2018年に誕生し、オリジナル作品の連載に加え、「モーニング」「ヤングマガジン」「アフタヌーン」といった講談社の人気マンガ雑誌の定期購読サービスも展開する「コミックDAYS」。誕生の理由や成長の過程、今後の展望などを事業担当者が語りました。
マンガIPサーチに掲載の記事を再構成して掲載しています。
【本記事の語り⼿】
竹本 佳正(写真右)「コミックDAYS」3代目チーフ。モーニング編集部所属。
久保田 千尋(写真左)「コミックDAYS」のデジタル営業担当。One to Oneマーケティング部所属。
「コミックDAYS」誕⽣の裏側にあった脅威のレポート
2018年2月にウェブ版が登場し、3月にアプリもローンチし、5年が経つ「コミックDAYS(以下、DAYS)」。誕生の背景には、紙の雑誌の後退とデジタルの台頭を危惧するレポートが大きく関係していました。
竹本
DAYS誕生のきっかけは、のちに初代チーフになる方が2017年に発表された社内レポートがきっかけでした。
「これまで紙の雑誌を発行できる出版社がイニシアティブをとってきたが、電子の登場や部数の低減で今までと同じやり方をしていたのでは存在感がなくなっていく。講談社も、そんな状況に対応するプラットフォームとして電子媒体を持つべきだ」という内容で、当時は社内中に激震が走りました。
上記を踏まえて、講談社の全マンガ部署からオリジナル作品を募るとともに、雑誌の定期購読も展開する横断アプリ&WEBサービスとして誕生しました。そのため、事業担当者の竹本さんは、「DAYSは色がないのがカラー」だといいます。そんなDAYS班は、モーニング編集部内に所属する形で、6名の編集部員で構成されています。
竹本
DAYSの編集者であり、事業責任者という立場でもあるので、開発内容の決定やバナーのデザインまで目を通すなど、媒体に関わるありとあらゆる事業の川上から川下まですべてが私の担当業務です。
また、DAYSの社内営業もしています。毎日、いろんな編集部に顔を出して「新連載の●●面白いですね」といった世間話のついでに「DAYSでも作品載せられますのでよろしくお願いします」と言って回っています(笑)。存在をアピールしていかなければ編集も作品を掲載したいと思ってくれませんし、社内における宣伝活動も大事だと考えています。
この他にも、週に一回のペースで「先週のコミックDAYS/週イチレポート」、月に一回「先月のコミックDAYS」という社内メルマガも発行しており、一番読まれた作品、SNSからの流入が多かった作品、バズッた投稿などを共有しています。
このように、地道な普及活動の甲斐もあり、各編集部とは風通しのいい関係性が築けているそう。「色がないのがカラー」という言葉通り、多様性を受け止められる受け皿として熟成しつつあります。
久保田
私が所属するOne to Oneマーケティング部では、バックオフィス全般を担当しています。主に行っているのは会計処理や広告の配信業、運営管理、開発など。チーム体制で運営しています。
2023年に入ってからは、データ解析の専門家も加入して、体制が強化されつつあります。しかし、マンガアプリ業界は、日に日に成長・進化しています。講談社の中でBtoCを大々的に行っているのが、コミックアプリ事業というのもあって、そのあたりのノウハウを一生懸命積み重ねているところです。毎日どこかで何かが起こるという、そんな部署です(苦笑)。
編集とシステム開発の二人三脚で順調に拡大していき、ウェブは幅広い層にリーチしやすく、アプリではリピーターが増えやすいといった、それぞれの特性を持ち、ユーザー数は堅調に増加をしているといいます。
竹本
連載作品は180作品超で、約半分がオリジナル作品です。「ココでしか読めない」はサービスの強みになるので、"オリジナル作品を推す"ことにも注力しています。
直近の半年間でオリジナル作品の新連載は30本ほど増え、2023年内には50本を超えると推測しています。その背景には、作品を提供している編集部と作家への感謝とリスペクトはもちろんのこと、中長期的に見た講談社の成長を促す戦略が隠れていました。
各編集部のカラーに染まる前代未聞のマンガ媒体
DAYSの良さは、なに色にも染まれること。
講談社のように雑誌が多い場合は、それぞれの編集部が築いてきた歴史や文化があり、その雑誌ならではのカラーがあります。しかし、今ある雑誌には出せないカラーも同時にあることも事実。チャレンジをするリスクは無視できませんが、そこを恐れずに実施できることも媒体としての強みです。
竹本
たとえば、既存の雑誌で紙の増刊誌を出すとなると、非常にコストがかかります。ですが、DAYSなら製作コストが抑えられるため、編集部が新しいチャンジをしやすいです。
久保田
