2024.04.18

さらなるグローバル成長のカギは、「デジタル棚」~日本のIPビジネスを、エンタメ社会学者・中山淳雄氏が語る

「作品のクオリティは十分。課題はコンテンツの外側にある」

グローバルな視点から日本のIPビジネスの現状を、こう指摘するのは、エンタメ社会学者の中山淳雄氏。日本のキャラクタービジネス市場は2.6兆円規模に達し、海外のZ世代にも日本アニメは人気だ。人々の可処分時間は増え、今後もIPビジネスは成長が見込まれる。本記事では中山氏が、成長を続ける日本のIPビジネスが、グローバル展開でさらに成功するためのポイントをさまざまな角度から解説する。

中山 淳雄氏 エンタメ社会学者、Re entertainment代表取締役
リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティング、バンダイナムコスタジオを経て、2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在し、日本のゲームやアニメなどの海外展開を担当。2021年にエンタメの経済圏創出と再現性を追求するRe entertainmentを設立。著書は『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』(日経BP)など。

2.6兆円の市場規模。拡大する日本のIPビジネス

──キャラクターなどの知的財産(IP)をアニメ、ゲーム、グッズなどに展開していくIPビジネスが、近年、注目を集めていて、取り組む企業が増えています。初めに日本のIPビジネスの市場規模を教えてください。

中山:IPビジネス=キャラクタービジネスと置き換えると、その市場は、キャラクターを利用して商品にする「商品化権」と、キャラクターをアニメやゲームなどに使用する「版権」の2つに分かれます。2022年度の市場規模は、商品化権が約1.27兆円、版権が約1.34兆円で、合計約2.6兆円(矢野経済研究所調べ)と言われ、この規模は拡大傾向にあります。

キャラクタービジネス市場規模の推移。年々拡大の一途を辿る。(2023年 矢野経済研究所調べ

しかし、日本のキャラクタービジネスの実際の市場規模はきちんと測られたことがありません。マンガやアニメ、ゲームのキャラクターがさまざまな商品になったり、販促やプロモーションに使われたり、いろいろな産業に派生していく。キャラクタービジネスの裾野は大変広いからです。また、上記の約2.6兆円には、アニメ3兆円、ゲーム1.5兆円、玩具1.0兆円といった各市場とどこまで重なりがあるか、切り分けがされていません。現在も2.5次元ミュージカルやトレーディングカードを始め、さまざまな市場がキャラクターを使いながら伸びていますが、どの部分がIPかオリジナル商品かも分かりづらい状況です。

──確かに世の中にはさまざまなキャラクターが溢れていますし、デジタル世界ではいろいろなメディアやコンテンツが生まれています。どこからどこまでがキャラクターの恩恵を受けているのか複雑ですね。

中山:IPをもう少し広く捉えると、キャラクターの他にブランドイメージなども含まれると思っています。すなわち、商品やサービスの機能的な価値以外のものが付けばすべてIPを活用した商品と言えるのでは。僕の中ではアートもスポーツもラグジュアリー商品もみんなIP市場に近いんですよね。いわゆる機能材に、世界観やストーリー、キャラクターが乗っかることで、すごく愛着が湧きます。この機能性以外に付加価値となる要素がIPなのです。

マンガや、そこから派生するアニメ化や映像化は、いわゆる「コンテンツ市場」で、みんなが世界観やストーリーやキャラクターに興味を持って、好きになった後に残る結晶のようなものが、マンガやアニメのブランドとしてのIPです。

とはいえ、マンガもアニメもコンテンツとして支持されるための競争をくぐり抜けないとライセンスビジネスに辿り着けません。いろいろなモノにくっつけてもらえるために、コンテンツのクオリティを上げたりブランディングしたり、血の滲むような努力をしながら、多数のコンテンツと競うといった、ものすごい淘汰の過程があります。

メディアミックスが進み、キャラクタービジネス市場が拡大

──キャラクタービジネス市場が拡大している要因は何でしょうか?

