2023.12.07
インフルエンサーと企業のいい関係と、影響力を高める動画のポイントとは|「動画マーケティング」2023-2024 成功戦略 Vol.4
マーケティングの手段が多様化するなかでも、「動画」を活用したマーケティングはひときわ大きな存在感を示す。あらゆるSNSにおいて「動画」がもたらす情報量は多く、コンテンツ力も高い。企業としてこの魅力的な手段を使わない手はないだろう。
本連載では、これから動画を活用したマーケティングに挑もうとする企業に向けて、「動画マーケティング講座」をお届けする。年間7,000本の動画制作実績を誇る株式会社サムシングファンCOO(執行役員)兼ディレクター・山口貴久氏を迎え、どのような工夫をすれば企業がより魅力的な動画を制作できるのか探求する。連載4回目となる本記事のテーマは『インフルエンサー』である。動画コンテンツにおいてはインフルエンサーの効果的な起用が成果を生み出すケースが多い。今回は、インフルエンサーと企業がどのような関係性を築き、どんなコンテンツを作れば影響力を高められるのか紐解いていく。
成熟しつつあるインフルエンサー市場と動画のトレンドは相性がいい
SNSの普及と共に、フォロワーを多く擁するユーザーが一定の訴求力を持つようになって、インフルエンサーという概念が生まれた。彼らはPR案件を通して企業と連携し、マーケティングに大きな成果をもたらすようになっている。その一部はいまやタレントに等しい知名度を持ち、SNSの外にまで活躍の場を広げていくこともある。現在のインフルエンサー市場はどのような状況なのか、山口氏に市況感を訊くところから話を始めよう。
山口「インフルエンサーは『美容』『子育て』といったジャンルに特化して情報を発信することで、その情報に興味があるファンを獲得します。その扱うジャンルについて、最近はより細分化されつつあるように思います。たとえば、『子育て』の中で特に『お出かけ』に関わる情報を発信するというふうに、ニッチな疑問に答えるようなインフルエンサーが増えているのです。このトレンドは、企業側にとってもメリットと捉えられるでしょう。ピンポイントで刺さる内容を訴求できるほうが、より高いマーケティング効果につながりやすいからです。
また、インフルエンサーのジャンルやフォロワーの傾向などを分析し、インフルエンサーを求める企業に対して情報を届けるサービスを展開する企業も目にするようになりました。これらの観点から、企業側の選択肢は今まで以上に増えていますし、最適なコストパフォーマンスでインフルエンサーと連携できるようにもなっています。全体として、インフルエンサー市場は成熟しつつあると言えるでしょう」
では、動画マーケティング市場の観点からインフルエンサーを捉えると、どのような傾向があるのだろうか。
山口「動画マーケティングにおいては、ユーザー自身の手によって制作されたコンテンツ、『UGC(User Generated Contents)』が注目されています。プロが作ったコンテンツよりもユーザー自ら体験して撮っているもののほうが身近な印象をもたらし、高いマーケティング効果が期待できるのです。この動画におけるトレンドも、自ら動画を作るのが一般的なインフルエンサーの波及力を高めている一要因だと思います。
また、動画は写真やテキストよりも伝えられる情報量が多い表現手段です。その特性上、視聴者の行動変容を起こしやすかったり、コアな話題を提供しやすかったりと、さまざまなメリットがあります。こうした動画独自の魅力も、インフルエンサーの影響力を高める役割を担っているのでしょう」
インフルエンサー市場の成熟と、動画のトレンドや特性。両面から見て、いまインフルエンサーは追い風を受けているようだ。
話題性を生み出す企画とフォロワーの理解がマーケティング成功のポイント
では、どのような施策であればインフルエンサーは力を発揮しやすいのだろうか。最近の事例をもとに、動画マーケティングにおけるインフルエンサー起用のポイントを訊いた。
山口「ドミノピザが実施したキャンペーンを例に挙げます。このキャンペーンは、『#ドミノチーズ100万』というハッシュタグをつけて投稿したユーザーの中から当選者を決め、ドミノピザ東京本社でアルバイトを経験したあと100万円を提供するというものです。このキャンペーンにはハッシュタグを活用して多くのユーザーが参加し、結果としてチーズを売りとする同社の商品の認知を広く拡大しました。これは特定のインフルエンサーを起用した事例ではありませんが、チーズがたっぷり乗っているピザを食べるという行為と動画という表現手段の相性が良かったこともあり、バズることに成功していました」
(『#ドミノチーズ100万』をつけて投稿された動画の一例)
同ハッシュタグを検索してみると、TikTokやYouTubeで多くのインフルエンサーがピザを食べる動画を投稿している。チーズのボリュームをしっかり体感できる動画と「おいしい」という感想は、実に高いマーケティング効果をもたらしたことだろう。
