2024.01.11

ライブ配信で"その場で売れる"を実現するために|「動画マーケティング」2023-2024 成功戦略 Vol.5

動画マーケティングは、数あるマーケティングの手段の中でも今もっとも注目を集めるもののひとつだ。伝えられる情報量が多く、SNS上での訴求力も高い。企業の情報発信を見ていても、動画が起点となって大きな話題を呼ぶものや、ムーブメントになっているものを数多く見受ける。

動画マーケティングの現在地

本連載では、これから動画を活用したマーケティングに挑もうとする企業に向けて、「動画マーケティング講座」をお届けする。年間7,000本の動画制作実績を誇る株式会社サムシングファンCOO(執行役員)兼ディレクター・山口貴久氏を迎え、どのような工夫をすれば企業がより魅力的な動画を制作できるのか探求する。連載5回目となる本記事のテーマは『ライブ配信』だ。動画マーケティングには、編集した動画を投稿するだけでなく、ライブ動画を配信することも含まれる。企業がライブ配信をする際にどのようなことを考えるべきなのか、そしてどんな注意点があるのか紐解いていく。

企業と消費者の双方向コミュニケーションを実現する手段「ライブ配信」

山口「ライブ配信はリアルタイムで動画を届ける手段で、配信者と視聴者が双方向のコミュニケーションを取れることが特徴です。ですから一般的な動画というジャンルで語るよりも、コミュニケーションを取るための機能と認識したほうがいいかもしれません」

山口氏はライブ配信の前提を確認するところから話を始めてくれた。YouTubeやInstagramなどでおこなわれているライブ配信の画面を開いてみると、視聴者の反応やコメントが随時流れてくる。その反応の大きさやコメントを見つつ、配信者は要望に応じたり、質問に答えたりする。視聴者が今求めていることを聞きながら内容を変えていけるのが、ライブ配信の強みということだ。では、企業はこのライブ配信をどのように活用しているのだろうか。

山口「家具・インテリア用品を扱うニトリは、『ニトリLIVE』というライブ配信ページを公式ウェブサイト内に設けています。店舗内にあるイチオシの商品を直接見せながら紹介する内容です。視聴者とのコミュニケーションも盛んで、商品購入への導線づくりもしっかりおこなわれています。

(ニトリのライブ配信『ニトリLIVE』より)

また、資生堂が取り組んでいるように、美容部員がメイク・テクニックを配信するライブも人気です。これは今まで百貨店でおこなわれてきた接客をライブ配信に代えたものなので、ユーザーニーズにしっかり応えられていて良いですね」

(資生堂のライブ配信『スモーキーモダンなホリデーメイクルックのご紹介』より)

資生堂『ライブコマース』イメージ

コミュニケーションの手段であるライブ配信をうまく活用することができれば、企業は直接ユーザーと対話し、ニーズをヒアリングできるだけでなく、その場で商品購入まで導くこともできる。ポテンシャルの高いライブ配信に挑むうえで企業が知っておくべきさまざまなトピックについて、山口氏に聞いていこう。

視聴者に手軽に届けられるライブ配信、だからこそ注意すべきポイント

まず、企業がライブ配信に取り組むメリットはどのような点にあるのだろうか。

山口「まずは先ほど特徴として挙げたように、双方向コミュニケーションを取れることが動画とは大きく異なるポイントです。たとえば、アットコスメが配信する『教えて!美容部員さん』というライブ配信には多くの視聴者が訪れており、視聴者一人ひとりの名前を呼んであいさつしたり、コメントした人に対するクーポンプレゼントを実施したりと、コミュニケーションを活性化させる工夫も随所に見られます。

それともうひとつ、ライブ配信にはコスト削減というメリットもあります。編集後に投稿する動画は、撮影や編集に予算と時間がかかるのですが、ライブ配信はテロップなどを入れる編集作業がありません。アーカイブに多少の編集を入れることはありますが、それほど手間のかかる編集はしていないことが多いです。コンテンツを頻度高く投稿してセッションを生み出したいときに、それを手軽にできるのがライブ配信の良いところです」

(アットコスメ『教えて!美容部員さん』「運命赤リップメイク」より)

ライブショッピング @cosme』(TOPページより)

一方で、デメリットもあると山口氏は続ける。

山口「投稿動画とライブ配信では、視聴者が求めているものが違うということを念頭に置かなければなりません。投稿動画を視聴する視聴者は、テレビ番組を見るように、視聴することにインセンティブがあるからその動画を見ようとします。一方、ライブ配信の視聴者は、コンサートに行くときと似ていて、リアルタイムでつながっている感覚を得たい、より身近に感じたいというニーズが強いです。

そのため、ライブ配信をする際は、そういったライブ感覚を強く持たせるトークスキルが一定以上あることが大切です。このトークスキルには、NGワードを言わない、といったリスク面でのスキルも含まれます。企業がライブ配信に取り組むときは、NGワードを精査しておくことや、ライブ中に発言する内容が適切か判断できる担当者を配備することなど、リスクヘッジにつながる準備も必要です」