中山:大きな要因の一つは、マンガをアニメ、映画、舞台、ゲームなどいろいろなメディアに展開していく「メディアミックス」が上手くいっているからです。昔は、マンガはマンガとして、アニメはアニメとして、それぞれで成功を目指す状態でしたし、そもそもIPビジネス自体が「狙って当てる」という感じではありませんでした。

それが、放送、配信、ゲーム会社や玩具メーカーなどが出資して共同権利を保有する「アニメ製作委員会」が組織されることが当たり前になり、この10~15年でメディアミックスが進みました。「アニメ製作委員会」は、いろいろな企業がアニメ制作費を出資します。そして、アニメの映像や音声を使った派生ビジネスが展開されていくなかで著作権料を得たり、ゲームやパチンコ、グッズなどを開発したりしてその収入を得ます。

アニメ製作委員会」を起点に、商品化・ゲーム・イベントなど様々なビジネスが派生。(中山淳雄 著 推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来」より抜粋)

──あらかじめいろいろなビジネスを見込んでアニメを作っていくことが当たり前になっているのですね。他にもキャラクター市場が拡大している要因はありますか?

中山:時代の変化も大きいですね。コロナにより、新しいエンタメとして動画配信やマンガアプリなどが定着してきたこともあります。もっと大きな視点で見ると、いまは「完全成熟社会」で、モノやサービスが溢れ返り、いろいろな産業が頭打ちもしくは下落傾向にあります。

モノゴトを0から1にするにはサイエンティストが、1から10にするにはエンジニアが必要だと思うのですが、成熟した100の状態をもう一度つくり変えようとするときには、アーティストの力が必要だと考えています。完全成熟社会でいろいろな産業が変化を迫られるなかで、ファンタジーなものや世界観を作るエンターテインメントは不況も関係なく、ある程度浸透していく。しかも、現代はメディアに接している時間がどんどん増えて、エモーショナルなものへの接点も本当に多くなっている。だから、他の産業に比べて相対的にエンタメ産業のポジションが上がってきたのではないかと思っています。

IPは人と人を結びつける「共通通貨」

──厳しい産業もあるなかで、エンタメ産業はまだまだ成長する余地がある、と。

中山:僕は、キャラクターとは「共通通貨」だと考えています。そのキャラや取り巻く人々、世界観を交換し合うことで人と人とが結び合う。例えば『ポケモン』といえば、ピカチュウとサトシが思い浮かぶし、彼らには人々が共有できる「概念」のようなものがあります。キャラクターのコミュニケーションは人々を結びつけるために驚異的な活躍をします。

──エンタメの需要とキャラクターの普遍的ともいえる価値が、キャラクタービジネス市場を支えるということですね。

中山:ただし、キャラクターだけではIPビジネスをヒットさせることは難しいでしょう。IPは、「ストーリーIP→キャラクターIP→世界観IP」と進化していくと考えています。ストーリーが良くないと、人々はそもそもコンテンツにハマらないし、ストーリーが良いからキャラクターが立ち、キャラクターが象徴的だから世界観が生まれる。それぞれの段階をクリアしないと次に行けない感じもしますね。この3つのIPがあるからこそ、キャラクターをいろいろなところに展開していくと爆発的にヒットするわけです。

IPは「ストーリーIP→キャラクターIP→世界観IP」へと進化していく

モバイルゲームがIPでまだ弱いのは、キャラクターが多過ぎて、個々のキャラクター設定が弱く、ストーリー展開がしづらいからです。IP化するには、あるキャラクターの成長を辿るストーリーが一人称視点で展開されることが必要です。それに適しているのがマンガです。

──確かにマンガを原作としたメディア展開は多いです。

中山:いろいろなエンタメが出てきても、マンガというフォーマットは今後も生き残るでしょう。僕はアニメやドラマの原作について1950年まで遡って調べたのですが、マンガの原作の割合は、1955年からずっと50%台をキープしています。アニメの本数は、1950年代は年間20本程度だったのが、いまは年間200本の時代で、これだけ本数が増えているのにずっと50%台をキープしているのはすごいことです。そのぐらいマンガは使い勝手が良い。そして、ストーリーとキャラクター、世界観を作るのにマンガほど機能的なメディアはないということです。コロナを追い風にマンガアプリは伸びて、新しいエンタメとして定着しました。これからもマンガアプリでユーザーの視聴は確保され続けるし、毎週・毎月連載を重ねていく作品作りの習慣は残っているので、今後もマンガは成長していくのではないでしょうか。

「3分の1日本経済圏」拡大のチャンスは十分ある

──今回の記事は、「日本のIPビジネスのグローバル成功」がテーマなのですが、世界の市場から見た日本についてお話いただけますか?

