2024.06.27

気候変動に本気で取り組むための報道を支えたい。メディアの連帯を後押しするMedia is Hopeの想い|FRaU関編集長のSDGs Talk vol.2

気候変動を放置すれば、難民が増え、食糧難が起こり、それを奪い合うための戦争が起きる......そんな未来が2050年にやってくるという試算があります。

世界中で気候変動対策を求めるためのデモやアクションが起きる今。日本でも2023年夏、気候変動に触れない天気予報のあり方に問題提起する署名が立ち上がり、SNS上でも話題になりました。

こうした気候変動へのメディアの関わり方に着目し、2021年に発足したのが一般社団法人Media is Hopeです。対応が待ったなしの地球の状況を正しく知り、解決策をも提示する報道を促進すべく、新聞、雑誌、テレビ、ネットメディア、ラジオ、あらゆるメディアの連携を作り、さらには一般企業も巻き込んで、これまでにないうねりが生まれつつあります。

Media is Hopeの想いと、未来への展望とは? 共同代表の名取由佳さんと西田吉蔵さんに、『FRaU』編集長 兼 プロデューサー・関龍彦がお話を伺いました。

*この記事は6月18日、姉妹サイト講談社SDGsで配信されたものです。

メディアの外側からメディア同士をつなぐ

関 初めてお二人と会って、「皆さんメディアが希望なんです」と聞いた時は、ちょっと恥ずかしいというか、こそばゆかったというか(笑)。メディアはやっぱり、普段黒子に徹している人たちが多いので、自分たちにスポットライトが当たることに慣れてないんですよね。

名取 メディアは希望です!(笑)

西田 本当にその通りで、SNSで個人の発信が大きなムーブメントに発展することもあるけれど、やっぱりメディアの力はめちゃくちゃ大きいです。気候変動という大きな問題を解決しようと思うと、もっともっと活動自体が増えていかなきゃならないし、1つ1つの活動がスケールアップしなくてはいけない。その上でも欠かせない力だと思っています。

西田 吉蔵氏(一般社団法人Media is Hope 共同代表理事)/これまで企業ブランディングやコミュニケーションプランニング、プロジェクト推進など企業に勤めていた経験を活かし、あらゆる視点・角度から課題解決の大きなジャーニーを描く。気候変動の本質的な解決に向け、いかに未来志向な社会を構築できるか、新たな仕組みづくりに挑戦する。

気候変動は、直近の数年に何をするかで数千年先の未来が変わってしまうと言われるくらい切実な課題です。「SDGsウェディングケーキモデル」という考え方がありますが、そこで一番下に位置しているのが地球の持続可能性。ここが崩壊すると、その上の社会も経済も成り立たなくなってしまいます。SDGsを達成するためにも、特に「気候変動」は急務かつ優先度が高いと言えると思います。

ウェディングケーキモデル:SDGsの概念を表す構造モデル。上から「経済圏」・「社会圏」・「生物圏」の階層順になっており、それぞれが相互に関係性を持っており、土台となる環境の重要性が示されている。(Stockholm Resilience Centreより参照)

名取 気候変動を解決するために、まずはその正しい情報を手に入れ、さらに正しい解決策を理解することが大事ですよね。そのためにはメディアの発信がもっと活発になってほしい。

でも、気候変動の報道を頑張っている方は、社内で孤軍奮闘されていることが多い印象があり......そういう方々を応援し、皆さんが力をより発揮できるようにサポートさせていただいたり、メディアの垣根を超えた勉強会、意見交換や共創の場を設けさせていただいたりしています。

私たちのような、メディアの外側にいる非営利の団体が率先するからこそ生み出せる連帯があるのでは、と思っています。

関 それは、本当にそう思います。昨年、『FRaU』が企画した気候変動を扱う記者による「新聞社5社対談」がありましたね。僕もメディアの横のつながりは非常に大事だと常々思っていましたが、講談社が「集まろう」と呼びかけても、同業他社はみんな「どういう裏があるんだ?」と警戒してしまいます(笑)。でも、メディア連携の場をMedia is Hopeがすでにつくってくれてたから、きわめてスムーズに進みました。

