2023.12.21
知らないでは済まされない、日本のデジタル広告の現状 ── JAA デジタルメディア委員会セミナー「デジタルメディアの最新潮流 〜Originator Profile&オープンインターネット〜」
11月10日(金)、日本アドバタイザーズ協会(JAA)デジタルメディア委員会(※)主催のセミナーが開催されました。「デジタルメディアの最新潮流 〜Originator Profile&オープンインターネット〜」と題して、デジタル広告の買い方改革の必要性を訴えました。
※デジタル環境下においても広告活動の適正化と広告取引の透明化を実現し、生活者から信頼される広告の発信を目指した取り組みを推進。アドバタイザー自らが協同して活動を行っている。
【委員長挨拶】デジタル広告を学び、理解しなければ、自分たちのブランドを守れない時代
日本アドバタイザーズ協会 デジタルメディア委員長 山口有希子 皆さんこんにちは。本日は、ご参加いただきありがとうございます。デジタル広告は非常に複雑で、多くの課題を抱えています。そのなかで、広告主もデジタル広告について勉強し、理解していかなければ自分たちのブランドを守れない時代になりました。
インターネットメディアの中には、フェイクコンテンツが溢れています。これに対して「Originater Profile(オリジネーター・プロファイル)」がコンテンツの発信元を証明する新たな技術として注目されていますので、広告主の皆さんも勉強していただきたい、認識していただきたいと思っています。
そして、今回パネルディスカッションで「広告主の買い方改革」というテーマで議論していただきます。日本におけるデジタル広告で1,300億円の詐欺が発生しているという日本経済新聞の報道に関して、4月のセミナーでも取り上げました。これはデジタル広告の大きな課題だと思っています。今回は広告主が知るべきこと、アクションを続けるべきことを深掘りして、広告主としての買い方改革、私たちがメディアを買う、広告を買う時にどういうところに気をつけていかなければいけないかを考えていきます。
本日はどうぞよろしくお願いいたします。
<第1部 Originator Profile概要説明>
インターネット空間には、多数の喫緊の課題が存在する
オリジネーター・プロファイル技術研究組合 事務局長 クロサカタツヤ(以下、クロサカ) 健全なメディアがある一方で、インターネットの情報空間の中ではそうではないメディア、あるいはメディアを騙っている詐欺のようなサイトが山ほどあります。情報空間全体を考えた時、どのようにその信頼性を高めていくのかは社会的課題でもあります。
フェイクニュースの問題はもちろん、さらにはフィッシング詐欺やアドフラウドも多発しています。実際に主要企業や政府機関のウェブサイトを見てみると、だいたい「偽サイトにご注意ください」と出てくるわけです。この状況は今後、さらにひどくなっていくだろうということも容易に予想されます。なぜかと言うと、残念ながらこの問題には生成AIが絡んでいるからです。
インターネット空間における、解決すべき、喫緊の課題の例
私自身は技術が好きで、新しいテクノロジーには前向きにいたいのですが、生成AIの破壊力は極めて強い。すでに詐欺行為に近い偽サイトがかなり出てきているとアメリカで報じられています。どういうことかと言うと、偽物ではないにしても耳目を集めるデタラメな記事を生成AIに大量に作らせて、メディアをひとつ仕立ててしまう。そこに広告を貼り付けると、広告主からお金が流れてしまう構造が発生していて、米国のメディア格付け機関『ニュースガード』の調査によれば、夏時点でアメリカ国内の141もの主要ブランドの運用型広告が嘘のサイトに掲載されています。つまり141のブランドの広告費が流出している状況になっているわけです。
今後、ユーザー側も広告主側も等しく「このサイトは安全かどうか」検証したいというニーズは高まると予想しています。
コンテンツの安心・安全を可視化する「Originator Profile」
クロサカ 今、政府のAI戦略も活況を呈しています。政府のAI戦略会議の指摘を細かく分類したものの中で
「②犯罪の巧妙化・容易化につながるリスク」
「③偽情報等が社会を不安定化・混乱させるリスク」
「⑥著作権侵害のリスク」
などは、メディアないし広告の世界に直結しています。こういった問題を解決することを、私どもOriginator Profile(OP=オリジネーター・プロファイル)は目指しています。
OPの基本的なポイントは、こちらの6つになります。
Originator Profile(OP)は、インターネット上でコンテンツ発信者の把握を可能とすることで、ユーザーや広告主の不安払拭を目指す