こうしたインフルエンサー関連の企画を実施するにあたって、企業はどのようなポイントを押さえると良いのだろうか。
山口「まず持っていただきたいのは、インフルエンサーのフォロワーが自社のサービスや提供したい情報にマッチしているのかどうか、という視点です。昨今のインフルエンサーはニッチな領域に特化している傾向があるので、どんな属性のフォロワーを擁するインフルエンサーなのか理解することが成果に直結します。
また、ハッシュタグを活用する企画を実施する場合は、ある程度ネガティブな投稿も許容しながら認知拡大を狙うことが重要です。大手企業でないとなかなかチャレンジするのが難しい手法だとは思いますが、うまくはまれば大きな効果を期待できます」
インフルエンサーのフォロワーをよく知ることと、投稿の内容はある程度自由に任せること。この2つのポイントを意識しつつ、動画と相性がいい訴求内容を考え抜けば、企業がバズコンテンツを作る近道になるだろう。
クリエイターとインフルエンサーの境界がなくなりつつある
また、山口氏はインフルエンサーを取り巻く新たなビジネスの波についても注目している。その波は海外ですこしずつ高まっているようだ。おもしろいサービスを提供するスタートアップの事例をもとに、新たな波について詳しく聞いた。
山口「米国発のブランド宣伝アプリ『Pearpop』は、企業が募集する広告案件と、動画を作成するクリエイターをマッチングするサービスを展開しています。制作された広告動画はクリエイターのSNSに投稿され、ビュー数が規定の水準に達すると報酬を受け取ることができるという仕組みです。
NetflixやAmazonといった大手企業だけでなく、Shawn Mendes (ショーン・メンデス)やMadonna(マドンナ)などの著名なアーティストもマーケティング手段として同アプリを利用しており、現在は20万人を超えるクリエイターが登録しているそうです。このマッチングサービスが日本市場に参入してくれば、広告・マーケティング領域に新たな風が吹くでしょう」
こうしたクリエイターの動画制作力を活かす施策は、日本でも少しずつ浸透しつつある。山口氏は続けて国内の参加型動画制作キャンペーンの一例を教えてくれた。
(【YARIS DIRECTORSCUT】#002 田中裕介「Sounds that moves YARIS.」)
山口「トヨタはアーティストのサカナクションとコラボレーションし、ヤリスシリーズの映像素材と、サカナクションの映像素材、そして楽曲のトラックデータをクリエイターに提供しています。これらの素材を使って作られたクリエイターの動画は、『#YARIS_DIRECTORSCUT』というハッシュタグをつけてWebサイトやSNSで公開されており、注目を集めています。
企業の商品の多くは、プロの手で作られた映像をテレビなどのマスメディアに掲載する形で宣伝されてきました。それがみんなに作ってもらい、みんなに投稿してもらうという形に変わってきているのだと思います」
こうした時代の変化に応じてインフルエンサーの定義も変わりつつある、と山口氏は続ける。
山口「昨今のインフルエンサーは、ほぼクリエイターと同義だと認識しています。逆もまたしかりで、クリエイターであればインフルエンサーになり得るとも言えますね。もちろん、ルックスやコミュニケーション力によって影響力をつけるインフルエンサーもいまだ健在ですが、どちらかと言えば自ら体験してコンテンツを作り、発信できることがインフルエンサーに求められる素養なのかもしれません」
こうしたクリエイターを巻き込む施策を打ち出すとき、逆に企業側はどのようなポイントに注意すべきなのだろうか。
山口「法的な観点で参加者に設けるルールを検討することが大切です。先に挙げたヤリスの施策では、『第三者の顔の映り込み』や『トヨタブランドロゴの使用』、『事故を想起させる表現』など、さまざまなNGルールが設定されています。ルールをしっかり設計すれば、そのルールから外れた投稿は対象外として扱えますから、クリエイターの投稿から生まれる問題のリスクを軽減することができるでしょう」
企業が影響力を高めるためのさまざまな手段
ここで視点を変えてみよう。企業がマーケティング施策を打つとき、多くの人に届ける手段はインフルエンサーを起用するほかにも色々ある。ほかの手段と比べたとき、インフルエンサーを起用することにはどのような意味があるのだろうか。
山口「たとえば人気のキャラクターを活用する手段もありますが、これはどちらかといえばグッズ展開などにつなげることでパフォーマンスを発揮する手段だと思います。インフルエンサーを起用することの価値は、やはり『人』を表に立てて、その人自身が体験や投稿をすることにあるのです。
