2024.08.29
放送局から映像メディアに移籍。国山ハセンが感じるメディアビジネスの潮流とは。―講談社メディアアワード2024 審査員インタビュー③
講談社と広告主の共創で生まれた広告企画を対象に、優れた企画を選出する「講談社メディアアワード」。今年も、10月30日(水)に開催するビジネスイベント「講談社メディアカンファレンス 2024」内にて、贈賞式が行われます。
今年から新たに4名の審査員、アクセンチュア株式会社のマネジング・ディレクター 太田 郁子さん、株式会社電通のクリエイティブ・ディレクター 越智 一仁さん、PIVOT株式会社のプロデューサー 国山ハセンさん、株式会社サニーサイドアップ代表取締役社長 リュウ シーチャウさんが加わりました。
審査に先駆け、審査員代表を務める「宣伝会議」編集長・谷口優さんが新審査員にインタビューを実施。仕事をする上で感じる昨今の広告・マーケティング分野の潮流や、クライアントとの関わり方、クリエイティブの可能性などを伺いました。第3回は、国山ハセンさんです。
コンテンツの半分は、アドリブでできている。ターゲットに刺さるPIVOTのコンテンツ作り
谷口 ハセンさんがTBSからPIVOTに参画されて1年半ほど経ちましたね。まずは現在のお仕事におけるクライアントとの関わりについて教えてください。
国山 PIVOTでは、基本的にタイアップコンテンツでの関わりがメインです。私はそのなかでMCを担当することが多いのですが、営業担当者を交えてクライアントとミーティングをしたり、収録前の打ち合わせに参加したりすることもあります。タイアップコンテンツの種類も、1on1でインタビューするものもあれば、現場に取材に行くスタンスの番組など多種多様です。コンテンツによっての関わり方、見せ方は異なりますが「クライアントがこのコンテンツを通して何を伝えたいか」を意識しながら制作にあたっています。
関わる企業もベンチャーやスタートアップから大企業まで幅広いので、 テレビ局にいた時より視野が広がったと思います。
国山ハセン PIVOT株式会社 MC ・プロデューサー
TBSテレビにてアナウンサーとして「news23」「Nスタ」「アッコにおまかせ」等、報道番組キャスターからスポーツ、情報、バラエティ番組まで幅広く担当。2023年1月よりPIVOTにプロデューサーとして参画。番組出演・企画制作を担当。サッカーと日本酒を愛する1児の父。
谷口 さまざまな企業と関わるハセンさんに、企業の抱えるコミュニケーション課題についても聞いてみたいです。昨今は、機材があれば誰でもコンテンツ配信ができる時代になりました。そんななかでも、ハセンさんに聞き手になってほしいという企業は多いですよね。企業がPIVOT、そしてハセンさんに求める価値はどんなところにあると思われますか?
谷口優 株式会社宣伝会議 メディア・デジタルコンテンツ本部 取締役 兼 月刊『宣伝会議』編集長・社会構想大学院大学准教授
大学卒業後、宣伝会議に入社し、編集部に配属。月刊『宣伝会議』副編集長を経て、2007年10月より編集長に就任。現在は、宣伝会議の出版、メディア事業のマネジメント全般に関わる。社会構想大学院大学の准教授も兼任。
国山 1つはターゲットが明確である、という部分だと思います。PIVOTは「ビジネス映像メディア」であり、メインのターゲット層は20代、30代のビジネスパーソン。私のような30代にリーチさせたいという場合に、様々なコンテンツを通してターゲットに届けることができる。そこは期待されているところなのかなと。
谷口 確かに、ハセンさんくらいの年代のビジネスパーソンは、一番マスメディアがリーチしづらいところかもしれませんね。
国山 特に今だと、テレビ・新聞よりも、ネットやYouTubeでインプットをする人が増えているので、そこは強みになっているとは思います。