ブラウザ上でコンテンツ発信者を把握することで、安全性を担保
クロサカ Webブラウザ上でコンテンツ発信者を把握できる技術を作っています。どういうことかといいますと、「このコンテンツは安全かな?」と不安を感じた瞬間に、ユーザーがそれを検証することができる状態を作りたい。ブラウザのボタンを押した瞬間に「大丈夫かどうかわかる」というのをポップアップで直ちに表示される状況を作りたいと考えています。
たとえば、正しい記事やサイトであれば、「これは読売新聞が書かれたもので、東京都千代田区大手町にある会社です」と表示され、第三者機関の認証を受けていることがわかります。
OPを活用した、コンテンツ発信者の把握のイメージ-1
OPを活用した、コンテンツ発信者の把握イメージ-2(表示内容)
ちなみに偽サイトの場合には、「不明」という情報が表示されることで、サイトやコンテンツの安全性が一目でわかる状況を作りたいと思っています。
読売新聞のオウンドサイトで見てもらうのであれば大丈夫ではないかとお考えの方もいらっしゃると思いますが、フィッシング詐欺を考えると楽観視できません。また現在はポータルサイトやアプリでニュースを見られる方が非常に多くなっているため、そうしたポータルサイトやアプリとも連携できる仕組みの開発をしています。なお、『Yahoo!』と『スマートニュース』に関しては、すでにOP技術研究組合に組合員として参加いただいていますので、今後はこうした話ができると考えています。
また、SNSについては、ユーザーとしては非常に便利なものではありつつ、フェイクニュースが蔓延しやすい温床であることも確かです。今後、SNSの健全化についても視野に入れ、各社と連携しながら取り組みを進めていく予定です。
非常に複雑なネット広告の構造
クロサカ ここまではメディアの話を中心にさせていただきましたが、ネット広告の構造は非常に複雑になっています。
「穴だらけ」とも言われる、ネット広告の構造
この図の中にある通り、広告会社を経由する場合を含めて、広告主の意向はDSP(広告主の広告効果最適化を目指すプラットフォーム)までは届きます。
ただ、入札の段階で検証漏れが発生します。なぜなら、SSP(媒体の広告枠販売や広告収益最大化を支援するツール)側まで通っていかないので、「こういう意向がある」という情報が抜け落ちてしまいます。
現在はアドベリフィケーション(広告を検証する仕組み)の改善によって、広告主から見た時のエラーはだいぶ抑制されてきていると思います。そもそも計測が難しいので体感値ですが、エラー率は1%を切っているという話も耳にします。ただ、仮に0.1%だったとしても、大抵のユーザーは1日に1000回以上はデジタル広告と接触可能性があるはずで、つまりユーザー目線では1日に1回くらいはエラーが発生している可能性がある。これを技術的に解決して、自動的に実現していこうというのが私どものやろうとしていることです。
コンテンツの安心・安全を可視化する「Originator Profile」
クロサカ OPでは、広告主の皆さまの信頼性を証明する技術と、広告そのものに貼っていく識別IDの両方を付与することで、これまでの問題解決を図ります。
それが悪意のあるメディアの場合、OPのIDを持っていない状態になりますので、「この広告はここには載せては駄目ですよ」と自動でストップすることが可能です。広告、広告主、およびメディアの皆さまがそれぞれ識別可能な状態になり、それをIDとして確実に流通していく。「透かし」のような技術および暗号技術による電子証明によって、いざという時に検証可能な状態にしていこうと考えています。
これまであった問題点を、OPのIDを付与することで、運用型広告における課題解決を図る
なお、信頼性を担保する「認証」については、メディアはメディアの方、広告は広告の方に、たとえば業界団体が元々お持ちの規律や統制を用いていただく考えです。つまり、技術とガバナンスを分ける形で、我々はあくまで技術を拠出していく。それを皆さまのガバナンスを用いて採用していただく形で普及できないかと思っています。
OPでは、信頼性を担保する「認証」は第三者機関などが行う
目指すは、ウェブサイト上での、OPの標準実装
クロサカ OPは、先ほどブラウザにボタンを作ると申し上げました。では、どうやってできるのかというと、あらゆるウェブ技術の標準化を進めるW3C(World Wide Web Consortium)という団体に提案し、OPを、ワールド・ワイド・ウェブの標準として採用していただく。その結果、「入れる」ことがルールになるわけです。ただ、最初に我々が思っていたことは、まずメディアおよび広告の世界をいかに適正にしていくかということです。さまざまな方々に入っていただきながら、まずそこをきっちり仕上げていくことが重要だと考えています。