すべてがリアルタイムで視聴者に届いてしまうライブ配信だからこそ、慎重な準備が必要ということだ。ちなみに、配信前の準備に関してはどうだろう。

山口「『とりあえずやってみよう』と準備不足で挑むことはあまりおすすめしません。初めてライブ配信に取り組む場合は、たとえば記者発表などの公式な場と抱き合わせでライブ配信をするなどの形を取り、すでに一定以上の準備とリスクヘッジができた状態の場を配信するほうが賢明です。

たとえば、ユニクロが配信する『UNIQLO LIVE STATION』の一部コンテンツは、タレントを起用したメディア向けのイベントなどをそのままライブ配信しています。こういった二次活用的な配信は、ライブ配信のメリットを最大限活かせる手段とは言えないのですが、準備万端のコンテンツをライブ配信に出せるという点ではおすすめです。

(『UNIQLO LIVE STATION』より「ユニクロのふだん着フト」発表会 生配信 ゲスト:白石麻衣さん)

ユニクロ『UNIQLO LIVE STATION』イメージ (ユニクロプレスリリースより)

ちなみに機材に関しては、ライブ配信のために投資・準備する必要性はそれほど高くありません。カメラをスイッチングするといった高度な配信を求めていない限りは、スマートフォン一台でもライブ配信は可能です」

また、ライブ配信を一人でも多くの人に届けるためには、配信する時間帯にもポイントがある。

山口「多くの企業がライブ配信をおこなうのは、夕方から夜の時間帯です。多くの視聴者は平日の昼間は学校や職場にいるので、ライブ配信を見られる時間帯は限られます。一方で、女性をターゲットにした商品などの場合は、一部午後の時間帯でおこなわれているものもありますね。ターゲットがもっとも集まりやすい時間帯を分析し、そこに狙いを定めて配信するようにしましょう」

こうした工夫を重ねていくことで、視聴者が集まる、そして双方向コミュニケーションが盛んなライブ配信というものが成功する。

頻繁に伝えられる情報とファンを持つ企業はライブ配信が向いている

リアルタイムであることへのリスクヘッジは一定必要であるものの、スマートフォン一台で始められる、編集スキルはなくとも取り組めるといった点は、始めやすさにつながるだろう。一方で、どんな企業でもライブ配信に向いているかと言えば、そうでもない。どういったサービス・商品を持つ企業だと、ライブ配信という手段が適しているのだろうか。

山口「ライブ配信は配信そのものというよりも、ネタ探しに困る企業が多いようです。たとえば、冒頭で挙げたニトリのように、頻繁に新商品を出しているBtoCの企業であれば、商品紹介という切り口でコンスタントに配信ができるのでライブ配信に向いていると思います。また、化粧品をはじめとした商品活用の技術が必要なものに関しては、その技術を伝えるライブ配信がしやすいですね。

企業のライブ配信が一定のマーケティング効果を出すためには、一週間に一回くらいの頻度で定期的に配信することが重要です。ルーティン化できる企画の切り口を持つ企業であれば、ライブ配信が成功する可能性が高いのではないでしょうか」

さらに山口氏は、それほどライブ配信市場に乗り出していない企業でも、成功する可能性の高い領域がある、と続ける。

山口「たとえば、高級な温泉や旅館といったサービスを提供するタイプの企業も、もっとライブ配信を積極的にやったらいいかもしれません。編集された動画だけでは伝えられない魅力の訴求といった点でも、ライブ配信は効果的です。ライブ配信は一定以上その商品やサービスに興味のある視聴者が来るものですから、狭く深く情報を伝えるようにすると、ニーズに応える内容にすることができます。逆に多くの人に広く浅く伝えたい内容の場合は、視聴者とのコミュニケーションがそれほど盛り上がることはないと思われます」

ファンをつくり、そのファンとコミュニケーションを取るネタのある企業であれば、ライブ配信によってファンとの関係性をさらに深めることができる。これは企業がライブ配信に取り組むかどうか判断する、貴重なヒントになりそうだ。

ライブ配信の『中の人』を社員から発掘・育成しよう

ここで視点を変えてみよう。ライブ配信では、動画編集スキルがそれほど問われない一方、配信主となる人物のトークスキルが成功の鍵となる。企業がライブ配信をおこなう場合、多くのケースでこれを社員が担うことになる。配信主となる人物の選定について、山口氏にポイントを聞いてみた。

山口「まず、ライブ配信のスピーカーは一人または二人と、少人数のほうが適切です。ライブ配信を企業がおこなう本質的な意義は、やはりライブコマース効果を期待するところが大きいと思います。となると、『その人がオススメしているから買いたい』という気持ちを視聴者に持ってもらうことが大切なんです。

ちなみに、ライブ配信を採用向けにおこなっている企業も増えてきましたが、こちらも同様、『その人が働く会社だから働きたい』と思ってもらえるかどうかが成功のポイントです。そういうタレント性を持った社員を発掘する、あるいは育成するといった視点を企業が持つことは、今後マーケティングの一要素として大きくなってくるかもしれません」

