2017.06.21

このままではカードが淘汰される時代が来る!│クレディセゾン社長インタビュー(後編)

このままではカードが
淘汰される時代が来る

夏目:ポイントが永久不滅だから、いっそ運用できるようにしてしまえ! ということですか?

林野:ええ、これこそ究極の差別化です(笑)。ポイントが消えるどころか自己増殖していくって、そもそも「永久不滅」だからこそできることですからね。セゾンカードをお持ちであれば、ホームページで簡単な手続きしていただくだけで、すぐにでもポイントの運用を始められますよ。
私は「カードはいずれ同質化の時がくる」と予測していました。そこで常々、差別化のための武器を用意したいと考えていたんです。一方で当社は、世界最大手の運用会社であるアメリカのバンガード社と提携を結び、「セゾン投信」と「マネックス・セゾン・バンガード投資顧問」という、資産運用の関連会社を創業しています。バンガード社は個人向けのインデックス投信を販売手数料ゼロで直販し、世界最大手へと成長した非常に優秀な企業。当社もカードの年会費を無料にするなど、バンガード社の姿勢と一致している部分が多かった。そこで我々が惚れ込み、10年近くかけて提携を実現させています。
そんな状況があったため、クレディセゾンは、「マネックス・セゾン・バンガード投資顧問」の投資信託の値動きに連動する形でポイントを運用できるようになった、というわけです。もし長期間ポイントの運用を続けていただけば、数十年後にはちょっとした「ポイント資産」ができますよ。
いま金融庁は「貯蓄から投資へ」というキーワードを掲げています。日本の個人資産の多くはリスクのない預貯金にまわってしまうため、個別企業の価値を評価した長期視点の投資にまわりにくく、日本経済の活性化のためには個人の資産運用・資産形成を推奨するほうがよいのです。また日本は投資教育も不十分ですが、ポイントの運用により金融商品への興味や関心を喚起することにもなります。だから、ポイントの運用は東京証券取引所からも歓迎されているんですよ。

夏目:ひとつイノベーションを起こすと、連鎖的に新しいことができるようになりますよね。

林野:そうそう、「永久不滅」という世の中になかったことをベースに次を考えているから、次のことも世の中にないんです。だから「ポイントが航空会社のマイルに変わる」なんて単純なものじゃない。現在、既に約5万名以上の会員がポイントの運用を始めていて、運用実績も堅調です。するとSNSなどで面白がってもらえて、お客様がお客様を呼んできてくれます。今後は、こんな特異な何かを実現しなければ、クレジットカードもどんどん淘汰されていく時代がくると思いますよ。


「ロボアド」で、貯蓄から
直接投資への流れが生まれる

夏目:他にも新たな戦略がありそうですね。

林野:ええ、これもおかしいところを変えているんです。例えば仕事で出張や接待があった時、経費を個人が立て替えるのっておかしいですよね。また、経費を使えばマイルやポイントがたまって、これを誰が使うかはグレーゾーンになっていますよね。さらには経費精算を紙ベースで行っているから、領収書をなくしたら社員は立て替えたお金が返ってこない。しかも精算の手間がかかって生産性が下がるから、会社も社員もまったくいいことがない。そこで当社はクラウド経費精算の専門企業であるコンカー社と連携し、法人向けに、クレジットカードを使ったシンプルな経費精算システムを提供しています。

夏目:AI(人工知能)の活用は?

林野:マネックス・セゾン・バンガードでは「ロボ・アドバイザー」が利用できます。お客さまがいま何歳で、どれだけ資金があって、何歳までにいくらにしたいのか、といった計画を立てると、AIが「このポートフォリオにすれば、何%の確率で目標金額に達する」とシミュレーション結果を提示してくれます。リスクが高いと感じたら、ロボ・アドに伝えていただけば、もっとローリスク・ローリターンのポートフォリオが提案されます。

夏目:金融機関の窓口に相談するのとはどう違うのですか?

林野:人間を使うよりコストが低下し、利率が高くなります。大手証券会社の運営コストは、資産運用残高の3%程度と言われています。しかしロボ・アドを使えば1%程度。長期運用であれば莫大な差が生じます。また、人間よりロボ・アドのほうが的確なポートフォリオを組める場合が多いんです。証券会社の窓口の方が全世界の様々なファンドのトラックレコード(投資実績)や現状を知っているとは限りません。しかしロボ・アドなら、常に世界中の最新のデータを元に提案できます。ロボ・アドの登場により、日本は間接金融から直接金融の国に変わっていきますよ。いままで日本では投資教育が行われていなかったから、「投資」という言葉にネガティブなイメージを持つ方が多かった。しかし、生命保険に加入したり、銀行口座にお金を預けたりすれば、生保や銀行が自分のお金をどこかに投資していたんです。

夏目:それが「間接金融」ですね。

林野:しかしロボ・アドを使えば誰でもファンドやETF(上場投資信託)へ「直接投資」ができるようになります。これは、金融業界の今後の流れになっていくでしょうね。


東南アジアで
サクセスストーリーを描く!

