20年前ですからね。
前田 およそ20年間の積水ハウスさんのダイバーシティ推進で、山田さんが経営上のポイントと思っている部分を教えてください。
山田 ポイントは、先ほど羽生さんのお話にもありましたように、時代に応じて一歩ずつ施策を進めてきたところです。
女性がいなかった2005年頃は、まずは「両立支援」。女性本人に対する施策を中心に活躍推進を行ってきました。そもそも人財がいなかったので、そこを育成するために若手の人財への支援から始めたんです。
ただ、本人がいくらがんばっても、上司の理解や職場の理解がないと進展しません。そこで、上司への働きかけにも力を入れたのが次の時代ですね。
また、弊社は男性社員の比率が圧倒的に高く、全体の7割が男性です。そこで、2018年に男性育児休業制度をスタートさせて、男性のダイバーシティへの理解を深めることにも注力しました。
積水ハウスのダイバーシティ推進の歴史
山田 いまは性別にかかわらず、誰もが自分のキャリア自律を考えられるような施策も行っています。このように、ステップを踏みながらDEIを進めてきたところがポイントだと思っています。
羽生 よく質問を受けるんですが、この順番 ── 女性当人、その上司、周囲というかパートナーである男性、この順が最適なんでしょうか?
山田 いっしょに全部進められるのがいいのかもしれませんが、そういう順番で進めているところが多いですかね。企業によっては、女性が非常に多い会社もありますので、企業風土とか、どこに力点を置くのが効果的なのか、などは企業によって異なると思いますけど。
女性管理職を育成する「ウィメンズ カレッジ」
前田 2014年に開校された「ウィメンズ カレッジ」というのはどういうものですか? 開校の狙いやスタートした経緯について教えてください。
山田 「ウィメンズ カレッジ」は、女性の管理職を育成する研修カリキュラムです。2005年以降に採用した女性人財を中心に、管理職を目指せるまでに成長した人が増えてきたので、2014年にスタートさせました。
女性管理職登用を飛躍的に伸ばした「積水ハウス ウィメンズ カレッジ」
山田 「ウィメンズカレッジ」は約2年間のプログラムです。1年目は経営視点を養うスキル学習でマネジメントの本質を学ぶ。そして2年目は、上司や組織を巻き込みながら、各職場の経営戦略に基づいた課題を、管理職さながらに解決していく経験学習を行います。
2年目の中間報告では、「経営層へのプレゼンテーション」 ── 約10分、社長・本部長の前でプレゼンをする機会もあります。
優秀な社員を早く管理職に育成するというプログラムなので、途中で脱落しそうになる人も多く、かなりハードな内容です。でもそのぶん、自分自身のキャリアアップに自信をもち、安心して管理職にチャレンジできるようになったと、参加者からは好評です。
前田 受講生の管理職登用数を見ると、めざましい成果をあげていますね。
女性正社員数が、全産業平均、建設業界平均よりも高い積水ハウス
山田 そうですね。ちょうど10年間で156人が受講して、エントリー者の6割を超える98人が管理職に登用されています。建設業界のなかでの女性正社員比率も他社に比べて高くなり、建設業界平均の約2倍となりました。
弊社では、全従業員を対象に「幸せ度調査」ということを定点でやっているんですね。その調査で、女性管理職と男性管理職では、女性管理職のほうが自律して幸せだ、というデータがあるんです。スライドにあるような比率や数ももちろん大事なんですが、本人がイキイキと活躍できるかという、本人の気持ちをいちばん大事にしています。
男性育休のパイオニアでもある、積水ハウス
前田 もうひとつ、具体例をお聞きします。いま少しずつ世の中に広がりはじめている男性の育児休業制度、これはまさに積水ハウスさんが切り開いたといっても過言ではないと認識しています。
社長自らが「経営戦略」として取り組むことを取得当事者とその上司に宣言、と御社資料にあります。どういう経緯で注力することになったのでしょうか。
山田 これはですね、2018年2月に弊社社長に就任した仲井嘉浩(なかい・よしひろ)が、同年の5月にスウェーデンに出張に行った際に、平日の昼間に公園でベビーカーを押しているのが全員男性だったということに衝撃を受けたからです。当たり前に育休を取得し、ベビーカーを押している男性の姿が幸せでかっこよかったそうです。
帰国後、"「わが家」を世界一 幸せな場所にする"を掲げている弊社もぜひ取り組むべきだと検討し、すぐに男性育児休業制度の実施に向けて動き始めました。そして2ヵ月後の7月には「男性は全員1ヵ月以上育休を取る」と宣言しました。
羽生 当時、リリースを見て、まだ「男性育休の義務化」をどこも言い出してなかった時代に、「積水ハウスさんのような大企業がやるんだ」と思って、衝撃を受けたことを覚えています。まさに、日本の男性育休を切り開いたリーディングカンパニーですよね。
山田 ありがとうございます。おかげさまで、5年連続で男性育休の取得率は100パーセントを達成しています。育休を取っていない社員には、アナログ・デジタル両方の施策で取得を促し、理解を深めながらアプローチしています。
積水ハウスにおける1ヵ月以上の男性育休取得率は、ここ5年100パーセントを達成
男性育休を促進する「家族ミーティングシート」
前田 この積水ハウスさんが開発された「家族ミーティングシート」もアプローチ手段のひとつですか?