現在は実証実験を進めており、メディア側の実証実験はこの夏から初めて、1回目がまもなく終わるところです。次に年明けくらいからは広告側の実験も始めて参ります。来年からは、特定の方々に試験的な運用ではありながら24時間365日、検証可能な状態を実現していきたいと思っています。
試験運用の開始前後には、実際に広告のトラフィックを始めた時に、本当に広告効果は落ちないのか、あるいは取引上の課題が出てこないかも併せて検証していく。理想は、OPの付いた広告の「ブランド価値を評価したい」と言っていただけることです。私からの話は以上です。
インターネット空間上で、コンテンツやサイトの信頼性が可視化される「OP」の普及によって、さまざまなメリットが生まれる
<第2部 パネルディスカッション「広告主の『買い方改革』。メディアプランニングにおけるオープンインターネットの活用>
●登壇者(登壇順)
・長崎 亘宏/講談社 ライツ・メディアビジネス局 局次長 兼 メディア開発部 部長 兼 広報室 室次長
・馬嶋 慶/The Trade Desk Japan株式会社 セールス 日本担当ゼネラルマネージャー
・古田 和俊/株式会社TVer 執行役員 広告事業本部長
デジタル広告の課題広告主が知るべきこと、取り組むべきこと〜リーチと受容性の関係
長崎 まずは前回の振り返りです。4月24日に「デジタル広告の課題広告主が知るべきこと、取り組むべきこと」をテーマに、緊急セミナーを行いました。
そこでもっとも重要だったポイントは「リーチと受容性の関係」でした。これは従来のマスメディアのプランニングにおいては大前提な部分ですが、受容性というのを捉えるべきではないかということが語られました。広告へのリーチがあって、それに対する受容性があるのかないのかは、プラスマイナスの作用だということです。残念ながら受容性がマイナスのものは、リーチしているけれどもネガティブリーチということになります。
続いて、こちらはデジタルメディアの利用時間とそれに対する広告効果に関して、いわゆるGAFAを中心とした「Walled Garden(ウォールドガーデン)」(プラットフォーム系)と「Open Internet(オープンインターネット)」(非プラットフォーム系)を比較したグラフになります。オープンインターネットは66%と非常に大きくなっています。一方で広告費がどちらに支払われているかというと、6対4で逆転しています。
ユーザーはオープンインターネットで66%の時間を過ごしている。しかし世界のデジタル広告費の6割は、ウォールドガーデンに投資されている
さらに、アメリカと日本国内におけるデジタル広告費の投資先を比較すると、アメリカでは、大手プラットフォーマーへの投資が64%と割合は多いけれども、注目すべきは20%というオープンインターネットが占めている割合です。一方で日本国内は、大手プラットフォーマーへの投資が80%、なんとオープンインターネットは2%しかなく、アメリカとは10倍の格差があります。また、デジタル広告取引は国内外とも、プログラマティック広告(運用型広告)がメインになっていていますが、米国では約半分がメディアを指名買いする「PMP(プライベートマーケットプレイス)」です。それに対して、日本は普及が遅れています。この課題感を持って、皆さんとお話していきたいと思っています。
日本のデジタル広告費における、オープンインターネットへの投資はわずか2%。アメリカと10倍の格差が存在している
こちらがまとめです。
今回の「広告主の買い方改革」は非常に重たいテーマですが、日本におけるインターネット広告のクオリティは、世界と比較しても低いと言われています。そのなかで「広告の買い方改革」は、広告主の皆さん、メディア企業、広告会社、それら以外のパートナー全体で一気に取り組んでいく必要があると思っています。
オープンインターネットを理解する〜広告主の視点から
長崎 では続いて、オープンインターネットを理解していきましょう。まずは馬嶋さんのパートでDSP=デマンドサイドプラットフォームを。次に古田さんのパートでCTV=コネクテッド TV、そして最後に私のパートでPMP=プライベートマーケットプレイスについて取り上げます。
本題に入る前に、主眼を広告会社の皆さんのほうに向けたいと思います。こちらは国内有力広告主223社を対象に「広告活動において重要な問題」を調査した、日経広告研究所による最新のレポートです。
