2024.08.27

クリエイティブの力で企業を成長へと導く。太田郁子がめざす、新しいビジネスアイデアの創造―講談社メディアアワード2024 審査員インタビュー①

太田郁子, アクセンチュア, インタビュー, 講談社, メディアカンファレンス

講談社と広告主の共創で生まれた広告企画を対象に、優れた企画を選出する「講談社メディアアワード」。今年も、10月30日(水)に開催するビジネスイベント「講談社メディアカンファレンス 2024」内にて、贈賞式が行われます。

今年から新たに4名の審査員アクセンチュア株式会社マネジング・ディレクター 太田 郁子さん株式会社電通クリエイティブ・ディレクター 越智 一仁さん、PIVOT株式会社のプロデューサ 国山ハセンさん、株式会社サニーサイドアップ代表取締役社長 リュウ シーチャウさんが加わりました。

審査に先駆け、審査員代表を務める「宣伝会議」編集長・谷口優さんが新審査員にインタビューを実施。仕事をする上で感じる昨今の広告・マーケティング分野の潮流や、クライアントとの関わり方、クリエイティブの可能性などを伺いました。第1回は、太田郁子さんです。

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左 太田郁子 アクセンチュア株式会社  マネジング・ディレクター

2001年に博報堂に入社。ストラテジックプランナーとして、さまざまな企業の経営戦略、マーケティング戦略の立案や商品開発に携わる。2019年10月から博報堂ケトルの代表取締役共同CEO/エグゼクティブクリエイティブディレクターを務めた後、2022年4月アクセンチュア ソングに参画。パーパスやブランディングの視点を起点にした企業成長戦略、新規事業創出や、デジタルマーケティングなどに従事。

右 谷口優 株式会社宣伝会議 メディア・デジタルコンテンツ本部 取締役 兼 月刊『宣伝会議』編集長・社会構想大学院大学准教授

大学卒業後、宣伝会議に入社し、編集部に配属。月刊『宣伝会議』副編集長を経て、2007年10月より編集長に就任。現在は、宣伝会議の出版、メディア事業のマネジメント全般に関わる。社会構想大学院大学の准教授も兼任。

クリエイターとしての根底にあるのは「座組のクリエイティブ」

谷口 太田さんは、広告というフィールドに留まらず、幅広い領域に挑戦されているという印象があります。ご自身が持つクリエイティビティをどのようにビジネスという領域に取り入れてきたのか、非常に興味深いです。

太田 元々の出身は、マーケディング領域です。博報堂に入社した当初は、ストラテジックプランナーとして、企業の経営・マーケティング戦略の立案や商品開発を担当していました。入社から数年後に博報堂グループのクリエイティブブティック「博報堂ケトル」が立ち上がり、2012年にクリエイターとして参加しています。

博報堂ケトルは、創業メンバーの嶋 浩一郎さんと木村 健太郎さんの「アイデアで世の中を沸かせたい」という想いから生まれた会社です。お二人と一緒に仕事をする機会が多かったこともあり、私は広告に対して、早い段階から「アイデアで人々を動かすもの」という認識が強くありました。逆に、「コピーやグラフィックを作るもの」という一般的なイメージを持ったことはありませんでしたね。

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太田 これは嶋さんの影響を受けているのですが、私がクリエイティブにおいて特に重視しているのが「座組」です。

異なる職種の人や多様なアイデアを持った人、企業が持つコンテンツやIPなど......「何と何を掛け合わせたら面白いものが生まれるのか」という座組を考えることが、私の得意分野でもあります。そこに意外性があればあるほどアイデアも広がりますし、新たな価値の創造にもつながっていくと実感しています。

また、クリエイティブに関わる全てのステークホルダー、広告を見たオーディエンス・読者まで全員が「面白い」「価値がある」と思える要素があることも、座組を考えるうえで忘れてはいけない視点です。

こうした「座組のクリエイティブ」の考え方は、私のクリエイティビティの基盤になっています。

新しいビジネスアイデアを追求するため、一念発起してコンサルへ

谷口 博報堂ケトルで代表取締役共同CEOを務めた後、2022年にアクセンチュアに転職されています。広告業界からコンサルティング業界に転身された理由はなんでしょうか。

太田 広告を作るだけでなく、その先に「日本企業が活気づくようなビジネスアイデアを生み出したい」と考えるようになったことが大きな理由です。昨今、日本経済の停滞により、日本企業も厳しい状況が続いていますよね。私自身も子どもたちが生まれてからというもの、「いつか子ども達を国外に出さなくてはいけないのではないか」と考えるようになりました。