あと、 PIVOTには豊富なオリジナルコンテンツがあるんですよね。たとえば、私が担当している「SKILL SET」シリーズは、タイアップするクライアントが講師役、私が生徒役となり、ビジネスに必要なスキルセットを学ぶ番組です。こうしたオリジナリティのあるコンテンツを通して、企業の魅力を引き出すファシリテート力、みたいなところも期待されていると思います。
谷口 オーディンスの属性を意識したコンテンツ作り、というのが大きな価値になっているのですね。インタビューする際も視聴者目線を意識しているのですか。
国山 間違いなくそうですね。視聴者と同じ目線で疑問を投げかけることは意識しています。ちなみに、PIVOTのコンテンツは、大体50%ぐらいが台本で、50%ぐらいのアドリブなんですよ。アドリブ部分はまさに等身大です。 わからないことがあれば「それはどうなっているんですか」とか、「ここもっと詳しく教えてください」とか......。私がMCを務める際は、自分自身の興味関心から企業の魅力を引き出すことを特に意識しているかもしれません。
国山ハセンが企業視点・ユーザー視点で見る、昨今のメディアビジネス
谷口 放送局からPIVOTに移籍されたハセンさんだからこそ感じる、メディアビジネスの潮流があると思います。放送局時代にはなかった気づきがあれば教えてください。
国山 放送局からPIVOTに移籍して感じたのは、動画メディアは横のつながりが強いということですね。あそこがこうしたタイアップの案件をやったから、うちでもやってみよう、みたいな。ライバル関係というよりも連携しあっている感じがします。
また、オウンドメディアの重要性も高まっていると感じます。企業も自社で動画コンテンツを作れる時代ですし、クリエイターやメディア業界も動画に飛び出している人が増えましたよね。SNSやYouTubeなどのプラットフォームを活用しながら、「いかにオウンドメディアを面白くできるか」ということを、多くの企業や個人が意識するようになったのは、ここ数年のメディアビジネスの大きな流れだと思います。
国山 ユーザー側の視点としては、広告への抵抗感が減っているような気がしています。動画配信サービスが出始めた頃は、途中で流れるCMが嫌で離れてしまう視聴者もいたと思います。ですが、オリンピックやWBCなどのビッグコンテンツを放送する場合などには、そこに広告が出ても違和感を抱かなくなっている人が多いのではないでしょうか。
谷口 なぜ無料でビックコンテンツが見られるのか、その理由がわかってくるとCMへの違和感も減るのかもしれませんね。
国山 私自身がCMを見るのが好き、というのもあるかもしれませんけどね(笑)。「広告は入るもの」と認識している人は増えていると思います。
キャスティングのキーワードは「公共性」
谷口 放送局在籍時も番組作りに関わってこられたと思いますが、現在行っているコンテンツ企画、プロデュースとの違いはありますか?
国山 実はそんなに関わってこなかったんですよね。放送局はプレイヤーが多いので、どうしても受動的にならざるを得ないところがあります。そこが放送局のダイナミズムでもあるのですが、私はもう少しスモールチームで、より深く伝えたいという思いがありました。
ただ、放送局時代から企画を考えたり、それを提案したり、ディレクターと一緒に現場での引き出し方を考えたりするのは好きでした。それがPIVOTに移った理由でもありますね。今の仕事は、より「クライアントのビジネスやプロダクトをいかに効果的に伝えるか」にフォーカスしているので、自分の強みを発揮できていると感じます。
谷口 動画の企画プロデュースも行っているというのは、まさにハセンさんとしても新しいチャレンジなのだと思います。動画プロデュースで心掛けていることはありますか?