広告活動において重要な問題ということで、トップは「長期的な視点に立ったファンづくり」、次に「ブランドイメージの構築」が挙げられています。次に経済産業省デジタル広告相談窓口が6月末に行ったセミナーで出された、広告主を対象にしたアンケート結果をご覧ください。
「デジタル広告市場における質に係る問題」(デジタル広告の質の問題)について、4割以上の広告主が対応を望み、課題のトップに挙げています。ここで馬嶋さんにおつなぎしたいと思います。
オープンインターネットを理解する〜DSPの視点から
馬嶋 最初に我々、The Trade Desk社がどのようなコンセプトで作られた会社かをご紹介したいと思います。
ファウンダーでありCEOのジェフ・グリーンは、元々証券取引のノウハウを持っていて、約20年前にそれを活かした「デマンドサイド広告取引システム」を構築しました。それが某大手のIT企業に買い取られて、その買取先が媒体を持っていたため、媒体を売るがためのイールドマネジメントシステムになってしまった。本当に広告主が必要なユーザーのインプレッションも混合して同じ値段で売る、売り手側のシステムになってしまった時に彼は独立して、Buy Side(買い手)に特化したDSPを作りました。
日本でもDSPと名乗る事業者は何社かいらっしゃると思いますが、SSP事業もやられているところも少なくありません。そうするとパブリッシャーからの仕入れをコミットしたり、最低CPM保証みたいなことがあったり、どうしても売る際にバイアスがかかってしまいます。しかし我々は一切足かせなく、広告主にとってもっとも効率的なサプライパスを見つけてきて、広告を配信しています。「透明性」という面でも、SSPやパブリッシャーにいくらお支払いし、かつアドベリフィケーションベンダーを使うと、そこにいくら発生しているのかがすべて管理画面上でわかるようになっています。
ウォールドガーデンへの投資では届いていない、多くのユーザーの存在
馬嶋 ではいったい、オープンインターネットは日本でどれくらいリーチがあるのか。これは、本社をイギリス・ロンドンに置き、世界約90ヵ国を対象に活動しているマーケティング企業「Kantar」社が出しているデータです。
ざっくり言うと7,200万リーチくらいになっています。GAFAが強いマーケットの日本ではオープンインターネットの広告総量はまだ少ないですが、実は大手のウォールドガーデンに投資していると届いていないユーザーがかなりいます。そこをもう少し見直してもいいのではないかと思っています。
たとえば、YouTubeと「The Trade Desk」で配信できる主要なオープンインターネットのパブリッシャーさんを合わせて100とした場合、YouTubeと「The Trade Desk」を比較すると、YouTubeでしかリーチできない人は2%(青)しかいないのが実状です。逆にThe Trade Deskでしかリーチできない人は12%(黄色)でした。
ウォールドガーデンに広告費を投資してリーチできているのは、実は一部のユーザーに限られる。オープンインターネットでしかリーチできないユーザーが多数存在する
ブランドセーフティの実態
馬嶋 次はブランドセーフティの実態についてです。いわゆるアドネットワークと「The Trade Desk」のDSPは若干違っています。
我々が取り組んでいるブランドセーフティは、JAAさんはもちろん業界基準をクリアしており、さまざまな技術を活用し、パブリッシャーがどんなコンテンツを配信しているかわからない場合はそこに広告を配信しないようにしています。また、グローバル組織のThe Trade Desk社は、社員3,000人超の組織内にマーケットクオリティチームがおり、在庫側のクオリティを管理しています。
たとえば、我々の広告主のキャンペーンタグが発火していないのにすごくビューが出ているサイトは怪しいというのを一定のアルゴリズムで見つけ、最終的には目視して、確認しています。
広告のために作られたサイト「MFA(made-for-advertising)」(※)に関しても、AIを使ったMFAの判別ソフトウェアや自社の技術を使ってすべてクリアにしています。なお、「The Trade Desk」ではアメリカのノウハウを活かして日本でもより厳しく取り締まっていきますので、デフォルトでMFAに関しては機械的に対処されている認識で問題ないとお考えください。
※広告枠で埋め尽くされているなど、デジタル広告の買い手を欺くような設計がされている悪質サイトのこと
「The Trade Desk」では、デジタル広告の課題解決のために、品質管理維持に積極的に投資をしている
オープンインターネットを理解する〜コネクテッドTVの視点から