山田 はい。育休というのは、育児をしっかりするためのものです。そこで、育休の期間中、どういう育児家事をどういうふうにやるのかを家庭で話し合えるように、「家族ミーティングシート」を作りました。
男性育休を推進する積水ハウスの「家族ミーティングシート」。公式サイトから無料でダウンロードできる
▶︎ダウンロードはこちら
山田 この家族ミーティングシートをもとに、そうですね、おおよそ3ヵ月前ぐらいに取得の時期や父親・母親の役割を家族で話し合ってもらって、2ヵ月前ぐらいに「育児休業取得計画書」を作成してもらいます。それをもとに上長と面談し、上長の承認を経て、1ヵ月前までに取得計画書を会社に提出するフローになっています。
この家族ミーティングシートはパートナーの方に好評で、「取るだけ育休」「ゴロゴロ育休」を防ぐのにも効果的です。国家公務員で男性育休がスタートした時にもこの家族ミーティングシートを採用いただきました。
弊社のホームページから無料でダウンロード可能ですので、どんどん使ってほしいと思っています。
羽生 シートに関するナレッジをオープンにしている姿勢も、すばらしいですね。
このシート、一見、ほんわかと爽やかじゃないですか。でも記載内容はけっこう踏み込んでいますよね。夫婦それぞれが何をするんですか、とか。
男性育休に関しては、当事者の家族にかかわることなので「そんなのは夫婦の問題だろう」と二の足を踏んでいる会社も多いのですが、こういうシートで細かくチェックできると、課題が整理されて見つけやすくなる。だから積水ハウスさんは100%ができているんでしょうし、非常に効果的だと思います。
前田 ちなみに社内では、この「男性育休1ヵ月以上取得」というのは、どう捉えられているのですか?
本セッションのモデレーター、講談社C-stationチーフエディターの前田
山田 若い世代は家事育児のシェアが当たり前なので、男性育休を取りたいと考えている社員はおりました。一方で、会社の風土や給与を考えると取りづらい部分があったのを、会社として「男性育休」を制度にして支援することで、取得のハードルが下がり、たいへん喜ばれています。
男性育休を啓発する動画も制作
前田 ではここで、動画を1本、見ていただきます。
動画「もしも、育休をとってなかったら僕は知らなかった」(30秒ver)
前田 この動画のタイトルは「もしも、育休をとってなかったら僕は知らなかった」。積水ハウスさんが推進している「育休を考える日」にちなんだアウトプットです。
山田 弊社では2019年に9月19日を「育休を考える日」と制定し、プロジェクトを進めておりまして、3年前からは、「日本にもっと男性の育児休業を。」というキャッチコピーを掲げ、賛同いただける企業を募っています。最初の年が81社、2年目が119社、今年が154社。年々賛同企業が増えています。
動画に登場しているかわいらしい方々は、賛同企業の皆さまから集めて構成されています。動画は、2分超のロングバージョンもあり、そちらは弊社のホームページ男性育休サイトやYouTubeでご覧いただけます。
羽生 ロングバージョンは、オススメですよ。ちょっと映画っぽい動画のときもありましたね。こういうふうに、企業の取り組みをクリエイティブに仕上げたり、賛同企業を広げたり。このような取り組みができる会社があるんだなと感動しました。
前田 積水ハウスさんの取り組みによって、男性育休がもっとあたりまえに広がる世の中になると期待できますね。山田さん、ありがとうございました。
Q.DEIって、そもそも何? 平等と公平の違いは?