オリジナル連載はどの編集部からでも出せます。数は少ないですが、縦読みのウェブトゥーンや動くマンガもあります。それぞれの編集部の「やってみたい!」「作ってみたい!」という気持ちに寄り添える媒体になっています。それに、DAYSはウェブとアプリ双方で運用していることも特徴のひとつです。
アプリは純粋に作品を購入して楽しむ媒体であり、ウェブは宣伝媒体としての側面が強いといいます。それぞれに特徴があるため、ちがった波及効果が期待できるそう。
竹本
ウェブは、新人賞や読み切り作品ページへのリンクを拡散しやすいのが大きいですね。SNSでバズるとものすごい数の流入があります。例として、「X(前:Twitter)」で掲載作品のプロモーション投稿からDAYSの存在を認知してもらい、ほかの作品へと回遊し、さらにアプリの存在も知ってもらい、ダウンロードに至るというケースも多くあります。
久保田
話題になった作品によって一時的に女性ユーザーが増え、その作品だけを見て離脱するライトなユーザーもいますが、そういった方々を除けば、コア層は青年誌読者層と近いかもしれません。売り上げの構成比では、「モーニング」「ヤンマガ」の順なので、男性が7割、女性が3割といった認識をしています。
一方のアプリは、性別関係なく幅広い年齢層をカバーしているそう。
竹本
一番多いのは30代前後のユーザーですが、10~20代の若いユーザーもいれば、40~50代のユーザーもいます。雑誌の定期購読が、幅広いユーザー層を獲得していることにつながっているのかもしれませんね。
ユーザー獲得のための施策にも多角的な視点で注力しています。特にSNSへの広告出稿には重点を置いているとのこと。
竹本
事業を続ける上での目標値や赤字・黒字は考えますが、DAYSだけで完結するサービスではありません。DAYSを入口にして、単行本売上や、BtoB視点では映像化、作品グッズの商品化といったマンガIP活用の検討につながるなど、講談社として利益を出せる作品と出会う最初の場であり、そういった作品を育てる場でもあるので、惜しみなく出稿しています。
久保田
確かに、事業規模に比べて大きな額を宣伝費用に充てていますが、講談社作品の入口という役割と実験場という役割を持っているので、成長し続ける限りは、ずっと投資フェーズでもあると考えています。
独自性と即時性に優れた「コミックDAYS」ならではの施策
"事業規模に比べて大きな宣伝費用"をかけているという話がありましたが、施策の中身は実にシンプルで、基本は作品のカラーにあった媒体への広告出稿を行っています。
施策実行は計画的かつ、各編集部との連携のうえで実施している
竹本
アプリ内での施策は、作品のプッシュが基本ですね。どのくらいのスパンで、何本やるのかなどの細かいルールの体系化に向けて、編集部全員で最適な運用方法を常に探っています。
オリジナル作品の場合は、4話目が出たタイミングで推すようにしています。1~4話が全部無料で読めるタイミングになるので、基本はそこでカルーセルバナーを出します。ほかには、編集部から依頼をうけた時などに出す場合もあります。
各編集部との風通しがよく、柔軟性のある開発チームがそろっているため、DAYSの施策は即時性に優れているといいます。SNSのトレンドワードやテーマにあった回を、たった数分で無料公開することも可能とのこと。
竹本
少し前の話ですが、ニュースで風疹が話題になっているのを見た時に『コウノドリ』に風疹をテーマにしたエピソードがあったことを思い出しました。すぐに編集部に相談して、作家さんの許可をとってもらって、その日のうちに専用のバナーを作って、該当する話を無料公開しました。そういった事例が多数あります。
久保田
ほかにも、SNSのプロモーション投稿がハイエンゲージメントを獲得し、売上も立ったし、単行本も重版がかかったから、追加でプロモーションをかけようという判断も速いですね。
オンラインは、最小限のリスクでさまざまな施策を試せるのが利点ですので、いろいろと活用できていると思います。反対にオフラインの施策にはなかなか着手できていないので、今後の課題として認識しています。
「この作品の何話から何話までを無料にするか」といったミクロな管理ができる運用体制が敷かれているため、社会の細かな機微に共感した施策も可能になるそうです。また、過去には独自に打ち出して大ヒットしたキャンペーンもあります。
ネットニュースにも取り上げられた『宝石の国』連載再開施策より
竹本
直近で反響がよかったのは『宝石の国』の連載再開を記念した施策ですね。
1年以上休載していた作品なのですが、テレビアニメ化もされていて、固定ファンがしっかりついています。期間限定で11巻までを無料配信して、単行本化されていなかった89~95話までを無料チケットで読めるようにしました。SNSでも大反響となり、ネットニュースにも取り上げられました。売上は言うまでもなく、単行本の重版もかかりました。
久保田