長崎 次にTVerの話をしたいと思いますが、その前に、現在のコネクテッドTVの位置付けに触れておきたいと思います。
電通が集計した2022年の最新データによれば、マスコミ四媒体以外のデジタル広告市場は約1,200億円。デジタル広告全体が3兆円の市場ですので、マスコミ四媒体以外のデジタル広告市場のシェアはまだ小さいと言えます。そのなかで、テレビ由来デジタルが3年前から2022年にかけて200倍以上になっています。踏まえて、古田さんにTVerについて語っていただきたいと思います。
古田 TVerでは、今年8月に月間3000万MUB(月間ユニークブラウザ数)を突破し、YouTubeに次ぐ動画プラットフォームと言えるくらいになったかなと思います。この成長を牽引しているのが、インターネットに接続されたテレビ型デバイス「コネクテッドTV」です。再生数の比率ではもちろんスマホが最大ですが、テレビデバイスが30%を超えてきている。また、1人あたりの再生数が多いのがコネクテッドTVの特徴です。
TVerの概要
インターネットに接続したテレビ(コネクテッドTV)で、TVerを利用するユーザーは30%。1年で約2倍になった
なぜこれだけコネクテッドTVの数字が伸びたかというと、配信コンテンツがテレビ由来のものでテレビと非常に相性がいいこと。そして、各メーカーにご協力いただいて、テレビのリモコンに「TVerボタン」を搭載していただいたことで、ダイレクトにアクセスできるようになり、TVerの起動率が上がったことが影響していると考えています。
TVerの広告の特徴
古田 広告の特徴ですが、ポイントの1つ目は高い視聴完了率、2つ目は広告の受容度の高さ、3つ目はテレビデバイスでの高精度なターゲティングが可能ということです。
TVerの広告はスキップができない仕様なので、もともと視聴完了率が高くなっています。デバイスを横断して見ると、どのデバイスでも90%以上と広告の視聴完了率は高いですが、とりわけコネクテッドTVに関しては96.6%と高い数字になっています。また、広告がしっかりと有音で最後まで見られているので、広告主の皆さまのメッセージが伝わりやすくなっているのがもう1つのポイントです。
TVerの広告はスキップができない仕様。CMの視聴完了率が高く、メッセージが届きやすい
TVerでは広告の入る仕様がテレビのフォーマットと同じような仕組みになっています。プレロールとポストロールとしてコンテンツの前後に広告が入り、ミッドロールとして広告が入る前提でコンテンツが作られていて、そこに安心安全なCMだけが配信されるので、ユーザーからも受け入れられやすいフォーマットになっています。
TVerの広告は、テレビのフォーマットと近い
結果的に動画広告を自然に見られるというアンケート結果が出ています。そして、「子どもや青少年に不適切・不快な表現がある」という項目に対して、TVerはかなり低い数字になっています。コンテンツはテレビ由来ですので、もともと高い基準で作られているものが流れていますし、広告についてもすべての案件を人の目で広告主の業態やクリエイティブについてもチェックしています。こうした取り組みのおかげでユーザーから見ておかしい表現もないですし、怪しげなCMとしっかりしたCMが連続して流れないところも広告の受容度を高めているのかなと思います。
さらに我々は、TVerで取得したデータを使ってターゲティングをしているところが特徴です。性別、年齢、郵便番号や興味関心のアンケートを取って、ターゲティングに活用しています。
TVerの利用には、登録が必要。そのデータを活用して、精度の高いターゲティングを実現している
効果測定に関しては我々にとっても課題でしたが、コネクテッドTVで広告に接触した方に対して、スマートフォンでアンケートを取る手法を開発し、効果検証ができるようになりました。
TVerでは取得したIDを活用して、広告の効果検証を行なっている
長崎 古田さん、ありがとうございます。いわゆるコンテンツ体験や広告フォーマットに関してはテレビのいいところを継承していて、さらにデジタル広告の機能が反映されているという解釈でよいでしょうか。
古田 おっしゃっていただいた通りだと思います。デジタルではユーザーが広告体験に関してテレビよりも厳しく見ている部分もあります。特にTVerは広告がスキップできない分、広告体験の部分も意識しています。
長崎 コンテンツの強さがあって成り立つ図式でもありますね。
オープンインターネットを理解する〜プライベートマーケットプレイスの視点から