東京新聞、朝日新聞、毎日新聞、日刊工業新聞社、読売新聞が集まり、気候変動報道について語り合った座談会。進行役はFRaUweb編集部の新町真弓(最上段左)が務めた。

名取 そうですよね。経費はどこが持つんだ?みたいな感じになってしまいそう(笑)

関 講談社は国連のSDGメディアコンパクトの一員でもあります。これまで、SDGsを達成するため、『FRaU』でも関係者が一緒に勉強できるような場作りにも力を入れてきました。しかしお二人が活動されるようになってから、ここ1年くらいでかなり気候変動報道が加速してきたのは確かです。

私たちは、「どうやって解決すればいいのか?」が知りたい

名取 昨年12月に、ドバイで開催された「気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)」では、私たちが現地に行って取材や撮影を行い、その素材をもとにメディアに記事化していただく、ということにもトライしました。

名取 由佳氏(一般社団法人Media is Hope 共同代表理事)/大学卒業後、エンターテイメント企業に就職し5年間勤務。その後は、直接的な社会支援のためソーシャルワーカーに転身。現在は前職で培ったコミュニケーション力とクリエイティブな発想力で気候変動解決に向けた新たな価値の創出や社会システムの構築、社会の抜本的な改革に向けて奮闘。

COPって、開催地が地理的に日本から遠いことが多いですし、誰に何を聞いたらいいのか座組が難解な部分もあって、体力的に日本のメディアが取材するにはかなりハードルが高いはずなんですよね。ある程度気候変動分野で人脈がある私たちのサポートで、メディアの皆さんの取材がスムーズになれば、という思いです。

私たち自身は報道のプロではないので、COPに行く前に記者さんと作戦会議をして、どんなことを取材したいか、どんな素材が必要かをヒアリングして実際に記事や発信に活用してもらいました。

西田 国際会議の報道は、「こういうことが決まりました」「日本は相変わらず遅れていると怒られました」みたいな事後報告的な内容に終始しがち。でも、そこからもっと踏み込んで、「どんな気候変動報道が必要なのか?」という私たちの期待から逆算して提案していきたいんです。

2022年10月に発売された「FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。」に、名取さんが出演した。「若き活動家の今」という企画で、アクティビストの宮﨑紗矢香さん、中村涼夏さんとの鼎談を展開。

関 確かに、この分野は客観的なニュースばかり聞いていると暗い気持ちになっていく一方だし、問題の深刻さを理解することは最低限必要であるにしても、そこから「どう解決していけばいいのか?」のほうをもっと知りたいですよね。

西田 まさにソリューションジャーナリズム(解決策提示型の報道)が必要です。

関 その点で言うと、テレビ朝日のアナウンサー・山口豊さんが作られた特番「SDGsスペシャル 再エネ革命ニッポンの挑戦」は素晴らしかった。山口さんはこれまで社内で「再エネばっかり追いかけてる変わった人」扱いされていたらしいのですが(笑)、あそこまで大きな番組が作れたのはお二人の尽力があったからだと聞いています。

メディアの中で気候変動の扱いが変わってきた

名取 山口さんはもともと、ニュース番組の中の特集コーナーで再エネをずっと取り扱われていて、気候変動を「解決するため」に真剣に取材をされている方だと尊敬していました。それで、もっと長尺の番組をぜひ作ってください! とお願いしたら、「社内にもぜひプレゼンしてもらえませんか」とおっしゃっていただいて。

伺ってみたら、テレビ朝日の担当の方が次々に出てこられて本当に驚きました。

西田 そこでお伝えしたのは、いかに皆さんのようなメディアが大事なのかということ。そして、特に若い視聴者は気候変動やSDGsに関心が高く、真剣に取り扱うメディアを選び、ファンになってくれる、ということ。