一方で、『人』には不祥事リスクがつきものです。これはタレントでもよくあることですが、印象が悪くなるような出来事があると、多大な影響力は逆効果になってしまいます。不祥事リスクを軽減するという観点では、AIが生成したバーチャルインフルエンサーを起用するのもひとつの手段です。今後は実在しない『人』であっても、インフルエンサー同様の影響力を持つ未来が来ることは十分あると思います」
では、おなじ『人』のなかで他の手段と比べた場合はどうだろうか。近年は企業の経営者や社員自らが動画に出演し、魅力を訴求する姿もよく目にする。
(職人社長の家づくり工務店より)
山口「社内の人材を動画マーケティングに活用する場合は、経営者自らが出演するのがベストだと思います。というのも、社員だと転職してしまう可能性がありますし、創業者が持つパワーというものはコンテンツに大きな付加価値をもたらしますから。
有楽製菓の社長が自社の人気商品である『ブラックサンダー』が連なるデザインのマフラーを首に巻き付けている写真が、SNSで大きな話題を呼んでいましたね。商品への愛が伝わってくる、この会社は信頼できるという好感と共にユーザーの間で拡散されていました。こういった存在感を示せるのは、企業のトップに立つ者の特権です。
また、動画を積極的に活用している、ある企業の創業者の方は、『自分の想いや考えを動画にして残しておけば、もし自分が死んでも営業し続けられるだろう』と言っていました。そういった意味でも、経営者の言葉を動画に残しておくことには大きな価値がありますね。
とはいえ、動画に出演したり、表に立って語ったりすることを好まないタイプの経営者の方も一定数いると思います。そういう場合は、企業名義のアカウントでいわゆる"名物広報"と呼ばれるような存在を作っていくことも影響力を高めるうえで効果的な方法です」
企業が自社の商品やサービスを多くの人に届ける方法は、実に多種多様だ。「認知拡大=インフルエンサー起用」と決めつけるのではなく、自社に合った手段を検討することも大切だ。
影響力をどのように出すかは自社次第──インフルエンサーとのいい関係
インフルエンサーの捉え方をテーマに、さまざまな観点から企業でインフルエンサーの力を活かす方法を考えてきた。ここで改めてインフルエンサーのパフォーマンスを最大限に発揮する動画づくりのポイントを山口氏にまとめていただこう。
山口「まずは、フォロワーとターゲットの属性が合っているか。これが一番重視すべきポイントです。そのうえで、自らの手でコンテンツを作れるスキルを持っているインフルエンサーを起用することが大切です。動画編集の技術だけでなく、商品やサービスの魅力をしっかり理解し、それをおもしろくアレンジしたり、視聴者のニーズに合った情報としてまとめたりする力を持つ人は、優れたインフルエンサーと言えるかもしれません。
インフルエンサーの裾野は広がっており、さほどフォロワー数は多くなくとも、特定のコミュニティで強い影響力を持つ層を指すマイクロインフルエンサーという概念も誕生しました。広く浅く知られていることだけが影響力につながるわけではありませんし、ハッシュタグなどを活用すれば、影響力がちいさな人々の群が巨大なムーブメントを巻き起こすことも可能です。影響力というものをフォロワー数だけで判断するのではなく、自社商品との相性や企画内容にも目を向けることが、効果的なインフルエンサー活用へとつながるはずです」
企業のマーケティング担当者の皆さまには、今回の事例や山口氏のコメントを参考にしつつ、自社に合ったインフルエンサーや手段を模索してほしい。クリエイターでもある彼らと連携することは、これまでになかった新しい表現や自社商品の魅力を発見する機会にもつながるはずだ。
次回のテーマは『ライブ動画配信』である。リアルタイムで配信されるライブ動画は、どのような活用方法があり、どんなときに有効なのだろうか。また、ライブ動画を配信するプラットフォームには、どんな類のものがあるのだろうか。引き続き山口氏の知見から学んでいこう。
【「動画マーケティング」2023-2024 成功戦略 シリーズ記事】
株式会社サムシングファン
COO(執行役員)・ディレクター 山口 貴久
ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業後、映像制作全般に携わる。撮影技術、制作、ディレクションなどで活躍しながら自主映画を制作。2013年に脚本を担当した映画がPFF:ぴあフィルムフェスティバル審査員特別賞・日活賞W受賞、2014年にIFFR:ロッテルダム国際映画祭に招待。以降も脚本執筆を続けている。2013年、サムシングファンに入社し現在は動画DX事業の執行役員。
聞き手:宿木雪樹(やどりぎ ゆき)
広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。