長崎 PMPのお話をさせていただきたいと思います。「クオリティメディアコンソーシアム」という、新聞、雑誌、テレビ局の30社150のメディアブランドで構成されているコンソーシアムがあります。2019年にコンテンツメディアコンソーシアムとして設立されましたが、今年10月にクオリティメディアコンソーシアムと発展的に改称しました。
10月に名称変更とともに「クオリティメディア宣言」というステートメントを出しています。デマンドサイドにおける改革があるのであれば、我々サプライヤーサイドとしてもステートメントが必要だろうということで発信させていただいたものです。
国内有力メディア30社がひとつなって発信した、「クオリティメディア宣言」
クオリティメディアによって構成されるPMP
長崎 クオリティメディアコンソーシアムが推進しているPMPにどんな特徴があるのか。錚々たるメディアが名を連ねており、月間のトラフィックが1億6000万UU(ユニークユーザー)と30億PV(ページビュー)というバックグラウンドとして持っています。
クオリティメディアコンソーシアムが推進するPMPには、良質なメディア=クオリティメディアだけが名を連ねる
プライベートマーケットプレイスとは、特定の広告主、招待された広告主と招待されたパブリッシャー、または関連した広告のサプライヤーでのみ成立する取引です。クオリティメディアのみに広告出稿できる、この規模では国内唯一の展開になっています。
クッキーレス時代に推進しているのは、従来型のターゲティングではなく、コンテンツ体験によるコンテクスチュアルな広告ソリューションを導入してベースにしています。アドフラウドやMFAなどインターネット広告の品質課題に対して、しっかりと対応していくのが基本スタンスです。
「クオリティメディアネットワーク」では、ブランドセーフティを重視し、さまざまな取り組みを進めている
そして、ブランドセーフティを確認するためのプログラムについても、内部的な監視体制や外部に対する説明責任を持っています。
興味関心でターゲティングする「MediaString」
長崎 独自のプラットフォーム「MediaString」は、クオリティメディアをベースに、コンテクスチュアルターゲティングによる広告配信が可能です。
コンテクスチュアル広告は、記事コンテンツデータをもとにトピックス/キーワードを、読者のアクセスデータをもとにターゲットオーディエンスを抽出し、広告文脈に合った最適な掲載面で消費者の広告受容性を高め、リスクワード文脈を排除してブランドセーフティ対応を実現します。
フリーディスカッション〜広告主の従来のメディアプランに加わるべき、オープンインターネットの新たな価値とは?
長崎 ここからはフリーディスカッションになります。従来の手法も有効なところはもちろんありますが、そこに追加する、あるいは取って代わっていくオープンインターネットの新たな価値とは何かというテーマで語っていきたいと思います。昔から使われている「三方よし」という言葉があります。オープンインターネットに「買い手よし」「売り手よし」「世間よし」という「三方よし」の広告ソリューションはあるのでしょうか。「買い手よし」=広告主のベネフィット、「売り手よし」=メディアのベネフィット、「世間よし」=生活者のベネフィットの順番でいきたいと思います。
「買い手よし」のポイントは、広告効果を可視化する「透明性」
馬嶋 まず「買い手よし」のポイントですが、一言で言うと「透明性」です。透明性が高いことによる広告主のベネフィットのひとつは、ユーザーの広告接触が仮に10回あっても、3分以内に3回連続で接触しているのと、1時間ごとに接触しているのとでは、ユーザー体験は異なります。その差異を可視化できることです。
ディスプレイ、TVerのような動画広告と、チャンネルやデバイスがさまざまに分断されている現代において、ユーザー体験を一括して可視化できる技術のニーズは高いと思います。なお。「The Trade Desk」のビュースルータグを活用していただけると、ユーザー体験を最大化するだけでなく、ユーザーのジャーニーを捉えていくなど、よりマーケターが抱えている広告の課題に応えていくことが可能です。
たとえば、自動車メーカーの場合では、車を買いたいと思っている男性のユーザーが試乗予約やカタログのダウンロードまでいったデータをDMPで持っているけれども、購買に至っていないとします。ここで仮説の1つとなるのは、奥様が購入に後ろ向きである。そうしたものを可視化していって、奥様に対しても、車の良さをもっと伝えていく。我々の透明性が高いレポートやプロダクトを使うと、そこでどう態度が変化したかまで追うことができます。特定の媒体だけの場合ではなく、チャンネルやデバイスを横断した形でカスタマージャーニーをキャプチャーできるところが、我々「The Trade Desk」のDSPの良さとしてあるのではないかと思います。