中山:世界の映像作品を見ると、その比率は、おおよそ実写が8割、アニメが2割です。アニメの2割のうち、3分の2は、主に海外のアニメーションスタジオが制作する3Dアニメで、それらの大半はキッズ向けのユニバーサルなものです。残りの3分の1は、ほぼ日本のアニメで、こちらは大人でも楽しめるものも多い。ちなみに8:2の比率は動画配信でもほぼ変わりません。

──日本アニメの比率は多いと考えてよいのでしょうか?

中山:日本アニメは健闘していると言えるし、まだまだ成長できるポテンシャルがあります。例えば、アメリカの子どもはディズニーを見ているけど、Z世代には日本アニメの方がアドバンテージが高いのです。アメリカのZ世代からすると、『ストレンジャーシングス』(Netflixで配信されているアメリカのSFホラードラマテレビシリーズ)はおじさんがよく見ているもので、彼らは日本アニメの方が好きだという声も上がるほどです。他にも、これは僕の感覚ですけど、アメリカのエンタメ業界において、Z世代の人気は、テイラー・スウィフトと日本のアニメで五分五分にもなってくる感じです。

日本のアニメはアメリカのZ世代から熱い支持を受けている

──日本のアニメはアメリカのZ世代に人気があるんですね。ゲームはいかがですか?

中山:プラットフォームでも、プレイ人数と売上規模でも違うんですが、ざっくり7〜8割は実写というか米国産が多くて、残り2〜3割の米国外産の中で日本がそれなりの割合を占めているといってよいかと思います。やはり『Fortnite』のようなバトルロワイヤル系が中心を占めてますが、日本ものでRPGやアニメルックをベースにしたゲームも一定人気保ってますよ。

──世界的に見て、日本のアニメやゲームの競争力はありますか?

中山:ものすごくあります。アニメやゲームのサブカテゴリ―でも3分の1が日本作品とすると、この「3分の1日本経済圏」を広げられるチャンスは十分にあると思ってます。例えば、海外の調査会社「Parrot Analytics」は、毎年どのテレビ番組が一番人気だったかを発表していて、2023年のトップは『呪術廻戦』で、2021年は『進撃の巨人』でした。スターウォーズのシリーズ作品などもあるのに、あえて日本作品のストーリーテリングやキャラクター設定に、皆すごく熱狂しています。

2023年に最も人気のテレビ番組は「呪術廻戦」だった(Parrot Analyticsより

昔、日本では、マンガやアニメは子ども向けのコンテンツで、中高生になったら見るのが恥ずかしいという時代がありました。でも20年ぐらい前からそういった風潮はなくなっています。日本に遅れてアメリカでも、子ども以外がマンガやアニメを見ることへの偏見が薄れているようです。今後も、幅広い世代に受け入れられる可能性は十分あるでしょうね。

世界の「推し活」事情 -日本は「群(むれ)」で、海外は「個」。

──日本では「推し活」が定着していますが、海外にも「推し活」のような文化があるんでしょうか?

中山:ありますが、日本みたいな「群(むれ)」で推し活をする感じではないです。日本はソーシャルプレッシャーが強くて、「推しを持つべき」みたいな風潮がありますよね。BTSが流行っていたら、「とりあえずBTSを推さなきゃ」みたいな空気が女子学生の間などにはある。でも、海外は他人が何を推しているかなんて気にしません。

それと海外はオンオフを分けないのも面白いところです。例えば、コスプレするとき日本人は会場に着いてからトイレで着替えたりします。ところが海外だと家からコスプレして出かけます。セーラームーンのコスプレを着たおじさんが普通に電車に乗っていて、女子学生が「クール!」なんて言っている。日本の場合、コスプレは集団の中で同質化するための武器なのに対して、アメリカなどは個人がキャラクターへの愛を表現するためのものです。

オンオフといえばもう一つ、日本はブームの波が来るのも引くのも激しくて、何かイベントでうわーっと盛り上がっても翌日にはすっかり冷めていることも珍しくありません。海外はそこまで顕著ではありませんね。

──海外では推し活をベースにしたビジネス展開はありますか?