国山 1番重要なのは、キャスティングです。タイアップはもちろん、オリジナルコンテンツでもすごく意識しているところです。「視聴数を取りたいからこの人使おう!」みたいなアイデアは自然に出ると思うんですけど、その分野に対する知識の深さや専門性だけでなく、その人を出すことによるメリット・デメリットも含めて慎重に提案しています。キャスティングはブランドにも関わることですので、「誰を出演させるか」というのは映像チームの全員で議論を重ねています。
谷口 注目を集めさえすればいいではなく、いろいろな角度から検証しているのですね。
国山 キャスティングに関しては、様々なことを話し合う合宿でも大きな話題になる程です。その合宿で、「公共性」というワードが出たんですよ。公共性というのはつまり、その人が社会を良くしたいと本当に思っているか、その人を出すことによってプラットフォームとしての信頼を得られるかどうか、みたいなところです。政治でも金融でも経済でも、テーマはなんでもいいとは思いますが、公共性というのは、これからも慎重に考えないといけないと感じましたね。
谷口 企業の経営者のなかにも、自分の企業や業界だけでなく、もっと広いカテゴリーから社会を変えていこうと考えていらっしゃる方、たくさんいますよね。そうしたキャスティングの視点で今回のアワードを審査していただくのも面白いかもしれません。
国山 ただ、キャスティングをするにも「ターゲット」を考えることは、やはり重要だと思うんですよね。ターゲットが男性なのか女性なのか、ビジネスパーソンなのかっていうところでも、キャスティングの基準は大きく変わってくるので。 そういう意味では、自分たちのプラットフォームや企業をどう見せるか、どう信頼を得るかというところとつながっていると思います。
課金ユーザーも増えている。マネタイズにもつながるネットメディアの可能性
谷口 企業やブランドと生活者をつなぐコミュニケーション手段として、放送メディアにはない 「通信動画の可能性」をハセンさんはどのように評価していますか。
国山 ユーザーの視聴スタイルが変化しているなかで、自分の好きなものを、いつでもどこでも好きなタイミングで見ることができるところに魅力を感じている人が多いと思うんです。だからこそ、これからもネットの動画コンテンツは、多種多様な面白いものが生まれてくるんじゃないかなと期待しています 。
ネットメディアはサブスクリプションがメインのビジネスモデルとなるので難しさも感じますが、「課金してでもこの人の情報が欲しい」と考える人も増えていると思います。成功すれば個人が一つのメディアにもなり得るし、スモールチームでも十分マネタイズ可能なメディアが作れる。そんな可能性を感じます。
谷口 課金文化が根付いている、というのは確かにマネタイズにつながる可能性も大きいですよね。
国山 実際に、個人で収益化につながっている人もいらっしゃいますね。例えば、現在、noteやX、YouTubeで経済ニュースをわかりやすく発信している元日経新聞記者の後藤達也さん。インタビューもさせていただいたのですが、今ではnoteのサブスクで収益化できていると話されていました。後藤さんのnoteには、今や何万人もの人が有料会員として登録されています。後藤さんは活字メディアでの収益化の例ですが、そうした人が映像メディアに出演することで映像でも信頼感を得ているということを含めると、個人のクリエイターがマネタイズする機会というのは広がってきていると思います。
谷口 PIVOTでも、今後のマネタイズについて何か検討されているのでしょうか。
国山 さまざまな選択肢があると思っています。例えば、新しい事業を生み出してマネタイズしていくなどですね。メディアという母体を持っていると、そこを起点に新たなビジネスを展開していくことができるはず。そこにメディアの力があると思います。
ただ、PIVOTはYouTubeでもアプリでも見られるのが特徴なのですが、どうやってアプリに流入させるか、会員数をどう増やすかなども考えていかねばなりません。さらに今は競合と言えるメディアもいくつかあるので、選んでもらうためには何が必要なのか、本当に難しい課題だと感じています。
でも結局は、コンテンツを面白くできるかというところに話は戻ってくるんですよね。視聴者の方が見たいと思うような面白いコンテンツを発信し続けていれば、PIVOTを選んでもらえる1つの理由になるはずですから。
企業のコミュニケーション活動のトレンドは「自然な雰囲気」
谷口 ハセンさんは、今年4月に『アタマがよくなる 対話力』という著書を発売されています。クライアントとの信頼関係を構築するうえで、対話、コミュニケーションの部分で気を付けていらっしゃることはありますか?
アタマがよくなる「対話力」 相手がつい教えたくなる聞き方・話し方(朝日新聞出版)
国山 クライアントが今回のコンテンツで何を1番伝えたいかというのは、しっかり擦り合わせるようにしています。そこは大前提クリアにしておくことが大事。「ここを一番に見せたい」「この文言で本当にいいのか」など細かな部分まで確認を行い、信頼関係をつくりたいと考えています。
谷口 先ほど台本50%、アドリブ50%でコンテンツを作っているというお話がありましたが、ハセンさんとしても自由な立ち回りが得意ですか。
国山 得意だと思います。カチッと決めてない方が好きですね。企業の方もその方が自然な思いが出ますし、そこを1番に伝えた方がいいと思っています。全部台本通りに行ってくださいとか、カンペを用意して相手に何かを言ってもらうコンテンツではなく、自由にやりましょうみたいな。雑談の雰囲気じゃないですけど、まさに「対話」を重視しているところはあります。
谷口 台本ありきのコンテンツって、今や視聴者にもそれが伝わってしまいますもんね。ちなみに、クライアントとコンテンツ作りを行う上で、昨今の企業のマーケティングやコミュニケーション活動の潮流として感じていることはありますか?