「The Trade Desk」では、メディアを横断してユーザー行動を捉えることができる
ブランドの価値を棄損するリスクが低い「TVer」
古田 TVerに関しては、権利処理されたプロコンテンツだけに広告配信できるので、ブランドの価値を棄損するリスクが低いということが我々の提供できる価値だと思っています。
数年前になりますが、映画のダイジェストをつないだ「ファスト映画」が流行ってしまって、最終的に投稿者が逮捕されて裁判にもなっていますけど、なぜああいったものが出回ってしまうかというと、結局そこに広告が流れて収益化されているからです。実際に見ていると、大手の広告主の広告が意図せず「ファスト映画」のコンテンツにも流れてしまう。結果、ブランド棄損につながっていたのかなと。TVerに関してはそういったことがないですし、特にコネクテッドTVは画面も大きくなるので、コンテンツのクオリティは広告出稿にあたってより大事になると思います。
「PMP」の強みは、広告の質の高さ
長崎 私の方からはPMPの話をさせていただきます。ユーザーの質の高さに関しては、3社共通かもしれませんが、ウォールドガーデンでカバーできないところをカバーできる。インクリメンタルリーチ(リーチの新規増加分)と言っても過言ではないです。であれば、これは三者三様ですけれども、共通している広告主に対するベネフィットとしてはインクリメンタルリーチです。従来のプランにプラスで乗ってくる価値ということです。
クオリティメディア群への出稿と、他のメディアへの出稿とでパフォーマンスを比較した結果、前者を経由した流入ではサイト滞在時間、29.8秒と非常に高い数値が出ました。後者と比べて大きなアドバンテージを持っています。直帰率も低めに出ています。
こうしたユーザーの質の高さは価値になりますし、潜在顧客の掘り起こしも含めた価値が広告主に対するベネフィットと言えます。
「売り手よし」のポイント
長崎 では、続いて「売り手よし」についてですね。馬嶋さん、いかがでしょうか。
馬嶋 言いたいことは、「すべてのリーチは同じ価値ではない」という当たり前のことです。これをThe Trade Deskがどうプロダクトにしているかというと、TVQI(TV Quality Index)というものがあります。いろいろな番組コンテンツの情報をタグづけしていき、そのタグの内容と広告キャンペーンがどう相関性があるのかを分析していくと、やはりハイクオリティなコンテンツほどユーザーの送客やユーザーのコンバージョンが起きやすくなります。
日本での実例でいうと、スペックなのか俳優の名前、映画コンテンツが賞を取っているか、もしくはコネクテッドTVのテレビデバイスで見る広告とスマホで見るプレースメントの価値は違うという、様々な情報を数値化(クオンティファイ)しながらプロダクトのクオリティ、コンテンツに差をつけていきます。ハイクオリティなコンテンツほど広告効果がよく見えています。
The Trade Deskの調査の結果。質の高いコンテンツほど広告効果が高まることがわかった
長崎 プレミアムなコンテンツに対する広告配信というのが高い効果を生んでいるので、最終的にはパフォーマンスがいい。これは画期的なデータですね。
古田 私たちは収益をコンテンツの権利者の方々に還元することができるところが、いちばんのベネフィットかなと思っています。テレビドラマでも違法にアップロードされているものがどうしてもまだ存在してしまう。違法アップロードされたものにも同じく広告がついているケースが多いですが、それをTVerで見ていただければ、収益を出演者や脚本家などの方々にお戻しできます。
長崎 メディア広告全体でサスティナビリティみたいなものがありますよね。
古田 そうでないと結局はいいものが作れなくなってしまうので、コンテンツができなくなってしまうと、私たちが売るものもなくなってしまいます。
長崎 PMPは特定の招待されたお客さんしかいませんので、広告主とより近い関係を作れます。そして、透明性や妥当性の高い取引ができるということになります。では、次に「世間よし」ですね。では、馬嶋さんお願いします。
「世間よし」のポイント
馬嶋 これは様々なことを考えなければいけません。前半部分にもつながりますが、やはり寡占プレーヤーに依存しすぎない社会を作る必要があると思います。
コンテンツ制作者側にきちんと報酬が与えられ、フラウドが排除されるようなサステナブルな情報社会の構築が我々にとってもっとも重要なことです。特にフェイクニュースなど、時代が不安定になればなるほど裏付けが必要になって、権利が守られなければならない。そういう意味で、オープンインターネットの情報社会を、使命を持って果たしていくというのが我々のビジョンとなっています。