しかも、今、サステナブル経営に投資する企業はたくさんありますから、再エネをはじめとして気候変動の解決にコミットする番組でCMを流すことができれば、企業の姿勢を示すことができます。そこにメリットを感じる企業がスポンサーになってくれる可能性も上がります。「視聴者・読者と、メディアと、スポンサー企業の関係性を繋ぎ直したいんです」と力説しました。

メディア、企業、視聴者・読者が共創関係を築くための架け橋になる、というMedia is Hopeのパーパス。

名取 よくわからない団体が来たぞ、と警戒されたらどうしようかと思っていたのですが(笑)、「これは可能性があるんじゃないか」と思っていただけたようで、本当に良かったです。

関 次世代の視聴者の獲得につながる、と言われたら確かにメディア企業には刺さるはずです。それにしても、あの番組の誕生の裏側でそんなことが起きていたんですか。

名取 私たちのような視聴者や読者という立場から外側から応援させていただくことの大切さを、本当に実感しました。第二弾もぜひ見たいと思いますし、気候変動解決に向けた報道やコンテンツを応援していきたいです。Media is Hope AWARDというメディアの皆さんの功績を讃える賞も贈呈させていただいているんですが、これによって、皆さんが社内で「気候変動の記事を書くのは良いこと」と共通認識を得られたり、紙面が取りやすくなったり、という効果があったと聞いています。(『FRaU』はMedia is Hope AWARD 2023上半期の媒体賞を受賞。)

※左から ハースト婦人画報社 大竹紘子さん / テレビ朝日 山口豊さん / 朝日新聞 市野塊さん・香取啓介さん / ハフポスト日本版 中田真弥さん / 映画「Dance with the Issue」 監督:田村祥宏さん / RICE MEDIA 藤田一輝さん

「いいメディアを支えるのが、いい企業だ」という世界へ

関 さっきお話にありましたが、皆さんは活動の中で「企業」の立ち位置を明確にされているのも素晴らしいですよね。先日、メディアと企業を集めたミートアップも開催されていましたが、メディアと、そのスポンサーである企業との関係性にまで踏み込んだ。

西田 はい、気候変動イニシアティブ(JCI)と共催した企業×メディア交流会は大変好評でした。企業21社34名、メディア11社21名で合計50名以上の方にご参加いただいたのですが、事後アンケートで95%の方が第2回目の開催や分科会への参加をご希望されています。継続して、企業×メディアでの新たな仕組みづくりを実現していきます。

関 『FRaU』も、ここまで27冊SDGsに関連する特集を出してこられたのは、結局、スポンサーになってくださる企業さんがいたからです。受発注をし合うだけの存在ではなくて、より良い関係を築き、より大きなインパクトを生むことを目指していこう、という共通理解がないと、ここまで続けてこれなかったと思います。

西田 企業さんも、もはや、たくさんリーチできれば出面はどこでもいい、という時代ではないですよね。自社のサービスや製品に対して興味がある人にアプローチがしたい。例えば、気候変動にコミットし、解決するためのサービスなのであれば、Web広告で闇雲に接触を増やすよりは『FRaU』さんに出す方がよっぽど価値があるわけです。大事なのはコンバージョン、つまり、どういう態度変容や行動変容を起こしたいのか、という部分です。

名取 従来のメディアとスポンサーの関係から一歩進んで、「いいメディアを支えるのが、いい企業だ」という共通理解を生み出していきたい、という野望があります。そのためにはまだまだ努力が必要ですが。

視聴者・読者の巻き込みも欠かせません。Media is Hopeという団体名ではありますが、気候変動を解決するためには、メディアだけではなくいろんな立場の人たちが自らの立場を超えて協力し合って一緒に頑張っていかなければならないと考えています。