夏目:最後に伺いたいのが海外進出についてです。12年にベトナムに駐在員事務所を開設して、その後、個人向け金融サービスの会社を設立していますね。

林野:ええ。ベトナムには営業拠点が約8000ヵ所あって、1ヵ月に10万件くらいのペースで申し込みをもらっています。

夏目:8000カ所ですか!?

林野:現地の家電やオートバイやスマートフォン等の割賦販売の売場で営業をしているんです。これらの商品はベトナムの所得水準から考えると価格が高く、多くの方が割賦を利用します。そして当社が進出している東南アジア全域で言えることですが、この国々ではいままさに、クレジットカード、プリペイドカード、スマホ決済などが普及しているところです。ここで日本での経験を活かし、現地の市場がどの程度成熟しているかを見極めながら次の施策を考えていけば、ものすごいスピードでサクセスストーリーが描けます。

夏目:東南アジアは人口も多く、若者もたくさんいますからね。しかも所得が少ない人に与信して家電やオートバイやスマホを買えるようにしているわけだから、経済発展にも寄与していることになりますね。

林野:そうなんです。ただし、ここでも当社は独特のやり方をしているんですよ。ベトナムでは現地の銀行との合併企業「HD SAISON Finance」を設立し、現在は約7500名の従業員が働いています。このうち、日本人はたった3人なんです。20世紀の日本で海外進出と言えば、資本の51%以上を握って、社長は当然日本人で指示はすべて東京経由、といった形が主流でした。でも私、これは「植民地型」でよくないと思っているんです。うちは、資本なんかいくらでもいいし、できればトップも現地の人にやってもらう。そして、その国の論理を取り入れ、現地の人に「これ、自分の国の会社でしょ?」と思われるくらい愛される会社にしていこうと思っています。リテールは顧客目線でなければ成立しないんです。そして足りないノウハウだけは日本から供給して、その段階を終えたら日本人スタッフは日本に帰国しちゃう。そのほうがいいんですよ。

夏目:そのほうが現地の人もやる気が出ますよね。すると、林野さんが'80~'90年代にかけて行った、サインレス決済のようなイノベーションが現地でも起こる......。

林野:実際に起きる可能性がありますよ。例えばミャンマーで、マイクロファイナンス(小規模金融)を実施するとか。まだ計画段階ですらないんですが、精米機の販売などができるのでは? と思っています。

夏目:精米機ですか!?

林野:現地からの情報で、せっかくお米をつくっても精米機が粗雑で、お米が割れてしまうと困りごとを聞いています。その昔、ミャンマーは世界一の米輸出国だったんです。農業のポテンシャルは高いはず。そこで、とりあえず精米所を設置して、将来は、精米所を使う人たちにお金を貸して精米機を買ってもらうことなどできないかな、と。もし実現すれば、ミャンマーの経済発展に寄与でき、もしかしたら、みんながカードを使うようになるかもしれません。同様のことはカンボジアなど東南アジア各国で実施できるはず。すると、これらの巨大市場を得ることができます。

夏目:これも、現地の現状を知っているからこその発案ですね。

林野:そうです。まだ実現するかどうかはわかりませんが、「現地では精米機が粗雑でみんな困っている」といった細やかな情報は、日本から出向いたスタッフにはわかりっこありません。

夏目:わかってきました。林野さんはきっと、いままで大手金融機関が行ってきたことの逆、逆を突こうとしているように見えます。信用力がない方にもお金を貸し、海外に日本の論理を持ち込まず......と。

林野:たしかに、そんな一面はあるかもしれません(笑)。でもこれ、本来は当たり前だったことを実現しているだけなんですけどね。

【プロフィール】
林野宏(りんの・ひろし) '42年京都府生まれ。'65年埼玉大学文理学部卒業後、西武百貨店(現そごう・西武)入社。'82年、西武百貨店から西武クレジットに移籍。'00年代表取締役社長就任。有効期限のない「永久不滅ポイント」の導入や、リーズナブルでハイグレードのサービスを提供するセゾン・アメリカン・エキスプレス・カードを発行

夏目幸明プロフィール
1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。「マーケティング、マネジメント、技術がわかれば企業が見える」と考え、これらを報じる連載を持つ。講談社『週刊現代』に『社長の風景』を連載、大手企業トップのマネジメント術を取材する。
著書は『ニッポン「もの物語」』(講談社)など多数。現在は「夏目人生法則」のペンネームでも活動し、Itmedia、ダイヤモンドオンラインなどで記事を連載する。

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