なかでもアクセンチュアは、日本に約2万3000人、世界で約75万人もの社員が在籍しており、かつ一人ひとりが異なる専門性を持っている総合コンサルティング企業です。ここであれば、私がこれまで行ってきた「座組のクリエイティブ」を発揮し、日本企業が元気を取り戻すようなインパクトのあるビジネスアイデアを作り出せるのではないかと感じました。

谷口 日本企業の力になりたいという想いから、コンサルに転職されたのです。実際に多種多様な専門性を持つアクセンチュアの人々と関わるなかで感じたことや、新たな発見はありましたか。

太田 「座組のクリエイティブ」の視野が広がっていると感じます。なかでも私が所属する「アクセンチュア ソング」は、さらに多様な人々の集まりかもしれません。

私と同じマネジング・ディレクターというポジションでも、前職がエステティシャンの人や、数学者を目指して大学院で博士課程まで数学を極めていた人、さらには、東大の理化学研究所でウイルスの解析をしていたというデータサイエンティストまでもが在籍しています。その人は、研究しているうちに人類に興味が湧いたらしく、統計解析で人間の心を解き明かしたいという理由で入社したそうです。面白い経歴を持ったメンバーに囲まれていると、「私ってつまらないのかも」と感じることもありますね(笑)。大学も商学部で、お金を勘定することばかり勉強してきたので、もう少し寄り道してもよかったなと思っています。

ただ、これほど社内に面白い人材がいるため、現在は社内メンバーだけで座組を考えることが多いんですよね......。だからこそ、次なるチャレンジは社外にも目を向けること。社外にいる独自の発想を持つクリエイターや、唯一無二のIPを持つ企業などと協力し、企業が抱える課題を解決するような、インパクトのあるアイデアを生み出したいと考えています。

谷口 「座組のクリエイティブ」がより広がっていく、というイメージですね。ところで、お話のなかで「商学部出身」と言われていたのが少し気になりました。大学時代に学んだ知識が、これまでのキャリアに活かされていると思うことはありますか。

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太田 元々、「人間はどういうときに行動を起こすのか」という点に興味があったからです。心理学で人間の心理を深く追究していくよりも、お金につながるビジネスの方が人間の心を考えていて楽しいかもしれないと思い、商学部を選びました。

アクセンチュア ソングはコンサルのなかでも、生活者の気持ちに寄り添いながら、どのように心を動かして行動に移させるか、生活者視点で提案していく組織です。そういう意味では、大学時代の専攻から広告会社時代、現在に至るまで、やっていることは一貫して変わっていないと感じています。

企業のコミュニケーション課題を解決し、成功に導くデータテクノロジーの力

谷口 さきほど「日本企業が活気づくようなビジネスアイデアを生み出したい」という話もありましたが、太田さんの目線から見て、日本企業の課題はどこにあると思いますか。

太田 社内外問わず、コミュニケーションに苦戦しているという印象はあります。

外に対する悩みは、企業がどんなに素晴らしい取り組みをしていても、アピール不足で世間の認知度が低い点です。一方社内では、自社の魅力や取り組みを共有できていないために、若い社員の間で企業に対する信頼感が薄れてしまう、というケースも見受けられます。

また、日本企業が海外に進出する際も、同じくコミュニケーション不足により、日本市場との激しいギャップを感じている企業もあるようです。たとえば、日本でトップクラスにブランド力がある企業の商品でも、海外ではブランド価値が伝わらず、思ったような売上に繋がらないという事例もあります。グローバルマーケットに進出する際は、国や地域の事情に合わせたコミュニケーション手法に変えなくてはいけないのです。

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谷口 グローバルマーケットを見据えたお仕事も多いのですね。クライアントがコミュニケーションに課題を感じていると伺いましたが、アクセンチュアでは課題をどのように解決し、ビジネスの成功に導いているのでしょうか。

太田 社内にストラテジーを考える人や、データサイエンティストが多数在籍しているので、マーケットへの参入にあたって重要な「生活者のニーズ」や「市場の動向」といったデータを、テクノロジーを用いて分析しています。データを基に、具体的にどのような行動を取ればビジネスを成功につなげることができるかを、クライアントと社内の専門家たちの間で意見を交わしながら考えています。

谷口 チームの合意形成にも、データやテクノロジーが活用されているのですね。

太田 全員の共通言語となるデータがあれば、クライアントも確信を持ってビジネスを前に進めることができるはずです。データという客観的な言語で会話をするのは、アクセンチュアらしいと思います。