中山:あります。象徴的なのがBTSですね。ビジネス戦略を練って、「ARMY(アーミー)」と呼ばれるファン組織を育て、BTSの母校で多くのK-POPアーティストが在籍する「韓国グローバルサイバー大学」を世界展開しています。韓国はマーケティングが本当に上手いですね。K-POP とKドラマは、海外のZ世代共通の話題になっています。

グローバル展開には、「デジタル棚」が欠かせない

──日本のIPビジネスをグローバルに拡大していくためには何が必要でしょうか?

中山:マンガもアニメもゲームも、それはもうはっきりしていて、「コンテンツの外側」に力を入れることです、日本のコンテンツ力は十分優れている。創作力も編集力も申し分ない、これからは、コンテンツをユーザーに届けるためのデリバリー(流通)を強化すれば、もっと成長できると思います。

デリバリーといっても、国内にコンテンツを広げていく構造はしっかりできていて、すごく効率的に機能していました。これまでは、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌のマスメディアでプロモーションすれば売れました。一方、海外展開となると、代理店に頼ったり、海外から声がかかるのを待っていたりすることが多かった。実際、東宝やバンダイナムコなど一部を除けば、キャラクタービジネスをグローバルに展開している例は少ないです。しかし、デジタル化が進むいま、グローバルに、toBでなくtoCでコンテンツを届けるためには、もっとデリバリーについて考える必要があります。

──海外企業のデリバリーにはどんな特徴がありますか?

中山:海外は、インターネットやSNS、動画配信、デジタル広告といった「デジタル棚」の押さえ方が上手いですね。いまの子どもや若者は、マスメディアや書店、おもちゃ屋といった「アナログ棚」よりも、YouTubeなどの「デジタル棚」に先に接触しますから。

グローバル展開を成功させるためには、Youtube、Amazonなどのデジタルプラットフォーム上で、ユーザーがいつでも簡単にコンテンツに触れることができようにする、「デジタル棚」の確保が重要

中国系ゲームの『原神』『荒野行動』などは、「デジタル棚」から広がった象徴的な例ですし、カナダ制作の幼児向けテレビアニメ『パウ・パトロール』も日本の子どもがYouTubeで簡単に見ることができる状態になっていて、ゲームなども展開しています。アーティストでも、僕がカナダやシンガポールにいるときに、「テイラー・スウィフト」とネットでちょっと調べただけでAmazonのレコメンドも来るし、YouTubeにも出てくるし、「こんなに『デジタル棚』が充実していたんだな」と感じます。

──日本の「デジタル棚」の状況はいかがですか?

中山:「デジタル棚」の整備にまだまだ力を入れる余地があります。YouTube一つとっても、ファンが勝手に上げている海賊版が目立ちますよね。海外から見たときの「デジタル棚」のシェアやどういう反応があるかに目を向けるべきです。

──「デジタル棚」を充実させるためには何が必要ですか?

中山:エンジニアリングと、マーケティングと、ビズデブ(ビジネス開発)ですね。これらを強化することが「デジタル棚」の確保には必要です。要は、どのプラットフォームでどんなプロモーションをして、どうアライアンスするか。例えば、アプリならユーザーがどのぐらいいるのか、エンゲージが高いユーザー数はどう変動しているか、課金をした人はどのぐらいいるのかといったことを常にチェックして分析し、戦略を練る。マンガなら、どのページから見せるか、課金はどのタイミングにしてもらうかといったことを考える必要があります。

グローバルで成功した、『ポケモン』と『鬼滅の刃』

──「デジタル棚」を充実させて成功している日本のコンテンツはありますか?