前田 ここからは、DEIの「よくある質問」に関して、おふたりにご意見をうかがいます。
最初の質問は、「DEIって、そもそも何? 平等と公平の違いは?」です。DEIの「E」に関してモヤッとしている会社が多いようなので、そのあたりの説明を羽生さんお願いします。
羽生 はい。DEIの「E」はエクイティ、公平・公正という意味です。
誰もが公平にチャンスにアクセスできるのが職場のエクイティ
羽生 職場のエクイティをわかりやすく説明すると、「誰でも公平にチャンスにアクセスできること」。スタートラインをいっしょにしましょう、ということですね。たとえば、努力をして手を伸ばせば、誰もがリンゴを手に入れられる状況にする。これが、エクイティです。
スタートしたあとにやる気や能力の差があるのは仕方ない、それはOKと思いますが、スタート時点では、誰もが公平にチャンスにアクセスできる環境を整える。これが重要だと思っています。
山田 この図はわかりやすいですね。弊社でもDEIの勉強会で使わせてください。
Q.子どもがいない人から、「しわ寄せがくる」と苦情が出たら?
前田 ではもうひとつ、「子どもがいない人から、『しわ寄せがくる』と苦情が出たら?」という質問です。こちらも羽生さんから、お願いします。
羽生 欠員が出た時に補充を穴埋めとしか考えていないと「しわ寄せ」と思ってしまいます。
男性育休を「穴埋め」ではなく、「人材育成のチャンス」と捉えることで、ポジティブなマインドセットができると思います。
男性育休をポジティブに「チャンス」と捉えることが重要
前田 山田さん、積水ハウス社内の実運用はいかがですか?
山田 そうですね。弊社でもこのように聞かれることはありますが、それはマネージャーが仕事の分担を考える、ということで、育休は準備ができますので、準備さえしておけば大丈夫ですし、「突然休まなきゃいけない、などの不測の事態にも対応できる強い組織にするために、みんなでチャレンジしよう」と掲げていますので、それをしっかりやっている、というところですね。
ダイバーシティ経営、女性活躍を進める3つのメリット
前田 ありがとうございます。では最後にまとめとして、ダイバーシティ、女性活躍や男性育休を経営として進める場合に認識しておきたい視点について、羽生さんにうかがいます。
羽生 ダイバーシティ経営を進める3大メリットは、「投資家」「採用」「イノベーション」です。どれかだけを強調すると社内でもめることもあるので、大きく3点あることをご認識ください。
DEI経営は「投資家」「採用」「イノベーション」に影響を与える
羽生 「投資家」はDEIに積極的に取り組んでいる企業に投資をしたいと思っていて、実績を出せば評価が高まります。
また、上場していないからDEIをやらなくていいということではありません。「採用」に如実に響いてきます。男女問わずいまの若い人は、育休やダイバーシティを推進しない企業に入りたいとは思いません。
そして「イノベーション」。新しいことをやっていくこと自体がイノベーションなので、変わろうとするそのプロセスが企業の成長にとって非常に重要です。
山田 いま羽生さんがおっしゃったように、ダイバーシティがなければ、イノベーションは起こりません。世代も属性も超えた共創、そして企業間の共創が進むとイノベーションがさらに進み、よりよい社会になっていくのではないかと思います。
前田 羽生さん、山田さん、本日はありがとうございました。
開催日時:2024年9月20日(金)14:20〜15:00
テーマ:経営ストラテジーとしてのダイバーシティ──先進企業は、DEI課題をどう乗り越えているか
登壇者:
羽生祥子/株式会社 羽生プロ 代表取締役社長、著述家、メディアプロデューサー
山田実和/積水ハウス株式会社 執行役員 ダイバーシティ推進部長
モデレーター:
前田亮/講談社 C-stationチーフエディター