「自分ごと化」ができるナラティブ作りから

西田 そこで、昨年9月に開催した「みんなでつくろう再エネの日」というイベントでは、テレビ朝日アナウンサー・山口豊さんの再エネ特番を渋谷の公園を貸し切ってパブリックビューイングしたほか、各業界で気候変動解決に尽力する皆さんが集結する場になるように設計したんです。結果的に、環境省に後援をもらえたり、東京都、Jリーグ、気候変動にコミットする企業グループ、ペロブスカイト太陽電池を開発した宮坂力先生などの専門家や実践者、市民、若者、いろんな立場の方が繋がり共創することができました。このような場がこれまで意外となかったので、メディア関係者だけでなく、みんなが協力し合う仕組みづくりに向けて引き続きやっていきたいな、と。

関 どこか一箇所だけが頑張っても変わらないですもんね。メディアも、企業も、視聴者・読者も、全体的にリテラシーを高めていって、気候変動への注目度が上がる、という状況を作らないといけない。読者への伝え方も、僕らにとっては本当に大きな課題です......難しいお勉強コンテンツになってしまったら「とっつきづらいもの」と思われてしまう。いかに自分ごとだと思ってもらえるか。

西田 この分野ではよく「自分ごと化しよう」という言葉、使いますよね。でも、僕が最近思っているのは、"自分"がない人って自分ごと化できないと思っていて......自分がどんな時に幸せを感じるのかや、自分自身がどんな社会で生きたいのかをみんな一人ひとりが深掘りしていく必要があると思っています。

関 おお、考えさせられる言葉ですね。

西田 自分の軸や価値観があるからこそ、物事を自分に引き寄せて考えることができるのではないか、と。一見遠回りに見えるかもしれないけれど、多くの人に真剣に考えてもらうために、僕らは、ナラティブ(物語)を作るところから考えなければならないと思います。だからFRaUさんのような「人生の選択肢を与えてくれるメディア」の存在は大きいと思いますし、多くの人が参加しやすいようにエンターテイメントの要素も不可欠だと思います。

関 参加することが楽しい、と思える枠組み作りですよね。今後が楽しみです。直近だと、どんなアクションが想定されているんですか?

西田 近々、天気予報の報道に関して取り上げる勉強会と記者会見を、気象キャスターの方々と協働して開く予定です。(取材後【気候危機に関する気象キャスター共同声明】が発表された)

名取 私たちが最も気候変動を身近に感じるものの一つが、天気ですよね。でも、日本ではなかなか天気予報の中で気候変動が取りあげられることはなく、去年は「#暑さの原因報道して」という署名も立ち上がっていました。

今、気象予報士さんの中にもジレンマを感じていらっしゃる方が多いんです。専門家でも、異常気象が気候変動によるものかどうかの判断は即座に難しい中、正確な報道を求められるメディアがどこまで踏み込んで発言していいのか。

関 エビデンスが大事ならIPCCの最新のデータがあるのに、とも思いますが、前例がないことに挑戦する難しさもあるのでしょう。局からすると、天気予報は明るくニコニコしていないと視聴者が離脱する、という思いもあるでしょうから、シリアスな話題は避けたいのかもしれないですね。

名取 でも、ここまで暑くなってくると、逆に視聴者からは「明るくニコニコ」していることが違和感になってきてしまうんですよね。信頼を失ってしまう危機でもあると思います。また、エビデンスの点での不安を解消できるよう、気象庁の研究成果のシェアや国内外の専門家と連携できる仕組みをサポートしていく予定です。気候変動報道の後押しができるよう、これからも引き続き頑張りたいと思っています。

撮影/坂功樹 取材・文/清藤千秋 編集・コーディネート/丸田健介(講談社SDGs)

丸田健介 エディター・コーディネーター

C-stationグループで、BtoB向けSDGs情報サイト「講談社SDGs」担当。

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