中山:グローバル成功例がまだまだ少ない日本のコンテンツですが、この7、8年で大きな成功を収めたのは、『ポケモン』と『鬼滅の刃』ですね。この2作品は、日本のキャラクタービジネスにおいて、いままでとは違う世界を見せています。

日本のコンテンツの中でも『ポケモン』は、「デジタル棚」をすごく押さえている印象です。YouTubeでさまざまな言語のチャンネルを作っていて、例えばヒンドゥー語のチャンネルだけで何千万フォロワーも獲得しています。加えて、社外資本とのアライアンスもうまくいっています。アメリカ企業のNianticが『ポケモンGO』を作り、それが当たった後にハリウッドで実写映画『名探偵ピカチュウ』がヒットしましたが、これらは社外資本あってのものです。自分たちでメディアミックスして、キャラクタービジネスの拡大を図りつつ、社外資本とも連携してより大きくしていきました。社外資本との連携では、『ONE PIECE』も見逃せません。『ONE PIECE FILM RED』を世界で公開したほか、アメリカのトゥモロー・スタジオが制作した実写版もヒットしました。

『鬼滅の刃』は、国内では、これまでのアニメのように特定のテレビ局に依存せず、テレビ放送以外に、全国21チャンネルでの同時配信や、ABEMA、Amazonプライム・ビデオ、Huluなどの配信サイトにも流して認知を広げるという新しい戦略を取りました。海外に向けては、作品を製作・配給しているアニプレックスを傘下に持つソニーがアメリカや中国で大々的なプロモーションを仕掛けました。デジタル配信が主流となっている海外でも、積極的に配信とプロモーションを行うという、「デジタル棚」を確保する動きを取ったため、グローバルでの成功を収めたと言えるのではないでしょうか。

商品やサービスがコモディティ化するほどIPの価値は高まる

──「デジタル棚」以外に、IPビジネスを成功させるために意識すべきことを教えてください。

中山: IPを保有している企業も、それを活用する企業も、日本のコンテンツの価値をもっと認識すべきでしょうね。国を挙げて、日本のコンテンツを世界に売っていこうとしていることは知っている。なんとなく海外で人気であることもニュースなどで知っている。でも「鎖国」状態が続いている。

日本のコンテンツは海外の需要に供給が追い付いておらず、ポテンシャルはすごくあります。アジアの国々でも日本の学園モノのアニメやマンガはすごく人気があります。他にも世界で日本アニメが支持される例として、NFLのロサンゼルス・チャージャーズは、Twitter(現・X)に公開した2022年シーズンの対戦スケジュール告知に日本アニメのパロディ動画を盛り込んで話題になりました。でもそういうことも日本にいるとなかなか気付かない。言葉の壁もあって海外の情報がなかなか入ってこないですが、海外の動きを積極的に知る必要があります。

日本の様々なアニメのパロディでチームのPVを発信したロサンゼルス・チャージャーズの投稿

──IPを商品やサービスに活用する企業については?

中山:海外でも日本のアニメは人気があることは分かっているのですが、まだ非エンタメ産業と連動しきれていません。日本では企業がIP活用するときは、経営層やマーケティング責任者の娘が好きだからという「娘ファクター」が働くという話を聞いたりします。非エンタメ層の意思決定者も、マーケティングの観点で作品への理解がもっと深まるといいですね。

そうすると、ただ「流行っているから」という理由ではなくて、キャラクターの活用において必然性が出てくると思います。キャラクターの持つストーリーや世界観と、商品やサービスがマッチすると、もっと注目されるのではないでしょうか。

──最後に日本のIPビジネスの今後の展望をお聞かせください。

中山:商品やサービスがコモディティ化するほど、IPという付加価値をつけることは有効な手段になりますから、キャラクターライセンスとしてのIPビジネスは成長の余地があります。

コンテンツビジネスも未来は明るいです。働き方改革で仕事する時間を減らそうという流れがあり、さらにデジタルやAIの進歩で、今後も日本人の可処分時間は増えていくでしょう。加えて、モバイルスクリーンが普及してエンタメに接触しやすくなっています。日本はコミュニケーション手段としてもエンタメが必要な国ですから、国内でエンタメ産業はまだまだ伸びる可能性があります。海外に目を向ければ、可処分時間がまだ少ない国もあり、そのような国が今後発展して可処分時間が増えると、海外でもビジネスの成長が期待できます。

日本のIPビジネスは大きな可能性があり、コンテンツ力は十分なわけですから、今後は、「デジタル棚」といった「コンテンツの外側の課題」の解決に注力すべきです。

──本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

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撮影/市谷明美 取材・文/水溜兼一 (Playce) 編集・コーディネート/丸田健介(C-station)

丸田健介 エディター・コーディネーター

C-stationグループで、BtoB向けSDGs情報サイト「講談社SDGs」担当。

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