いろいろな成功例をお伝えしましたが、もちろん失敗といえる施策もたくさんあります。ただ、それらはノウハウやナレッジとして蓄積されるので、長い目で見たら財産のひとつになっているという認識でいます。
失敗も成功もすべて糧にして、新しいチャレンジに向かう。マンガアプリを運営する上で、このマインドや姿勢はとても重要ですが、「何としてでも売りたい!」「多くの人に見てほしい!」と思える魅力的な作品があふれているから、自分たちを動かすのだといいます。
オリジナル作品の魅力がIP化に貢献
DAYSでは『コウノドリ』や『宇宙兄弟』などの固定ファンが多い有名作品が複数ある中、オリジナル作品も大きな存在感を示しています。
「コミックDAYS」は超人気作から話題のオリジナル作品までラインナップが充実している
竹本
オリジナルでは『娘の友達』『ホームルーム』が、DAYSの認知度アップに貢献してくれた代表的な作品です。『娘の友達』は、電子版を含めた累計発行部数が100万部を突破していますし、『ホームルーム』は毎日放送の深夜ドラマ枠でドラマ化もされました。2024年には『この世界は不完全すぎる』のアニメ化もひかえています。
久保田
あとは、DAYSの準オリジナル作品ともいえる『食糧人類-Starving Anonymous-』『食糧人類Re: -Starving Re:velation-』も外せませんね。YouTubeのコミック紹介動画にも出している『望郷太郎』も好評です。過去にはテレビのバラエティ番組でも紹介されていますし、成人男性を中心とした層の関心をしっかりつかんで、YouTubeでも著名な方々にオススメマンガとして紹介していただいています。
竹本
SNSでウケているのは『K2』と『忍者と極道』です。『K2』は「イブニング」の休刊にともなって移籍してきた際に全話無料キャンペーンを実施したことで、SNSで急激に認知が広がりました。施策もヒットしましたし、SNSユーザーとの相性がバツグンです。
『忍者と極道』は私が担当している作品なので、ここで紹介するのも少し照れくさいのですが、純粋に楽しんでくれる人もいれば、真剣にストーリーを考察してくれる人もいるようですね。
『忍者と極道』は、いろいろな角度から楽しめる作品だからか、商品化等のマンガIP活用の相談が多いといいます。
竹本
『忍者と極道』からは、ペンライトのキーホルダーやマスキングテープに、アクリルスタンドなど、多彩なグッズが出ていますね。オファーしてくださる企業担当者様の、作品に対する愛の深さを感じるので、やはり私たちもうれしいです。
ほかの作品たちも個性的でおもしろいので、メディア化、マンガIP活用、広告などにどんどん起用してほしいですね。
「コミックDAYS」の広告媒体としての魅力と今後の展望
IP活用作品が多いだけでなく、広告媒体として優れている点もDAYSの魅力です。
久保田
広告媒体としてのDAYSの特徴は、トップページやマンガの巻頭ページなど、ユーザーが作品に没入する前に広告を出せるので、違和感なく自然に広告露出ができます。また、広告主のブランドセーフティーを保ちつつ訴求することも可能です。
ウェブとアプリありますが、片方だけという選択もできますし、講談社のコミックアプリで唯一、成人向け商材を扱っています。ほかの媒体では広告出稿がむずかしいアルコールなどの嗜好品もDAYSでは掲載することが可能です。
竹本
正直なところ、広告媒体としても「色がないのがカラー」を地で行ってますね(笑)。DAYSの場合は、広告主様の予算規模にあったプランをご提案しています。アプリだけのお試しといった小さなものから、DAYSの運営母体がモーニング編集部なので、雑誌「モーニング」とのコラボといった大きなものまでご提案させていただくことが可能です。
マンガ作品のIP活用の拡大も目標としつつ、広告媒体としての側面の成長も今後の大きな目標です。「色がないのがカラー」「チャレンジの受け皿」精神がしっかりと生きています。
竹本
現在DAYSでは、他社作品もいくつか掲載しています。多いのは、DAYSで連載を持たれている作者が過去に他社で描かれていた作品です。基本的には独占契約などがなされていければ、どなたでも電子書店として使っていただけるようになっています。
久保田
社外にも開かれたマンガ媒体なので、作品の掲載場所がほしい、増やしたいと考えている方には、ぜひ一度ご相談いただきたいですね。
竹本
そうやって、いろんな方面で強みを伸ばしていって、もっともっと大きなマンガ媒体になっていきたいですね。
目標は前年度の倍! そんな意気込みで、DAYSを成長させていきます。
さまざまなステークホルダーから選ばれるマンガ媒体、また、広告媒体として成長を続ける「コミックDAYS」。今後、業界にとってどのような存在になっていくのか、将来への期待が高まるインタビューとなりました。