テクノロジーの活用で生まれる、新たなリレーションシップの形

谷口 太田さんがクライアントと関わるなかで、広告にとどまらないコンサルの視点から関心を寄せていることはありますか。

太田 ビジネスにおける「新たなリレーションシップの形」を模索することですね。従業員はもちろん、エンドユーザーや投資家等のステークホルダーなど、ビジネスには多くの人たちが関わっています。それぞれの関係性を効果的にマネジメントしていくには、どういった新しい方法やアプローチがあるのか、とても興味があります。

昨今、AIやテクノロジーの進歩によって、データの解像度も高くなっていますよね。テクノロジーの力を借りることで、従来のCRM(顧客関係管理)の手法にとらわれないリレーションシップの作り方が生まれるのではないかと、アクセンチュア ソングの中でも盛り上がっています。

谷口 生活者とブランドの絆の深さやブランドに対する想いなど、目に見えにくい関係性までも、可視化できるテクノロジーが開発できそうですよね。

太田 きっとIP活用も、効果的に行うことができるようになると思います。IPホルダーとも話すのですが、分析によって「この属性の人は、このコンテンツのキャラクターが、こういう文脈で好き」と詳細にデータ化できれば、キャラクターの活用方法も明確になると感じています。

アクセンチュアでも以前、データサイエンティストがアイドルファンの行動心理を分析したことがありました。「グループを応援していた人が、個人を推すようになった理由」や「個人を推していた人が、グループ全体を応援するようになった理由」などを解き明かし、そのデータをファンマーケティングに活かせないか模索する取り組みを行いました。

テクノロジーにより、生活者とキャラクター、生活者と商品・サービスなど、あらゆるリレーションシップが可視化できれば、ユーザーが本当に求めている施策を打つこともできるようになるはずです。

これまでにないビジネスアイデアを創造する、クリエイティブの可能性

谷口 アクセンチュアにはマーケティング領域だけに限らず、多くのクリエイティブ人材が集まっているのが印象的です。企業がコンサルにクリエイティビティを求める背景として、どのような期待があるのでしょうか?

太田 企業は、事業の「成長」を大前提として考えています。旧来型のコンサルが成し遂げようとするのは、業務の効率化とコスト削減の推進です。しかし、ユーザー数や売上を伸ばす方法もセットで考えないと、本当の意味でビジネスが成長したとはいえません。

企業は、ビジネスパーソンの知識だけでは到達できなかった、効率化ではない"成長のためのアイデア"を、クリエイティブとの掛け合わせによって生み出すことを期待しているのだと思います。

谷口 では、どのようなコラボレーションを実現させれば、この境地にたどり着けるのでしょうか。

太田 アクセンチュアのメンバーが持つユーモアのある着眼点を組み合わせれば、世界中のビジネスモデルを集めただけでは思いつかないアイデアを見つけることができるはずだと思っています。

前述の通り、アクセンチュアにはクリエイターだけでなく、ストラテジストや多様なバックグラウンドを持つ専門家が在籍しています。彼らと話していると、職業としてのクリエイターだけが、クリエイティブだとは思わないんですよね。

クリエイターとアクセンチュアの多様なメンバーが連携することで、一人ひとりのクリエイティビティがより一層引き出され、クリエイターのビジネスへのコミットメントも高まると感じています。そんな未来に向けて、組織としても今は実験中なんです。

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谷口 では、太田さんご自身は、クリエイティビティを活かしてどのようなことが実現できたらいいと考えていますか。

太田 私がアクセンチュアに転職した理由は、「日本企業が活気づくようなビジネスアイデアを生み出したい」からでした。これは、先ほど言った「これまでになかったものを創造したい」という想いにつながっています。特に、クリエイティビティがビジネスに貢献できるということを私の手で証明したいんです。今はまだ到達できていませんが、今後の人生を賭けて追究していきたいテーマだと思っています。

谷口 最後に、太田さんが講談社メディアアワードに期待していることや、楽しみにしていることについてお聞かせください。

 これまでの受賞企画をいくつか紹介していただいたのですが、「出版社ってこんなことまでやっているんだ!」という純粋な驚きがありました。"出版社=印刷物"という固定観念が一気にアップデートされる面白い企画の数々に、審査会への期待が高まりましたね。良質なインプットが期待できそうです。

私は、企画実現に至るまでのプロセスや、座組に興味があります。業界構造上難しかったことはあったのか、企画に関わる人たちが立ちはだかる課題をどのように突破してきたのか......。「座組のクリエイティブ」の観点から、背景を知るのも楽しみですね。

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撮影/森清 取材/谷口優(宣伝会議) 文/粟屋芽衣(Playce) 編集・コーディネート/川崎耕司(C-station)

川崎耕司 シニアエディター・コーディネーター

C-stationコンテンツ責任者。C-stationグループの、広告会社・広告主向け情報サイト「AD STATION」担当。

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