数年前、X(旧Twitter)を駆使してアカウントの訴求力を大きく伸ばした企業がいくつかある。キャンペーンや新商品の情報を機械的に発信するのではなく、トレンドに乗りながら人間味のある投稿をすることが話題を呼び、そのアカウントを運営する『中の人』への注目が集まった。その代表的な例がSHARPだ。

SHARP公式Xアカウントより

家電製品の使い方や魅力に触れつつも、そこからコミュニケーションが盛り上がるような投稿を続け、多くのバズを生んだ。こうした『中の人』の文化が、今後ライブ配信領域においても生まれていくのかもしれない。

ライブ配信をしたその後は? アーカイブの扱い方

続いて、ライブ配信後の動画について考えよう。ライブ配信をおこなうと、多くのプラットフォームではその配信内容をアーカイブとして残しておくことができる。このアーカイブはどのような役割を果たすのだろうか。

山口「アーカイブするということは、オンデマンドコンテンツが増えていくということなので、ポジティブなことだと思います。ライブ配信に視聴者が来ればそれでいい、という考え方もありますが、それほど業務を増やさずコンテンツをひとつ増やせるという捉え方をすれば、アーカイブを残さない理由はありません。

アーカイブを残す場合は、できるだけライブ配信日から時間を置かずに公開しましょう。というのも、ライブする内容は鮮度が命なので、時が経つほどその価値が下がってしまう可能性が高いからです」

ライブ配信をするということは、その内容は新商品やそれに関わる情報であることが多いだろう。また、ライブ配信を見たかったけれど見逃してしまった人がいた場合、アーカイブをチェックするのは配信時間の直後かもしれない。この鮮度の考え方は、その後のアーカイブの扱い方にもつながってくる。

山口「アーカイブの中で鮮度が落ちたものは、どんどんクローズしていきましょう。動画素材として再利用し、再編集した動画を公開するという手段もあるにはありますが、それほどのリソースを割く必要のある内容かどうかは検討が必要です。YouTubeのようなプラットフォームですと動画をクローズすることはあまりないかもしれませんが、もしも自社サーバーで動画を管理しているのであればサーバーにかかるコストも念頭に置かなければなりません」

ライブ配信からライブコマースへ結びつけていくためのヒント

最後に、山口氏に今後ライブ配信市場がどのような成長を遂げていくか、その展望について聞いた。

山口「動画はあくまで一方向の情報伝達、ライブ配信は双方向コミュニケーションが取れる。この特徴の先に予測できるのは、やはりライブコマース市場が伸びていくことです。中国では一足先にライブコマースが成功していますので、今後日本でもライブコマースが盛り上がっていくのではないか、と考えています。

ここで重要になってくるのが、商品を売ることに長けた配信主をいかに起用するかということです。先ほど企業の看板となるような社員を発掘または育成する、という話をしましたが、自社の商品やサービスと相性の良いインフルエンサーを活用するのもひとつの有効な手段です。

中国でインフルエンサーによるライブコマースが大きく成長した背景には、悪質な商品が市場に出回っているというネガティブな要因もあります。中国では企業に対する信頼感がないからこそ、インフルエンサーが自らの信頼を賭けて勧めたものであれば問題がないだろう、と判断して商品を購入する消費者が増えたわけです。

この観点については、日本では良質な商品が多く、企業への信頼も一定担保されているため、インフルエンサーから買う需要はそれほど多くありません。一方で、日本ではファンカルチャーという別の観点からの独自性もあるため、『この人から買いたい』というファンの気持ちがライブコマース市場を伸ばすことも十分あり得ると思います」

最終的に商品を売るという目標を見据え、ライブコマースの入口としてライブ配信を捉えると、企業のライブ配信に対する取り組み方も変わっていきそうだ。既存のライバーの力を借りるか、それとも社員のタレントを発掘するか。商品やサービスの魅力をコンスタントに伝えていくために、どんな配信内容にするか。こういった視点から、企業のマーケターの皆さんは、"売れる"ライブ配信を目指してほしい。

次回のテーマは『企業におけるSNS以外の動画活用』である。たとえば、展示会やウェビナーなど、企業の取り組みの中にはさまざまな動画の活用方法がある。特に、BtoBの場合はSNS以外の場で動画を活用するほうが顧客に情報を届けられることも多い。多彩な動画活用事例を扱ってきた山口氏に、今までとは異なる観点から動画活用のヒントをいただく。

【「動画マーケティング」2023-2024 成功戦略 シリーズ記事】

動画マーケティングの現在地

株式会社サムシングファン
COO(執行役員)・ディレクター 山口 貴久


ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業後、映像制作全般に携わる。撮影技術、制作、ディレクションなどで活躍しながら自主映画を制作。2013年に脚本を担当した映画がPFF:ぴあフィルムフェスティバル審査員特別賞・日活賞W受賞、2014年にIFFR:ロッテルダム国際映画祭に招待。以降も脚本執筆を続けている。2013年、サムシングファンに入社し現在は動画DX事業の執行役員。

聞き手:宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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