長崎 それでは古田さんもお願いします。
古田 ユーザーの方からすると、無料でサービスを利用できることがいい部分だと思っています。いわゆるSVODのサービス(定額制の動画配信サービス)も増えてきていて、お金をかければもっといろいろなコンテンツが見られるサービスもありますけれども、一方でユーザー側にも格差が生まれてしまいます。
我々は、テレビと同じく無料で利用できるサービスを提供しています。すべて広告主の皆さまのおかげです。だからこそ、私たちは広告がどう見られるかという、広告体験も大切にしていかなければいけないと思っています。もう1点は、広告はものすごく有益な情報だということです。ユーザーからすると広告から正しい情報を得ることができ、私たちは間違った情報が出ないようにメディアとしての責任を持つべきです。ユーザーが正確で有益な情報が得られるメディアでありたいと思っています。
長崎 一方でインターネット広告は、どうしても忌避されてしまう、邪魔なものになってしまうきらいがあります。それを本来の位置に戻す、有益な情報であることを証明するということですね。
PMPの立場としては、クオリティメディアコンソーシアムに参加しているメディアとそれ以外、キュレーションやSNS、ポータルサイトとの違いを見ていきます。まず、サイトを利用する理由として、クオリティメディアでは「詳しい情報があるから」「信頼できる情報があるから」という項目で高いスコアが出てきます。これらが世間から求められているものでしょう。広告の印象に対しても高いスコアになっていますので、いかに受け入れられる関係にしていくかという点でも、世間の信頼に応えているのではないかと思います。
メディアと広告の信頼関係の点では、一度不適切なメディアに掲載されると広告の評価や信頼度が低下し、広告主の価値の棄損が起こってきます。逆に不適切な広告を掲載すると、メディアへの評価や信頼度が下がる。メディアと広告は、そうした相関関係にあるわけです。
まとめ
長崎 では、本日のまとめです。
まず「買い手よし」について、クオリティの観点では理念とプランが一致するのではないか。現状では冒頭に掲げた理念と実際のプランの間にハレーションが起きていることが少なくありません。その一致が測られるのではないかというのと、ウォールドガーデンのみではカバーできない生活者へのリーチ、高いエンゲージメントですね。
「売り手よし」という点では、本来のメディア価値が還元されること、透明性や妥当性が高いことです。
そして、「世間よし」という点では、信頼できるメディア環境の中で得られるコンテンツ親和性が高い広告体験かなと思います。
今後の期待と課題についてもお話します。オープンインターネットへの投資2%を、まずは20%を目指すためにはどうしたらいいか。馬嶋さんと古田さんは「新たな価値基準を確立する」という点についてどうお考えですか?
馬嶋 やはりビューをした後の価値をマーケターとしてきちんと理解すること。たとえばTVerで動画を流した後の価値はどうだったのか。検証可能な手法は必ずあると思うので、そういったところを追求していきたいと思っています。
古田 CPMといった効率の部分が重視されてしまって、特に我々のような動画広告は成果が見えづらいと言われるので、ミドルファネル効果や残存効果といった新しい価値を収集したいです。実際にそういった取り組みも始めていますので、新しい指標を作っていきたいと思っています。
長崎 価値基準の確立のあとには、受容性の可視化とトータルキャンペーン投資の評価。大きな視野と選択肢で従来指標に加えていくことが大切ということがわかりました。メディアプランを考えるにあたっては、今日ご紹介したような事例が新たな選択肢になってくるのではないでしょうか。ぜひ皆さまにご検討いただきたいと思います。馬嶋さん、古田さん、本日はありがとうございました。
●開催概要
日時:2023年11月10日(金)13:00〜14:30
会場:オンライン(Zoomウェビナー)
内容:
1.Originator Profile概要説明
クロサカ・タツヤ/Originator Profile技術研究組合 事務局長
2.パネルディスカッション
「広告主の買い方改革 メディアプランニングにおけるオープンインターネットの活用」
スピーカー:
・長崎亘宏/講談社 ライツ・メディアビジネス局 局次長 兼 メディア開発部 部長 兼 広報室 室次長
・古田和俊/株式会社TVer 執行役員 広告事業本部長
・馬嶋 慶/The Trade Desk Japan株式会社 セールス 日本担当ゼネラルマネージャー