国山 企業側も「本音を見せる」ということを、意識し始めていると思います。あたかも「タイアップです」「宣伝です」みたいにしたくない、という声はよく聞くようになりましたし、むしろ「そんなにPRしなくていいです」と言われることも増えています。
コンテンツとしていかに面白くできるかを期待されているのはもちろんなのですが、いかに自然な雰囲気を出せるかどうかというのも重要になっている気がしています。相手の思いを自然に引き出すだけでなく、それによって生まれたものがコンテンツとして魅力的かどうか。コンテンツ制作では、そのバランスを意識しています。
谷口 少し前ならあれもこれも盛り込んで! 言われそうなものですけど......。
国山 たしかに、これまでは「全部盛り」なものも多かったですよね。でも今は、社員を出演させて「自分たちはこんな会社です」、「こんなカルチャーを持っています」と、企業の内側を見せるようなものが増えていると感じます。親近感が湧くような自然な雰囲気を、企業も強く意識し始めているのではないでしょうか。
谷口 例年の講談社メディアワードのファイナリストに選ばれた企画も、まさに広告っぽさは控えめで、自然な雰囲気があるような気がします。そして、クライアントとの共創を大切にしている企画が多いですね。
国山 「一緒に作る」という意識がないと、視聴者、動画メディア、クライアントにとって win-winにはならないんですよね。「共創」は、昨今のコンテンツ制作において1番大事なポイントになると思います。
等身大の視点で、「ターゲットに刺さるコンテンツ」に注目したい
谷口 ハセンさんは、個人としてさまざまなスキル、能力を持っていると思うんですけど、その力を今後、どんな場面で活かしていきたいとお考えですか。
国山 最近言語化できるようになったんですけど、「架け橋」 を作りたいと考えています。私は、大企業からスタートアップに行きました、という経歴をあえて大きな声で言っているのですが、 それも1つの「架け橋」になっていると感じます。
これからもメディアの世界にはいると思いますし、メディアの役割として、まだまだできることたくさんあるはずです。そこで自分が取材したり、新しい情報を伝えたりすることによって、何かと何かをつなぐ接点になれるような活動をしたいなと......。日本と海外っていうことでもいいと思いますし、企業間でもいいと思います。「架け橋」をどれだけ作れるかが、自分にとってのミッションです。
谷口 まさにハセンさんが持つ『対話力』を活かして「懸け橋」に、ということですね。
国山 そうですね! それができたら嬉しいです。
谷口 それでは最後に、講談社メディアワードに期待していることや、楽しみにしていることをお聞かせください。
国山 どういった企画が出てくるのかはわかりませんが、まずは等身大で「そのコンテンツが面白いかどうか」を軸に審査できればと考えています。
そして、ターゲットが明確になっているか、そのターゲットにどれだけ刺さっているか、という点にも注目したいです。PIVOTで言えば、メインのターゲット層は20代、30代のビジネスパーソン。どうしても限定的になってしまうのですが、逆に言うとそこに指すことができれば大きなインパクトになるんですよね。だからこそPIVOTの動画チームはサムネイルのインプレッションや視聴者層など、常にコンテンツの分析を行っています。その分析結果を受けて、どういうコンテンツを作っていくか、ターゲティングしていくかを考えるのは、非常に面白いと感じているところです。
今回エントリーされた企画も、きっと自分が今PIVOTでやっていることと近い部分があるはず。審査会、とても楽しみにしています!
撮影/森清 取材/谷口優(宣伝会議) 文/室井美優(Playce) 編集・コーディネート/川崎耕司(C-station)
川崎耕司 シニアエディター・コーディネーター
C-stationコンテンツ責任者。C-stationグループの、広告会社・広告主向け情報サイト「AD STATION」担当。